FIB-SEMによる日本刀の非金属介在物の三次元元素マッピング

  • 概要

IB2022-01

日本刀

日本刀は砂鉄を原材料としているため、砂鉄由来の非金属介在物 (酸化物) が多く含まれている。その成分及び微細構造を解析することにより砂鉄の産出地の同定及び、日本刀作製時の熱処理工程解明の手掛かりが得られる。今回用いた日本刀は室町後期 (16世紀後半) に作製された備州長船住勝光 (Fig. 1 A, B) である。切り出され、研磨された断面 (Fig. 1 C) の刃 (右) 側の赤丸内の領域において (Fig. 1 D)、内部に含まれる非金属介在物の元素分布を視覚化するために3D-EDS分析を行った。

Fig. 1

Fig. 1 備州長船住勝光

A: 全体像、B: 銘の拡大像、C: 切り出され研磨された断面、D: 刃先を切り落とした試料の二次電子像

3D-EDS

FIB-SEMは集束イオンビーム加工観察装置 (FIB) と走査電子顕微鏡 (SEM) を組み合わせた装置で、FIBによる等間隔のスライス加工と、それぞれの断面のSEM像収集を自動で繰り返すThree-dimensional View (3D-View) 機能を有し、得られたデータを三次元再構築することにより試料の内部構造観察や解析が可能となる。さらにEDSによる元素マッピングを組み合わせ、内部の元素分布の三次元化も行え、材料系、生物系問わず、幅広い分野で応用されている。
Fig. 2に日本刀の3D-EDS測定で得られた各種スライス断面画像を示す。反射電子組成像と、アルミニウム、ケイ素、チタンの元素マップを取得した。

Fig. 2

Fig. 2 断面の連続スライス像

上から反射電子組成像
アルミニウム (Al-Kα) マップ
ケイ素 (Si-Kα) マップ
チタン (Ti-Kα) マップ

測定条件

FIB
加速電圧 30 kV
照射電流 10 nA
ドーズ 250 nC / µm2
ピッチ 0.1 µm
スライス 53枚
SEM
加速電圧 10 kV
照射電流 14 nA
EDS
画素数 512×348

EDSマップの三次元再構築

3D-EDSにより得られた反射電子組成像とEDSマップの三次元再構築像を Fig. 3に示す。Aは得られた反射電子組成像、Bは反射電子像の透過率を変え、内部の非金属介在物を示した像、CはMIP (Maximum Intensity Projection: 三次元再構築されたデータに対し任意の視点方向に投影処理を行い、投影経路中の最大値を投影面に表示させる) 法により非金属介在物を抽出した像である。内部の情報を抽出することにより非金属介在物の形状や分布が明瞭に観察された。さらに 3D-EDSの結果をDに示す。アルミニウム (緑)、ケイ素 (黄)、チタン (マゼンタ) のEDSマップを重ね合わせた像で、ケイ素中に若干のチタンの分布と断面にアルミニウムが存在している様子が分かる。

Fig. 3

Fig. 3 日本刀の非金属介在物の反射電子組成像とEDSマップの三次元再構築像

A: 反射電子組成像、B: Aの透過像、C: AのMIP像、D: アルミニウム (緑)、ケイ素 (黄)、チタン (マゼンタ) のEDSマップの重ね合わせ

Fig. 4に Fig. 3 Dの一部を拡大した結果を示す。Fig. 4 Aから、ケイ素が塊りとなって広く分布していることが分かる。ケイ素の塊りの内部を見るためにケイ素の透過率を55%にした画像をFig. 4 Bに示す。この画像から、ケイ素の内部にアルミニウムが広く分布し、チタンも多く分散していることが確認された。このような分布になる凝固過程は次のように考察できる。

  • ① ケイ素およびアルミニウムに富んだ領域はガラス質であり、凝固過程でまずチタン酸化物粒子が析出。
  • ② ガラス質成分は、過冷却状態からガラス転移点に達する過程で、熱伝導度の高い鉄に接しているケイ素に富んだガラス質が先に固化。
  • ③ 次にアルミニウムに富むガラス質が固化し、アルミニウムに富む領域がケイ素に富む領域に内包された状態になった。

また、非金属介在物中にチタン酸化物が析出していることから、イルメナイト (ilmenite: FeTiO3) を多く含んだ砂鉄が使われていることが分かった。
このように、3D-EDSは、SEM観察では分からなかった元素の三次元的な形状や分布が明瞭に観察できるため、熱処理工程を考察する重要な情報が得られる手法である。

Fig. 4

Fig. 4 EDSマップ三次元再構築像の一部拡大像

A: ケイ素透過率0%、B: ケイ素透過率 55%

このページの印刷用PDFはこちら。
クリックすると別ウィンドウが開きます。

PDF 1.2 MB

関連製品 RELATED PRODUCT