NMR代謝プロファイリングなどにおける混合物の1Hスペクトルの単純化 ~二次元J分解分光スペクトルの投影の利用~

  • 概要

NM170014

はじめに

NMR代謝プロファイリングなどの混合物を対象とした1Hスペクトルでは信号のオーバーラップがしばしば解析を困難にします。この問題の解決策としては、より高磁場の装置の利用が挙げられます。しかしながら、高磁場NMR装置の導入や利用は容易ではありません。本資料では、二次元J分解分光スペクトルの投影を利用することで一般的なNMRでも、信号のオーバーラップが少ないスペクトルを得る方法を紹介します。

二次元J分解分光スペクトルの投影におけるスペクトルの単純化 [1,2]

同種核二次元J分解分光法では、二次元展開において化学シフトをリフォーカスし、スピン結合の展開をエンコードします。したがって、Figure 1(a)に示すように、スピン結合を除いた化学シフト(pure shift) を中心に、スピン結合によって45°に傾いて分裂した二次元スペクトルが得られます。そのため、スペクトルを45°傾けることで(tilt処理: 45 deg.) Figure 2(b)に示すようにスピン結合による分裂がpure shiftに並んだ二次元スペクトルが得られます。そのx軸の投影(あるいは総和)は、スピン結合による分裂がない擬似pure shiftスペクトルとなります(Figure 1(c) 上段)。通常の1Hスペクトルと比較してスペクトルが単純化されていることが確認できます。

二次元J分解分光スペクトルの投影におけるスペクトルの単純化
Figure1 二次元J分解分光スペクトルの投影におけるスペクトルの単純化の概要図。(a) 二次元J分解分光法では、スピン結合による信号の分裂が45°に並んだ二次元スペクトルが得られる。(b) データ処理において45°傾ける (tilt処理) ことによってスピン結合による信号の分裂がx軸方向に重なった二次元スペクトルが得られる。(c) tilt処理した二次元J分解分光スペクトルの投影は、スピン結合による分裂がない擬似pure shiftスペクトルとなり、通常の1Hスペクトルと比較してスペクトルがシンプルになる。

ストロングカップリング由来の不要信号の抑制

複雑な1Hスペクトルにおいてオーバーラップの主要な原因となるのは、スピン結合定数による信号の分裂です。したがって、400 MHzなどの一般的な装置であっても、二次元J分解分光スペクトルの投影を用いることで高磁場の装置と同様なシンプルなスペクトルを得ることができます。しかしながら、二次元J分解分光法では、ストロングカップリング由来の不要信号が生じてしまい、低磁場の装置ほどストロングカップリングの影響を受けやすいという欠点があります。
弊社アプリケーションノート "J分解分光法における不要信号の低減" (NM050018)[3]でご紹介したように、Double Spin-Echo法[4]などの二次元J分解分光法では、ストロングカップリング由来の不要信号を抑制することができます。

ブロッコリスプラウトから抽出した極性代謝産物の二次元J分解分光スペクトルの投影

植物は多様な代謝産物を有するため、植物を対象としたNMR代謝プロファイリングでは、信号のオーバーラップが激しい1Hスペクトルが得られます。本資料では、市販のブロッコリスプラウトから極性代謝産物を抽出し、抽出代謝産物群の通常の1Hスペクトルおよび1H同種核二次元J分解分光スペクトルを測定し、実試料におけるスペクトル単純化の効果を示します。すべてのスペクトルは、標準的な装置構成 (JNM-ECZ400S分光計およびROYALプローブ) を用いて二次元J分解分光スペクトルはDouble Spin-Echo法を用いて測定されました。
Figure2にブロッコリスプラウト抽出代謝産物群の通常の1Hスペクトルおよび二次元J分解分光スペクトルの投影を示します。Figure2(a)および(b)は、それぞれブロッコリスプラウトの二次元J分解分光スペクトルの投影および通常の1Hスペクトルです。代謝産物混合物の1Hスペクトルでは数多くの代謝産物が同時に検出される為、信号のオーバーラップが顕著に見られます。二次元J分解分光スペクトルの投影を用いることで、比較的シンプルなスペクトルを得ることができました。例として、高磁場側の信号を拡大窓で示します。この領域では、valineとisoleucineのメチル水素が混在していますが二次元J分解分光スペクトルの投影を用いることでより明瞭な信号を得ることができました。
二次元J分解分光スペクトルの相関信号を用いることで代謝産物の帰属をおこなうことが可能です[5]。また、二次元J分解分光スペクトルの投影を用いた代謝プロファイリングの例は、弊社アプリケーションノート"仮説なしの多変量解析によるNMRメタボロームデータの要約"[6] をご参照ください。

二次元J分解分光スペクトルの投影におけるスペクトルの単純化
Figure2 ブロッコリスプラウト抽出ブロッコリスプラウト抽出代謝産物群の通常の1Hスペクトルおよび二次元J分解分光スペクトルの投影の比較。(a)二次元J分解分光スペクトルの投影 (Double Spin-Echo法)。(b) 1H シングルパルススペクトル。

参考文献

  • Ludwig; C., Viant; M., Phytochem. Anal., 21 (2010) 22-32
  • 弊社2010年ユーザーズミーティング資料、"複雑なスペクトルをシンプルにする"
  • 弊社アプリケーションノート"J分解分光法における不要信号の低減"(NM050018)
  • Thrippleton; M. J., Edden; R. A. E., Keeler; J., J. Magn. Reson., 174 (2005) 97
  • Kikuchi; J. et al., Anal. Chem., 88 (2016) 659
  • 弊社アプリケーションノート"仮説なしの多変量解析によるNMRメタボロームデータの要約"(NM170013)
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