GAS Analysis Application: TG-HRMS SYSTEMを用いた鉄粉加熱時の放出ガス分析

  • 概要

MSTips No.276

はじめに

金属材料の熱的な挙動を解析するために、加熱に伴う試料の重量変化を測定する熱重量分析 (Thermogravimetry : TG)、試料と標準物質の間の温度変化を測定する示唆熱分析 (Differential Thermal analysis : DTA) などが用いられている。これらの測定の過程で生じる重量熱量変化などにともない、なんらかのガス種が発生することが一般的に知られおり、TGと質量分析計(MS)を接続したTG-MSシステムは、これら重量・熱量変化と発生ガスの双方を同時に測定することを実現するために考案された手法である。
ネッチ・ジャパン株式会社と日本電子株式会社は各々が販売する熱分析装置と質量分析計を組み合わせ、上述のTG-MSシステムを構築し、これまでいくつかのアプリケーションを協同で開発してきた。
本アプリケーションでは、熱分析装置として熱重量と示差熱を同時に測定することが可能なSTA F1 Jupiter®と、最新のイオン多重周回技術によりコンパクトでありながら高い質量分解能を実現したJMS-MT3010HRGAを組み合わせたシステムを用いて、鉄粉を疑似サンプルとして、その熱的挙動とそれに伴う発生ガスの挙動の検討を行ったのでその結果を報告する。

測定方法

TG-HRMS SYSTEM

MS JEOL製 JMS-MT3010HRGA
TG NETZSCH社製 TG/DSC (STA 449 F1 Jupiter®)
GC Agilent社製 7890B (恒温槽として使用)
試料 鉄 (粉末)
試料量 5.0g

各装置の測定条件をTable 1に示す。

TG-HRMS  SYSTEM

TG-HRMS SYSTEM

このシステム はネッチ・ジャパン株式会社とのコラボレーションにより実現いたしました。TG測定および処理データ提供 NETZSCH Japan K.K.

TG/DSC STA 449 F1 Jupiter®(NETZSCH)
Furnace temp. 200°C→20°C/min→1480°C
Transfer line temp. 300°C
Atmosphere gas flow He (100mL/min)
Split ratio 100:1
GC  7890B (Agilent )
Oven temp. 300°C
Column Capillary blank tube (metal)
5m x 0.32mm i.d.

Table 1. Measurement conditions

MS JMS-MT3010HRGA (JEOL)
Ion source temp. 300°C
Interface temp. 300°C
Ionization mode EI
Ionization current 50μA
Ionization Voltage 70eV
Detector Voltage -2700V
Measurement mode Extended
Resolution R≒5000
Scan range m/z 0.8~200

【高分解能MSスペクトル】

マススペクトル(質量分解能:R≒5,000)

Fig. 1 マススペクトル(質量分解能:R≒5,000)

結果

質量分解能をR≒5,000に設定したTG-HRMS SYSTEMを用いてHe雰囲気中で鉄粉を加熱測定した結果、得られたTG信号および観測されたガス種の抽出イオンクロマトグラム(EIC)をFig. 2に示し、マススペクトルをFig. 4に示す。
測定中に3箇所でTGの重量減少を伴ったガス放出ピークが観測された。放出されたガス種は二酸化炭素 (CO2),一酸化炭素 (CO)、水 (H2O)、水素 (H2)などで有ったが、COとCO2は同期して観測されている事から、COはCO2のフラグメントイオンとして検出されたと推察できる。NETZSCH TG/DSC (STA 449 F1 Jupiter® )を用いたTG-Cp比熱容量測定データ (Fig. 3) と比較した結果、COとCO2のガス放出ピークは、鉄の相転移点 (A2-A4) の前に発生している事が判った。構造相転移点 (A3, A4) では、加熱による鉄粉内の固溶物質の移動に伴って試料内部から放出された物と推測される。また、キュリー温度 (A2) に達する前にも0.0047%の重量減少および放出ガスが観測されており、磁気相転移の前にも強磁性から常磁性への移行過程で、磁区や磁壁の変化に伴う固溶物質の移動が生じていると推測される。本アプリケーションノートには未記載であるが、他の実験結果では同じ鉄でも素材によってガス放出量に違いが観測されており、製造過程の違いが反映されることを示唆している。
本結果から、金属材料の評価に用いられる電子顕微鏡やTG-DSCなどの結果にTG-HRMS SYSTEMの結果を補間する事で、新たな知見や製品の品質管理への応用が期待される。

鉄粉のガス放出挙動(He雰囲気中)

Fig. 2 鉄粉のガス放出挙動 (He雰囲気中)

TG-Cp比熱容量測定データ

Fig. 3 TG-Cp比熱容量測定データ

マススペクトル

Fig. 4 マススペクトル

このページの印刷用PDFはこちら。
クリックすると別ウィンドウが開きます。

PDF 885.8KB

関連製品 RELATED PRODUCT