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TG-HRTOFMSを用いた高分子材料中添加剤の熱挙動解析 [GC-TOFMS Application]

MSTips No.302

はじめに

高分子材料の合成・成形加工プロセスの最適化において、使用する添加剤の熱挙動を把握・理解することは重要である。熱重量分析 (Thermogravimetry: TG) は、試料加熱における重量変化を測定し試料の熱物性や熱挙動を知ることができる手法である。TGと質量分析計 (MS) を接続することで、重量変化時に発生する有機物の定性分析を行うことが可能になる。TG-MSとしては小型汎用機である四重極型質量分析計 (QMS) が用いられることが多いが、QMSは質量分解能が低く、精密質量測定による観測イオンの組成演算は行えない。そこで今回、高分解能で精密質量解析が可能な高分解能型飛行時間質量分析計 (HRTOFMS) を用い、TG-HRTOFMSによる高分子材料中酸化防止剤の熱挙動について基礎検討を実施したので報告する。

結果

市販のポリプロピレン (PP) に酸化防止剤IrganoxB225 (BASF社製、Irganox1010とIrgafos168の混合物) を1000ppm添加し、200°Cで混成させたものをモデル試料として使用した。TGは熱重量/示差熱同時分析装置STA2500Regulus (NETZSCH社製) を用い、TOFMSは飛行時間質量分析計JMS-T200GC (日本電子製) を用いた。今回の検討ではTG-MSで主に使用される電子イオン化 (Electron Ionization, EI) 法ではなく、フラグメントイオンの生成を抑え、分子イオンの情報を得ることが可能なソフトイオン化法の1つである光イオン化 (Photo Ionization, PI) 法を用いた。TG-HRTOFMS測定条件を以下に示す。

Table 1 Measurement condition

[GC condition]
  GC system: STA2500Regulus(NETZSCH社製)
  Temp.: 50°C →10°C/min→500°C
  Container: Al
  Sample amount: 1mg(1)、約30mg (2、3)
  Atmospheric gas : ① He: 100mL/min、
② He/O2 (80%/20%) : 100mL/min 
[TOFMS condition]
  MS system: JMS-T200GC (JEOL Ltd.)
  Ion source: EI/PI combination ion source
  Ionization: PI+, D2 lamp:
115-400nm, (10.8eV@115nm)



 


 

Fig.1 TG-TOFMS system
 

1. PP試料中酸化防止剤の熱挙動基礎検討 (He、He/O2)

添加剤単体をTG-PI-HRTOFMS測定し、得られたマススペクトルを確認したところ、m/z 206、220、234、248、646、662などが特徴的に観測された。これら6つのイオンをモデル試料中の添加剤熱挙動解析に使用することとした。モデル試料のHe及びHe/O2雰囲気におけるTG曲線と、上記6つのイオンの抽出イオンクロマトグラム (EIC) をFig.2、Fig.3に示す。

Fig.2 TG curve of model sample in He atmosphere
and EIC of additive ions
(※Display with vertical axis scale 10 times)

Fig.3 TG curve of model sample in He/O2 atmosphere
and EIC of additive ions
(※ ※ Display with vertical axis scale 100 times)

He雰囲気とHe/O2雰囲気におけるTG曲線は大きく異なっていた。He雰囲気ではTG温度400°C程度から重量減少が観測されたが、He/O2雰囲気ではTG温度250→275°C付近で急激な重量減少が観測された。
m/z 206のみ両雰囲気ガスで検出されたが、その強度はHe/O2雰囲気下の方が10倍程度高かった。この成分はHe雰囲気でも検出していることから、添加剤の酸化分解と熱分解の両方で生じていると考えられる。このm/z 206の組成式は精密質量解析の結果C14H22Oと推定された。これは、Irganox 1010もしくはIrgafos 168の分解によって生じたジ−tert−ブチルフェノールと解釈することができる。
m/z 220、234、248と662はHe/O2雰囲気で顕著に検出された。これらイオンの精密質量解析を行ったところ、各々C14H20O2 (m/z 220)、C15H22O2 (m/z 234)、C16H24O2 (m/z 248)、C42H63O4P (m/z 662)と推定された。これら成分は添加剤の酸化分解及び酸化物由来であると考えられる。特にm/z 662の組成式はIrgafos168の酸化物の組成式と同じであり、He/O2雰囲気でのみ検出された結果とも一致する。例えばポリマーの酸化劣化過程で生じるヒドロペルオキシド (ROOH) の分解反応としては、リン酸系酸化防止剤では以下のような反応モデルが提案されており(①)、今回観測されたイオン種とも良い一致を示した。


2. PP成形温度時における酸化防止剤熱挙動 (He/O2)

He/O2雰囲気下において酸化防止剤の酸化劣化の結果生じたと考えられる成分は、約250°C付近から発生していたことから (Fig.3)、PP成型時にも同様に発生する可能性が考えられた。 そこでPPの成型温度を想定しTG炉最終温度230~300°Cで保持した際の挙動について検討した。 He/O2雰囲気下において初期温度50°Cから、10°C/分で昇温させ、最終温度230°Cで保持した際の測定結果を以下に示す。 Fig.4に代表的なPIマススペクトルを示す。

Fig.4 TIC chromatogram and PI mass spectrum

Fig.5では、特に発生が顕著であったm/z 206、220、662と、ヒドロペルオキシド (ROOH) の不活性化により生じると推測されるm/z 58 (C3H6O) のEICを示す。またFig.6にはFig.4右下に示した4種のm/z 180(PPの酸化物と推測)のEICを示す。

Fig.5 TG curve of model sample in He/O2 atmosphere
and EIC of additive ions
(※Display with vertical axis scale 100 times)

Fig.6 TG curve of model sample in He/O2 atmosphere
and EIC of PP and oxide ions

Fig.5、6に示す成分はTG温度が230°Cになった時点では全く発生していなかったが、230°Cにしてから約15分経過すると顕著に観測された。これはPPの酸化を抑制している間は添加物由来の成分は飛散せずPP内に留まるが、一度PP酸化物が飛散を開始するとそれにともなって添加物由来の成分も飛散するためと推測される。TG及びDTA曲線ともよい一致を示した。

3. 酸化防止剤混成時における熱挙動 (He)

最後に、添加剤混成時における挙動を検討するために、以下の条件で再度測定を実施した。

  • He雰囲気下
  • 大量の試料 (32.75mg)

その結果、Fig.8に示すように約150°C付近でもm/z 206が発生していることが分かった。1の実験では試料量が1mgと少なかったため、150°C付近での発生が確認できなかったと考えられる。このm/z 206は3-1で考察した通り、添加剤の熱分解によって生じたジ−tert−ブチルフェノールだと推測される。
添加剤の一部は不活性下においても、比較的低温域で熱分解し低分子化してしまうことが示唆された。

Fig.7 EIC of m/z 206.1665 in additive alone in He atmosphere

Fig.8 EIC of m/z 206.1665 in model sample in He atmosphere

まとめ

  • He/O2雰囲気下での測定は、ポリマー成型時における添加剤挙動解析に有効だった
  • He雰囲気下での測定は、添加剤混成時における挙動解析に有効だった
  • TG-MSに高分解能型TOFMSを採用することで、高分解能による成分分離と、高質量精度による観測イオンの組成式取得が可能であった。
    添加剤の熱挙動及び反応モデルをより詳細に検討、把握することが可能であった。
  • TG-HRTOFMSシステムは、高分子材料のプロセス解析において有効な分析手法であった。

参考文献

(1)根岸 由典:マテリアルライフ, 15[4], 109 (2003)
(2)第24回高分子分析討論会, Ⅲ-14 (2019)
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