• 概要

ER190011

近年、生体内でのイオウ化合物の反応が注目されています。イオウ化合物は、ゴムをはじめとした材料で重要な役割を果たしていることは知られていますが、生体内でも機能性化合物として働くことが報告されています。従来、生体内で重要な役割を担うイオウ化合物としては、グルタチオンが抗酸化能を持つとして知られていました。
今回着目するのは、シスチンを基質として酵素 (システイニルtRNA合成酵素;CARS) の反応により合成されることが報告されているCysパースルフィド (Cys-SSH) や、それを介して生成するパースルフィド (R-SSH) およびポリスルフィド (R-SSSH, R-SSSSH) です。遊離のシステインのみならず、たんぱく質中のシステイン残基がパースルフィド化、ポリスルフィド化されていることも確認されています。1)  これらは強い還元性を持ち活性イオウと呼ばれています。我々はこれらの分子の構造とイオウの反応性を考慮し、活性イオウが生体内のキノン化合物等の電子受容体に電子を受け渡す電子供与体として働く可能性があると考えました。そこで、生体内における活性イオウの働きを研究する際に多用されるモデル化合物を用いて、生体内キノン化合物との反応をESRにより検討しました。2)

試料

イオウ化合物

活性イオウ
  • Na2S2 (Na-SS-Na)
  • Na2S3 (Na-SSS-Na)
  • Na2S4 (Na-SSSS-Na) 全て同仁化学研究所製
モノチイル化合物
  • Dithiothreitol ; 同仁化学研究所製
  • Na2S (Na-S-Na) ; 同仁化学研究所製
  • Glutathione ; 99.7%, Sigma-Aldrich 社製

キノン化合物

(構造は下図のとおり)
  • Coenzyme Q10 (CoQ) ; 99%, Sigma-Aldrich 社製
  • Vitamin K3 (VK3) 興人ライフサイエンス社製
  • Pyrroloquinoline quinone (PQQ) 和光純薬社製
キノン化合物

測定

アセトン-50%―DMSO-10%-水溶液に、それぞれの活性イオウ (10 mM) と各キノン化合物 (0.2 mM) となるよう混合し、直ちに扁平セルに移して測定しました。
ESR条件は次のとおりとしました。
マイクロ波周波数:9418.1 MHz、磁場:335.38 ± 5 mT、変調磁場:0.6 mT、増幅率:70、掃引時間:1 min、時定数:0.1 s、マイクロ波出力:8 mW。
得られたスペクトルから、各ラジカル量をTEMPOL溶液を用いて定量しました。

結果

いずれの活性イオウとキノンの組み合わせでも、2種類のラジカルが観測されました。
一例として、CoQとNa2S2を混合して得られたスペクトルを図1に示しました。Mnマーカーにより補正してそれぞれのg値を求めたところ、両ラジカルは活性イオウラジカル (g=2.015) およびCoQ由来のセミキノンラジカル (g=2.0045) と推定されました。
一方、チイル化合物との反応では当該シグナルは認められませんでした。活性イオウとキノン化合物との想定される反応を図2に示しました。

図1.CoQにNa2S2を添加後得られたラジカルのESRスペクトル
図1.CoQにNa2S2を添加後得られたラジカルのESRスペクトル
図2.活性イオウ(R-SS-)とキノン化合物(Q)の推定反応式
図2.活性イオウ (R-SS-) とキノン化合物(Q)の推定反応式

これらのラジカルの経時変化を測定し、それぞれの濃度を求めて、図3に示しました。
CoQ由来のセミキノンラジカルは速やかに減衰しましたが、活性イオウラジカルは比較的安定であることが示されました。

図3.CoQセミキノンラジカルと活性イオウラジカルの経時変化
図3.CoQセミキノンラジカルと活性イオウラジカルの経時変化

まとめ

生体内で活性イオウは種々のキノン化合物と、電子の授受を介したラジカル反応を引き起こす可能性があると考えられました。

参考文献

  • Ida T. et al. PNAS 111:7606-7611, 2014
  • Abiko Y. et al. Chem. Res. Toxicol. 32(4):551-556, 2019
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