• 概要

日本電子 news Vol.46 No.9 蜂谷 健一
株式会社JEOL RESONANCE 

はじめに

 近年、研究分野におけるNMR測定手法は、非常に多岐にわたる発展を続けている。NMR装置には、対象とする試料特性や応用目的に応じて、より複雑かつ高精度なRF制御によるパルスシーケンスの実現が要求されている。一方で、品質管理・簡易分析分野におけるNMR測定の需要拡大は目覚ましく、より簡便な装置としての要望も広がっている。
 従来のNMR装置では、デジタル回路技術の応用が進歩しつつも、比較的大掛かりなものになりがちなアナログ回路技術が、依然として多用されていた。近年の多様化する要求に幅広く応え、今後のNMR測定のさらなる進展を支えるためには、より高機能・高性能・高拡張性を有するシステムでありながら、より汎用性を兼ね備えた次世代のNMR装置が待望される。
 そこで弊社は、JNM-ECAII/ECXII/ECSシリーズのシステムアーキテクチャーの長所を踏襲しつつ、最先端のデジタルテクノロジーを融合することによって、シリーズ後継となる新型NMR装置JNM-ECZシリーズを開発した(※)。ここでは、シリーズ究極の進化を遂げたECZシリーズ分光計(NMR spectrometer ZETA)の特徴について、主にハードウェアの側面から紹介する。

ECZシリーズ分光計 (NMR Spectrometer ZETA)

 ECZシリーズ分光計は、新技術STS(Smart Transceiver System)を搭載し、ECAII/ECXII/ECSシリーズ分光計を遥かに凌ぐ高精度デジタルRF機能・性能を実現している。また、1.2GHz以上の超高周波数や将来的な応用測定に、高い自由度で対応するための基本設計を備えている。外観は、高質感のある黒を基調に、先端的でシャープなデザインとなっている。
 ECZシリーズ分光計は、内蔵された分光計制御コンピューターによって制御され、分光計制御コンピューターは、Ethernet接続された分光計外部のホストPCから制御される。直接的なユーザーインターフェイスを提供するのはホストPCであるが、分光計制御コンピューターはスタンドアローンで動作可能である。これにより、ホストPCとの通信に障害等が生じても、測定中断やデータ消失の危険性を回避する。また、ECAII/ECXII/ECSシリーズ分光計と比較して、大容量化されたメモリーおよびハードディスクを搭載しており、パルスプログラムや測定データの管理面においても、高い信頼性と堅牢性を誇っている。

2つのZ (ECZR/ECZSシリーズ分光計)

 ECZシリーズ分光計は以下の2機種に大別され、それぞれが用途に応じてカスタマイズされた特徴を有する。

ECZRシリーズ分光計 (Fig. 1)

 主にECAII/ECXIIシリーズ分光計の後継機種に相当し、様々なNMR測定に対応するため、より高い自由度の拡張性を追求したハイエンドモデル。ECXIIシリーズ分光計よりも小型でありながら、ECAIIシリーズ分光計よりも高い拡張性を備えており、圧倒的なパフォーマンスを実現している。
Fig. 1 ECZRシリーズ分光計外観イメージ(JNM-ECZ500Rの例)
【Fig.1 ECZRシリーズ分光計外観イメージ(JNM-ECZ500Rの例)】
 

ECZSシリーズ分光計(Fig. 2)

 主にECSシリーズ分光計の後継機種に相当し、ECZRシリーズ分光計の基本機能・性能を備えつつも、より小型・汎用性を追求したエントリーモデル。その分光計主筐体は、ECSシリーズ分光計の半分以下という驚異的なサイズダウンを実現している。
Fig.2 ECZSシリーズ分光計外観イメー ジ(JNM-ECZ400Sの例)
【Fig.2 ECZSシリーズ分光計外観イメー ジ(JNM-ECZ400Sの例)】
 

STS (Smart Transceiver System)

 ECZシリーズ分光計は、ECAII/ECXII/ECSシリーズ分光計のシステムアーキテクチャーを継承進化させ、最先端のデジタルテクノロジーによって開発された新技術STSを搭載している。STSは、小型ロジックデバイスに集中実装された高速デジタル回路によって、高精度RF制御技術の構築を可能にしている。これにより、STSを用いたRF送受信系は、そのデジタル機能・性能を飛躍的に向上させると共に、従来NMR装置の基本機能を1ボードに集約するという劇的な小型化を遂げている (Fig. 3)。
Fig.3 新技術STSによるRF送受信系の小型化
【Fig.3 新技術STSによるRF送受信系の小型化】
 

マルチシーケンサー制御

 RF送受信系の各DDS (Direct Digital Synthesizer)は、それぞれのスレーブシーケンサーによって個別に高速制御され、各スレーブシーケンサーの個別制御は、マスターシーケンサーによって統括管理される。これにより、複雑かつ自由度の高いRF制御を可能にし、多様なパルスシーケンスの生成を実現している。特にECZRシリーズ分光計においては、ECAIIシリーズ分光計の3倍以上に相当する30以上もの膨大なシーケンサーを制御可能であり、将来予想されるあらゆる測定手法へ対応可能になる。
 

高精度デジタル制御

 シーケンサーによるデジタルRFの周波数・位相・強度変調の制御時間分解能はわずか5nsにまで達し、最小5nsの変調時間幅を制御することが可能である。これはECAIIシリーズ分光計の10~20倍以上の実効性能に相当し、各変調の制御においても、それに準じた性能向上が図られている(Fig. 4)。これにより、現在多用されているadiabatic pulse等、位相・強度変調パルスの精度を一段と向上させている。また、近年の固体NMRに見られる超高速変調を伴う測定に対応するため、ゲート信号や外部入出力トリガー信号においても、同様の制御性能を備えている。
Fig.4 変調制御によるRF波形
【Fig.4 変調制御によるRF波形】
 

 デジタルRF制御

 RF発振系には、従来のRF発振・送信機能が高密度に集約されている。RF送信チャンネルあたり、最大で4つの異なる周波数ソースをデジタル混合出力することが可能である。また、その周波数可変域を大幅に拡大したことによって、ECAII/ECXII/ECSシリーズ分光計において拡張構成を要した簡易型三重共鳴等の測定に、標準構成で対応可能となっている。RF検波系には、RF発振系と同様のシーケンサー制御が搭載されている。これにより、RF発振系と同期的または非同期的にダイナミックな周波数・位相変調を可能とし、近年さらに重要度を増している最先端固体NMR測定等への応用が期待される。また、DQD (Digital Quadrature Detection)によって、QDイメージやDCノイズのアーティファクトが観測されず、NMRスペクトルの解析をより一層効率的なものにしている。
 

アナログRF制御

 RF送 受 信 系で は、800Mspsの 高 速D/A (Digital to Analog) 変 換 および100Mspsの高 速A/D (Analog to Digital)変換によって、スーパーヘテロダインによるアンダーサンプリング技術とダイレクトコンバージョンによるオーバーサンプリング技術のハイブリッド方式を実現している。これにより、最適化されたフィルタリング機構と連動して、RFに応じた送受信の効率化を図っている。
 

PFG制御・デジタルロック制御

 PFG (Pulsed Field Gradient)制御やロック制御にもSTSが応用されており、RF発振・検波と同様のデジタル制御性能を有している。特に、ロックフィードバック機構のデジタル制御技術によって、より高精度・高自由度のロック制御動作を可能にしている。これにより、装置や試料の環境に応じた磁場補正動作を提供すると共に、ロック送受信系を用いたRF変調を伴う応用測定の展開にも、対応可能な設計を備えている。
 

タッチパネルディスプレー(ヘッドアンプシャーシ)

 ヘッドアンプシャーシには、高磁場を発生させるための超伝導マグネットや、そこに設置される検出器であるプローブに関連する機能が備わっている。ヘッドアンプシャーシの上部には、5インチの大画面タッチパネルディスプレーが搭載されており、直観的なユーザーインターフェイスを提供する。プローブチューニング時には反射ディップや反射値(バー)を表示させ、冷媒補充時にはその残量を表示させることが可能である(Fig.5)。視覚的のみならず、その操作性からも、作業時のユーザビリティーを格段に向上させている。
Fig.5 ヘッドアンプシャーシのタッチパネルディスプレー
【Fig.5 ヘッドアンプシャーシのタッチパネルディスプレー】
 

おわりに

 新型NMR装置JNM-ECZシリーズ分光計は、その高い機能・性能・拡張性・汎用性を支える基本設計に留まらず、将来的なNMR測定の発展を見据え、それに高い自由度で応えるための極めて高いポテンシャルを備えている。様々な分野での幅広い要求に応え、世界の先端的な研究から汎用的な分析にわたり、その一助となることを期待する。

※注意 本稿は開発中の内容を含むため、製品仕様等においては、予告なく一部変更される可能性があります。予めご了承ください。

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