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GCxGC/FI-HRTOFMSを用いた石油試料のタイプ分析 [GC-TOFMS Application]

MSTips No.222 日本電子株式会社 MS事業ユニット

包括的二次元ガスクロマトグラフ(GCxGC)法は、多成分混合試料に対して有効な分離分析手法として、近年石油分析分野、環境分析分野などで広く使用されている。特に石油試料中には多種多様な化学物質が混在しており、GCxGC法は極めて有効な分析手段となる。
-電界イオン化(Field Ionization: FI)はソフトなイオン化法の1つであり、他のソフトイオン化法と比較し、分子イオンの検出を最も容易に行うことができる。炭化水素化合物のような極性が低い化合物においても、分子イオンを検出することが出来るイオン化法として有用である。JMS-T200GC “AccuTOF GCx”では、GCxGC法とFI法を組み合わせたGCxGC/FI-HRTOFMS法による測定が可能であるが、今回GCxGC解析ソフトウェア”GC Image”の機能を用いた石油試料のタイプ分析を実施したので報告する。

[特長1]

FI法: 炭化水素化合物のような極性が低い化合物においても、分子イオンを検出することが出来る。

[特長2]

高質量分解能: 例えばパラフィン系炭化水素C13H28と多環芳香族炭化水素C14H16は、精密質量は異なるがノミナル質量は同じ値である。これら化合物を質量分離するためには分解能5,000程度が必要なため、低分解能MSではこれらの化合物を質量分離することはできない。 AccuTOF GCxではこれらを容易に質量分離することができるため、高質量分解能を活かした高選択性抽出イオン(EIC)クロマトグラムを作成できる。

[特長3]

GCxGCによる分離検出: 石油試料には多種多様な成分が混在しているが、中にはAccuTOF GCxの高分解能(仕様値10,000)でも質量分離できない成分もある。例えば多環芳香族炭化水素C16H12と、 硫黄化合物C13H16Sの分子イオンは僅か0.0033Daの質量差しかなく、これらを質量分離するためには約180,000の質量分解能が必要となる。このような質量分離が困難な成分に対しては、GCxGCによる分離検出が有効である。Fig.1に、原油試料のGCxGC/FIデータにおけるm/z 204.0939(質量幅±0.01Da)EICクロマトグラムを示す。図中赤枠(ポリゴン、Polygon)内に観測されたピークがC16H12異性体であり、その他のピークはC13H16S異性体である。このように高選択性EICクロマトグラムで夾雑成分(Fig.1ではC13H16S)を完全に排除できない場合であっても、GCxGCにより夾雑成分と目的成分を分離して検出することができる。

m/z 204.0939(mass window: ±0.01Da)  2 dimensional EIC chromatogram
【Fig.1 m/z 204.0939(mass window: ±0.01Da) 2 dimensional EIC chromatogram】

測定方法

 Table1にGCxGC/FI測定条件例を示す。テストサンプルは市販の軽油試料を用いた。

【Table 1 Measurement condition】
Measurement condition

結果

 GCxGC/FIタイプ分析では、Fig.1に示すような目的成分のEICクロマトグラムを作成し、目的成分のみを取り囲むポリゴンを作成する必要がある。このポリゴンに特定のイオン(分子イオン等)の質量情報を設定することで、ポリゴン内の特定イオンの強度値情報を抽出することができる。ポリゴンの設定情報はテンプレートとして保存可能なため、一度ポリゴン作成を終了してしまえば、次回からはそのテンプレートを使用すればよい。
 Fig.2にGCxGC/FIタイプ分析個別分析法のワークフローを示す。Fig.2(a)はC8H18のEICクロマトグラムであるが、左下の領域に色の濃い2つのピークを確認することができる。これらはC8H18異性体ピークであり、今回のタイプ分析における目的成分である。一方、図の真ん中辺りに色の薄いピークを複数確認できるが、これらは他の炭化水素化合物のフラグメントイオンとして生じたC8H17の同位体イオンを示している。FI法はソフトなイオン化法であり、炭化水素化合物の分子イオンを効率よく生成できるものの、僅かながらにフラグメントイオンを生じることがある。 個別詳細法では、このような僅かなフラグメントイオンの強度値を結果から排除するために、 Fig.2(b)のように目的成分のみを取り囲むポリゴンを作成する。
 次に作成したポリゴンのプロパティを開き、Name及びGroup Nameに任意の名前(ある程度化合物が判別できる名前が良い)を入力する。Areaの項目にチェックを入れArea Propertiesタブに移動し、Quantifierの項目に目的成分の特定イオン(分子イオン等)の精密質量情報を入力すれば、ポリゴン作成・設定は終了である。この操作を繰り返してポリゴンを作成することで、複数の目的成分の特定イオンの強度情報を抽出することが可能となる。Fig.2(e)は、Paraffin (CnH2n+2)の炭素数8から28のポリゴンを作成した例である。設定したポリゴンから抽出したイオンの強度情報は、Fig.2 (f)に示すような一覧表で得ることができる。この表はエクスポートが可能であり(xlsもしくはcsvファイル形式)、表計算ソフトを利用しさらなる計算・グラフ作成などを行うことができる。ポリゴンをFig.1やFig.2(a)で示したように夾雑成分を含まないように作成することで、夾雑成分の影響を排除したタイプ分析結果を得ることができる。最後に、202のポリゴンを設定した例をFig.3に示す。ここでは12種類の炭化水素化合物(CnH2n+2からCnH2n-20)についてポリゴンを作成しているが、便宜上各炭化水素化合物グループでポリゴンの色分けをしている。
 GCxGC/FIタイプ分析法では、夾雑成分の影響をMSの高質量分解能とGCxGCの高分離能により排除し、目的とする成分の分子イオン強度情報のみを抽出して得ることが可能である。ここでは炭化水素化合物の個別詳細法について紹介したが、本法を応用してバイオマーカーや硫黄化合物、窒素化合物などの定量分析を行うことが可能となる。

GCxGC/FI type analysis workflow
【Fig.2 GCxGC/FI type analysis workflow】

GCxGC/FI type analysis using 202 polygons for a diesel fuel sample
【Fig.3 GCxGC/FI type analysis using 202 polygons for a diesel fuel sample】

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