磁性ナノ粒子と超常磁性共鳴 (4) *** 磁性ナノ粒子・流体の磁気緩和 ***

  • 概要

ER210008

粒子濃度と超常磁性共鳴スペクトル

磁性ナノ粒子の超常磁性共鳴スペクトルにおいても、常磁性イオン間の磁気的相互作用と同様に、磁性ナノ粒子間の相互作用に起因する線幅増大効果が認められる。図1に示したのは、磁性ナノ粒子トルエン分散溶液 (Fe3O4) の粒径5 nmと10 nmにおける超常磁性共鳴スペクトルとシャープな吸収成分の線幅の濃度依存性である。図1 (c) (d) を見ると分るように、線幅は濃度に対して比例関係にあるものの、その傾きはなぜか粒径5 nmの方が大きく、線幅自体も広い。スペクトルの形状については、図1 (a) の5mg / mLのスペクトルだけブロード成分の線幅に違いがみられるものの、5 nm、10 nmともにg値の有意なシフトや形状の劇的な変化は見られない。ちなみに、先行研究による報告では、同じFe3O4の磁性ナノ粒子流体 (粒径9 nm) にもかかわらず、ブロードな成分の大きなg値のシフトと線幅の劇的な増大現象が確認されている[1]。このような違いは、磁性ナノ粒子の形状、粒径分布、そして溶液内での分散を促す配位子の種類などによる影響が考えられる。また、単純な双極子相互作用だけでなく、磁性粒子間の凝集効果の影響も無視することはできない。このように、磁性ナノ粒子の濃度依存性からは、流体中における粒子近傍のミクロな環境や構造を反映した情報を得ることができるといえる。

図1 磁性ナノ粒子トルエン分散溶液 (Fe3O4) の超常磁性共鳴スペクトル濃度依存性とスペクトルの線幅の濃度依存性。

図1 磁性ナノ粒子トルエン分散溶液 (Fe3O4) の超常磁性共鳴スペクトル濃度依存性とスペクトルの線幅の濃度依存性。

(a) 粒径5 nmの信号強度で規格したスペクトル、(b) 粒径10 nmの信号強度で規格したスペクトル、(c) 超常磁性スペクトル (粒径5 nm) の濃度と線幅の関係、(d) 超常磁性スペクトル (粒径10 nm) の濃度と線幅の関係

TD-NMR (時間領域核磁気共鳴) による磁性流体のマクロ物性評価

材料としての磁性粒子・磁性流体を評価するとき、磁性粒子そのものの磁気的特性を調べることも重要であるが、粒子が周辺の環境 (溶媒や各種マトリックス) へ及ぼす影響を評価することも同様に重要である。MRIの造影剤や、Hyperthermia用試薬は、粒子の磁性そのものより、画像のコントラスト向上や患部の治療効果そのものが目的であるので、溶媒やマトリックスのマクロ物性評価は必須である。
様々な材料評価法があるなかで、時間領域核磁気共鳴法 (TD-NMR) による緩和時間測定は、その代表例の一つで、工業材料の品質管理や研究開発に広く利用されている。
図2に示すのは、ESR装置の電磁石とENDOR用キャビティーを利用した、TD-NMR測定システムブロック図の一例である (1H周波数は14.55 MHz)。ENDORキャビティーは、RF照射用コイルが備わっているため、共振回路を作るためのチューニング回路、Duplexer、RFパワーアンプ、そしてNMR用分光計を組み合わせることにより、基本的な1H-NMRの緩和時間計測を可能にする。

図2 ENDOR cavity (ES-14010) を用いた、TD-NMR測定 (ωH/2π=14.55 MHz) ブロック図の1例

図2 ENDOR cavity (ES-14010) を用いた、
TD-NMR測定 (ωH/2π = 14.55 MHz) ブロック図の1例

TD-NMRによるT1T2測定法

電子スピンや核スピンの緩和時間は、溶媒の粘性や温度、周辺の磁気変動に敏感に反応する。したがって、緩和時間を測定することによって、スペクトル情報の裏に隠された、その物質が置かれた環境のマクロ物性を評価することができる。
電子スピンの緩和時間は、一般的に非常に速いため特定の条件下でないとその計測が難しいが、溶媒中の水素核の緩和時間であれば容易である。スピンの緩和時間には、T1と呼ばれるスピン-格子緩和時間とT2と呼ばれるスピン-スピン緩和時間の2種類がある。代表的なT1測定法の一つは、図3 (a) に示したInversion recovery法である。時間tauを変えながらFID (Free Induction Decay) を測定し、スペクトル強度IIRを式 (1) でフィットすることでT1を得る。

IIR A{1−2exp(−tau/T1)} : Aは強度因子 (1)

T2を測定する一般的な方法は、CPMG (Carr-Purcell-Meiboom-Gill) 法である。この方法は、図3 (b) に示すように、2×tau時間ごとにN回180度パルスを連続印加して、エコー強度ICPMGを計測する。得られたデータを式 (2) でフィットしてT2を得る。

ICPMG = Bexp(−2tauN/T2) : Bは強度因子 (2)

図3 (a) Inversion recovery法のパルスシーケンスと測定結果の例、(b) CPMG法のパルスシーケンスと測定結果の例

図3 (a) Inversion recovery法のパルスシーケンスと測定結果の例、(b) CPMG法のパルスシーケンスと測定結果の例

図4 磁性ナノ粒子トルエン分散溶液 (Fe3O4)の、濃度と緩和速度。(a) 磁性粒子のモル濃度とスピン-格子緩和速度、(b) 磁性粒子のモル濃度とスピン-スピン緩和速度。 T1N と T2N は、それぞれ溶媒プロトンの T1 と T2 を意味する。

図4 磁性ナノ粒子トルエン分散溶液 (Fe3O4)の、濃度と緩和速度。

(a) 磁性粒子のモル濃度とスピン-格子緩和速度、(b) 磁性粒子のモル濃度とスピン-スピン緩和速度。T1N T2N は、それぞれ溶媒プロトンの T1T2 を意味する。

磁性ナノ粒子の超常磁性特性と磁性流体の緩和率の関係

たとえば、磁性ナノ粒子を分散させた水溶性磁性流体は、MRIの造影剤開発のため、盛んに研究がおこなわれている。造影剤は、MRIの撮像画像感度向上のために使用されるが、その性能指標の一つに緩和率 (Relaxivity) というものがある。
図4に示したのは、磁性ナノ粒子トルエン分散溶液 (Fe3O4) の"緩和速度"の濃度依存性をプロットしたものである。T1NT2Nのそれぞの緩和速度は、それぞれ粒径ごとにFe3O4の濃度に対して比例関係にあると同時に、それぞれ固有の傾きを持っている。この傾きを緩和率 (Relaxivity) という。MRIを高分解能かつHighコントラストで撮像するための造影剤は、通常T1強調造影剤と呼ばれ、画像を明るくする効果を期待して設計されるが、このときの評価指標は、T1T2の緩和率の比である"r2/r1"が低いほど良好とされる[2]。図4の実験で用いたトルエンの磁性流体に限って言えば、図5に示すように、5 nmのナノ磁性流体がもっともr2/r1が低く、画像を明るくすることが期待される*。

図5 磁性ナノ粒子トルエン分散溶液 (Fe3O4)の粒径とr2/r1比。

図5 磁性ナノ粒子トルエン分散溶液 (Fe3O4) の粒径とr2/r1比。

* ここでは、参考としてトルエン溶媒の磁性流体での実験結果を示したが、実際のMRIの造影剤は水溶性の磁性流体を用いて評価される[2]

Reference:

  • [1] M. M. Noginov et al., Journal of Magnetism and Magnetic Materials, 320, 2228-2232 (2008).
  • [2] W. Xiao et al., Journal of Magnetism and Magnetic Materials, 324, 488–494 (2012) .
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