透過電子顕微鏡 基本用語集

レンズ系

  1. 理論
  2. 照射系
  3. レンズ系
  4. 試料室
  5. 検出系
  6. 真空系
  7. 分光分析
  8. 結晶等
  9. 試料等
  10. 画像処理
用語説明
用語
(別表現)
英語表記
(英語略称)
説明
関連用語
アインツェルレンズ

einzel lens

レンズの入り口と出口で同じ電位の静電レンズのこと。日本語で単電位レンズと言うこともある。通常3枚の電極からなり,端の2枚はアース電位に保ち、中央の電極に正または負の電位を与える。前者を加速型、後者を減速型アインツェルレンズという。両者ともに凸レンズになる。最終的に電子は加速も減速もされずレンズ作用のみを受ける。イオン質量分析などのイオンビーム装置に利用される。

アナスティグマート

anastigmat

ザイデルの5収差を全部補正したレンズのこと。最近の市販カメラではほとんどアナスティグマートレンズが搭載されている。

アナプラート

anaplat

球面収差とコマ収差を補正したレンズのこと。望遠鏡や光学顕微鏡では色消し(色収差を補正した)アプラナートになっている。レンズの物面側の面を非球面にして球面収差をなくし、レンズの像側の面をコマ収差が生じないような面(正弦条件を満たす面)に加工してアプラナートを実現している。電子顕微鏡の対物レンズでは、拡大する領域が小さいので、コマ収差の影響は殆どない。

アンダーフォーカス

underfocus

透過電子顕微鏡の対物レンズの励磁電流を正焦点(試料に焦点が合った状態)での励磁電流値から僅かに弱くすること。このとき制限視野絞り上にできる像は、試料より上方の位置に焦点が合った状態でできたものである。明(暗)視野像にコントラストをつける(像の輪郭を際立たせる)ためにしばしば正焦点でなく多少アンダーフォーカスで撮られる。

位相板

phase plate

電子波の位相に変化を与える板。 ゼルニケ位相コントラストの場合について述べると、吸収の少ないカーボン薄膜を、その内部ポテンシャルによってπ/2だけ位相を変えるような厚さに調整し、透過波以外の散乱波に挿入し、透過波と干渉させて物体の位相変化を強度の変化にして、位相変化を可視化する。とくに小さい空間周波数の領域(実空間では長距離の領域)の干渉性が改善されるので、生体などの試料に高いコントラストを与えるのに有効。空間分解能は0.5nm程度。

イマージョンレンズ

immersion lens

レンズの両側の電位が異なる静電レンズのこと。光学レンズの油浸レンズの場合にレンズの両側で屈折率が違うことに習った奇妙な命名。日本語で界浸レンズと言うこともある。電子銃に対する引き出し電極は(加速型)イマージョンレンズである。減速型ウィーンフィルタの減速レンズは(減速型)イマージョンレンズである。電子を加減速するときはレンズ作用を伴う。

イメージウォブラ

image wobbler

コンデンサーレンズの下にある偏向コイルを使って照射ビームを正負の方向に繰り返し少量だけ傾斜させて焦点合わせをする機能。イメージウォブラを働かせて像を観察し、像が動かなくなるように対物レンズの励磁または試料位置を調整すると焦点合わせができる。~5万倍までの像の粗いピント合わせに便利。

色収差

chromatic aberration

入射電子線や試料を透過した電子線のエネルギー(波長)が様々な要因で拡がり(幅)を持つと、レンズでの屈折角度が波長によって異なるため、結像の際、像がぼけること。電子線のエネルギーの拡がりは、加速電圧の変動、電子銃からの放出電子の初速度の拡がり、ベルシュ効果や、レンズコイルの励磁電流の変動による焦点距離の変動などで起きる。また、試料が厚くなると(~10nm以上)、非弾性散乱による電子エネルギーの損失(波長の変化)も色収差を引き起こす。

色収差補正装置(Ccコレクター)

Cc corrector

負の色収差を発生させ、結像系あるいは照射系のレンズの色収差を零にする装置。負の色収差の発生には、静電場と静磁場を重畳して作られる四極子場を用いる。四極子場を生成するために、多段の多極子が用いられる。
電子顕微鏡で用いられる磁場型あるいは電場型の円筒対称型凸レンズは、常に正の色収差を持ち、速度のより遅い電子はより大きく収束方向(内側)に曲げられる。一方、色収差補正装置で作り出される四極子場は、凸レンズと反対向きのエネルギー分散能を発生させ、速度のより遅い電子をより大きく発散方向(外側)に曲げることができる(負の分散能)。そのため、色収差補正装置をレンズ系に組み込めば、発生させた負の色収差を用いて凸レンズの正の色収差を相殺し、レンズ系全体の色収差を零にすることができる。

エアリーディスク

airy disk

S字ひずみ

S-shaped distortion

電子線に対する電磁レンズ特有の歪。光学レンズの場合と違って電子線は電磁レンズによって回転作用を受ける。回転の大きさは電子線が光軸から離れるにしたがって大きくなり、像面(蛍光板)上で直線として映るべきものがS字状に観察される。電子線の光軸からの距離が大きい投影レンズで問題になる。極性が反対のレンズを組み合わせることによってS字歪を打ち消すことができるが、実用化はされていない。

オブジェクティブ ミニレンズ

objective mini lens

対物レンズの下におかれる弱いレンズ。対物レンズのように磁場を強めるポールピースを持たない。Low MAGモードで低倍率(~50~3000倍)を得るとき、対物レンズの励磁を切ってオブジェクティブ ミニレンズで制限視野絞り上に結像するために使われる。倍率は1~2倍。もう一つの使い方は、MAGモードで1000倍程度の低倍率を得るとき、対物レンズの性能(像質)を下げないために強励磁にしておき、オブジェクティブ ミニレンズを使って像を縮小(~0.5倍)し、広い視野を中間レンズに導くために使われる。

オーバーフォーカス

overfocus

透過電子顕微鏡の対物レンズの励磁電流を正焦点(試料に焦点が合った状態)での励磁電流値から僅かに強くすること。このとき制限視野絞り上にできる像は試料より下方のある位置に焦点が合った状態でできたものである。

回折限界

diffraction limit

光学系に収差が無い場合の集光限界。電子波には回折現象があるので、収差がない光学系においても、物体の一点から出射した電子波は像面で無限小の一点には集まらず、有限の大きさ(エアリーディスク)までにしか集光できない。回折収差によるエアリーディスクの半径 rはr=0.6λ/sinαである。ここで、λは電子線の波長、αはレンズの開き角である。この式から、エアリーディスクの大きさは電子線の開き角を大きくとると小さくなることがわかる。透過型電子顕微鏡で実現できている開き角は10-2radである。この集光限界のために理想レンズでも点分解能は無限に小さくはならない。

回転対称レンズ

rotationally symmetric lens

レンズの軸に対して回転させても、対称性が変わらないレンズ。対物レンズをはじめとする従来から使われているレンズは回転対称レンズである。最近、分析用に導入されているウィーンフィルタ、オメガフィルタ、アルファフィルタやCsコレクタは非回転対称レンズである。

カウスティク(火面)

caustic surface

理想的な(収差のない)レンズによる結像では、物面の一点から出た電子は像面の一点に集まり、隣り合う軌道は交わることはない。実際の収差のあるレンズでは、隣り合う軌道は交わり交点の軌跡は包絡面を作り、周りに対して非常に明るい部分となって見える。この明るい部分をカウスティクまたは火面という。

可動絞り

movable aperture

真空外から絞りの穴径の選択や位置の調整ができる絞り。コンデンサー絞り、対物絞り、制限視野絞りなどがこれに該当する。

カメラ定数

camera constant

カメラ長と入射電子の波長の積をカメラ定数という。カメラ定数は、回折図形上で、透過波による斑点からある回折斑点までの距離と、その回折斑点に対応する面間隔を掛けた値と等しい。したがって、面間隔の分かっている標準試料を用いてカメラ定数を求めれば、未知の試料について、透過波点からある回折波点までの距離を測ると、その回折波の面間隔の値を計算できる。

カメラ長

camera length

試料から、観察する回折図形を形成する面までの有効距離。

ガウシアンフォーカス

Gaussian focus

収差のない理想的なレンズで得られる結像条件のこと。理想レンズによる像面をガウス面という。

幾何収差

geometrical aberration

電子の軌道を、荷電粒子の電磁場内での運動として記述する幾何光学において、結像点の理想結像(ガウス結像)点からのズレを幾何収差という。光学特性は一般に、物面の一点から像面の一点へ写像する冪展開多項式で表される。この多項式は、物面における電子軌道の1)光軸からの距離rと2)光軸となす角αをパラメータとして冪展開される。rとαに関して、1次の項のみを考慮した場合は収差のない理想結像を表す(ガウス結像)。2次以上の項を考慮した場合、結像点は理想結像点からずれる。
光軸となす角αと光軸からの距離rの次数を合わせた数が、幾何収差の次数である。収差の次数を示すとき、幾何収差の次数を用いるのが一般的である。一方、波面収差の次数が収差の対称性と関連が強いことから、収差の次数として波面収差の次数を用いることもある。同じ収差において波面収差の次数は、幾何収差の次数に1を足した数字となる。例えば、2回非点収差は幾何収差では1次であるのに対して波面収差では2次、3回非点収差は幾何収差では2次、波面収差で3次の次数である。

寄生収差

parasitic aberration

ザイデルの5収差のようにレンズ本来の持つ収差でなく、ポールピースの材料の不均質性や機械加工の精度、レンズ間の光軸の不一致などによる残留収差のこと。軸上コマ収差、スター収差、スリーローブ、軸上(2, 3, 4, 5, 6回)非点収差がこれに当たる。

球面収差

spherical aberration

物面の光軸上の点から光軸と傾いて出射した電子線がレンズを通ると、理想像面で光軸上に来ず、像面でない位置で光軸と交わる(電子顕微鏡の場合は少し手前(レンズ側))ために、円状のぼけた像を理想像面上に作る収差。ボケの量は物体面上でCsα3で与えられる。ここでCsは球面収差係数、αは物体から出射する電子線が光軸となす角。対物レンズの収差のうちで最も重要な収差。軸対称レンズではCsは常に正の値をとる。現在、球面収差の補正は可能になっており、6極子と転送レンズを使った収差補正器が主流になっている。

球面収差補正装置(Csコレクター)

Cs corrector

負の球面収差係数を作り出し、磁界軸対称レンズである対物レンズ、コンデンサーレンズの正の球面収差係数を打ち消す装置。 1) 極性が反対の2個の六極子とそれらを繋ぐトランスファーレンズから成り、第一の六極子で負の球面収差係数を作り出す。第一の六極子で作られる不用な3回対称のビームの歪みは第二の六極子によって取り除かれる。負の球面収差は第二の六極子によって倍加される。2) 八極子と四極子を組み合わせた素子を3対用意し、第一の素子でX方向に負の球面収差を発生させ、第二の素子でY方向に、第三の素子でそれらの中間方向に負の球面収差を発生させる。対物レンズの球面収差の補正により高いTEM像分解能、コンデンサーレンズの球面収差の補正により、より小さく高強度のプローブが得られ、より高分解能のHAADF像、一原子列からの元素分析ができる。

近軸近似

paraxial approximation

レンズの近軸近似とは、電子線の軌道を扱うときに、電子線が光軸となす角が小さいという近似。軌道計算に現れる式の中では角度αについての三角関数を線型近似にすること(たとえばsin α → α), 光学表面を球面の一部と近似することと言いかえることもできる。近軸近似ではザイデルの5収差を生じない。

クロスオーバポイント

crossover point

電子線が電子レンズによって収束されたとき、電子線の断面が最小になる位置(点)のこと。

結像レンズ系

imaging lens system

対物/中間/投影レンズを指す。各レンズの励磁電流を調整することにより、各種の収差を抑え、像回転を除くなどして、低倍(~50倍)から高倍(~150万倍)までの像が得られる。第一中間レンズの焦点を変えることで回折図形が得られる。

ケーラー照射

Koehler illumination

コンデンサー ミニレンズへの励磁電流を強くし、対物レンズの前方磁界の前焦点位置に入射ビームを集束させることにより、電子線を試料に平行に照射する方法のこと。TEM像(明視野像、暗視野像、HREM像)を得るときに用いられる。試料への平行照射が崩れると、試料の場所によって回折条件が異なることになり、像の解釈に支障をきたすことがある。

高圧ウォブラ

high-tension wobbler

電子線の加速電圧にわずかな変動(~±250V)を与えて、電圧変化に対する光軸を調整するための機能。

後焦点面

back focal plane

レンズをはさんで物体と反対側にある焦点面。回折図形が形成される面、すなわち試料の逆空間に対応する面。

光軸合わせ

optical-axis alignment

電子銃から投影レンズまで各レンズの軸を光軸に合わせて、電子線がまっすぐ進むようにすること。

後方磁界

post-magnetic field

現在の透過電子顕微鏡では試料は対物レンズの中に置かれている。対物レンズの磁界で、試料より後方(中間レンズ側)に作られる磁界のこと。後方磁界での球面収差、色収差が像の分解能を決めるので、後方磁界は像形成において最も重要な部分。

固定絞り

fixed aperture

第1コンデンサーレンズや投影レンズの下などに設けられる固定された絞りのこと。光源からの不用なビームをカットするために、コンデンサーレンズの下に固定絞りが挿入されている。また、精度の高い分析用に、鏡筒内で励起されたX線をカットするために、タンタルなどの重金属製の固定絞りが照射系に挿入されている。結像系には中間レンズの入口に鏡筒内反射をカットするために、固定絞りが入れられている。投影レンズの下には、カメラ室と鏡筒部を差動排気するために、固定絞りが挿入されている。

コマ収差(軸外)

(off-axial) coma aberration

物面の光軸外の点から光軸に対していろいろな角度で出射した電子線がレンズを通ったあと、像面上で1点に結像せず円錐状(彗星状)の像を作る収差。円錐の頂角(彗星の尾の開き角)は60°になる。ザイデルの5収差の一つで、レンズに固有な収差である。寄生収差である軸上コマ収差とは別物である。対物レンズでは理論上、球面収差の次に、軸外収差のうちで最も重要な収差。軸外コマ収差補正の例はあるが、高分解能像に対するコマ収差の効果は小さい。コマの名称はcometに由来する。

コマ収差(軸上)

axial coma aberration

電磁レンズ(対物)が完全な軸対称性を持たないことに起因する収差の一つ。コマ収差はビームの点像を円錐状(彗星状)にする。この収差はレンズのポールピースの孔の非対称(真円でない)、材質の磁気的不均質、絞り等への帯電などによって生じる。

コマフリー軸

coma-free axis

コマフリー軸合わせとは、対物レンズの寄生収差の一つである(軸上)コマ収差が0になる軸に電子線の入射方向を合わせることである。球面収差補正装置が搭載されていない電子顕微鏡では、対物レンズの軸ずれ等に伴う(軸上)コマ収差に対して、試料上方にある偏向系を用い、試料に対する電子線の入射方位を変えてコマフリー軸合わせを行うことが一般的である。この場合、コマフリー軸は、電圧軸に近い関係にある。一方、球面収差補正装置が搭載された場合では、球面収差補正装置に対する軸ずれが原因で発生する軸上コマ収差が補正の対象となり、対物レンズ下方(収差補正装置上方)にある偏向系を用いて(軸上コマ収差係数を零(nmオーダー)にすることにより)コマフリー軸合わせを行う。この場合、電圧軸合わせとは独立にコマフリー軸合わせを行うことができる。軸上コマ収差は、レンズそのものの性質に起因するザイデルの5収差の一つである(軸外)コマ収差とは別物である。実際にはアモルファスカーボンやアモルファスGe薄膜を用いて入射ビームを数10mrad以上傾けアジムス方向0°~360°の間で、4~16枚程度の写真を撮りディフラクトグラムタブローを作り、それらの図形がタブローの中心(傾斜0の位置)に対して中心対称になるように対物レンズ後方の収差補正装置に対する電子線の傾きを調整する。コマフリー軸合わせは高分解能像を撮るときに重要である。

コンデンサー・オブジェクティブレンズ

condenser-objective lens (C-O lens)

対物レンズの前方磁界をコンデンサーレンズとして作用させ電子線を試料上に絞って照射し、後方磁界で結像するレンズ。前方磁界の縮小率は~1/100で、試料上に微小プローブを作れるので、微小領域を照射することが必要なCBED、STEM像の分解能向上、EDS、EELSの分析領域の微小化には不可欠である。HREM用の平行ビームを作るにはコンデンサー ミニレンズを使う。

コンデンサー絞り

condenser aperture

第1コンデンサーレンズ内には直径~0.5~1mmの固定絞りが挿入されており不要なビームをカットする。第2コンデンサーレンズ内には直径10~200μmの異なる直径の可動絞りが5個程度挿入されていて、ビームの開き角、照射量を決めている。

コンデンサーミニレンズ

condenser mini lens

コンデンサーレンズと対物レンズの間に置かれ、観察モードに適した収束角を持つビームを作るレンズ。対物レンズの場合のように磁場を強めるポールピースを持たない。コンデンサー ミニレンズの励磁が弱いときは、STEM、CBED、分析仕様の収束照射(微小領域照射)になる。励磁を強くすると、明暗視野像やHREM像の観察仕様の平行照射になる。

コンデンサーレンズ

condenser lens

電子銃から出た電子線のクロスオーバを第1コンデンサーレンズで~1/10に縮小し、縮小したビーム像を第2コンデンサーレンズ(倍率は~1倍)で対物レンズの物面に移送するレンズ。

コンビネーション収差

combination aberration

2つの薄い光学素子(レンズや多極子等)を、自由空間を介して配置したとき、それらの光学素子を単体で動作させた場合の収差以外に、それらの相乗効果によって生ずる(それぞれの光学素子の収差よりも高い次数で現れる)収差をコンビネーション収差という。厚みを持った6極子球面収差補正装置では、3回非点(2次の収差)と3回非点(2次の収差)の(セルフ)コンビネーション効果によってできる負の球面収差(3次の収差)を利用して、対物レンズの正の球面収差を補正している。球面収差補正装置と対物レンズの組み合わせでは、それらの間に自由空間がある場合(完全転送が行われない場合)、球面収差補正装置の負の3次球面収差と対物レンズの正の3次球面収差との(クロス)コンビネーションによって、正または負の5次球面収差が現れる。このことを利用して残留する5次の球面収差を補正することが可能である。

5次球面収差

fifth-order spherical aberration

回転対称な電界および磁界型レンズの収差のうち、電子線が光軸に対する角度αの5乗に比例する収差を、5次の球面収差という。3次のみならず5次の球面収差も電子レンズに必ず存在する。通常にいう球面収差とは、電子線が光軸に対する角度αの3乗に比例する収差を指し、収差係数の表記としてCsが使用されるのに対し、5次の球面収差の収差係数の表記にはC5が用いられることが多い。3次の球面収差補正が行われるようになり、C5の影響を考慮する必要が出てきた。幸いなことに、二段6極子とそれらを繋ぐ転送レンズを備えた3次の球面収差補正装置を用いると、C5の値を可変にすることができるので、C5 = 0にすることができる。

5次の収差

5th order aberrations

ザイデルの5収差が、電子線の光軸への入射角αと光軸からの距離rについての3乗に比例する収差であるのに対して、次の次数である5次の収差のことで、シュワルツシルドの9収差という。Csコレクターの開発により、電子顕微鏡では3次の球面収差、および他の3次(軸上寄生)収差も補正されるようなった。(軸上)4次収差は、アライメントで補正される特徴があるため、(軸上寄生)5次収差が次に幾何的なボケの原因となる。5次の収差のうち、5次の球面収差C5α5が問題になる。しかし、(3次の)Csコレクターと転送レンズ(トランスファーレンズ)があればC5の値は可変にすることができ、C5 = 0にすることができる。二段ヘキサポール型のCsコレクターでは5次収差のうち、軸上寄生収差である6回非点収差の影響が大きく、これを小さくする努力が払われている。

最小錯乱円

disk of least confusion

電子レンズには球面収差があるので、物体の光軸上の一点からいろいろな方向に出射した電子線は理想像面(収差がないとしたときの結像面(ガウス像面))で一点に集まらない。光軸となす角が小さな出射ビームは理想像面に近いところに像を作り、光軸となす角が大きいビームは理想像面よりレンズに近い側に像を作る。これらを加え合わせると、理想像面から少しレンズ側にずれたところに最小の円(ディスク)像が作られる。これを最小錯乱円という。球面収差による最小錯乱円の直径dsは ds = (1/2)Csα3で与えられ、ガウス面上でのボケの1/4である。ここでCsは球面収差係数、αは電子線の光軸とのなす角。

3回非点収差

three-fold astigmatism

2次の軸上幾何収差の一つで3回対称の寄生収差(波面収差の次数では3次)。六極子場を使って3回非点収差をキャンセルすることができる。
現在広く用いられている2段六極子型球面収差補正装置では、3回非点場内でのコンビネーション効果を用いて対物レンズの球面収差補正を行っている。その収差補正系では、1段目の六極子で大きな3回非点収差と負の球面収差を発生させる。続いて配置されている2段目の六極子で、負の球面収差と逆向きの3回非点収差を発生させ、1段目で生じた3回非点収差を同時にキャンセルし、発生させた負の球面収差によって対物レンズの正の球面収差を補正している。

絞り

aperture

コンデンサー絞り、対物絞りや制限視野絞りのこと。固定絞りと可動絞りがある。

絞り径

aperture diameter

レンズ絞りの直径。コンデンサー絞りの径は照射ビームの開き角を決定し、対物絞りの径はTEM像の結像に用いる透過波や回折波の数(出射電子の散乱角)を決め、制限視野絞りの径は回折図形を得る領域を決める。

集束

focusing

電子ビームを絞って、焦点を合わせること。

収束照射

convergence illumination

電子ビームを絞って、試料に照射すること。

収束角

convergence angle

電子ビームを円錐状に絞って試料に照射する際、円錐の角度を半角で表わしたもの。

照射レンズ系

illumination-lens system

コンデンサーレンズとコンデンサー ミニレンズを指す。コンデンサー・オブジェクティブレンズ(C-Oレンズ)の前方磁界も含まれる。

焦点可変量

focal step

対物レンズの電流を可変するつまみを動かしたときの、焦点距離の変化量。最近の顕微鏡では焦点距離の最小可変量は~1nmである。

焦点距離

focal length

レンズの光軸に平行に入射した電子が光軸と交わる点を(後)焦点といい、レンズの中心から焦点までの光軸上の距離をいう。対物レンズの焦点距離は、観察の対象によって異なり0.5~4mm。

焦点深度

focal depth (depth of focus)

物体に焦点を合わせたとき、その焦点面の前後で十分鮮明な像が得られる距離。焦点深度は実際の空間分解能と倍率の2乗に比例し開口角に逆比例する。電顕の場合は可視光の場合にて比べて開口角が小さいので、焦点深度は深い。倍率が1万倍、開口角が1×10-3rad、分解能が1nmとすると焦点深度は100mになる。

焦平面(焦点面)

focal plane

光軸に垂直で焦点を通る平面。

軸上幾何収差

axial geometrical aberration

幾何収差の中で、光軸となす角αのみをパラメータとする収差を軸上幾何収差という。軸上幾何収差には、デフォーカス、2回非点収差、3回非点収差、軸上コマ収差、球面収差、4回非点収差、スター収差等がある。一方、幾何収差の中で、光軸となす角αに加えて光軸からの距離rをパラメータに持つ収差は軸外(幾何)収差といわれる。軸外収差の例として、ザイデルの5収差の一つであるコマ収差がある。
高分解能電子顕微鏡の場合、倍率が非常に高いことから観察視野が狭い。そのため、高分解能像観察では、軸外幾何収差を無視して、軸上幾何収差のみを扱うのが一般的である。走査透過電子顕微鏡の場合も、軸上の収束電子ビームを走査するため、同様に軸上幾何収差のみを扱う。

スター収差

star aberration

3次の軸上幾何収差の一つで2回対称の寄生収差(波面収差の次数では4次)。対物レンズの球面収差が大きいため普通には検知できないが、対物レンズの球面収差補正を行った後には検知される。スター収差が残留する場合、ロンチグラム図形の高角度領域に2回対称のパターンが現れる。球面収差補正装置を搭載した場合には、一般的には観察前に収差測定を行い、補正装置内の偏向素子を用いた自動収差補正機能によって各種の収差(スター収差も含まれる)が補正されるようになっている。

スティグマティックフォーカス

stigmatic focus

軸外非点収差なし結像のこと。たとえばオリジナルなウィーンフィルタでは収束作用は電場方向にはあるが磁場方向にはない。したがって丸いビームを入射しても像面でライン状のビームしかえられない。ウィーンフィルタで非点なし結像を実現するには、電場と磁場を曲線状にして本来の電場方向に作られる磁場成分による本来の磁場方向の収束を利用する。

スティグメータ

stigmator

スリーローブ収差

three-lobe aberration

4次の軸上幾何収差の一つで3回対称の寄生収差(波面収差の次数では5次)。4次の軸上幾何収差にはこの他に4次コマ収差と5回非点収差がある。対称性が3回である収差には、スリーローブ収差の他に(より低次な収差として)2次軸上幾何収差である3回非点収差がある。2段六極子型球面収差補正装置の場合、3回非点収差を補正した状態であっても、ロンチグラム図形の高角度領域に3回対称の図形が検知される場合は、このスリーローブ収差の残留が原因であることがある。

制限視野絞り(中間レンズ絞り)

selected-area aperture (intermediate-lens aperture)

制限視野回折を行なう際、回折図形を得る試料の領域を制限する絞り。対物レンズの像面(中間レンズの物面)に挿入される。絞りの直径は通常 10~100μm。

静電レンズ

electrostatic lens

静電界により電子線を集束させるレンズ。磁界型レンズより収差が大きいので、結像には用いられず、電子線の加速/減速用に用いられる。

前方磁界

pre-magnetic field

現在の透過電子顕微鏡では試料は対物レンズの中に置かれている。対物レンズの磁界で、試料より前方(コンデンサレンズ側)に作られる磁界のこと。

走査コイル

scanning coil

電子プローブで目的の場所を走査するための電磁コイル。

像回転

image rotation

透過電子顕微鏡で像の倍率を変えると像が回転する現象を指す。像が回転すると観察したい場所が動き観察に不便なので、これを防ぐために、像の回転が打ち消されるように、あるいは最小になるように励磁の方向が逆の二つのレンズを組み合わされている。

対物絞り

objective aperture

明視野像や暗視野像を得るために透過波や回折波のひとつを取り込むための絞り。対物レンズの後焦点面に挿入される。 絞りの直径は5~100μm。以前は格子像、構造像をとるときにも挿入されたが、最近は使わないことが多い。絞りを使って急なカットを入れたデータを使ってコンピュータ処理をするとアーティファクトが現れることがあるためである。

対物レンズ(オブジェクティブレンズ)

objective lens

試料を出射した電子で結像するための初段のレンズ。結像レンズ系の中で最も重要なレンズであり、対物レンズの性能が像の質(分解能、コントラストなど)を、ほぼ決める。良い対物レンズとは球面収差係数と色収差係数が小さいレンズである。これらの値を小さくするには、上極と下極の距離を短くすることとポールピースの穴径を小さくすることが必要である。両極の間には通常サイドエントリータイプの試料ホルダが入るので、距離を短くするには限度がある。トップエントリータイプのホルダに対しては上極の穴径が下極の穴径より大きい非対称なポールピースが使われる。

多目的用ポールピース

multiuse polepiece

ホルダの傾斜角を少なくとも±35°以上まで許した多目的用ポールピースで、加速電圧200kVでCs=1.0mm、Cc=1.4mmが得られており、電顕像の空間分解能は0.23nmである。ポールピースのギャップを大きくしているために加熱や冷却など各種の試料ホルダを使用でき、また傾斜角をさらに大きくできるホルダを用いてトモグラフィーを行うこともできる。分析の際、絞りからの不要なX線の混入を避けるために、対物絞りはポールピースの下極の下に入れるタイプが標準であるが、明視野や暗視野を得やすくするためにギャップ内の特別な対物絞りを挿入する場合もある。

中間レンズ

intermediate lens

対物レンズと投影レンズの間にあるレンズ。励磁電流を調整して中間レンズの焦点距離を変えて、対物レンズによって作られる回折図形またはTEM像に焦点を合わせて、それらを拡大し投影レンズの物面にそれらの像を作る。通常、中間レンズは3段構成で、1段目は主に焦点合わせに、2段目は像の拡大に、3段目は主に無回転像を作るために使われる。中間レンズの倍率は~0.5~100倍。倍率100倍のときの内訳は1段目 4~5倍、2段目 ~10倍、3段目 2~3倍。

超高分解能用ポールピース

ultra-high-resolution polepiece

ホルダの傾斜角を±(20°~25°)に抑えた高分解能用のポールピースでは加速電圧200kVに対してCs=0.5mm、Cc=1.0mmが得られており、電顕像の空間分解能は0.19nmである。高空間分解能像観察用はじめnmオーダーの微小領域の分析用に使われている。このポールピースでは対物絞りは、ホルダの傾斜角を制限しないように、下極の下に入れる。その場合、回折図形が絞りより上方にできる。そのために、絞りで一つの回折斑点だけを選ぶことが困難になり、正しい明視野、暗視野像が得られない場合がある。一つの回折斑点を選んで正しい明視野、暗視野を得る場合にはギャップ内に特別な絞りを挿入する。

電圧軸

accelerating (acceleration) voltage center

高圧ウォブラで加速電圧に変動を加えたとき電顕像が渦巻状に拡大縮小する。その拡大縮小の中心をいう。電圧軸の中心を二段偏向系を使って像観察用の蛍光板の中心に合わせることを電圧軸合わせという。高圧の変動は小さいので(10-6以下)、高圧変動を対象とした調整というより試料による非弾性散乱(プラズモン散乱)を対象とした調整といえる。10万倍以下の中倍率の像の場合に必要な軸合わせ。

電子軌道

electron trajectory

電子を負の電荷を持つ質点とみなし、その電荷の電磁場中での運動の経路。

電子光学

electron optics

電磁場中の電子の軌道を、幾何光学における光線と対比させて考察する学問。

電子光学系

electron optical system
(EOS)

電子ビームに対して拡大、縮小、エネルギー分散などを行う電磁レンズ、静電レンズ、偏向コイルなどの基本素子を組み合わせた装置。

電子線バイプリズム

electron biprism

電子線ホログラフィーの第1段階で電子線ホログラムを得るために用いられる電子波の干渉計。細い糸状の電極を中心に(電子線と垂直に)置き、その両側に(電子線と平行に)配置した平行平板状の接地電極からなり、透過電子顕微鏡の対物レンズの下に置かれる。糸状の電極には正の電圧を印加し、その一方の側を物体を透過した散乱波(物体波)が通るようにし、他方の側を光源から直接やってくる波(参照波)が通るように設置する。二つの波は正電極に引き寄せるように偏向させられ重なることによって干渉縞を形成する。この干渉縞の中に物体による振幅と位相変化の情報が含まれている。

電子レンズ

electron lens

光学レンズが光束に対して作用するのと同様に、電子束に対して集束作用をするレンズを電子レンズという。磁界形と電界形があり、前者を電磁レンズ、後者を静電レンズという。

電磁レンズ

electromagnetic lens

磁場により電子線を集束させるレンズ。コイルを巻いたソレノイド磁石に電流を流すことによって発生する磁場により電子線を曲げる。コイルへの電流を変えると発生する磁場が変わり、焦点距離や倍率が変わる。

電流軸

objective current center

対物レンズの励磁電流に変動を与えたとき電顕像が渦巻状に拡大縮小する。その拡大縮小の中心をいう。電流軸の中心を二段偏向系を使って像観察用の蛍光板の中心に合わせることを電流軸合わせという。対物レンズの電流変動は小さいので、普通は電圧軸合わせを行って電流軸合わせは行わない。

投影レンズ

projector (projection) lens

結像レンズ系の最終レンズ。中間レンズで拡大された像をさらに拡大し、蛍光板あるいは検出器上に結像する。倍率は固定で~150倍。

倒立像

inverted image

上下、左右がひっくり返った、すなわち180°回転した像。

取り込み角

acceptance angle

TEM像、EELSスペクトル、EDSスペクトルなどを得るとき、試料から出射する電子、X線などを、対物絞りや検出器で取り込む角度のこと。

二段偏向系

double-deflection system

二組の偏向コイルが上下対になっている系。第2コンデンサーレンズと対物レンズの間に置かれ、一段目のコイルで電子ビームを偏向し、二段目のコイルで偏向したビームを振り戻す。電圧軸合わせ、対物レンズの球面収差によるボケのない暗視野像を得るとき、STEM像を得るとき、ホローコーン照射をするときなどに使われる。

入射角

incidence angle

試料面の法線と入射電子線のなす角度。HREM像の観察では、電子線の入射方向を結晶の晶帯軸に高い精度で合わせることが必要である。

ハイコントラスト用ポールピース

high-contrast polepiece

超高分解能用および多目的用ポールピースでは、レンズの励磁が強いために焦点距離が短くなり、回折図形は対物絞りよりも上方にできる。そのために対物絞りによってひとつの反射からの暗視野が撮りにくく、まわりの反射の影響を受けやすいという欠点がある。この欠点を改善するため、ポールピースのギャップを大きくするなどして対物レンズが作る磁界を少し弱くすることによって焦点距離を長くするとともにギャップ内に対物絞りを配置し、対物絞り上に回折図形ができるようにして、正しい明視野像、暗視野像を得られるようにしたポールピースをハイコントラスト用ポールピースという。加速電圧200kVでCs=3.3mm、Cc=3.0mmが得られており、電顕像の空間分解能は0.31nmである。ホルダの傾斜角を±(30°~35°)までとることが可能。医学生物分野用に広く採用されているとともに、材料科学分野向けとしても明視野、暗視野を用いた材料の組織観察用に使われる。

八極子

octupole (octopole)

光軸に対して対称に置かれた8個の電磁コイルからなり、対物レンズの球面収差補正に用いられる素子。

波面収差

wave aberration

収差のない理想結像(ガウス結像)における波面Wと実際の結像の場合の波面Sとのずれを波面収差という。もう少し正確には、幾何光学的に考えた電子軌道に沿って測った波面Wから波面Sまでの光路差を言う。高分解能像の解釈で扱われる波面収差は通常、軸上収差(球面収差と寄生収差)に由来する収差である。

バイプリズム

biprism

ヒステリシス(履歴現象)

hysteresis

系の状態がそれまで系がたどってきた経過に依存し、物理的効果がその原因に対して遅れて現れる現象。電子顕微鏡のユーザーが感知するのはレンズ系のヒステリシスである。照射レンズ系はプローブサイズを頻繁に変えるので、可変したときの位置の再現性は電顕の操作性の良し悪しに関係する。また、中間レンズのヒステリシスによる倍率の誤差は、使用モードによって異なるが、5~10%である。対物、投影レンズは殆ど固定で使うので、ヒステリシスは問題にならない。

非点隔差

astigmatic difference

対物レンズの非点(軸上)収差をあらわす尺度。直交する二方向での焦点距離の差。対物レンズの非点隔差は1.5μm以下に抑えられている。

非点収差(軸上)

axial astigmatism

電磁レンズ(対物)が完全な軸対称性を持たないことに起因して円状の光源の像が楕円になる収差。この収差はレンズのポールピースの孔の非対称(真円でない)、材質の磁気的不均質、絞り等への帯電などによって生じる。

非点収差(軸外)および像面湾曲収差

off-axial astigmatism and curvature of image field

光軸から一定の距離だけ離れた物面の円周上から出射した円環状の電子線がレンズを通ったあと、像面で真円にならず、楕円状になってしまう収差を軸外非点収差という。レンズの光軸を含む面(タンジェンシャル平面)内の光線に対してはレンズの曲率が屈折率を与える。しかし、それに垂直で光軸を含まない面(サジッタル平面)内の光線に対してはレンズの曲率が異なるために起こる。像面が平面からずれて曲面になる収差を像面湾曲収差という。光軸外の物点からレンズの主点(レンズの中心)までの距離は、光軸上の物点からの距離より長いため、主点から像までの距離は、軸上光線のそれより短くなる。その結果、物点が光軸から離れるにつれて、その像点がガウス平面からずれて像面は曲面になる。非点収差があると像面の湾曲の大きさはタンジェンシャル方向とサジッタル方向で異なる。

非点収差(軸上)補正装置

stigmator

軸上非点収差を補正するために対物レンズの下に挿入される補正装置。四極一対の電磁コイル(四極子)によって補正できるが、実際には操作のし易さのために二組の四極子を用いている。

開き角

divergence angle

電子線の拡がりを半角で表わしたもの。試料への電子線照射の開き角は、対物レンズの励磁が固定で使われることが多いので、第2コンデンサーとコンデンサーミニレンズの励磁およびコンデンサー絞りの径によって決まる。

偏向コイル

deflection coil

電子ビームを偏向させるための磁界を作るコイル。

ホローコーン照射

hollow-cone beam illumination

電子線を光軸に対して1段目の偏向コイルである角度傾斜させ、2段目の偏向コイルで試料の同じ場所を照射するように振り戻し、さらに電子線を光軸に対して回転させながら試料に照射する照射法。明視野、暗視野に現れる回折コントラストを消すためや、収束電子回折で強いZOLZ反射の強度なしにHOLZ反射の作る対称性を観察するのに使われる。

ポールピース

polepiece

電磁石が発生する磁束をヨークを通し、狭い空間に強い磁場を発生させるために使われる軟磁性材料(純鉄、パーメンジュール)の磁極をポールピースという。各レンズのポールピースの上極と下極間に回転対称の強い磁場を発生させて電子線を集束させる。対物レンズのポールピースは用途により幾つかの種類があり、高分解能観察のために試料に強い磁場を与える超高分解能用ポールピース、試料を大きな角度で傾斜できる多目的用ポールピース、像のコントラストを高めるためのハイコントラスト用ポールピースがある。

無回転像

rotation-free image

倍率を変えても像が回転していかない像のこと。像の回転によって、観察したい場所が動き観察に不便なことと回折図形(倍率ゼロ)と像との方位関係がなくなることの両方を防ぐために、像の回転がないようにあるいは最小になるように3段中間レンズ系の最終段のレンズによって、上の2段で作られる像の回転を補正する。3段目の励磁を変えると倍率も変わるので、2段目の励磁も変える必要が生じる。適正な励磁の組み合わせがテーブル化されている。

4回非点収差

four-fold astigmatism

3次の軸上幾何収差の一つで4回対称の寄生収差(波面収差の次数では4次)。4回非点収差が残留する場合、ロンチグラム図形に4回対称のパターンが現れる。球面収差補正装置を搭載した場合には、一般的には観察前に収差測定を行い、補正装置内の偏向素子を用いた自動収差補正機能によって各種の収差(4回非点収差も含まれる)が補正されるようになっている。
4回非点収差は八極子場から発生させることが可能である。八極子を用いた収差補正装置では、4回非点収差が補正対象である対物レンズの3次球面収差と同次であることを利用して、対物レンズの球面収差補正を行っている。

四極子

quadrupole

光軸に対して対称に置かれた4個の電磁コイルからなり、直交する2方向の焦点距離を変えることにより対物レンズの軸上非点収差を補正する素子。

ヨーク

yoke

励磁コイルを鉄などの強磁性体で包み、コイルで作られる磁束を有効に磁極片へ導く役目をする鉄被のこと。

励磁電流

excitation current

磁場を発生させるためにレンズのコイルに流す電流のこと。レンズの倍率や焦点距離を変えるために励磁電流が変えられる。励磁電流の変動は色収差を引き起こす。

6回非点収差

six-fold astigmatism

5次の軸上寄生収差の1つで6回対称性を持つ。(単に非点収差と呼ばれることが多い2回非点収差は2回対称性を持つ。) 現在主流となっている2段3回場型の収差補正装置の場合、2つの3回場から生じる二つの収差のコンビネーションによって6回非点収差が発生する。3次の球面収差に加えて4次までの寄生収差および5次球面収差が補正された後、残留収差の中で最も支配的な収差は6回非点収差である。2段3回場型収差装置では6回非点収差によって収差補正範囲が制限されている。この収差補正装置を照射系に搭載し、6回非点収差が残留している場合、ロンチグラムは6角形に囲まれて見える。 このような6回非点収差を補正する収差補正装置が開発されている。3段の12極子で、それぞれの3回場から発生する収差のコンビネーションによって生ずる6回非点収差を、3つの3回場を相対的に特定の角度に設定することによって、ベクトル和的にゼロにするように補正する装置がある。また、2段3回場型で6極子場の厚みを最適化して、転送レンズと3回場で発生する反対符号の6回非点収差を利用して補正する装置がある。

六極子

hexapole (sextupole)

光軸に対して対称に置かれた6個の電磁コイルからなり、対物レンズの球面収差補正に用いられる素子。

ローレンツ力

Lorentz force

電場と磁場の中を運動する電子に作用する力のこと。

歪曲収差

distortion

像が物体と相似な形にならない収差。物面の正方形上の位置から出射した電子がレンズを通ったあと、糸巻き型(pin-cushion)または樽型(barrel)に結像される収差。この収差は像を歪ませるが、他の収差のように像のボケを与えるものではない。電子顕微鏡では投影レンズで問題になる。昔の電子顕微鏡では中間レンズと投影レンズの励磁を同程度にして中間レンズによる樽型歪を投影レンズの糸巻型歪で打ち消すという方法(distortion free)が取られていた。近年の電子顕微鏡では投影レンズを強励磁に固定して使用し中間レンズを可変するためにこの歪の打消しは行われていない。実際には投影レンズから観察面までの距離が大きいので像の歪曲は目立たない。