GC-QMS Application: 窒素をキャリアガスに使用したHS-GC-MS法によるカビ臭物質の分析
- 概要
MSTips No. 368
はじめに
GC のキャリアガスとして広く使われているヘリウム (He) は、様々な事情により、一時的な価格の上昇やその供給状態の不安定化等の問題を抱えることがあり、供給の遅滞等が発生した場合には代替ガスとして別種のキャリアガスの使用検討が必要になる。代替ガスとして主に水素と窒素が検討されており、水素は最適な分離を行える線速度域が広く、GC のキャリアガスとして適しているが、可燃・爆発の恐れから扱いに注意を要する。このため安全性を重視した場合、窒素ガスの方が GC-MS への導入が比較的容易である。今回、窒素をキャリアガスに使用して水道法第4条に基づく「水質基準に関する省令」で規定されるカビ臭物質 (以後、カビ臭と省略) である2-メチルイソボルネオール (以後、2-MIB と省略) とジェオスミンを測定したので報告する。

JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta w/ MS-62071STRAP
実験
測定はトラップ型ヘッドスペース装置 MS-62071STRAP と、ガスクロマトグラフ質量分析計 JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta を使用した。サンプルは、4.5g の塩化ナトリウムと精製水 10mL を量り入れたヘッドスペース用バイアルに、2-MIB とジェオスミンを 1, 2, 5, 10ng/L となるよう添加し調製した。内部標準物質は、2,4,6-トリクロロアニソール-d3 を 20ng/L の濃度になるよう添加した。サンプルの測定条件を Table 1 に示す。
Table 1 Measurement Condition
Parameter | Value | |
---|---|---|
HS | Sample Block temperature | 80°C |
Sampling mode | Trap (Number of samplings = 3) | |
Heating and shaking time | 30min | |
Pressurized gas | Nitrogen | |
Trap tube | AQUATRAP1 (GL Sciences Inc.) | |
GC | Column | InertCap 1 (GL Sciences Inc.), 30m x 0.25mm, 0.4μm film thickness |
Column oven temperature | 40°C (3min) →5°C/min → 150°C → 20°C/min → 280°C (5min) | |
Injection mode | Direct connect column to the transfer line | |
Carrier gas | Nitrogen, 74.98kPa, Constant Pressure | |
MS | Ion source temperature | 250°C |
Interface temperature | 250°C | |
Acquisition mode | SIM | |
Monitor ion | 2-MIB (m/z 95, 107, 108), Geosmin (m/z 112, 111, 125), 2,4,6-Trichloroanisole (m/z 213, 215, 195) |
測定結果
各濃度のサンプルを n=3 で測定し、水道水質検査方法の妥当性ガイドラインに基づく検量線の真度・精度について評価した。Figure 1 に1回目の検量線、Table 2 に各検量線の濃度点から算出した平均定量値、真度、精度を示した。検量線の相関係数は 2-MIB、ジェオスミンともに 0.999 以上で良好な直線性が得られ、各濃度点の真度および精度は何れの濃度点においても ±20% 以内であった。
次に、基準値の 1/10の 濃度である 1ng/L のサンプルを試行回数 n=5 で連続測定し、定量値の変動係数 (Coefficient of Variation, C.V.と省略) を算出した (→Table 3)。C.V. の値は 2-MIB、ジェオスミンともに 10% 以下であり、水質検査において要求される 20% 以下を満たす結果が得られている。濃度 1ng/L の繰り返し測定1回目の各 SIM クロマトグラムを Figure 2 に示した。2-MIB、ジェオスミンともに十分な強度でピーク検出できていることがわかる。

Figure 1 Calibration curve of 2-MIB and Geosmin
Table 2 Quantitative value, accuracy and precision of calibration curve (n=3)
2-MIB | Geosmin | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 ng/L | 2 ng/L | 5 ng/L | 10 ng/L | 1 ng/L | 2 ng/L | 5 ng/L | 10 ng/L | |
Quantitative value (ng/L) | 1.03 | 2.02 | 4.69 | 9.81 | 1.03 | 1.98 | 5.06 | 10.01 |
Accuracy (%) | 103.3 | 100.8 | 93.9 | 98.1 | 103.2 | 98.9 | 101.1 | 100.1 |
Precision (%) | 2.5 | 11.8 | 5.7 | 2.1 | 4.2 | 1.3 | 1.3 | 0.2 |
Table 3 Quantitative value and C.V. in 1ng/L (n=5)
2-MIB | Geosmin | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
#1 | #2 | #3 | #4 | #5 | #1 | #2 | #3 | #4 | #5 | |
Quantitative value (ng/L) | 1.03 | 1.16 | 1.13 | 1.14 | 0.96 | 1.01 | 1.13 | 1.05 | 0.92 | 1.17 |
C.V. (%) | 7.8 | 9.4 |

Figure 2 SIM chromatogram of 2-MIB and Geosmin at 1ng/L concentration
まとめ
トラップ型ヘッドスペース装置 MS-62071STRAP 、ガスクロマトグラフ質量分析計 JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta を使用することで、キャリアガスに窒素を使用してカビ臭を測定した結果、水道水質検査方法の妥当性ガイドラインに基づく検量線の真度・精度を満たす結果が得られ、基準値の 1/10 の濃度においても水質検査において必要とされる感度を得ることが可能であった。
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