MALDI Application: JMS-S3000 SpiralTOF™によるオンプレートアルカリ分解法とFraction base KMD法を組み合わせた高分子量 poly(3-hydroxybutyrate-co-3-hydroxyvalerate) 共重合ポリエステルの分析

  • 概要

MSTips No.284

はじめに

高分子量ポリマーは、マススペクトル上にピークが観測できないか、観測できたとしても低分解能で解析が難しいことが多い。高分解能質量分析計を用いても、元素組成レベルでの繰り返し単位、末端基の詳細な評価の対象はオリゴマー(<3000 u)に限定される。オンプレートアルカリ分解法は、分子量の大きい工業用ポリエステルを、MALDI-TOFMSで高分解能解析が可能なオリゴマー領域にまで切断できる前処理手法である[1]。この手法を用いて生成した多数のオリゴマー系列が検出される複雑なマススペクトルは、Fraction base Kendrick mass defect (KMD)[2]を用いて各系列を適切に分離することにより、比較的容易な解析で、有効な情報を引き出すことができる。

実験

Poly(3-hydroxybutyrate-co-3-hydroxyvalerate) (PHBV, 12 mol% 3HV, Mn=1.4×105 g mol-1, ĐM=2.5) は、Sigma-Aldrich (St. Louis, MO,USA)より購入した。他の試薬は富士フィルム和光純薬より購入した。1 μL の PHBVのテトラヒドロフラン(THF)溶液(1 mg/mL) をディスポーザブルプレートの上に滴下し、薄膜を作成した。その薄膜の上に、1 μL の水酸化ナトリウムのメタノール溶液(10 mg/mL) を滴下し5分間風乾下したのち、蒸留水で洗浄した。乾燥後、1 μL of 2,4,6-trihydroxyacetophenone (THAP, Protea Biosciences, West Virginia, USA) のTHF溶液 (20 mg/mL ) を、マトリックスとして滴下した。マススペクトルは JMS-S3000 SpiralTOF™ で取得した。KMDプロットは、msRepeatFinder 3.0 で作成した。

結果

PHBVはオンプレートアルカリ分解法で低分子量化することにより、6種の末端基の組み合わせを持つオリゴマー系列がマススペクトル上に観測された[1](Fig. 1A)。 末端基の組み合わせの違いや、3HB(3-hydroxybutyrate),と3HV(3-hydroxyvalerate)の共重合組成の違い、同位体ピークによるピークの重なりから、マススペクトルは非常に複雑となり、通常のKMDプロット(繰り返し単位C4H6O2)[2] を用いてもクラスタ状の分布となり各ピーク系列の分離は容易ではない (Fig. 1B)。

Fig. 1. (A) MALDI spiralTOF™ mass spectrum of a high molecular weight PHBV following its on-plate degradation (inset: detected main ion series I-VI). (B) full-scale regular KMD plot (base: C4H6O2, 3HB).

Fraction base KMD 解析

Fig.1のように多数の系列由来の点が、KMDプロット上のある狭い範囲に密集してしまうと解析が難しいが、Fig.2のようにFraction base KMDプロット(繰り返し単位C4H6O2, X=135) を用いると、様々なポリマー系列をプロットの全範囲(-0.5から0.5まで)に広げることができる[3]。Fig.2で色分けしたクラスターの中では、3HB(水平方向の分布)と3HV(斜め方向の分布)の重合度が異なるものが存在し、同じ末端基の組み合わせを持つものでも同位体組成が異なるものは別のクラスターとして分離できた。同位体組成の違いの例をあげると、モノアイソトピックイオンだけのものや、13Cを1-2個含むものなどがあり、Fig.2で末端基の組み合わせの違い(ローマ数字と色で区別した)とともに示した。 Fraction base KMDを用いることで、多数のポリマー系列もプロット上で明確に分離することができた。

Fig. 2. "Fraction base" KMD plot with a fractional base unit 3HB/135 using msRepeatFinder.

複数のFraction base unitを組み合わせた連続的なKMD 解析[4]

シリーズIとVは、Fig.2のFraction base KMDプロットでは、ほとんど重なり合っており分離することができていない。これらを分離するために、まずモノアイソトピックな点(Fig.2 で「I + V (12C, 12C)」とラベルされたもの)を1つのグループとし(Fig.3A)、その他の点を非表示とした(Fig.3B)。 Xの値を変更しながらIとVが分離する条件を検討した結果、X=117が最も適当であった(Fig.3C)。この条件では、 I (12C, 12C)とV (12C, 12C)は完全に分離し、2つのクラスターとなった。各クラスター内では3HB(水平方向)および3HV(斜め方向)の重合度が異なるモノアイソトピックイオン(12C)の分布を示している。

Fig. 3. Sequential "fraction base" KMD analysis using msRepeatFinder.

他のデータ解析法: デアイソトープ処理をしたピークリストの利用

前述の解析ではデアイソトープ処理をしていないピークリストを使用している。デアイソトープ処理なしのピークリストを用いると微量成分の見落としの危険性が減る反面、同位体ピークを含んでいるためにデータ解析は複雑となる(Fig.2)。デアイソトープ処理を行うことで、解析に使用するピークリストの段階で同位体ピークを除去できるため、KMD解析が容易となる。しかし、本解析ではデアイソトープ処理したピークを用いてもなお、通常のKMDプロットでは点が狭い範囲に集中し、系列ごとの分離が難しかった(Fig.4A)。 そこで、Fraction base KMDを用いて、Xの値を調整することで(繰り返し単位 C4H6O2, X=92)、異なる末端基の組み合わせを持つ6系列に分離することができた[1]。 このようにFraction base KMDを用いれば、Xを適宜変更することにより同じピークリストを用いても複数の系列に対し目的に応じた分離を行うことができる[5]。

Fig. 4. (A) regular and (B) fraction base KMD plot (3HB/92) from the deisotoped mass spectrum using msRepeatFinder.

まとめ

今回は、同じマススペクトル由来でデアイソトープ処理の異なるピークリストについて、Fraction base KMDを用いた解析方法を示した。Fraction base KMDでは、Xの値を変更することで、様々な違いをもつ系列(同位体組成の違い、末端基の組み合わせの違い、コポリマーの重合度の違い、それらの組み合わせ)にあわせて、各系列間の分離の度合いを調整することができ、目的に応じた分離が可能になる。msRepeatFinderを用いたグループ化および、グループ化したシリーズの表示/非表示機能を組み合わせることで、より複雑なマススペクトルの解析も可能になり、さらにオンプレートアルカリ分解法をJMS-S300 SpiralTOF™測定の前処理として用いることにより高分子量ポリマーに対しても適用可能となる。

謝辞

本データは、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 機能化学研究部門 佐藤浩昭氏、Thierry Fouquet氏、中村清香氏との共同研究の成果です。

References

[1] S. Nakamura, T. Fouquet, H. Sato. J. Am. Soc. Mass Spectrom. 2019, 30, 355.
[2] H. Sato, S. Nakamura, K. Teramoto, T. Sato. J. Am. Soc. Mass Spectrom. 2014, 25, 1346.
[3] T. Fouquet, H. Sato. Anal. Chem. 2017, 89, 2682.
[4] Q. Zheng, M. Morimoto, H. Sato, T. Fouquet. Fuel 2019, 235, 944.
[5] S. Nakamura, R. B. Cody, H. Sato, T. Fouquet. Anal Chem. 10.1021/acs.analchem.8b04371

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