• 概要

NM190002

CRAFT (Complete Reduction to Amplitude Frequency Table) [1] は、測定されたNMRの時間領域データ (FID) を、ベイジアン解析 [2] に基づき、各成分の周波数 (frequency) および振幅 (amplitude) から構成されるスプレッドシートへと直接変換する新しい高分解能NMRデータの解析コンセプトです [3]。通常の高分解能NMRデータの分析では、ウインドウ関数処理、位相補正、ベースライン補正、フーリエ変換などをおこなうことでFIDから周波数スペクトルに変換し、積分などをおこなうことで周波数スペクトルから定量的な情報へと変換します。CRAFTは、これらの従来法に置き換わる処理として活用することができます。
試料溶液中に定量分析したい化合物の類縁化合物が混ざっている場合、通常の積分を用いた定量分析は困難になります。これは、化学構造が類似するため類縁化合物は、分析対象物の近くに信号を与え、場合によっては信号がオーバーラップするためです。積分によって得られる周波数範囲における面積値は、信号がオーバーラップした場合、オーバーラップした二つの化合物の存在量を反映するため、それぞれの化合物のみの定量情報ではありません。一方、CRAFTは、指数減衰波の重ね合わせをモデルとしているため、定量分析したい化合物の振幅を上手く選択できれば、オーバーラップした信号からそれぞれの定量情報が得られます。本ノートでは、医薬品原薬の混合物を例にしてCRAFT for Delta Ver. 1.1を用いた定量分析例を紹介します。

原薬混合物の1H NMR

類縁化合物の例として、acemetacinおよびindometacinの混合物を用いました (Figure 1)。Acemetacinは、非ステロイド系抗炎症薬であり、また、indometacinのプロドラッグです(acemetacinは、摂取すると体内で代謝されindometacinとして薬効を示すと考えられています)。 また、acemetacinは化学構造からみるとはindometacinのカルボキシメチルエステルです。そのため、acemetacin溶液にindometacinが存在すると、indometacinの信号がacemetacinの信号にオーバーラップします (Figure 1) に示します。

Acemetacin-indometacinモデル混合物における1H-NMRスペクトル

Figure 1. Acemetacin-indometacinモデル混合物における1H-NMRスペクトル。スペクトルはJNM-ECZ400SおよびROYALプローブ™を使用した。

CRAFTの適用

各信号にフィンガープリントを設定し、CRAFT分析を実行しました (Figure 2(a))。結果として得られるスプレッドシートは、フィンガープリントとして得られました (Figure 2(b))。また、オーバーラップした信号から各成分の信号へと分離されていることが確認されました (Figure 2(c))。内標準物質を加え、内標準物質の振幅とacemetacinの振幅を用いることで、式(1)から含量(純度)を求める*ことができます。

P A = A A A s t d · N s t d N A · m s t d m A · M A M s t d · P s t d  ・・・(1)

ここでP, A, N, m, およびM は、それぞれ純度, 振幅 (または積分値), プロトン数, 秤量値, および分子量です。また添え字 A およびstd は、それぞれ分析対象物および標準物質を指します。

* CRAFTから得られる振幅の真度は、信号の形状や信号の重なりに依存します。定量値の真度が重要になる分析(例えば品質保証を目的にした分析)などでは積分値を用いた純度計算を推奨します。

Acemetacin-indometacinモデル混合物における1H-NMRスペクトル

Figure 2. Acemetacin-indometacinモデル混合物におけるCRAFT分析例。
(a) フィンガープリントの設定。(b) CRAFT分析の結果。(c) 各成分の確認。緑:Acemetacinの成分,茶:indometacinの成分,青:各成分の足しあわせ。

オーバーラップした信号の定量分析におけるCRAFTの有用性を実証するために、4つの含量比が異なるacemetacinとindometacinからなる混合物を調製し (Table 1)、およそ1 mgの内標準物質として4,4-Dimethyl-4-silapentane-1-sulfonic acid-d6 (DSS-d6) を加えたDMSO-d6溶液を調製しました。測定にはJNM-ECZ400SおよびROYALプローブ™を用いました。NMR測定は、日本工業規格 K0138 [4] に従って測定しました(観測範囲: 20 ppm、デジタル分解能: 0.25 Hz、試料スピンなし、13Cデカップリングあり、パルス繰り返し時間: 64秒)。Acemetacinの含量計算は、indometacinをオーバラップした信号およびオーバラップしていない信号を用いました (Figure 3(a))。
通常の積分値およびCRAFTによる振幅を用いて算出された定量値を、それぞれFigure 3(b) および (c) に示します。積分法においてオーバーラップしていない信号から算出された含量値は、調製時の重量から計算された含量とほとんど同じでした。一方、オーバーラップした信号から算出された含量値は、調製時の重量から計算された含量とはことなりました。一方、CRAFTから得られた振幅を用いた場合、含量値はオーバラップの有無にかかわらず正確でした。
CRAFTは、オーバーラップした信号の定量において強力なソリューションとしてのポテンシャルを示しました。

オーバーラップした信号の定量分析におけるCRAFTの有用性を実証実験

Figure 3. オーバーラップした信号の定量分析におけるCRAFTの有用性を実証実験。
(a) 4つのacemetacinおよびindometacin混合物の1H NMRスペクトル。(b) 積分法および(c) CRAFTを用いたときの定量値。

参考文献

  • Krishnamurthy; K., Magn. Reson. Chem. (2013) 51, 821–829.
  • Bretthorst; G. L., J. Magn. Reson. (1990) 88, 533–551., Bretthorst; G. L., J. Magn. Reson. (1990) 88, 552–570., Bretthorst; G. L., J. Magn. Reson. (1990) 88, 571–595., Bretthorst; G. L., J. Magn. Reson. (1991) 93, 369–394., Bretthorst; G. L., J. Magn. Reson. (1992) 98, 501–523.
  • 弊社アプリケーションノート"CRAFT for Delta Ver. 1.1 —背景とユーザーインターフェイスの紹介—" ( NM190001 ).
  • JIS K0138:2018, 定量核磁気共鳴分光法通則 (qNMR通則).
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