歯を用いた電子スピン共鳴線量計測
日本電子News Vol.42, 2010
豊田 新
岡山理科大学
線量計測に用いられてきている。これは、放射線によってヒドロキシアパタイト中にCO2−と考えられる安定なラジカルが生成するので、これを電子スピン共鳴(ESR)によって計測することによって、これまでに受けた放射線の吸収線量を求めるものである。この方法は、日本の研究者によって最初に提案され[1]、原爆による被爆者の線量計測が行われた。特別な線量計測素子をもっていない一般公衆の集積被曝線量を個々に測定できるという特長が注目され、その後、チェルノブイリ原子力発電所事故を初め、セミパラチンスク核実験場周辺の住民など種々の放射線事故による被曝線量計測に用いられてきた。検出できる最小被曝線量は30mGyとの報告があるが、実用上は100 mGy 程度と考えられる。測定技術の確認のためにこれまで5回の国際線量計測相互比較が行われた。結果を見ると、回を重ねるに従ってその技術が向上していることがわかる。こうした技術の進歩を踏まえて、このほど、ESR(EPR)線量計測が、国際標準化機構(ISO)による国際規格として提案されることになり、現在その規格を決める作業が進められている。また、放射線事故といった緊急時のトリアージュに利用できるために、その場計測(In-vivo EPR dosimetry) 用の機器の開発も進んでいる。私たちの生活の中で放射線が広く用いられている現代社会において放射線事故はあってはならないものであるが、電子スピン共鳴線量計測は、事故の際の重要な測定技術としてほぼ確立され、私たちに安心を与える技術として身近なものになりつつあるといえるであろう。
- 続きは、日本電子News Vol.42のPDFファイルをご覧ください。
PDF 4.58MB