PECVDチャンバー内の反応ガス分析 ~高質量分解能TOFMSを用いた反応モニタリング~

  • 概要

MSTips No.281

薄膜蒸着装置のひとつであるPECVD( Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition)装置に高質量分解能TOFMSを接続し、チャンバー内の反応ガスモニタリングを行った結果を報告する。

はじめに

PECVD( Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition)装置は、低真空チャンバー内に原料ガスを流して基板上に様々な薄膜を形成する蒸着装置のひとつである。原料ガスをプラズマによって化学種を変化させることが特徴であり、半導体素子の製造などでSi膜・Si酸化膜・Si窒化膜などの成膜(化学気相成長)に広く用いられている。半導体デバイスの微細化やプロセスの高速化に伴い多種の原料ガスや反応ガスを用いる必要が有るため、プラズマ内では複雑な物理化学反応や副次反応が生じる可能性がある。原料ガス・反応ガスは低分子量の化合物が多く、そこから生成される活性種や残留物などの詳細分析には質量分析計、特に化学種を特定できる測定が可能な高質量分解能を有する質量分析計が有用となる。
本アプリケーションノートでは、 JMS-MT3010HRGAを用いてPECVDチャンバー内の反応ガスモニタリングを行った結果を報告する。 JMS-MT3010HRGA INFITOFは多重周回イオン光学系を採用し、小型でありながら高質量分解能を実現した飛行時間型質量分析計(TOFMS)である。

測定方法

装置

JMS-MT3010HRGA (JEOL Ltd.)

イオン化法

電子イオン化法(EI法)

質量分解能

R ≧ 4,000 (m/z 28)

サイクルタイム

1sec/spectrum

Fig.1 に、PECVD装置への質量分析計の接続模式図を示した。成膜の種類や目的によりガス種やその導入量を調整する必要が有り、同時にチャンバー内のガスを質量分析計に導入する必要があるためのインターフェイスを新たに製作してモニタリングを行った。

Fig.2 には、Si膜を成膜する工程を示した。全工程は成膜とクリーニングの2つに大別され、それらを繰り返す事で効率的な運用が行われているが、半導体デバイスの微細化や高速化に伴い多種の原料や反応ガスを用いる必要が有るため、チャンバー内の残留ガス成分をモニタリングすることは、運用評価や品質管理上で重要とされている。

Fig.1 Connection diagram of Plasma-Enhanced CVD

Fig.1 Connection diagram of Plasma-Enhanced CVD

<成膜工程(Deposition)>
反応チャンバー内で、Arプラズマを用いてSiH4ガスをSiと2H2に分解し、Siを基板上に成膜させる。この時にチャンバー内も一様に成膜される。

<クリーニング工程(Cleaning)>
反応チャンバー内の残留Si膜を除去するため、Arプラズマを用いてNF3ガスをNと3Fに分解させ、次にSiとFの化学結合により気体のSiF4を生成させ、それらを真空ポンプで排出する。このクリーニング工程は、反応チャンバー内に付着したSi残渣を取り除く工程であり、その後に行われる成膜の品質に直接影響する重要な工程である。

Fig.2: Principle of Deposition & Cleaning process

Fig.2: Principle of Deposition & Cleaning process

結果

クリーニング工程の反応モニタリング

クリーニング工程におけるチャンバー内のガス成分をモニタリングすることでクリーニングの程度を確認する目的で高質量分解能MSを用いて反応ガスのモニタリングを行った(Fig.3)。NF3を用いたクリーニング時に、反応ガスである NF3・NF2 やクリーニング反応により生成したSiF4に由来すると想定される化学種の挙動が明確に確認された。クリーニング中に発生したガスの減衰や、副次的に生成された未知物質についても、高分解能測定による精密質量数から元素の組成解析も可能となることから、クリーニング工程の評価手法として有用であることがわかった。

Fig.3: Monitoring of Cleaning process

Fig.3: Monitoring of Cleaning process

成膜工程の反応モニタリング

成膜工程において、チャンバー内のガス成分をモニターした例を示す。Fig.4 は、Si系の多層成膜処理(SiN,SiO,Si)を3回繰り返して実施した過程での各種のガス成分の挙動を示したものである。
最初の SiN 成膜プロセス開始前後に、SiF3や HFなど成膜過程では生成が想定されていない化学種が検出された。特に SiF3はクリーニング工程で検出された化学種と一致しており、また、3回行った成膜過程の最初の過程でのみ検出されていることから、クリーニング工程で除去しきれなかった残留物に起因して検出されたことが推測された。また、SiF3が検出された段階のMSスペクトルを確認したところ、N2OやSiF2Hなどの副次反応物に由来する化学種も確認された。N2とSi を質量分解能の高い条件で個別にモニタした結果、成膜過程における発生挙動は明確に異なっており、また、1回目成膜過程開始前後では、2回目3回目では見られない特異的な発生挙動が観測された。このように、高質量分解能MSを用いる事で成膜過程でチャンバーに存在するガス成分の発生・現象過程が詳細にモニター可能であった。

Fig.4: Monitoring of Deposition process

Fig.4: Monitoring of Deposition process

まとめ

高質量分解能を有する JMS-MT3010HRGAを用いてPECVD装置内の反応ガスモニタリングを試みた結果、成膜工程やクリーニング工程における反応確認や検出された未知成分の解析手法として有用な結果が得られた。
半導体デバイスの微細化やプロセスの高速化に伴い、様々な原料ガスや反応ガスが用いられる事で複雑な物理化学反応や副次反応が生じると予測されることから、成膜過程、チャンバー内のクリーニング工程の評価などで、高分解能質量分析計の幅広い活用が期待できる。

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