• 概要

日本電子news Vol.49 No.7 八幡 行記
日本電子株式会社 MS事業ユニット

JMS-MT3010HRGA INFITOFは、最新のイオン多重周回技術により、コンパクトでありながら高い質量分解能を実現した画期的な「ガス分析用高分解能TOF-MS」である。水素・アンモニア・触媒・燃焼・二次電池など、先端材料開発での発生ガス分析で最新ニーズに応えることができる製品である。

はじめに

JMS-MT3010HRGA INFITOFは、大阪大学が開発した"マルチターン飛行時間型質量分析計「MULTUM」"シリーズがベースであり、ESA(欧州宇宙機関)の「Rosetta-mission」で彗星探査機に搭載する目的で研究開発した技術を用いた製品である。
「Multi-turn-technology」や、「Perfect focusing-technology」などの画期的なイノベーションにより、コンパクト性と高質量分解能を両立した製品であり、本稿では装置の特徴とアプリケーション例を紹介する。

JMS-MT3010HRGA INFITOFの特徴

最新のイオン多重周回技術により、低質量領域でも高い質量分解能を実現した「ガス分析用高分解能 TOF-MS」であり、Fig. 1にその外観と特徴を示す。
一般にTOF-MSでは低分子になるほど質量分解能を得るのが難しい技術となるが、INFITOFは m/z 28で30,000(FWHM)以上の質量分解能が得られ、非常に測定が難しい水素ラジカルの検出も可能である。
Fig. 2は、低質量領域で測定する典型的な化合物を測定した例を示す。

Fig. 1 JMS-MT3010HRGA INFITOF外観と主な性能

  • コンパクト
    ⇒ 省スペース(デスクトップPC並み)
    ⇒ 簡単に移動可能(40 kg)
  • 高分解能
    ⇒ 最高分解能: 30,000以上(m/z 28)
    ⇒ HR-SIM(リアルタイムモニタリング)が可能
  • 水素検出が可能
    ⇒ 水素原子(m/z 1)が測定可能
基本性能
質量範囲 m/z 1~1,000
質量分解能 30,000(FWHM)以上 (m/z 28)
感度 大気中:38Ar(≒6 ppm) S/N ≧ 10
MS-MT3010HRGA INFITOF外観と主な性能
【JMS-MT3010HRGA INFITOF】

Fig. 2 低質量領域で測定する典型的な化合物の質量分離例

低質量領域で測定する典型的な化合物の質量分離例

水素(H/H2)・重水素(D2)・メタン(CH4)・アンモニア(NH3)・一酸化炭素(CO)・亜酸化窒素(N2O)など、殆どが高質量分解能を必要とする物質であるが、十分に質量分離することが可能である。
Fig. 3は、標準ガス(各10 ppm)を24時間連続測定した例を示した。測定の前半部分と後半部分のCO/N2の質量分離を見ることにより、質量分解能の安定性を確認した例である。
10 ppm程度のガスでも長時間安定して連続測定が可能であり、二次電池や化学反応炉などの発生ガスモニタリングに有用である。
Fig. 4は、火炎中の燃焼ガスの測定例である。メタノールランプの火炎中ガスを直接吸引して測定したところ、H2,H2O,CH4, CO, N2,CO2,NO,N2H,NO2などの燃焼化合物が検出され、O2は殆ど検出されなかった。
この様な測定は高質量分解能MSでしかできない特徴であり、燃焼反応の解析や、TG-MS・TPD-MSなどの加熱発生ガス分析装置として先端材料研究にも有用である。
Fig. 5は、重水(D2O)に軽水(H2O)を混合した時の同位体交換反応を簡易的に観測した例である。
オーブン内で気化させた状態のD2OとH2Oを混合した結果、H-D同位体交換反応によりHDO( m/z 19)の生成が観測された。高質量分解能により、m/z 19(HDO/H3O),m/z 20(D2O/H2DO)などの質量分離が可能なことから水の絶対組成の解析や挙動観察にも有用であり、原子力の安全に関する研究、触媒の反応、二次電池の機能解析などにも有用である。

Fig. 3 標準ガスによる安定度の測定例

標準ガスによる安定度の測定例

Fig. 4 メタノール火炎中の燃焼ガス

メタノール火炎中の燃焼ガス

Fig. 5 重水と軽水のHD交換反応の測定例

重水と軽水のHD交換反応の測定例

結論 (まとめ)

JMS-MT3010HRGA INFITOFは低質量領域でも高い質量分解能で測定出来る最新鋭の「ガス分析用高分解能TOF-MS」であり、材料発生ガスの観測や解析ツールとして有用である。さらに、水素の分析や反応の挙動観察も可能であり、水素・アンモニア・触媒・燃焼・二次電池などの次世代エネルギー分野の先端材料開発で最新ニーズに応えることができる製品である。

謝辞

本稿作成にあたり、軽水と重水のH-D反応データを測定して頂いたJEOL USA法人の奥田晃史氏に感謝いたします。

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