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オンプレート分解法とタンデム飛行時間質量分析法によるポリエチレンテレフタレートの構造解析の検討 [MALDI Application]

MSTips No.311

マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計(MALDI-TOFMS)は、ポリマーの分析において強力なツールである。
高分解能MALDI-TOFMSを使えば、モノマーや末端基の組成の違いによるポリマーシリーズの識別、精密質量解析による組成推定、イオン強度の分布からポリマーの分子量分布を算出できる。しかし、精密質量解析を分子量の大きなポリマーへ適用するにはTOFMSの性能面で限界もある。たとえば分子量の増加にともなう、イオン化効率の低下、検出感度の低下、精密質量解析に使用するモノアイソトピックイオンの割合の低下などがその原因である。そこで、高分子量のポリエステルやポリカーボネートを部分的にアルカリ加水分解してオリゴマー化し、高分解能MALDI-TOFMSで構造情報を推測する手法が提案されている(オンプレート分解法) 1)。このようにオリゴマーへ断片化することで精密質量解析が行いやすくなると同時に、タンデム飛行時間質量分析方法(TOF-TOF) での構造解析においても有利になると推測される。
本報告では、JMS-S3000 "SpiralTOF™-plus"とTOF-TOFオプションによりオンプレート分解法によりオリゴマー化されたポリエチレンテレフタレート(PET)の末端基の構造解析を検討したので報告する。
本装置では、SpiralTOF™-plusを第1TOFMSにしているため、高いプリカーサイオン選択能を有し、オンプレート分解後の複雑なマススペクトルからも適切にプリカーサイオンを取得できる。また、高エネルギー衝突有機乖離(HE-CID)による情報量豊富なプロダクトイオンスペクトルの解析を容易にすることができる。

実験方法

試料は、PET(フィルム)を10mg/ml ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)溶液とし用いた。
マトリックスには、2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン(THAP) 10mg/ml HFIP/テトラヒドロフラン(THF)溶液を用いた。オンプレート分解に水酸化ナトリウム(NaOH)10mg/ml メタノール溶液を用いた。マススペクトルはSpiralTOF正イオンモードで確認し、構造の異なるシリーズについてTOF-TOF正イオンモードにてHE-CID測定を行いプロダクトイオンスペクトルを取得した。

[オンプレート分解のサンプル調整作業]

  • ターゲットプレートに試料溶液をスポット。
  • 試料スポットの上にNaOHメタノール溶液をスポットして乾燥。
  • オンプレート分解後、精製水を用いてサンプルスポットの脱塩処理。
  • 乾燥したサンプルスポットに、THAP HFIP/THF溶液をスポット。

結果

Fig. 1にオンプレート分解法適用前後のマススペクトルを示す。オンプレート分解前は、環状オリゴマーが2種類観測されているが、オンプレート分解後は主たるものでも10種類程度のシリーズが観測された。
Fig. 1(C)に示す1~3のピークの構造は参考文献1に提案されている。

Fig1. The mass spectra of PET oligomer before (A) and after (B) on-plate degradation treatment. (C)Enlarged mass spectrum of PET after on-plate degradation.
Fig1. The mass spectra of PET oligomer before (A) and after (B) on-plate degradation treatment. (C)Enlarged mass spectrum of PET after on-plate degradation.

次にオンプレート分解前後のマススペクトルのKMDプロットを示す (Fig. 2 (A), (B)) 。オンプレート分解前に見られた2種のシリーズ(青:Cyclic, 赤:Cyclic+C2H4O)は分解後は僅かとなり、オンプレート分解特有のシリーズが複数確認できた。
Fig. 1中に構造を示した3シリーズは、緑:TMe/E, 黄:E/E, 橙:TMe/E(diE)で示した。

Fig. 2 The KMD plots of PET before(A) and after(B) on-plate degradation (base unit C10H8O4:192.04, x=198)
Fig. 2 The KMD plots of PET before(A) and after(B) on-plate degradation (base unit C10H8O4:192.04, x=198)

次に、オンプレート分解により生成したオリゴマー3種類 TMe/E (m/z 1015)、E/E (m/z 1045)、TMe/E(diE) (m/z 1059)を選択し、プロダクトイオンを取得した(Fig. 3 (A)、(B) 、Fig. 4)。プロダクトイオンスペクトルを確認すると、192u間隔のピークが複数観測されており、質量が同じプロダクトイオンも多数観測されていることから類似構造をもつと推測される。
各プロダクトイオンスペクトル中には推定される構造式 ( n = 5 ) および開裂位置をあわせて示した。まず両末端が同じ構造であるE/E のプロダクトイオンスペクトルFig. 3 (B)を確認すると、推定構造を支持するピークが観測されていることが分かった。次にFig. 3(B)と比較して片側の末端のみ異なる構造をもつTMe/Eのプロダクトイオンスペクトルを確認し、Fig. 3(B)と共通のピークおよびFig. 3(A)にのみ観測されたピークを青矢印と赤矢印でラベルした。
赤矢印のピークを解析すると推定される構造を支持することが分かった。

Fig. 3 The product ion spectra of PET m/z 1015(A) and m/z 1045(B) after on-plate degradation.
Fig. 3 The product ion spectra of PET m/z 1015(A) and m/z 1045(B) after on-plate degradation.

次にFig. 3(A)と比較して[C2H4O]ユニットが付加されていると推定される構造をもつTMe/E(diE)のプロダクトイオンスペクトルFig. 4を確認した。Fig. 3(A), (B)に観測されているピーク(青矢印、赤矢印)のほかに、Fig. 4に特徴的なピークを緑矢印で示した。
末端基付近の開裂に特徴的なピーク(m/z 163, 193, 207, 237)はFig. 3(A)、(B)と共通であることから[C2H4O]ユニットは主鎖中に存在することが推測できる。
Fig. 4中に示す構造を考えるとそれを支持するようなピークが観測されたので、[C2H4O]ユニットが主鎖中に存在するのは妥当であると考えることができる。

Fig. 4 The product ion spectrum of m/z 1059 after on-plate degradation.
Fig. 4 The product ion spectrum of m/z 1059 after on-plate degradation.

まとめ

PETをオンプレート分解法によりオリゴマーに断片化し、TOF-TOFの高エネルギー衝突誘起解離による断片化により構造解析を行った。
その結果、参考文献1に示された構造を支持する結果が得られた。
オンプレート分解法によるオリゴマーへの断片化は、MS/MSの構造解析の際にも有効であり、精密質量による組成推定とあわせることで高分子の構造解析に有用な手法といえる。

参考文献

1) S. Nakamura, T. Fouquet, H. Sato: J. Am. Soc. Mass Spectrom., 30, 355 (2018).

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