合成高分子の溶液NMRスペクトルの多変量解析
日本電子News Vol.42, 2010
右手 浩一
徳島大学ソシオテクノサイエンス研究部
分子の構造を調べるためにNMRを測定するときは、試料をできるだけ精製するのが基本であろう。やむを得ず混合物のまま測定することもあるが、試料に含まれる化学種の数に応じて共鳴線の重なりが増え、帰属や定量は難しくなる。スペクトルの多変量解析(multivariateanalysis)は、このような場合に役立つ方法である。
NMRの分野で多変量解析が注目されるようになったのは、メタボローム解析と総称される、生物代謝物のプロファイリングにおいて、その有用性が広く認められたことが一つの理由と思われる。たとえば、種々の毒物を与えたラットや糖尿病ラットの尿と健康なラットの尿を多数採取し、それらの1H NMRスペクトルの多変量解析によって、ラットを病態別に分類できることが報告されている。筆者は、同様の方法が日本茶や薬用植物の品質評価に利用できることを、福崎英一郎・大阪大学教授らとの共同研究によって知る機会を得た。これを合成高分子の構造解析に応用してみようと考えたのが、本稿で述べる研究のきっかけである。合成高分子は、分子量や立体配置、モノマー連鎖などが少しずつ異なる化学種の複雑な混合物であり、低分子やタンパク質のように単一物質として分離精製することは難しい。
合成高分子の測定に多変量解析を組み合わせた研究報告としては、すでに、ラマン および近赤外分光法 、示差走査熱量分析、固体NMRなどの先例がある。合成高分子のDOSYやGPC-NMRのデータ解析に多変量解析を用いた例もある。
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