Gas Analysis Application: 軽水と重水の気相におけるH/D交換反応のリアルタイムモニタリング

  • 概要

MS240

はじめに

多重周回飛行時間質量分析計(Multi-turn TOFMS)であるJMS-MT3010HRGAは、以下の特長を持つ。

  • 水素原子(H)や水素分子(H2)のような低分子を測定可能
  • 一酸化炭素(CO)と窒素(N2)のように近接した質量をもつ分子種の質量分離が可能
  • 高いm/z 軸安定性(Fluctuation < 100 ppm/hour)、高感度、高質量精度をもつ
  • 長時間測定が可能
  • 持ち運び可能な装置サイズ

このMT3010HRGAの特長を利用した応用例として、化学反応のリアルタイムモニタリングが挙げられる。
本稿では、化学反応のモデル系として軽水(H2O)と重水(D2O)のH/D交換反応を取り上げ、その反応の様子のモニタリングを試みた例を報告する。

測定方法

実験系の概略図をFig.1に示す。ガスクロマトグラフ(GC)と質量分析計(MS)の間に22mLのバイアル瓶を設け、その間を不活性キャピラリーチューブで繋いだ。不活性キャピラリーチューブの長さと内径は、それぞれ GC - バイアル瓶間が 3m x 0.25mm, バイアル瓶 - MS 間が 30cmx 0.1mmである。GCの注入口からは、1mL/min に流量制御されたHeガスを導入している。H2OおよびD2OはH2OおよびD2Oの順番にそれぞれ1μLずつ1分間の時間差を設けてGC注入口へ導入した。GC注入口に導入されたH2O及びD2Oは注入口の熱により気化した後、順次バイアル瓶に導入される。H2O導入直後はH2Oのみがバイアル瓶を経由してMSに導入されるが、D2O導入後はH2OとD2Oがバイアル瓶内で混合されるため、その混合気体がMSに導入されることになる。
なお、マススペクトルは、低電圧EI法(設定値 15eV)、150ターン(分解能 約 30,000 @ m/z 18)に設定して取得した。

装置 JMS-MT3010HRGA INFITOF (JEOL Ltd.)
イオン化法 EI
イオン化エネルギー 15 eV
質量分解能 R ≧ 30,000 (m/z 18)
サイクルタイム 1000 ms/spectrum
Experimental system

Fig.1 Experimental system

Extracted ion chromatogram.

Fig.2 Extracted ion chromatogram.

Fig.3 H/D exchange mass spectra - Left: After H2O injection; Right: After D2O injection.

結果と考察

Fig.2には、本実験系から観測されることが予想される9つの化学種の抽出イオンクロマトグラムを示した。測定は H2O注入直後から1時間継続した。
D2O注入直後、D2O+・と、H/D交換反応生成物と考えられる HDO+・がほぼ同時に検出されていることから H/D交換反応はD2Oの導入直後に瞬時に進行していることが示唆された。
Fig.3にはH2Oのみを注入した直後に得られたマススペクトル(左)と、その後、D2O を注入した後に得られたマススペクトル(右)を示した。
H2O注入直後に得られたマススペクトルでは、H2O+・とH3O+が高い強度で観測されている。一方、D2O注入直後、つまりH2OとD2Oが混合された後に得られたマススペクトルでは、HDO+・やH2DO+などH/D反応に由来する化学種が観測されている。また、HDO+・とH3O+、D2O+・とH2DO+はいずれも0.0015Uと言う微小な質量数差にもかかわらず明確に質量分離されて検出された。

今回、JMS-MT3010HRGA INFITOFを用いることにより、その高い質量分解能と高い質量精度によりHDO/H3OやD2O/H2DOを明確に質量分離し検出することができた。また、その精密質量数から化学種を同定することも可能であった。このことから、JMS-MT3010HRGA INFITOFはH2O/D2Oの存在比のモニタリングなどに利用可能と言える。

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