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熱分解GC/MSによる古の日本文化散策
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鳥羽離宮遺跡の出土品分析 |
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| 本報は、「天然樹脂のキャラクタリゼーションと歴史的工芸品の塗膜同定」を解説したJEOL技術資料(資料No.MS184)より抜粋しました。
1. 鳥羽離宮遺跡
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図1 遺跡から出土した塗膜の400℃における熱分解分析結果(1) |
b) マスクロマトグラム(m/z 60) 1: butanoic acid 2: pentanoic acid 3: hexanoic acid 4: heptanoic acid 5: octanoic acid 6: nonanoic acid 7: decanoic acid 8: undecanoic acid 9: dodecanoic acid 10: tridecanoic acid 11: tetradecanoic acid 12: pentadecanoic acid 13: hexadecanoic acid 14: heptadecanoic acid 15: octadecanoic acid : octadecanoic acid |
マスクロマトグラムより一連の脂肪酸が検出されました。これらの脂肪酸はbutanoic acidからoctadecanoic acidまでの脂肪酸であることがマススペクトルより判明しました。これらのピークパターンはピーク13(hexadecanoic acid)やピーク15(octadecanoic acid)の相対強度が高くなっているなど、アマニ油膜などの乾性油膜における熱分解結果とよい一致を示しました。
次に、TICとマスクロマトグラム(m/z 318, 320)を図2に示します。
図2 遺跡から出土した塗膜の400℃における熱分解分析結果(2) |
a) TIC |
マスクロマトグラム(m/z 318)よりピーク1が検出されました。これはマススペクトルよりウルシオールのモノエン成分である3-pentadecenylcatecholと同定されました。また、マスクロマトグラム(m/z 320)より検出されたピーク2はウルシオールの飽和成分である3-pentadecylcatecholであることが明らかになりました。
400℃の熱分解後、500℃で熱分解することによって得られたTICとマスクロマトグラム(m/z 108)を図3に示します。TIC上に規則的に検出されたピークは、マススペクトルよりC5〜C19のアルケンやアルカンと同定されました。
![]() 図3 遺跡から出土した塗膜の500℃における熱分解分析結果 |
a) TIC C5: pentane C6: 1-hexene C7: heptane C8: 1-octene, octane C9: 1-nonene, nonane C10: 1-decene, decane C11: 1-undecene, undecane C12: 1-dodecene, dodecane C13: 1-tridecene, tridecane C14: 1-tetradecene, tetradecane C15: 1-pentadecene, pentadecane C16: 1-hexadecene, hexadecane C17: 1-heptadecene, heptadecane C18: 1-octadecene, octadecane C19: 1-nonadecene, nonadecane |
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| b)マスクロマトグラム(m/z
108) |
1: 2-methylphenol 2: 2-ethenylphenol, 2-ethylphenol 3: 2-propenylphenol, 2-propylphenol 4: 2-butenylphenol, 2-butylphenol 5: 2-pentenylphenol, 2-pentylphenol 6: 2-hexenylphenol, 2-hexylphenol 7: 2-heptenylphenol, 2-heptylphenol 8: 2-octenylphenol , 2-octylphenol 9: 2-nonenylphenol, 2-nonylphenol 10: 2-decenylphenol 2-decylphenol 11: 2-undecenylphenol,2-undecylphenol 12: 2-dodecenylphenol, 2-dodecylphenol 13: 2-tridecenylphenol, 2-tridecylphenol 14: 2-tetradecenylphenol, 2-tetradecylphenol 15: 2-pentadecenylphenol, 2-pentadecylphenol |
これらのピークの内C14のピーク強度が比較的高いことから、C5〜C17のアルケン及び、アルカン成分はウルシオール側鎖の熱分解成分と思われます。また、炭素数が18以上のアルケンやアルカンは、空気酸化によって生成したウルシオール側鎖間におけるC-C結合ポリマーの熱分解生成物と思われます。
次に、マスクロマトグラム(m/z 108)よりpentadecenylphenol, pentadecylphenolまでの一連のアルケニルフェノールとアルキルフェノールが検出されました。更に、これらのピークの内、ピーク7(2-heptenylphenol, 2-heptylphenol)の相対強度が比較的に高いことが確認されました。これらの成分はウルシオールポリマー骨格の熱分解生成物です。
即ち、ウルシオールポリマーのカテコール核と側鎖とのC-O結合部のO-Ph間での開裂と側鎖部のランダム開裂によって生成されたものです。側鎖部のランダム開裂では、前述した通り二重結合のα位で優先的に開裂が進行します。
従って、ピーク7(2-heptenylphenol, 2-heptylphenol)の相対強度が高く検出されたことによって、側鎖の8位に二重結合がより多く存在することが裏付けられました。これはウルシオール側鎖に特徴的な構造です。
Py-GC/MS分析によって鳥羽離宮遺跡(平安時代)から出土した木胎の塗膜はRhus vernicifera漆に乾性油などの油を添加したものであることが判明しました。Rhus vernicifera漆は、現在でも日本で最も多く漆器や漆芸に使われています。従って、平安時代もRhus vernicifera漆が漆器の生産地近くで採取され利用されていたと考えられます。また、乾性油などの油は漆の艶出し、乾燥性の調整、増量剤として用いられていたと考えられ、平安時代に大量の漆器が製造され利用されていたことを物語っています。
以上のようにPy-GC/MSによる科学的な同定法は、従来の文献史学的な調査方法とは違った角度から新たな情報を与え、今後考古学や保存科学の発展に大きく貢献することが期待されます。
本研究を行なうにあたり、御指導、御協力をいただきました、明治大学 理工学部工業化学科 教授 宮腰哲雄先生に厚く御礼申し上げます。