通常の ESR 法の時間分解能は磁場変調の制約を受けます。光照射により励起されて生じる初期過 程の短寿命のラジカルを測定するためにはより高い時間分解能が必要となります。そのような測定を可能にするシステムとして、ES-CIDEP3 時間分解 ESR (Time Resolved ESR;TR-ESR) が用いられています。光化学反応で生じる熱平衡からはずれたスピンの異常分極 (Chemically Induced Dynamic Electron Polarization:CIDEP) を受けたラジカルを、磁場変調をかけず直接観測することにより約 200ns の時間分解能が得られます。
装置の構成を図 1 に示します。パルスレーザーにより共振器 (図 1 の C) 内の試料を励起し、生じた光反応中間体の ESR 信号を広帯域プリアンプで増幅し、デジタルオシロスコープで積算します。データは時間軸スペクトルとしてコンピュータに蓄積されます。 レーザーパルスと同期して信号検出することで、高い時間分解能のデータを得ることができます。
2,4,6-Trimethylbenzoyl Diphenylphospineoxide (TMDPO) のベンゼン溶液に YAG レーザーの 3 倍波 (355nm) を照射して生じた DPO・(図 2 ) の時間軸スペクトルを図 3 に示します。レーザー照射 により中間体ラジカルが極めて短時間に生成し、分極の解消に伴い減衰するのが捉えられました。こうした測定を広い磁場範囲で行い、得られた時間軸スペクトルを磁場軸で展開すると図 4 のようなスペクトルが得られました。磁場変調を加えないため、スペクトルは吸収波形となります。DPO・のリン由来の 2 本に分裂した信号と TMB・ の信号が検出されました。
こうした反応性に富んだ系にモノマーを添加すると、初期の重合過程で生じる生長ラジカルが観測できます。TR-ESR はこのような反応中間体の研究で有用なデータを提供すると期待されます。
参考文献:Kamachi M., et.al, J.Chem.Soc.Perkin Trans.II 1988,961-965
|