有機電子デバイスの劣化機構、世界初のin-situ評価

筑波大学 数理物質系の丸本一弘准教授は有機半導体を用いた有機電子デバイスの開発や特性評価・物性研究の第一人者。研究の過程で、有機電子デバイス使用時に性能が低下する原因を特定する手法を開発。耐久性を大いに高められると期待されています。

期待集める有機太陽電池

プリンターで印刷したり、塗って乾かすだけで半導体が製造できる。有機半導体は、次世代の半導体として大いに期待されています。ノーベル化学賞を受賞した白川英樹博士らによって有機物の導電性が示されたのが1977年。それから40年近くが経過し、飛躍的に研究が進み、さまざまな有機電子デバイスの実用化が見えてきました。

その一つが有機太陽電池です。現在主流のシリコン系太陽電池は、その構造上、厚さ100ミクロン以下にすることはできませんが、有機半導体なら数百ナノメートルと圧倒的な薄さを実現できます。ラップフィルムのように曲げたり、貼り付けたりするのも自由自在で、自動車の窓に貼り付けて発電しながら走行するといった応用に期待が集まっています。もっとも、その前に大きな問題が立ちはだかっています。
早くから有機太陽電池は発電を続けるうちに、発電量が急激に落ちてしまう現象が報告されていました。素子のどこかに電荷が蓄積されてしまうこと(電荷トラップ)が原因ではないか、といった仮説が立てられましたが、原因の特定に至ることはありませんでした。

仮説を実証する革新的測定

ESR装置のある工学系学系棟

ESR装置のある工学系学系棟

そこに一石を投じたのが丸本准教授です。有機太陽電池に使われる導電性高分子の特性を研究する中で、材料の末端に電荷トラップが生じやすいことを発見。
さらに太陽電池のような電子デバイスに電気を通すと、材料面同士の界面で電荷がトラップされてしまうという事実を、世界で初めてESR(Electron Spin Resonance=電子スピン共鳴)を用いて測定したのです。まさに仮説が事実として確認された瞬間でした。

発想の転換が導いたESRの新たな役割

発見を支えたESRとは、材料評価を行う装置の一つ。NMRが核スピンに磁場をかけたときに生じるラジオ波の吸収を測るのに対して、ESRは電子スピンに磁場をかけることで生じるマイクロ波の吸収を測ります。
一つの結合軌道内で電子が対になっている場合はマイクロ波の吸収は生じませんが、ラジカルのように対になっていない電子(不対電子)を持つ分子の場合、マイクロ波の吸収が起こります。つまり、ESRはラジカルを測ることに特化した装置といえます。

通常、化学では、分子内の結合が切れてできる不対電子を持つ分子のことをラジカルと呼びますが、電子デバイスでいうところのラジカルは、結合が切れることによってできるのではありません。
電流によってそこに余分な電荷が入ると、一つの結合に局在するのではなく、分子上にある広がりを持って共有するようになります。
余分な電荷が存在する位置と量によって発生するESRシグナルが異なるため、どこにどのぐらいの電荷があるかを測定できるのです。

日本電子製ESR装置 JES-FA200を2台使用いただいています

日本電子製ESR装置 JES-FA200を2台使用いただいています

ESR自体は決して新しい技術ではなく、材料の定量測定では、すでに70年の歴史があります。しかし、有機電子デバイスの性能測定に用いたのは、丸本准教授が初めて。電子デバイスの性能測定といえば、電気がどれくらい流れるかを測定するのが順当な考え方ですが、ESRは、流れる電荷を捉えることはできません。
しかし、丸本准教授は「流れるものを測れないのなら、流れないものを測ればよい」と考えたのです。まさに逆転の発想。結果として、ESRは、電子デバイスの測定装置という新たな活躍の場を与えられることになったのです。今回、丸本准教授が使用した日本電子のESRは、光照射窓が広く、外光を取り入れやすいため、太陽電池のような光で発電するデバイスの測定には、まさにうってつけでした。

素子開発に革命的な一歩

丸本准教授が開発した電荷測定法は、すでに産業界に大きな影響を与え始めています。デバイス素子作成の初期段階で、性能評価ができるようになり、耐久性の高い素子を早期に取捨選択できるようになったのです。これにより開発や改良のスピードアップが期待されており、現在、丸本研究室には企業からの指導依頼や共同研究の申し出が殺到しています。
丸本准教授は、「ある材料が何でできているのかを知りたければ、NMRに分がありますが、電気を通すデバイスとしての性能がどうなのかは、ESRでしかわかりません。有機電子デバイスだけでなく、いろいろな電子デバイスをESRで見てみたいですね」とESRへのさらなる期待を口にします。流れない電荷を捉えるミクロの目。その“ユニークな視点”が、電子デバイスの研究開発を、大きく変えようとしています。

  • PROFILE

    丸本 一弘(まるもと かずひろ)

    筑波大学 数理物質系 准教授 博士(理学)

    1968年生まれ。
    1992年 北海道大学理学部卒業。
    1997年 大阪大学大学院理学研究科 博士課程修了(博士<理学>)。
    名古屋大学大学院助手を経て、2006年より筑波大学大学院数理物質科学研究科准教授、現在に至る。
    2013年より物質・材料研究機構 太陽光発電材料ユニット 外来研究員、産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター 客員研究員を兼任。

    丸本 一弘(まるもと かずひろ)