• 概要

EM2022-05

はじめに

透過電子顕微鏡 (TEM: Transmission Electron Microscope) は、試料に数百キロボルトに加速した高速電子線を照射し、試料を透過した電子を用いて、試料の内部構造や組織を観察・分析する装置である。近年、細く絞った電子線を試料上で走査 (スキャン) し、試料を透過した電子をいくつかの検出器で検出する走査透過電子顕微鏡法 (STEM: Scanning Transmission Electron Microscopy) が多くの分野で利用されている。このSTEMでは、検出器の形状や位置によって得られる情報が異なる像を得ることができる。代表的な例として、透過電子を主に検出して像を形成する明視野 (BF: Bright Field) 像と高角度に散乱された電子を環状の検出器で検出して像を形成する高角度環状暗視野 (HAADF: High Angle Annular Dark Field) 像などがある (Fig. 1)。BF像は、従来のTEMの明視野像と同様のコントラストに回折や試料による吸収の情報を得ることができる。一方、HAADF像では試料の原子番号の2乗 (Zコントラスト) と試料の厚さに比例するコントラストが得られ、厚さが同じであれば試料を構成する組成の違いを直感的に観察でき、様々な材料解析に用いられている。

また試料から後方に散乱した二次電子 (SE: Secondary Electron) あるいは反射電子 (BSE: Back-Scattered Electron) をマイクロチャンネルプレート (MCP) などの検出器を用いて検出することで、試料の表面情報を得ることも可能である (Fig. 1)。このように同一視野の試料の内部と表面の情報を取得することで、試料を多角的に解析することができる。なお、マイクロチャンネルプレートは、電子銃の種類や収差補正装置の有無に関わらず、種々のTEMに装着可能である。本アプリケーションノートでは、様々な試料の内部と表面の同時観察例を紹介する。

Fig. 1

Fig.1 検出器の位置の概略図

熱電子放出形電子銃を搭載した装置での観察例

【使用装置】 JEM-2100Plus
電子銃: 熱電子銃 (LaB6)、対物レンズ: 高分解能タイプ、加速電圧: 200 kV、STEM空間分解能: 1 nm

ITOナノ多孔体

熱電変換材料は、熱を電気に変換することが可能な材料である。熱電変換性能の向上のためには、熱伝導率の低下が重要であり、材料の多孔体化が有効な手段の一つとして考えられている。Fig. 2は、熱電変換材料の一つであるSnドープIn2O3 (ITO) のナノスケール多孔体の観察結果である。BF像およびHAADF像からは、試料が規則的なナノ構造を有することが観察できるが、透過した電子の情報しか得られないので、層状に並んだ細孔の一つがどのような形状かを判断することは難しい。一方、SE/BSE像による表面観察により、各層を表面から判別できるので最表面に露出している球状の細孔が試料中に規則的に配列している様子が観察できる。

Fig. 2 (a)

Fig.2 ITOナノ多孔体 (a) BF像 (b) HAADF像 (c) SE/BSE像 

(早稲田大学 先進理工学部 下嶋敦教授よりご提供いただいた)

電界放出形電子銃を搭載した装置での観察例

【使用装置】 JEM-F200
電子銃: 冷陰極型電界放射電子銃、対物レンズ: 高分解能タイプ、加速電圧: 200 kV、STEM空間分解能: 0.16 nm

Pt粒子 / カーボンブラック

触媒効果を高くするためには、貴金属ナノ粒子の粒径を小さくして比表面積を大きくすることや、担持体の表面に貴金属ナノ粒子が存在していることが必要である。Fig. 3は、カーボンブラックに担持されたPt粒子触媒の観察結果である。BF像およびHAADF像から、様々な形状や粒径のPt粒子を観察できる。特にHAADF像では、Pt粒子とカーボンブラックの原子番号の違いから、Pt粒子を高いコントラストで区別でき粒径や形状を認識できる。またSE/BSE像からは、Pt粒子がカーボンブラックの表面に担持されている様子を観察できる。BF像およびHAADF像の黄色矢印で示されたPt粒子に注目すると、SE/BSE像では観察されないことから、このPt粒子がカーボンブラックの内部または裏表面に担持されていることがわかる。

Fig. 3 (a)

Fig.3 Pt粒子 / カーボンブラック (a) BF像 (b) HAADF像 (c) SE/BSE像 

球面収差補正器を搭載した装置での観察例

【使用装置】 JEM-ARM200F
電子銃: 冷陰極型電界放射電子銃、対物レンズ: 超高分解能タイプ、加速電圧: 200 kV、STEM空間分解能: 0.078 nm

ZnドープCdS / CdSe

蛍光性ナノ粒子である量子ドットは、その大きさや形状を制御し起電力特性や蛍光特性を調整することで、太陽電池やディスプレイなどに応用されている。Fig. 4は、ZnドープのCdS / CdSeのナノ粒子の観察結果である。球面収差補正器を搭載した装置を用いることにより、BF像やHAADF像はもとより、SE/BSE像においても、ナノ粒子の原子分解能の像が観察されている。

Fig. 4 (a)

Fig.4 ZnドープCdS / CdSe (a) BF像 (b) HAADF像 (c) SE/BSE像 ※加速電圧80 kVにて観察

(The Hebrew University of Jerusalem Uri Banin教授よりご提供いただいた)

おわりに

本アプリケーションノートでは、様々な試料のBF像、HAADF像およびSE/BSE像を紹介した。BF像やHAADF像から試料の内部情報が得られることに加え、SE/BSE像から試料表面の情報を同時に得ることができる。透過電子顕微鏡を用いることで、複数の装置を使用することなく装置一台で試料から様々な情報をできることから、試料を多角的にかつ高スループットに解析・評価することができる。

このページの印刷用PDFはこちら。
クリックすると別ウィンドウが開きます。

PDF 3.5 MB

関連製品 RELATED PRODUCT