超高速MAS1H固体NMRを用いた医薬品製剤研究への応用:非晶質固体分散体における原薬-高分子分子間相互作用の解析

  • 概要

NM190003

近年開発される医薬品製剤の多くは水に難溶なため、生体吸収性が低くなり、医薬品の有効性が十分に得られないことが課題となっています。薬剤の溶出性を改善する効果的な方法の一つに、薬剤を非晶状態で高分子等の活性を持たない担体中に分散させた非晶質固体分散体があります。しかしながら、非晶質は熱力学的に非平衡で不安定なため、構造緩和に伴う再結晶化が起こる可能性があり、物理的に安定な固体分散体の設計が求められます。固体分散体の安定には、薬剤と高分子の水素結合等の分子間相互作用が鍵となりますが、その詳細な評価において強力なツールとなるのが固体NMRです。特に超高速MASを用いた1H固体NMRは水素結合の様子を水素核を通して直接観測できるため非常に有用です。本アプリケーションノートでは原薬carbamazepine (CBZ) /高分子hypromellose (HPMC)非晶質固体分散体における、1H固体NMRを用いた構造解析例を紹介します。(1)
試料にはCBZとHPMC及びその誘導体HPMC acetate (HPMC-A)もしくはsuccinate(HPMC-S)との混合溶液をそれぞれスプレードライ法で分散させたもの(SPD)を用いました。3試料のうち、CBZ/HPMC SPDとCBZ/HPMC-A SPDでは作成後10日ほどでCBZが再結晶化する様子が確認されましたが、CBZ/HPMC-S SPDは20日後でも結晶化は確認されませんでした。CBZ/HPMC-S SPDでは、より物理的により安定な非晶質分散体が形成できていることが示唆されます。
Fig.2に上述の3種のCBZ/HPMC SPD、およびHPMC-S SPD(CBZ 33wt%)のMAS周波数70kHzにおける1H固体NMRスペクトルを示します。興味深いことにCBZ/HPMC-S SPDのみ、10ppmよりも低磁場側にピークが現れました。HPMC-S SPDではこのピークが現れないことから、HPMC-SのCOOH水素がCBZのC=Oと水素結合を形成していることが示唆されます。さらにCBZのNH2の状態を観測するため、CBZを15Nラベルした試料を用い、1H-15N CP-based HSQC フィルターを通した1Hスペクトルを観測しました。1H-15N CP-based HSQC フィルターは1H->15N->1Hの順にCross Polarizationによって磁化移動させ1Hを観測する手法で、15N->1Hの接触時間を50usと十分に短くすることで、15Nに直接結合している1H、すなわちNH2を選択的に観測することができます。Fig.3に示すように、CBZ/HPMC SPDは5ppm付近に単一のピークを示したのに対し、CBZ/HMPC-A SPDとCBZ/HPMC-S SPDでは高磁場側の6-8ppm付近に明確なショルダーピークが観測されました。
またCBZ/HPMC-Sではこのショルダーピークの割合が大きいことが確認できます。これはCBZ/HPMC-AおよびSではCBZのNH2が一部水素結合を形成しており、HPMC-Sでは、よりその量が多いことを意味します。
1H固体NMRによって得られたCBZとHPMCおよびその誘導体との相互作用の様子をまとめるとFig.4の様になります。CBZとHPMCとの分子間相互作用は弱いですが、HPMC-AとはCBZのNH2がHPMC-AのC=Oと水素結合を形成します。さらにHPMC-SとはCBZのNH2とHPMC-SのC=Oと水素結合するだけでなく、CBZのC=OもHPMC-SのCOOH水素と水素結合を形成し、より強固な水素結合ネットワークを形成しています。このように1H固体NMRによって非晶質固体分散体の原薬-高分子間相互作用を解析することで、構造とその安定性との関連を分子レベルで理解することができます。


Fig.1 Chemical structure of (a) CBZ and (b) HPMC

Fig.2 1H single pulse MAS NMR spectra of CBZ/HPMC,CBZ/HPMC-A, CBZ/HPMC-S, and HPMC-S SPDs. (Reprinted with permission from ref 1. Copyright at 2018 American Chemical Society)

Fig.3 1H-15N CP-based HSQC filter1H MAS NMR spectra of CBZ/HPMC, CBZ/HPMC-A, and CBZ/HPMC-S with 15N-labeled CBZ loading of 33 wt%. The solid arrow in this figure represents the newly developed peak shoulder.

Fig.4 A schematic illustration of CBZ-polymer interactions in CBZ/polymer SPDs.
(Reprinted with permission from ref 1. Copyright at 2019 American Chemical Society)

参考文献

1) Y. Ishizuka, K. Ueda, H. Okada, J. Takeda, M. Karashima, K. Yazawa, K. Higashi, K. Kawakami, Y. Ikeda, K. Moribe Mol. Pharmaceutics. Mol. Pharmaceutics., 2019 16, 6, 2785–2794

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