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GC-QMS法による塗膜くず中の低濃度PCB分析 [GC-QMS Application]

MSTips No.314

はじめに

ポリ塩化ビフェニル(PCB)は、昭和43年のカネミ油症事件をきっかけにその毒性が社会問題となり、製造や輸入が禁止となった。その後、平成13年に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(通称:PCB措置法)」が施行され、PCB廃棄物の保管事業者は令和9年3月末までに低濃度PCB廃棄物を処分することが義務付けられた。
低濃度PCB廃棄物を分析する手法としては、「低濃度PCB含有廃棄物に関する測定方法」が環境省より示されている。令和元年10月に公表された第4版では、測定対象を塗膜くず(塩化ゴム系塗料や塩素系顔料)とする場合、ガスクロマトグラフ(GC)の検出器として使用できるものは質量分析計(タンデム型を含む)のみとなった。これは、塗膜くずが試料そのものに含塩素化合物を多量に含むため、電子捕獲型検出器(ECD)では適切な分析が困難となる場合が多いからである。
今回は、塗膜くずの実試料をガスクロマトグラフ四重極型質量分析計JMS-Q1500GCにて測定し、ダイオキシン分析プログラム「DioK(ダイオック)」を用いて定量解析したので、その結果を報告する。

実験

検量線作成用の標準溶液としてはPCB標準液OIL-CVS-B(Wellington Laboratories製)を用いた。定量対象試料としては2種類の塗膜くず(600 mg)サンプル(以降 Sample A 及び B と呼ぶ)とし、内部標準物質としてはPCB標準液MBP-MXP(Wellington Laboratories製)を用いた。Table 1左にOIL-CVS-Bに含まれる異性体(Native)とその濃度を示す。
本検量線溶液(CS1-B~CS6-B)には、Table1 右に示したように、塩素数の異なる同族体ごとに少なくとも1種類の異性体の13Cラベル化体が、内部標準物質(Internal Standard:以下単に「IS」と表記する)として40ng/mLの濃度で含まれている。PCB標準液MBP-MXPには Table 1右のISと同様の異性体が含まれる。
測定にはガスクロマトグラフ四重極型質量分析計JMS-Q1500GCを使用し、測定条件は「絶縁油中の微量PCBに関する簡易測定法マニュアル(第3版) (以下単に「マニュアル」と表記する) 」を参考に設定した(Table 2)。また、一塩化ビフェニル(M1CB)から十塩化ビフェニル(D10CB)のSIM測定における定量イオン(Quantitation ion)と確認イオン(Confirmation ion)をTable 3に示した。なお、OIL-CVS-Bについては各濃度の標準溶液を連続3回測定し、Sample AおよびBについてはそれぞれ1回のみの測定とした。データは全てDioKで解析した。

Table 1  Concentration of calibration solutions

Native Internal Standard
Homologue IUPAC CS1-B
(ng/mL)
CS2-B
(ng/mL)
CS3-B
(ng/mL)
CS4-B
(ng/mL)
CS5-B
(ng/mL)
CS6-B
(ng/mL)
IUPAC CS1-B~CS6-B
(ng/mL)
M1CB 3 0.5 2 10 40 200 1000 3L 40
D2CB 8 0.5 2 10 40 200 1000 8L 40
T3CB 28 0.5 2 10 40 200 1000 28L 40
T4CB 52 0.5 2 10 40 200 1000 52L 40
P5CB 101 0.5 2 10 40 200 1000 101L 40
P5CB 118 0.5 2 10 40 200 1000 118L 40
H6CB 138 0.5 2 10 40 200 1000 138L 40
H6CB 153 0.5 2 10 40 200 1000 153L 40
H7CB 180 0.5 2 10 40 200 1000 180L 40
O8CB 194 0.5 2 10 40 200 1000 194L 40
N9CB 206 0.5 2 10 40 200 1000 206L 40
D10CB 209 0.5 2 10 40 200 1000 209L 40

Table 2 Measurement condition

GC
Column DB-5ms(Agilent Technologies, Inc.)
30m×0.25mm I.D., df=0.25µm
Injection port temp. 250°C
Oven temp. program 100°C(1min)→20°C/min→160°C→3°C/min
→220°C(3min)→ 6°C/min→295°C(5min)
Injection mode Splitless
Carrier gas He, 1.2mL/min(Constant Flow)
MS
Ion source temp. 230°C
Interface temp. 280°C
Ionization mode EI
Ionization energy 70eV
Ionization current 50µA
Mesurement mode SIM
Relative EM Voltage 700V

Table 3 Selected ions of each target PCB substance

M1CB D2CB T3CB T4CB P5CB H6CB H7CB O8CB N9CB D10CB
Native
(m/z)
Quantitation ion 188.0 222.0 256.0 289.9 325.9 359.8 393.8 429.8 463.7 497.7
Confirmation ion 190.0 224.0 258.0 291.9 323.9 361.8 395.8 427.8 461.7 499.7
Internal Standard
(m/z)
Quantitation ion 200.1 234.0 268.0 302.0 337.9 371.9 405.8 441.8 475.7 509.7
Confirmation ion 202.1 236.0 270.0 304.0 335.9 373.9 407.8 439.8 473.7 511.7

結果

Table 4にPCB標準液から得た同族体ごとの平均相対感度係数(Av-RRF:Average Relative Response Factor)とその相対標準偏差(RSD:Relative Standard Deviation)を示す。Av-RRFのRSDは2.8~6.8%となり、マニュアルに記載されている許容値20%以下を満たすことを確認した。既報MSTips No.310 で紹介したとおり、DioKでは同族体ごとのAv-RRFのRSDとそれが許容値以内であることを容易に確認することができる。 Table 4のAv-RRFを用いてSample AおよびB中の各同族体ごとの濃度を算出し、それを合算した値を試料中の濃度に換算したPCB濃度はそれぞれ4.79mg/kgと1.17mg/kgであった。
次に、DioKでは定量解析において夾雑成分を識別し、定量計算から除外する機能があるので紹介する。Fig. 1にPCB濃度が低かったSample Bの一塩化ビフェニル(M1CB)から十塩化ビフェニル(D10CB)の同族体の定量イオンと確認イオンの平均クロマトグラムを示す。既報MSTips No.310 で報告したように、DioKでは異性体としてアサインされており、レシオチェックが許容値内(マニュアルでは20%以下)であるピークは緑色で表示される。M1CBおよびD10CBでは定量対象異性体は確認できなかった。それ以外の同族体では良好なクロマトグラムを得ることができ、異性体が分離している様子が確認できた。

Table 4 Av-RRF results for each homolog

M1CB D2CB T3CB T4CB P5CB H6CB H7CB O8CB N9CB D10CB
RRF 1.14 1.02 1.00 1.07 1.08 0.99 1.09 1.18 1.09 1.11
RSD(%) 2.8 3.5 4.6 5.4 4.3 3.9 4.6 6.8 4.3 5.3
Fig. 1 SIM chromatograms of each PCB homolog

Fig. 1 SIM chromatograms of each PCB homolog

しかしながらFig. 1をみると、平均クロマトグラムには緑色のピーク以外に青色のピークが観測されている。青色のピークは、異性体としてはアサインされておらず、レシオチェックが許容値外のピークである。Fig. 2はO8CBの平均同族体クロマトグラムと、DioKのテンプレート内に登録されているリテンションタイムである。これをみると、O8CBでは緑色の定量対象異性体のピーク以外に、強度の高い青色のピークを2つ確認できる。
O8CBの定量イオンと確認イオンの個別クロマトグラム(Fig. 3)をみると、青色のピークは定量イオンのクロマトグラムに特に多く検出されていることから、夾雑成分由来であるといえる。このように、DioKでは夾雑成分の影響を容易に確認でき、ミスアサインを防ぐことができるため、夾雑成分の影響を受けない定量分析が可能である。

Fig. 2 Chromatogram of the native compound and registered retention time (O8CB)

Fig. 2 Chromatogram of the native compound and registered retention time (O8CB)

Fig. 3 Chromatogram of quantitation and confirmation ions (O8CB)

Fig. 3 Chromatogram of quantitation and confirmation ions (O8CB)

まとめ

本報告では、JMS-Q1500GCによる塗膜くずの実試料の定量解析を試みた。その結果、Sample AおよびB中のPCB濃度はそれぞれ4.79 mg/kgと1.17 mg/kgと算出された。
DioKを用いると、ピークの色および定量イオンと確認イオンの二段表示機能により夾雑成分のピークを識別することができるため、夾雑成分の影響を受けずに定量分析することができる。

参考文献

「低濃度PCB含有廃棄物に関する測定方法(第4版)」. 環境省 環境再生・資源循環局 廃棄物規制課 ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理推進室. 令和元年10月.
「絶縁油中の微量PCBに関する簡易測定法マニュアル(第3版)」.環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課. 平成23年5月.
 MSTips No.310 DioKを用いたポリ塩化ビフェニル(PCB)の定量解析
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