熱分解GC/MSによる 電気電子機器材料中の臭素化ジフェニルエーテルの分析

  • 概要

MSTips No.10

最近EU(欧州連合)では、廃電気電子リサイクル指令(WEEE:Waste Electrical and Electronic Equipment) や特定危険物質の使用禁止指定(RoHS:Restrictions on Hazardous Substances)といった環境汚染を未然に防ぎ、かつ資源の有効活用を目的とした画期的な法整備が進められている1)。その中でRoHS指令では、鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、ポリ臭素化ビフェニール(PBBs)、そしてポリ臭素化ビフェニールエーテル(PBDEs)の6種類の化合物が使用規制物質となっている。特にPBBsとPBDEsは、廃棄処理における燃焼過程でポリ臭素化ジベンゾフラン(PBDFs)等のダイオキシン類化合物を生成する可能性があるために規制対象となっている。
そこで今回は、難燃剤としてPBDEsを用いた難燃加工プラスチック用原料であるポリマー試料を熱分解― GC/MS法によって測定を行い、加熱による PBDEsの熱分解挙動を確認した。

検討方法

熱脱着装置には、フロンティアラボ社製のダブルショットパイロライザーを用い、日本電子製の四重極型質量分析計 Automass-SUNを接続したシステムで熱脱着―GC/MS分析法を行った。
測定は、まずパイロライザー(Py)とMSを、内径0.25mm長さ5m程度の不活性化処理済みノンコーティングキャピラリーで接続することによる発生ガス分析を実施した。炉の温度は50℃から650℃まで毎分20℃で昇温し、Pyと GCとのインターフェイス部及びGCオーブンの温度は350℃、またMSのイオン源及びインターフェイス温度は300℃とした。そしてMSにおけるイオン化は、EI法を用い、イオン化電圧は70V、イオン化電流は400μAとし,測定は、m/z100から 1,000の質量範囲を1秒の挿引時間でスキャン測定した。
次にGCカラムをUltraALLOY-1の内径0.25mm、長さ15m、膜厚0.25μmに交換し、さらに上記分離カラムの注入口から10cmのところにフロンティアラボ社製のマイクロジェット冷却装置を装着し、カラムの極一部分を冷却することを可能にした。これによって熱分解装置において任意の温度で発生した複数の混合ガス成分を一旦、分離カラム先端にトラップすることができ、その後冷却を解除することによって通常の分離分析を行うことが可能となる。本測定におけるGCオーブンの温度は、臭素系化合物が発生する温度領域を対象としたため、120℃で1分間保持した後、360℃までを毎分10℃で昇温し、最終温度で10分間保持する条件で行った。その他のPy及びMSの条件は、前述した発生ガス測定条件と同様である。
実試料は、難燃加工プラスチック用原料の一種であるポリスチレン系ポリマーで、溶媒抽出-GC/MS法によ って、高濃度の10臭素化ビフェニールエーテル(DeBDE)を含有していることが確認されているものである。本試料は、ペレット状で、一粒あたりの重量は、およそ0.015mg程度である。

結果と考察

発生ガス分析におけるTIC

図1 発生ガス分析におけるTIC

発生ガス分析によるトータルイオンクロマトグラム(TIC)を図1に示す。
図1より、試料温度が約150から300℃付近の領域が1段階目の発生ガスの生成。次に約300℃付近で急激にTICが上昇し、約350℃をピークとした2段階目の発生ガスの生成。そして、約370℃付近で再度TICが立ち上がり、500℃程度で反応が終了するといった3段階目の発生ガスの生成。以上大きく3段階の発生ガス生成挙動が確認された。さらに各発生ガス領域におけるマススペクトルを図2に示す。

各発生ガス温度領域におけるマススペクトル

図2 各発生ガス温度領域におけるマススペクトル
A:第1段階目、B:第2段階目、C:第3段階目

図2より、第1段階目(a~b)の発生ガスは、鎖状炭化水素化合物の混合物であり、ポリマーに共存する添加剤等の化合物が熱脱着されたと思われる。また第3段階目(c~d)の発生ガスは、ポリスチレンモノマー、ダイマー、及びト ライマーの混合スペクトルであり、ポリスチレンポリマー主鎖の熱分解反応による分解生成物と思われる。そして第2段階目(b~c)の発生ガスは、臭素原子を含む化合物に見られる特徴的な安定同位体パターンを示しており、さらにその安定同位体比率から、4もしくは5つの臭素原子を含む化合物であることが推測される。よってこれらが臭素系難燃剤成分である可能性が非常に高いと考えられる。
さらに図3に、臭素系化合物の発生ガス成分のGC/MS分析によるTICとPBDEsの各臭素置換数ごとの分子イオン[M]+によるマスクロマトグラムを示す。
図3より、1~7臭素化体までのマスクロマトグラムにおいてピークが検出された。各マスクロマトグラムピークは、比較的小さいピークが溶出した後、その数分後に大きなピークが溶出するという規則的なパターンを示しており、 臭素置換数の増加に伴って溶出時間が一定間隔で長くなっ ていると推定できる。これは同一構造を有する化合物の同 族体溶出分布を示しているものと思われる。図3におけるピ―クXのマススペクトルとそれらのライブラリー検索結果を図4に示す。
まず各マスクロマトグラムにおける比較的強度の小さいピークは、マススペクトルよりPBDEsであることが確認された。本試料中に添加されているPBDEsは、DeBDEであることから、低臭素化体PBDEsは、熱分解反応による脱臭素化物であると考えられる。これはPBDEsが、300℃程度の熱分解温度で容易に脱臭素化反応を起こすことを示唆している。一方図4より、各マスクロマトグラムで比較的強度の高いピークは、PBDEsより2水素原子少ないPBDFsであることが確認された。やはりこれもDeBDEの熱分解反応によって生成された分解生成物であると考えられ、各PBDFs同族体の安定同位体による[M+2]+イオンがPBDEsの[M]+イオンと質量数が非常に近いことによって検出されたものと思われる。本データのみでは両者の正確な量関係は不明であるが、DeBDEの熱分解反応によって、多量のPBDFsが生成される可能性が示唆された。従って、臭素系難燃剤として大量のPBDEsが添加された物質の焼却等による処理においては、熱分解生成物による環境汚染を十分注意する必要があると考える。

第2段階目発生ガス成分におけるPBDEsマスクロマトグラム

図3 第2段階目発生ガス成分におけるPBDEsマスクロマトグラム
上からTIC,m/z248(MoBDEs), m/z326(DiBDEs), m/z404(TrBDEs), m/z482(TeBDEs), m/z560(PeBDEs), m/z638(HxBDEs), m/z716(HpBDEs), m/z794(OcBDEs), m/z872(NoBDEs), m/z950(DeBDEs)

ピークXのマススペクトルとライブラリー検索結果

図4 ピークXのマススペクトルとライブラリー検索結果

参考文献

  • 日本機械輸出組合: environment Update. 海外環境関連情報誌 第20号、Vol4 No2(2002)
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