• 概要

低真空分析SEM(走査電子顕微鏡)とは通常の低真空SEMにX線分析機能(エネルギー分散形X線分光器=EDS)を付加し、試料表面の観察のみならず試料を構成している元素分析を可能にした装置です。

1. 概略

低真空分析SEM(走査電子顕微鏡)とは通常の低真空SEMにX線分析機能(エネルギー分散形X線分光器=EDS)を付加し、試料表面の観察のみならず試料を構成している元素分析を可能にした装置です。

図1に低真空SEMにEDSを装着した装置外観図を示します。SEMでは電子ビーム照射がおこなわれるので、試料表面には導電性が求められ、その為に絶縁体試料観察時には表面への金属スパッターや真空蒸着、いわゆる試料前処理が必要でした。この前処理工程を省いて絶縁試料をそのままで観察及び分析できるのが低真空分析SEMです。

EDS付属低真空SEM
図1. EDS付属低真空SEM

帯電除去の原理図を図 2 に示します。

ガス分子で充満された試料室に絶縁試料を置き、そこに電子線を当てると、電子線とガス分子の相互作用のためガス分子のイオン化がおきます。その、イオン化された正のガス分子は試料表面に帯電している負の電子と結合して帯電を緩和します。これがガス分子による電子の中和現象と言い低真空SEM(LV-SEM)の原理です。
観察のみを行うときはSEMの加速電圧を1kV前後に下げて無コート観察を行う手段が有りますが、分析の時はX線励起電圧の兼ね合いで低加速電圧に出来ません。

ガス分子による帯電緩和
図 2. ガス分子による帯電緩和

2. 低真空分析SEMの特徴

通常SEMでは観察及び分析が前処理なしで行うには困難な試料、例えば、絶縁体、半導体、含水・含油物質、コーティングしても帯電してしまうもの、多量のガス放出があって高真空にならないもの、貴重品や完成品検査品、絶縁物質の加熱、引っ張りなどの動的観察(分析)するもの、加速電圧を低くして観察できてもそのままでは分析できないもの、等にたいして低真空分析SEMは優れものです。勿論、従来手法での観察及び分析も対応出来ます。
観察のみを行うときはSEMの加速電圧を1kV前後に下げて無コート観察を行う手段がありますが、分析の時はX線励起電圧の兼ね合いで低加速電圧に出来ません。

3. 低真空分析SEMの定性分析応用

低真空分析SEMの代表例として大形コンクリートの分析例を以下に示します。 従来、コ ンクリート類の微小領域分析は、試料内部に吸着、充満しているガスのために、なるべくちいさいサイズにカットし、それを埋め込み研磨カーボン蒸着した後に観察及び分析をしていました。この作業工程のうち、カット、埋め込み、カーボン蒸着を省略できる低真空分析SEMは 分析者にとって結果を早く出せる魅力ある装置です。
図 3 は 40 mm 角のコンクリートの組成像とX線マッピング像です。

コンクリートの組成像とマッピング
LV - 組成像           SI - Kα X線像
図 3. コンクリートの組成像とマッピング

4. 低真空分析SEMの定量分析への応用

質鉱物など導電性がない場合でも、分析面を鏡面研磨するだけで定量分析が可能です。定量精度がどの位になるかは均一組成試料、換言すれば、電子線散乱が多少あっても影響が少ない試料ならば高真空モードと遜色ない結果が得られます。
しかし、一般的試料では、電子線の散乱は避けられず、微小領域の定量分析にはそれなりの注意が必要です。

透輝石の定性スペクトル
図4. 透輝石の定性スペクトル

表1. LVモードでの定量分析結果 試料 : 透輝石 (CaMgSi2O6)

表1 LVモードでの定量分析結果  試料;透輝石(CaMgSi2O6) 図4に透輝石の定性スペクトルと表1にそれぞれの真空度での定量分析結果を示します。 これは鏡面状に琢磨された1.6mmX2.2mmの試料を無蒸着で試料室圧力を変えて定量分析した結果です。EPMAでの分析値を目安とするならば、圧力が20~100Paで合計分析値、98%~102%が得られました。10Pa以下での定量精度不良については、おそらく試料表面上での帯電による影響と考えられます。

5. 低真空分析SEMの留意点

低真空雰囲気下での試料直前の電子線は、周辺に充満しておるガス分子との衝突で散乱を受け、電子線の照射領域を見かけ上大きくしています。一方、このガス分子との衝突で、帯電の中和現象で絶縁試料の無蒸着分析が出来ると言う相反したことが起きます。この事により、低真空SEMの分析には、分析者は常にガス分子による電子線散乱の影響を考慮していなければなりません。


6. まとめ

低真空SEMは非導電性試料を前処理無しで観察及び分析可能にしましたが、入射電子が散乱を受け、電子線の広がりを持ってしまう(別名;スカーテング)。 この広がりは試料室の真空圧力に依存し、SEM像には大きな影響はないもの、分析においては、電子線照射点以外からのX線励起を起こさせる要因を作ってしまう おそれがあります。 いずれにせよ、試料作成や装置操作の簡便さと、分析目的によっては、より早く分析結果が得られるので、分析低真空SEMは多くの分析技術者に期待されている装置です。


参考文献

1)柳原他;1998年日本電子EPMA・表面分析ユーザーズミーティング アプリケーション ノート"低真空SEMによるEDS分析の注意点"

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