Gas Analysis Application: 多重周回質量分析計を使用した燃焼生成物のリアルタイムモニタリング

  • 概要

MS241

はじめに

JMS-MT3010HRGA INFITOF は多重周回イオン光学系を採用し、小型でありながら高分解能を実現した飛行時間型質量分析計(TOF-MS)である。多重周回イオン光学系では、イオンの飛行距離(周回数)を変更することにより、任意に質量分解能を設定することが可能となる。例えば、低質量分解能条件では質量分離が困難な CO+(m/z 27.9949) と N2+(m/z 28.0062) であっても、周回数を多く設定しイオンの飛行距離を長くすることにより高分解能条件下で質量分離することが可能となる。

これらのことから、JMS-MT3010HRGA INFITOF は、酸化燃焼ガス中の含有物質を、高質量分解能状態でリアルタイムにモニタリングするような用途に利用可能であると考えられる。そこで、本アプリケーションノートでは、メタノールを燃料とする「炎」の中に含まれているガス成分を、小型・高質量分解能 TOF-MS、JMS-MT3010HRGA INFITOF を用いてリアルタイムモニタリングすることを試みたので、その結果について報告する。

測定方法

メタノールを原料として使用する市販の「アルコールランプ」の「炎」を実験系として利用した。Fig. 1に示したように、不活性処理されたフューズドシリカ・キャピラリーチューブ(長さ 50cm、内径 0.1mm)の一端をインターフェイスを解して JMS-MT3010HRGA INFITOF に接続し、チューブの逆側の先端を直接メタノールの炎の中に導入することにより、燃焼ガスを直接質量分析計内部に吸引することで測定を行った。

装置 JMS-MT3010HRGA (JEOL Ltd.)
イオン化法 EI
イオン化エネルギー 70 eV
質量分解能 R ≧ 5000(m/z 28)
サイクルタイム 500 ms/spectrum
Experimental system (JMS-MT3010HRGA and alcohol lamp)

Fig.1 Experimental system (JMS-MT3010HRGA and alcohol lamp)

結果

着火前後に取得したマススペクトルをFig.2に示す。
燃芯の近傍にキャピラリーを設置した事により、着火前には大気成分である窒素 (N2)、酸素 (O2)、アルゴン (Ar) の他に気化したメタノール(CH3OH) が検出された。
O2+・と CH3OH+・は同じ整数質量(O2+・: 31.9898、CH3OH+・: 32.0262)をもつが、高い質量分解能により完全に質量分離でき、それぞれのピークをモニタリングできた。
着火直後、酸素とメタノールのピーク強度が減少し、着火前にはほとんど検出されていなかった水 (H2O) や二酸化炭素 (CO2) のピーク強度が徐々に高くなる様子がリアルタイムに確認できた。

Behaviors of H2O(m/z 18),O2 (m/z 32) and CO2(m/z 44) in the combustion process.

Fig.2 Behaviors of H2O(m/z 18), O2(m/z 32) and CO2(m/z 44) in the combustion process.

着火前後の燃芯周辺のガス成分を詳細に解析するため、Fig.2 に示したマススペクトルのうち微小ピークを部分拡大したマススペクトルをFig.3 に示す。図中の組成式は精密質量から計算した推定結果を示した。
燃焼中には H2O+・や CO2+・の他に、水素分子 (H2+・) や一酸化炭素 (CO+・) 、そして一酸化窒素 (NO+・) が検出された。これらガス成分は燃焼前には検出されていなかったため、燃焼による生成物だと考えられる。
 また、燃焼によって大幅に減少した O2+・ピークも微小ながら確認でき、燃芯近傍の火炎中に O2+・の存在が示唆された。さらに、着火前にも確認された N2+・についても燃芯近傍の火炎中に存在することが示唆された。これは CO+・とN2+・m/z 28と同一整数質量であるが、高分解能条件下で測定を行うことにより、各々を質量分離した形で個別に検出することができた。

Before combustion
During combustion
Mass spectra of out gases in before or during combustion.

Fig.3 Mass spectra of out gases in before or during combustion.

リアルタイムモニタリングの他に、燃焼生成物、燃焼過程、解明の一介助として、火炎の位置による化学種を詳細に解析しFig.4 に示す。
燃芯のすぐ近く付近のガスからは、微小ではあるが Hに由来するピークが検出された。また、このピーク強度は燃芯から遠ざかるにつれて弱くなった。同様の傾向はCO由来のピークについても観測された。これとは逆に、H2O 、O由来のピーク強度は燃芯からの距離が遠くなるに従い強度が大きくなる傾向であった。

Mass spectra by capillary position
Mass spectra by capillary position combustion.

Fig.4 Mass spectra by capillary position combustion.

まとめ

今回の結果から、JMS-MT3010HRGA INFITOF は高い質量分解能を維持しながら燃焼ガス組成のリアルタイムモニタリングに対して有効な装置であることがわかった。特に、同一整数質量数を有する N2 と CO 等を質量分離して連続的に検出するための高い質量分解能を維持したまま、低m/z 領域において H2 も同時に検出できることは、本装置の大きな特徴と言える。今回は「メタノール用アルコールランプ」と言う単純な系で実験を行ったが、今回の結果から、JMS-MT3010HRGA INFITOF は化石燃料やバイオ燃料の燃焼ガスの含有成分のリアルタイムモニタリングに対しても応用可能であると言える。

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