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SpiralTOF™による非イオン系界面活性剤の分析 ~Kendrick Mass Defectプロット法の適用~ [MALDI Application]

MSTips No.219 寺本 華奈江、佐藤 崇文
日本電子株式会社

 最近、界面活性剤や合成高分子など、同族体の多数のピークが検出されるため複雑なマススペクトルが得られる試料を分析する手法の一つとして、MALDI-TOFMS JMS-S3000 (SpiralTOF)による高分解能質量測定とKendrick mass defect (KMD)プロット解析法の組み合わせた方法が注目されている。1, 2) 従来のリフレクトロン型のMALDI-TOFMSでは分解能不足のため詳細な構造解析はできなかった非イオン系界面活性剤エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド(EO-PO:Poly(ethylene glycol)-poly(propylene glycol))ブロック共重合体でもJMS-S3000により詳細な構造解析ができることが既に報告されている。3) ここでは、同試料のマススペクトル解析にKMD プロット法を適用した。

実験

 EO‐POブロック共重合体の試料には、 Poly(ethylene glycol)‐block‐poly(prropylene glycol)‐block‐poly(ethylene glycol) (Mn~1100)を用いた。マトリックスには、trans‐2‐[3‐(4‐tert‐Butylphenyl)‐ 2‐methyl‐2‐propenylidene]malononitrile (DCTB) を、カチオン化剤には、Sodium Iodideを用いた。JMS‐S3000を用いて取得したマススペクトルをmsRepeatFinderで処理した。

結果と考察


【Fig.1 MALDI mass spectrum of EO-PO copolymer.】

 Fig.1に、EO‐POブロック共重合体のMALDIマススペクトルを示す。m/z 600‐1800では、m/z 1000付近に極大をもつピーク群が観測され、m/z 900‐1040の範囲では、プロピレンオキサイドのモノマー構造を反映した58Da間隔で多数のピークのシリーズが観測された。さらに拡大すると、m/z 1029.7付近に質量差がわずか0.027Daの非常に近接した(EO, PO)=(4, 14)のモノアイソトープピークと(EO, PO)=(0,17)の同位体のピークが明瞭に分離されていることが確認された。このように、超高分解能JMS‐S3000ではマイナー成分を含めて詳細な解析が可能になる。しかし、実試料の分析では、精密質量分析を行ったとしても必ずしもピークを容易に帰属できるとは限らず、膨大な数のピークを帰属するには時間を要する。そこで、Fig.1のマススペクトルから、得られたピークの観測質量とピーク強度を抽出して、“msRepeatFinder”を用いてPO単位を基本単位として選択してKMDプロット(Fig.2a)およびKMRプロット(Fig. 2b)を作成した。なお、KM値とKMD値は以下の計算式1および2に基づき求められる。ここではPO単位のIUPAC質量58.042が58.000になるように観測質量を変変換してKM値を求めた(式1)。このKM値を四捨五入して得られたNominal KM (NKM)値とKM値の差がKMD値となる(式2)。このように求められれたNKM値をx軸に、KMD値をy軸にとることでKMDプロット(Fig. 2a)が得られる。Fig. 2aのKMDプロットでは、EO‐POの共重合組成分が示される。ここでは便宜的にピークの帰属結果に基づき、EO単位数とPO単位数を示す補助線を示した。さらに、Fig.2aにおいてEO単位数は0から増加していることから、本EO‐POブロック共重合体は重合度が11−24程度のPPOブロック鎖から重合が開始していることも見てとれる。また、ここではPO単位を基本単位としてKM値を計算しているため、NKM値をPO単位の整数値58で割って得られた剰余(KMR)は、EO単位の数が同じシリーズでは一定の値をとる。すなわち、Fig. 2bのKMRプロットでは本試料のEO単位の分布が明瞭に示されることとなる。




【Fig. 2 KMD plot of the EO‐PO copolymer using a mass scale based on PO unitt (a) and KMR plot (b).】

 さらにmsRepeatFinderでは、“Grouping mode” の状態でKMDプロットあるいはKMRプロット上のドットをマウスを使って選択すると、それに対応するもう一方のプロット上のドットおよびマススペクトル上のピークとが連動して同じ色に変換される。そのため、プロット上のドットとマススペクトルとを容易に関連付けることができる(Fig.3)。


【Fig.3 MALDI mass spectrum of EO‐PO copolymer (a), KMD plot (b), and KMR plot (c).】

まとめ

 ここではEO‐POブロック共重合体を分析した。本試料の界面活性剤としての機能性は、親水性のEOと疎水性のPOの組成比や分子量分布などによって変化するため、合成物の確認には精密な組成解析、構造解析とともに分子量分布測定を必要とする。この試料の構造解析には、質量差がわずか0.027Da程度のピークを分離する必要があり、従来のリフレクトロン型のMALDI‐TOFMSでは分解能不足であるため、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析装置(FTICR‐MS)を用いた検討が行われた。しかし、FTICR‐MSでは分子量が大きく分子量分布が広い試料を超高分解能測定して分子量分布を求めることが容易ではない。4)一方、JMS‐S3000では、分子量が大きく分子量分布が広い試料でも高分解能測定を行い分子量分布測定が行える。3)さらに、msRepeatFinderを用いてKMDプロット解析を行うことで、ピークの帰属を行わずに視覚的に試料の特徴を俯瞰することができる。
 JMS‐S3000およびmsRepeatFinderを用いた分析法は、合成試作品のキャラクタリゼーション、品質管理、および他社製品との比較など、合成高分子分析分野において様々な用途で利用できると考えられる。

文献

1) Sato,H. et al., J. Am. Soc. Mass Spectrom., 25, 1346 (2014).
 (Open access: http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs13361‐014‐0915‐y)
2) Zheng, Q. et al., Fuel, 159, 751(2015).
3) 佐藤崇文ら、高分子論文集69, 406(2012).
4) G. J. van Rooij, Anal. Chem., 70, 843(1998).

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