固体13C化学シフトと13C T1ρ緩和時間を利用したビニルエステル樹脂の微視的構造情報の取得

  • 概要

NM140006

電気機器における絶縁·固着部材として用いられるビニルエステル樹脂は高い耐熱性が求められ、その向上に向けて重合反応の改良が試みられています。ビニルエステル樹脂はビニルエステルモノマー(VE) およびスチレンモノマー(ST)の混合物に、重合開始剤を加えることで得られますが、従来の開始剤であるAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)やDBPC(1,1-ジ(t -ブチルペルオキシ)シクロヘキサン)に代えて、アルキルボランDEMB(ジエチルメトキシボラン)を用いたリビングラジカル重合法を用いることで、耐熱性が向上することが見出されました。[1] ここで耐熱性の評価として、熱重量減少温度測定などの巨視的な物性評価が報告されていますが、微視的構造情報の取得は現象の理解およびさらなる改良に重要な役割を果たすと考えられます。以下では、異なる重合開始剤を用いて生成したビニルエステル樹脂の微視的構造の違いを、13C NMRを用いて調べた研究を紹介します。[2]
下図に開始剤をDBPCとして生成したビニルエステル樹脂DBPC-VEST、開始剤をDEMBとして生成したビニルエステル樹脂DEMB-VESTに対する13C CPMAS固体高分解能NMRスペクトルを示します。
DBPC-VEST、 DEMB-VESTともにほぼすべての13C共鳴線が硬化物の推定構造の炭素核に帰属されます。

13C CPMAS spectra
13C CPMAS spectra

その一方でDBPC-VESTでは、DEMB-VESTにおいて検出されたピークに加え、3種類のピーク(I、II、III)が検出されています。これらのピークは、DBPCの分解反応(I)、不均化反応(II)、重合付加反応(III)に由来する生成物のピークであると考えられます。[2] 特に不均化反応(II)に関しては、DEMBを用いて硬化した樹脂の方がDBPCを用いて硬化した樹脂よりも熱重量減少温度が高い[1] ことから、反応由来の末端二重結合がDEMB-VESTで少なくなっていることがスペクトルに現れています。

物質の硬さなどを反映する微視的パラメータである13C T(回転系における縦緩和時間)を測定した結果を右の表にまとめます。[2] 表より、DBPC > AIBN > DEMBの順におおむね13C Tが著しく減少していることが分かります。
一般に13C Tは照射したスピンロックRF磁場強度(ここでは30 kHz)程度の速さの微視的分子運動が多く存在すれば、速やかに緩和が起こり、 その値が小さくなります。表より、DEMB-VESTにおいて、この程度の遅い運動がより頻繁に発生していると言えます。
また、Tは微視的構造の情報として架橋密度と相関を持っています。すなわち、架橋密度が高いほどT (やT2)は短くなります。[3] 上の表はDBPC < AIBN < DEMBの順に架橋密度が高くなっていることを示唆し、ガラス状態からゴム状態への転移温度(ガラス転移温度)がこの順に高く、またゴム状態での貯蔵弾性率も高いとした物性評価の結果[1] と一致しています。このようにNMRは巨視的な物性評価と整合性のある結果を示します。

炭素# 化学シフト
(ppm)
T (13C) (ms)
DBPC-VEST AIBN-VEST DEMB-VEST
a 178.0 11.5 30.4 10.2
b 157.1 58.1 29.1 11.5
c 144.4 31.8 21.9 8.2
d 128.1 8.5 6.4 1.6
e 114.7 - 5.1 2.4
f 68.7 4.7 4.6 0.7
h 46.1 10.1 9.6 2.9
i 31.0 16.1 12.9 5.1
j 19.7 16.5 13.6 6.0

以上より、NMRは巨視的な測定で見出された物性が発現している原因を、微視的構造から解明する可能性があり、得られた知見はさらなる材料・物質開発にフィードバックするのに有効であると言えるでしょう。

※実験結果は株式会社日立製作所様および株式会社日立パワーソリューションズ様と協力して得られたものです。

参考文献

[1] 村木孝仁・天羽悟・師岡寿至・香川博之・相馬憲一, 「ネットワークポリマー」 34(4), 178-184 (2013).
[2] 梶原ゆり・村木孝仁,「 ネットワークポリマー」 35(4), 161-166 (2014).
[3] 福森健三,「 豊田中央研究所R&Dレビュー」 28(2), 11-22 (1993).

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