理論

  • アイコナール
    eikonal

    空間におけるある波の位相が同一の面を光路長(位相を2πで割って波長をかけたもの)が同一の面に換算したもの。アイコナールSの一定の面は等位相面を表す。アイコナールの勾配∇Sは光線の進む方向を与える。|∇S |はその場所の屈折率を与える。アイコナールの考えは、屈折率の代わりに、結晶のひずみに応じてブロッホ波の振幅が場所的に変化していく様子を記述する動力学理論に使われている。

  • アルファフリンジ
    <em>α</em> fringe

    結晶性薄膜試料の表面に対して斜めに入る積層欠陥面(積層欠陥を挟む二つの結晶領域に変位がある)を二波近似回折条件で撮影するとき、明視野像および暗視野像に現れる特定のコントラストを持つ縞のこと。

    図1に、試料の表面に対して斜めに入る積層欠陥からの縞状のコントラストとその模式図を示す。図1(a)はチタン酸鉛(PbTiO3)の試料の表面に対して斜めに入った積層欠陥からの暗視野像である。図1(b)は図1(a)の一部分の拡大図である。図1(c)に積層欠陥とそれによって作られる縞状のコントラストを模式的に示す。格子面は積層欠陥の両側でずれている(変位している)。この変位をRとすると、回折波gに及ぼす位相角αα=2πg・R となる。積層欠陥が試料の上下の表面と交わるところに現れる縞のコントラストが、縞の中央(試料の厚さの半分の位置)に関して、明視野では対称になるが暗視野では反対称になる。図1(b)で、両端の縞が中央に対して反対称、すなわち黒(D)と白(B)のペアになっているのが分かる。
    この対称性から、2つの結晶領域間の位相角αの正負(変位の正負)、試料に対する界面の傾きの向き(右肩上がりか、左肩上がりか)が分かる(図1(c)では右肩上がり)。特に、Siなどの積層欠陥が、挿入型(extrinsic)か欠損型(intrinsic)を決めるために使われてきた。
    位相角αに依存する縞のコントラストは、吸収効果を取り入れた動力学理論によって説明される。詳細は文献 Marc De Graef: Introduction to Conventional Transmission Electron Microscopy, pp499~ を参照のこと。αフリンジの名称は位相角αに由来する。
    なお、像の縞の強度プロファイルの解析から、結晶領域間のずれのベクトルを定量的に測定するのは難しく、定量的な測定には、大角度収束電子回折法が用いられる。実例としては、以下の文献を参照すると良い。

    • S. Yamada and M. Tanaka: J. Electron Microscopy 46 (1997) 67-74
    • M. Tanaka, M. Terauchi and K. Tsuda: Convergent Beam Electron Diffraction III (1994) pp156-177, JEOL Tokyo
    α fringe

    図1(a): 試料の表面に対して斜めに入った2つの積層欠陥の暗視野像。試料はチタン酸鉛(PbTiO3)。加速電圧200kV。縞の上側のフリンジは明るく (B)、下側のフリンジは暗く (D)、特徴的な非対称なコントラストを示している。なお、中央以外の部分のギザギザの縞は、積層欠陥が2枚ジグザグに重なっているために現れたものである。
    図1(b): 図1(a)中の縞の一部分を拡大した図。黒(D)と白(B)のフリンジのペアがみられ, 両端(上下)が中央に対して反対称のコントラストになっているのが分かる。
    図1(c): 積層欠陥を含む試料と得られる縞模様の模式図。


  • 暗視野像
    dark-field image

    対物レンズの後焦点面上に形成される回折図形中の1個の回折波を対物絞りで選んで結像した像。選んだ回折波が起こっている試料上の場所が像の上で明るく見える。明視野像とともに、格子欠陥の解析や試料の膜厚測定に利用される。

    FeAl合金の結晶欠陥(転位線)の暗視野像⇒
    右下の回折図形の矢印で示した回折斑点(スポット)を用いた。転位線のところだけがブラッグの回折条件を満たすようにして撮られているので、転位線は明るく見えている。

  • 異常吸収
    anomalous absorption

    結晶性試料に電子線を入射すると、動力学的回折効果によって、原子列の上を通る電子波と原子列の間を通る電子波ができる。原子列の上を通る波は平均的な吸収より大きな吸収を受け、原子列の間を通る波は平均より小さな吸収を受ける。このように平均吸収より大きいまたは小さい吸収を受ける現象を異常吸収という。異常吸収の主な原因は、入射電子が受ける熱散漫散乱である。

    anomalous absorption_01

    図1.(a) 明視野像、(b) 回折パターン、(c)暗視野像、(d) 暗視野像、試料:Al単結晶薄膜。
    楔形の断面を持ち一様に曲がった単結晶薄膜を、次数の異なる反射(系統反射)のみを優先的に起こす入射条件のもとで観察すると、明視野像および暗視野像に縞模様(等厚-等傾角干渉縞)が観察される。この縞はタケノコ縞と呼ばれる。
    暗視野像 (c)、(d)に示した励起誤差 “s = 0”に沿っての縞の強度変化は等厚干渉縞であり、“s = 0” と直交する方向に沿っての強度変化は等傾角干渉縞である。(c) および (d) の “s = 0” に沿う位置では、それぞれのブラッグ反射条件をちょうど満たしている。
    電子回折の動力学理論によると、一つの回折波が強く励起されると、原子列の上を通る定在波と原子列の間を通る定在波が生ずる。原子列の上を通る定在波は原子列に強く衝突するため大きな吸収を受ける。原子列の間を通る定在波は原子列に対してあまり衝突しないので、吸収は弱い。
    明視野像 (a)で、二つのタケノコ縞に挟まれた領域では、原子列の上を通る定在波が強く励起されるため、平均より大きな吸収を受けて暗く見える(異常吸収)。一方、二つのタケノコ縞の外側では原子列の間を通る定在波のほうが強く励起されるため、平均より小さい吸収しか受けず、明るく見える(異常透過)。タケノコ縞の中央 “s = 0” の位置では、原子列の上を通る定在波と原子列の間を通る定在波が同じ強さで励起されるため、干渉効果が最大になり強いうねり(等厚干渉縞)が生じる。暗視野像 (c)、(d) では、原子列の上を通る定在波と原子列の間を通る定在波が”s = 0” の両側で同じ大きさで励起されるため、タケノコ縞の強度は対称的になる。

    anomalous absorption_02

    図2.一様に湾曲し厚さが一様に変化する試料に現れる干渉縞(タケノコ縞)の模式図(左図)および、明視野像 (000) および暗視野像 (111,)のシミュレーション例(右図)。
    結晶が湾曲していない場合は、まっすぐな等厚干渉縞になるが、一様に湾曲した単結晶薄膜では、タケノコ縞になる。試料:Al、加速電圧:100kV、試料厚さ:10 ~ 500nm。
    (シミュレーション画像提供: 東北大学 津田健治教授)
     


  • 異常透過
    anomalous transmission

    結晶性試料の厚さが厚くなると、平均より大きな吸収を受ける電子波は速く減衰するが、平均吸収より小さな吸収を受ける電子波は減衰が遅く大きな透過力を持つ。この現象を異常透過という。

  • 位相コントラスト
    phase contrast

    散乱波の位相の変化に起因する像のコントラスト。HREM像は位相コントラストを利用して形成される。試料が非常に薄いと、電子波はほとんど吸収を受けず、原子によってその位相だけが変化すると近似できる(弱位相物体近似)。収差のないレンズを用いて、試料からの透過波と散乱波を理想像面上で干渉させると、散乱波の位相のずれは強度の変化(コントラスト)として現れない(位相の変化を検出できない)。散乱波は透過波に対してπ/2の位相のずれを受ける。散乱波の位相π/2を、電子レンズの球面収差による位相のずれ量を焦点はずし量で調節して、π/2だけさらに位相をずらすと回折波の位相変化はπになる。この位相の変化は(複素数ではなく実数の)振幅の変化に変換され、透過波の振幅と重ね合わされて像にコントラストを生ずる。なるべく広い波数の範囲で位相がπ/2ずれ、しかもそれらの波の振幅が大きくなるように焦点はずし量を選ぶと、結晶構造像が得られる。

    phase contrast⇒
    加速電圧80 kVで取得された単層グラフェンの高分解能TEM像。
    単層グラフェンは弱位相物体であるため、像コントラストは炭素原子による電子線の位相変化を反映している。
    この像は、球面収差補正装置を搭載した顕微鏡を用いて、位相コントラストを発生させるために若干デフォーカスさせた状態で撮られている。
    この視野では、グラフェンが大部分において六角格子を組んでいるのがわかる。左側の白破線で囲んだ領域には格子欠陥が見られる。また、左上部の黄色破線で囲んだ領域ではアモルファス状態になっていることを確認できる。

  • 位相コントラスト伝達関数
    phase-contrast transfer function (PCTF)

    電子が試料を透過すると、試料の静電ポテンシャル (屈折率) によって電子波の位相が変わる。TEM像は、散乱された電子波の振幅の二乗 (強度) の分布を見ているのであり、電子波の位相の変化をTEM像で観察 (検出) することはできない。そこで、位相の変化を振幅に変換することによって位相の分布をTEM像で観察することが可能になる。回折波の位相を変換して得た振幅が、どの程度TEM像に寄与する (伝達される) かを表した関数を位相コントラスト伝達関数 (PCTF) という。なお、PCTFを用いて試料の像を議論できるのは、試料中で多重散乱がなく、電子線が受ける位相の変化が小さい (弱位相物体近似という) 場合で、具体的には試料の厚さが~10 nm以下の場合である。
    電子線の位相だけを少しだけ変えるような薄い試料 (弱位相物体) の場合には、対物レンズの持つ球面収差に応じて対物レンズの焦点はずし量を調整することで、回折波の位相が振幅に変換され、試料の像が得られる。PCTFは、球面収差係数CSと焦点はずし量dfをパラメータとして、空間周波数qの関数として表される [1] 。

    ここで、λは電子線の波長を表す。括弧の中の第1項は焦点はずしによる回折波の位相変化で空間周波数qの2乗に比例する。第2項は球面収差による回折波の位相変化を表し空間周波数qの4乗に比例する。これらを足し合わせた位相変化のサイン関数がPCTFであり、回折波の位相の振幅への寄与の度合いを表している。位相変化がπ/2もしくは–π/2に近づくと、PCTFの値が1もくしは–1に近くなり、試料による位相変化は効果的に振幅に変換され、より正しい試料の像が得られる。全ての空間周波数に亘って関数の値が+1もしくは–1であれば理想的な像が得られる。しかし、球面収差の項と焦点はずしの項はqの次数が異なるため、そのような理想的な条件を作ることができない。そこで、なるべく広い空間周波数に亘って位相変化を–π/2に近づける条件 (シェルツァー・フォーカス条件) を選択すると、PCTFの値が広い空間周波数に亘って –1に近くなり、位相物体をTEM像として、すなわち試料を透過した電子波の強度 (振幅の2乗) として、観察できる。
    図に位相コントラスト伝達関数のグラフの例を示す。横軸は空間周波数であり、縦軸はPCTFの値を表す。図 (a) は正焦点の場合である。PCTFの値が+1に近づいている周波数領域が狭いので正しい像は得られない。 (値が正の場合は、原子の位置が相対的に明るく結像される。) 図 (b) はシェルツァー・フォーカス条件の場合を示す。PCTFの値が、幅広い周波数領域で –1に近づいている。 (値が負の場合は、原子の位置が相対的に暗く結像される。) PCTFが最初に横軸を切る周波数 (ファーストゼロ) の逆数を像の分解能と定義している。ファーストゼロより高い周波数では関数が正負にまたがって大きく変動するので、計算などの後処理をしない限り、それらの寄与は打ち消し合い、像の形成にはほぼ寄与しない。
    より精確には色収差などの効果によって周波数の増加とともに干渉性が悪くなる効果を表すエンベロープ (包絡) 関数をPCTFに掛け算する必要がある。

    図: 位相コントラスト伝達関数の例。加速電圧200 kV、球面収差係数0.5 mm。
    (a) 正焦点 (df = 0 nm) の場合と (b) シェルツァー・フォーカス (df = –41 nm) に合わせた場合。
    シェルツァー・フォーカスの場合は、正焦点の場合に比べて、像に寄与する回折波の位相 (振幅) の周波数領域が広く、ファーストゼロの空間周波数も高い。ファーストゼロの周波数は5.1 nm-1であり、空間分解能は0.20 nmになる。

    参考文献

    [1] David B. Williams and C. Barry Carter, "Transmission Electron Microscopy: A Textbook for Materials Science", Springer.

  • 一回散乱
    single scattering

    電子が試料に入射してから試料を出て行く間に1回だけ散乱する現象。

  • インターバンドトランジション
    interband transition

    ブラッグ反射を動力学理論で扱うと、ブラッグ反射近傍で許される波数を与える分散面(等エネルギー面)が作られる。一つの反射ごとに二枚の分散面が作られ、試料結晶への電子線の入射方向が決まると、ブラッグ条件からの外れの量および試料表面に垂直な方向とから分散面上での許される点が決まり、結晶の中で許される波の波数とその振幅が決まる。結晶が完全であればこれらは不変である。もし結晶に欠陥たとえば積層欠陥があると、分散面上での振幅が変化する。異なる分散面への波の移動をインターバンドトランジション(バンド間遷移)という。同じ分散面への波の移動をイントラバンドトランジション(バンド内遷移)という。以上は弾性散乱の場合であるが,非弾性散乱の場合を考えると、熱散漫散乱による小角の散乱ではインターバンドトランジションが起きる。プラズモン散乱ではイントラバンドトランジションである。内殻励起の場合は励起を起こす作用が小さい場合は(通常小さい)イントラバンドトランジションである。イントラバンドトランジションのときは弾性散乱で像に見られたコントラストが保たれるが、二つの面に付随するブロッホ波の対称性は異なるので、インターバンドトランジションではコントラストは失われる。(この用語は固体物理で使うバンド間遷移とは異なるものである。固体物理のバンド間遷移ではエネルギーが変わるが、電子回折の動力学理論のバンド間遷移ではエネルギーは変わらない。)

  • イントラバンドトランジション
    intraband transition

  • インフォーメーションリミット
    information limit

    位相コントラスト伝達関数によって伝達される位相情報が無くなる限界の波数。この限界は、電子線のエネルギーの広がり、加速電圧の安定度(これらは対物レンズの色収差と関係している)、対物レンズの安定度、入射電子線の開き角で与えられる包絡関数が、伝達される位相の大きさを零にする波数として与えられる。透過電子顕微鏡の分解能の一つの指標として使われる。これに対して通常の意味での結晶構造像の分解能はファーストゼロで与えられる。ファーストゼロとインフォーメーションリミットの間の位相情報はコンピュータ処理によって結晶構造像の高分解能化に用いられる。

  • ウィークビーム法
    weak-beam method

    系統反射が起こる条件において、次数の高い反射、たとえば3次の反射が丁度ブラッグ反射を起こす条件で、弱く励起されている反射、たとえば1次の反射の暗視野を撮る方法。この方法で転位を観察すると、暗いバックグラウンドの中に転位による歪みの大きい部分(転位芯に近い部分)だけが明るいコントラストを与える。その結果、転位像はシャープになり、転位の位置がより正確にわかり、転位が拡張しているかいないかの判定の精度が上がる。

  • 運動学的回折
    kinematical diffraction

    結晶性の試料に入射した電子はブラッグ条件を満たす格子面で反射(回折)する。反射が試料中で1回しか起こらないと仮定して回折現象を扱う近似法をいう。反射の強度は結晶構造因子の二乗に比例する。この近似は試料が薄い場合になりたつ(おおざっぱにいって 3nm以下)。試料が厚くなると何回も反射が起きるので、この近似はなりたたなくなり、回折強度や電顕像の説明には動力学的回折理論を適用しなければならない。

  • 衛星反射
    satellite reflection

    結晶の基本構造に、その格子周期より長い周期の変調構造が加わることがある。この場合、電子回折図形には、本来の格子が与える強い反射(主反射)による回折斑点の他に、変調に起因する弱い回折斑点が主反射の周囲に現れる。この回折斑点を衛星反射という。

  • エネルギーコントラスト
    energy contrast

    非弾性散乱電子の損失エネルギーの違いによる像のコントラスト。ある元素の吸収端エネルギーをエネルギー選択スリットで選択すると、その元素の試料内でのマッピングができる。将来は、特定の電子状態励起エネルギーを選択すれば、電子状態マッピングも可能になる。

  • エワルド球
    Ewald sphere

    ある逆格子点から、試料結晶に対する入射波の方向に沿って入射波の波長の逆数1/λの距離にある点を中心として画いた、半径1/λの球のこと。エワルド球は、どのブラッグ反射が起るかを、逆空間における入射波ベクトルと逆格子点の関係を使って説明するのに用いられる。エワルド球の上に乗っている逆格子点は全てブラッグ条件を満たす。入射波が高速電子(100~200keV)の場合、エワルド球の半径は逆格子点の間隔に比べて非常に大きくなり、エワルド球を平面と近似できるので、エワルド球と逆格子点との断面として現れる反射の指数付けはX線回折の場合に比べて容易にできる。

    Ewald sphere⇒
    金(Au)の[001]入射での逆格子点列 (格子面間隔d=0.204nm) とエワルド球。小さい円はMoKα特性X線 (λ=0.07109nm)、大きい円(円弧)は加速電圧200kVの電子線 (λ=0.002508nm) に対するエワルド球である。電子顕微鏡の取込角の一般的な限界である±10°まで表示してある。青色の逆格子点はブラッグ条件を近似的に満たす。

  • エンベロープ(包絡)関数
    envelope function

    高分解能法での像のコントラストには位相コントラスト伝達関数が重要な役割を果たすが、電子線のエネルギーの違いによる(対物レンズの)色収差、入射電子線の開き角、対物レンズの安定度によって、散乱角とともに位相コントラストは減衰する。この減衰を与える関数を包絡関数という。包絡関数が事実上ゼロになるところをインフォーメーションリミットという。

    envelope function⇒
    加速電圧200kVにおけるエンベロープ関数(包絡関数)の例 (黒線)。横軸は空間周波数、縦軸は試料の情報が電顕像にどのように伝達されるかを示す。包絡関数の値が1(あるいは-1)に近いほど、試料の構造の情報が結像に多く寄与する。包絡関数が零に近づくにつれて試料の構造情報は欠落してゆく。
    包絡関数は色収差や照射角広がり等の影響によって決まる干渉性の度合いを表す。色収差や照射角広がりが大きい場合は、散乱波の干渉性は空間周波数の増加とともに早く劣化し、包絡関数は早く零に近づく。実際の位相コントラスト伝達関数は、 灰色線で示すように包絡関数が掛かったもので、空間周波数の増加とともに像強度への散乱波の寄与が減少する。

  • オージェ電子
    Auger electron

    励起状態にある原子が基底状態に遷移するとき、そのエネルギーが特性X線の放出に用いられず、原子内の電子の放出に用いられるとき、この放出電子をオージェ電子という。オージェ電子のエネルギーは元素に固有であり、その脱出深さが非常に浅いので(0.5~数nm)、固体の極表面の定性定量組成分析および電子状態分析(化学結合状態分析)に利用される。定量精度は約10%である。

  • オートラジオグラフィー (電子顕微鏡オートラジオグラフィー)
    Autoradiography (Autoradiography in Electron Microscopy)

    生体試料の特定の部位を、放射性同位元素を含む物質で標識し、電顕像でその特定の部位を可視化する方法。
    放射性同位元素を含む物質を生体試料に投与し、生体の特定の組織や細胞を標識する。それを超薄切片にし、感光乳剤を塗布する。放射性同位元素が発する放射線(β線)により、標識された部位の近傍の感光乳剤が感光する。これを現像すると、標識された部位に銀が偏析する。この試料を透過電子顕微鏡で観察すると、銀の局在位置から、標識された組織や細胞の位置を特定することができる。
    高い分解能で観察するために、感光乳剤の銀を微細に局在偏析させることができる(β線エネルギーの小さい)トリチウムを放射性同位元素として使用することが多い。
    例として、放射性トリチウムを含むチミジンを生体に投与して細胞分裂が盛んな部位を標識し、偏析した銀の位置から標識した部位を特定できる。

  • 回折コントラスト
    diffraction contrast

    TEM像における散乱コントラストの内、結晶性試料の場合、角度に関して連続的に分布している散乱波は、ブラッグ反射を起こして非連続的に分布する回折波となる。試料の場所 (位置) によって回折条件が変わると回折波の強さが変化して、像にコントラストがつくことを回折コントラストという。明視野像(透過波で結像される像)では、回折を起こした試料の部分は強度が減り暗く写る。暗視野像(一つの回折波で結像される像)では、その回折が起きている試料部分が明るく写る。

    diffraction contrast ⇒
    加速電圧200 kVで取得した多結晶Si(半導体配線)のTEM像と回折図形。

    (a) 明視野TEM像。大きさ数10 nm~数100 nmの多数の結晶粒で構成され、それぞれが異なる結晶方位をとっている。赤もしくは緑色矢印で示した結晶粒では、回折した波が対物絞りによって遮られるため、暗く観察されている。

    (b) (a)と同視野から得た暗視野TEM像。(a)の緑色矢印で示した結晶粒からの回折波を取り込むように対物絞りを挿入しているため、その部分が明るく観察されている。

    (c) 回折図形。多結晶からの回折図形のため、デバイ・シェラー環が観察されている。(a)、(b)の緑色矢印で示した結晶粒からの回折波を緑色丸で囲っている。

  • 回折波
    diffracted wave

    結晶性試料の中でブラッグ反射(=回折)を起こした波。二波近似動力学理論では回折波の強度は厚さによって周期的に変化する。

  • 可干渉性
    coherence

    電子が持つ干渉できる性質を指す。特に電子源の干渉性の良し悪しを表すときに使う。電子源から出射した電子の空間的な可干渉長すなわち電子の進行方向と直交する方向の干渉距離は光源の大きさと波長で決まる。干渉性の高い電子源(小さい光源)は、電子波を直接干渉させる電子線ホログラフィーには必須である。また、高いコントラストの結晶構造像を撮るために平行性の高い電子波を得るためにも小さい光源が必要である。電子の時間的な可干渉長すなわち電子の進行方向の干渉距離は光源から出る電子の単色度と波長で決まる。電顕の場合、時間的可干渉性はまだ問題にされていない。

  • 環境制御TEM
    Environmental TEM (ETEM)

    試料周囲にガスを導入して通常の鏡筒内真空よりも高い圧力環境下で試料観察ができるシステムを装備した透過電子顕微鏡。方式により隔膜型と差働排気型に大別される。前者は、試料ホルダ内にガス環境室(EC:environmental cell)を設ける方式である。ECにはガス導入/排気用通路が接続されるとともに環境室の上下には電子線透過用の穴が開いている。導入されたガスの鏡筒内へのリークを防ぐために、これらの穴にはカーボンや窒化ケイ素の薄膜(隔膜と呼ぶ)が貼られている。後者は、鏡筒内試料室にガスを導入する方式である。導入されたガスが鏡筒内各部に拡散して鏡筒内真空が悪化するのを防ぐために、たとえばポールピース内の上下など、試料上下の光軸上に複数組のオリフィスを組み込み、それぞれのオリフィスで仕切られた空間を差働排気している。試料と導入ガスとの間の反応過程のその場観察や含水試料観察に利用される。

  • 干渉(電子の)
    interference of electrons

    電子の波動性(波として振舞うこと)によって電子同士が重なって、強め合ったり、弱め合ったりすること。透過電子顕微鏡においては、電子が結晶性の試料に入射すると、試料内のいろいろな原子面によって反射され(ブラッグ反射)、様々な方向に回折波ができる。電顕の像面では、これらがお互いに重なり、位相が合っているところは強めあい、位相が逆さまのところは打ち消しあい縞状あるいは網目状の像を作る。

  • 干渉縞(電子波による)
    interference fringe

    電子波の干渉によってできる一連の明暗の縞。

  • 環状明視野法
    annular bright-field scanning transmission electron microscopy (ABF-STEM)

    明視野高分解能STEMの内、ダイレクトビームディスク(透過ビーム)の光軸中心部を用いずに周辺部(例12~24mrad)のみを円環状(リング状)検出器で選択的に受け、この電子の積分強度を入射電子プローブの位置に対応させて表示して高分解能原子像を得る手法。軽元素からなる原子コラムを効果的に可視化することができる。
    原子番号の小さな元素からなる原子コラムでは、電子線のチャンネリング効果によって、入射光に平行な原子コラムに沿って進む電子の割合が散乱される電子に比べて大きくなる。そのため、軽元素コラムでは、円環状検出器の内側を通り抜ける電子が多くなり、結果として軽元素が効果的に黒く結像される(結像に寄与する電子の量が減少した像)。また、原子番号の大きな元素からなる原子コラムでは、電子がより高角に散乱され円環状検出器の外側を通る電子が多くなり、結果として原子位置は黒く結像される。そのため、酸素やLi原子等の軽元素の原子コラムに加えて、遷移金属等の比較的重い元素の原子コラムも同様のコントラストで観察することができる。
    軽元素を可視化する方法としてHREMやBF-STEMが挙げられる。ただ、これらの手法では、原子コラムの強度が焦点はずれ量や試料の厚さに依存して大きく変化するので、正しい像解釈をするには像のシミュレーションが必要になる。一方、ABF-STEM像では(試料の厚さが非常に薄いところを除いては)試料の厚さが変化しても原子位置は常に黒く結像される。また、焦点が外れた場合でも、結像に関与する角度領域が広いため干渉効果が軽減されるので、原子位置は黒く結像され、HREMやBF-STEMに比べて解釈しやすい像になる。

    SrTiO3[100]入射の高分解能STEM像 ⇒
    加速電圧: 200 kV、 入射電子線の収束角: 半角22 mrad
    図(a) HAADF-STEM像。相対的に重い元素からなるSrとTi+Oコラムは輝点として明瞭に可視化されている。しかし、軽い元素であるOコラム位置では輝点を観察することはできない。検出器の取り込み角は半角90 - 170 mrad。
    図(b) ABF-STEM像。HAADF像では観察することができないOコラムを暗点として明瞭に観察することができる。検出器の取り込み角は半角11 - 22 mrad。

    2つの検出器の光線図の比較 ⇒
    図(a) HAADF-STEMにおける入射電子線の収束角と散乱電子線の検出器への取り込み角の関係。検出器の典型的な取り込み角はβ1 ~ 50 mrad、β2 ~ 200 mradである。高角度に散乱された非弾性散乱電子を検出する。200 kVの収差補正電子顕微鏡の場合、αは25 mrad程度である。通常、ABF検出器やLAADF検出器はHAADF検出器の下部に配置される。
    図(b) ABF-STEMにおける入射電子線の収束角と散乱電子線の検出器への取り込み角の関係。入射電子線の収束半角をαとすると検出器の取り込み角は、β1はα/2、β2はαと同程度に設定する。透過波の光軸中心部を用いず周辺部のみをリング状に検出する。 200 kVの収差補正電子顕微鏡の場合、α、β1、 β2はそれぞれ25 mrad、13mrad、25 mrad程度である。

  • 緩和時間
    relaxation time

    外的条件が変化し、新しい条件下での平衡状態または定常状態に落ち着く過程を緩和現象というが、緩和現象において、はじめの非平衡状態から最後の平衡状態に近づく早さを特徴づける時間のことを、緩和時間という。

  • 画素滞在時間
    Dwell time

    電子ビームを走査(スキャン)して画像を取得する際の、1画素(ピクセル)あたりの電子ビームの滞在時間。電子ビームのスキャン速度の指標となる。
    Dwell timeに水平方向の走査画素数を掛け、振り戻し時間 (Flyback time)を加算すれば水平方向走査時間が得られる。水平方向走査時間に鉛直方向の走査画素数を掛ければ、走査像一枚の取得時間が計算できる。

  • 菊池図形
    Kikuchi pattern

    入射電子が、結晶性試料内で原子の熱振動による非弾性散乱(熱散漫散乱)を受けた後にブラッグ反射(弾性散乱)を起こすことによって生じる図形。非弾性散乱を受けた電子の進行方向は広い角度にわたって分布するので、ブラッグ反射は斑点でなく、ある結晶面の表面と裏面の反射(例えば200反射と-200反射)による明暗の一対の線(菊池ライン)になる。明暗の線は、入射線の方向に近い線は周辺に比べて強度が低く(暗く、defect)、遠い線は強度が高く(明るく、excess)なる。
    低次の反射を強く励起する場合は、強い動力学効果によって表面と裏面による反射線の間に広がる強度が高いバンド(菊池バンド)が形成される。
    結晶性がよく試料が厚いほど、菊池図形は明瞭に現れる。菊池ラインをブラッグ反射スポットの上に来るように結晶の傾きを調整することによって、結晶の方位を精確に合わせることができる。

    Kikuchi Pattern⇒
    (a)菊池ライン:結晶内のある点Oで非弾性散乱した電子が、入射電子の方向Iに対してかなり傾いた結晶面の表の面Fと裏の面Bでブラッグ反射を起こすと、ブラッグ反射位置 (方向) 1, 2に暗線と明線のペアが生ずる。これを菊池ライン(KL)という。電子線の入射方向Iに近い方(1)の菊池ライン(KL)は、B面によって反射された波とF面を透過してきた波から作られ、その強度は、その周辺に比べて低い(暗線defect)。電子線の入射方向Iから遠い方(2)の菊池ライン(KL)は、F面によって反射された波とB面を透過してきた波から作られ、その強度は周辺に比べて高い (明線excess)。
    点Oで生ずる非弾性散乱の振幅は、入射線の方向に近い低散乱角側で大きく、散乱角が大きくなるにつれて小さくなる。(入射波の方向に近い方向に非弾性散乱された電子によって)結晶の表の面Fからのブラッグ反射は、強い明線(excess KL)と強い暗線(defect KL)を形成する。(入射波の方向から遠い方向に非弾性散乱された電子によって)結晶の裏の面Bからのブラッグ反射は、表の面Fからの効果を打ち消すように働く。しかし、裏の面による強度は小さく打消しの効果は小さいので、明線の菊池線(excess KL)が入射波から遠い側(2)に、暗線の菊池線(defect KL)が入射波に近い側(1)に形成される。

    (b)菊池ラインから菊池バンドへの移行:入射電子の方向Iに対して結晶面の傾きが小さくなると、反射面Fと反射面Bに入射する非弾性散乱の振幅の差が小さくなり、菊池ラインの釣鐘型の強度は低くなり、釣鐘型の左右対称性が崩れ非対称な強度(分散型の強度)が現れ始める。

    (c)菊池バンド:入射電子の方向Iに対して結晶面が対称的になると、非弾性散乱の振幅はブラッグ反射1と2に対して等しくなり、釣鐘型の強度はなくなり、強い動力学効果のために分散型の強度が現れる。反射位置1と2に挟まれた帯状の領域では周りに比べて強度が高くなる。この強度の高い帯を菊池バンド(KB)という。

    Kikuchi pattern obtained from a Si single crystal⇒
    (d)Si単結晶からの菊池図形:高次反射による多くの菊池ラインのペアが見られる。対称な入射付近では、G=220反射と-G=-2-20反射の間に菊池バンドが見られる。明暗の線は、入射線の方向に近い線は周辺に比べて強度が低く(暗く、defect)、遠い線は強度が高く(明るく、excess)なる。(但し写真では明暗を反転させて表示している)
     

  • CAT(キャット)法
    CAT(composition analysis by thickness-fringe)method

    AlxGa1-xAsの人工格子のように格子間隔は等しいが組成が異なる層の組成を決めるために考えられた方法。等厚干渉縞の間隔が結晶構造因子に逆比例することを利用して、異なる組成の層からなる楔形試料から得られる等厚干渉縞の間隔の差から組成を決定する。

  • 吸収ポテンシャル
    absorption potential

    入射電子が試料を構成する原子に衝突するとき、入射電子は非弾性散乱を起こす。非弾性散乱は弾性散乱電子に対して非干渉なために吸収または減衰の役割を果たす。その効果は吸収ポテンシャルとして弾性散乱理論にとり込むことができる。

  • 境界条件
    boundary condition

    散乱における微分方程式の解を求める際、領域の境界上で解の関数が満たすべき条件のこと。ベーテ法で透過波および回折波の強度を求めるときの境界条件は、結晶表面に入射する電子波とそれに接続する結晶中の電子波の振幅が等しいことおよび、それらの表面に対する接線成分が等しいという条件である。

  • 禁制反射
    forbidden reflection

    ブラッグ条件を満足していても結晶構造因子がゼロであるため、反射強度がゼロになり消滅する反射。結晶の空間格子の型によって生じるものと空間群の対称要素によって生じるものがある。

  • 逆空間
    reciprocal space

    逆格子であらわされる空間。透過電子顕微鏡では、回折図形が作られる対物レンズの後焦点面が逆空間である。

  • 逆格子
    reciprocal lattice

    実格子の各格子面に垂直で実格子の面間隔に反比例する距離で作られる点(逆格子点)の集まり。実格子が与えられれば一義的に決まる。

  • 空間周波数
    spatial frequency

    画像を波の重ね合わせとして考えたとき、構成要素としての波を波長の逆数で表したもの。画像を空間周波数で分解したときの強度分布をパワースペクトルという。

  • クライオ電顕
    cryo-electron microscopy

    氷包埋法や凍結切片法等の各種凍結技法により、染色等を行わずに、作製した生物系試料(細胞、精製タンパク質、ウイルス、脂質分子等)を、凍結状態のまま電子顕微鏡内に挿入して観察する手法。観察は液体窒素温度、もしくは液体ヘリウム温度で行う。生物系の試料は軽元素から構成されるものがほとんどで、散乱コントラストは生じない。そのため、数μm程度のデフォーカスすることで生じる位相コントラストにより観察を行う。
    低温状態の試料を透過電子顕微鏡内に挿入し観察できるクライオトランスファーホルダーを使用する場合と、低温状態の試料を自動搬送する機能を有した専用のクライオ電子顕微鏡装置を用いる場合がある。
    なお、クライオ電顕法を用いた三次元構造解析手法には、単粒子解析やトモグラフィーなどがある。

  • 偶発反射(非系統反射)
    accidental reflection

    系統反射以外で、励起されている反射のこと。

  • グリーン関数
    Green's function

    グリーン関数G(x,x') は、x’ にある点散乱体が点x に及ぼす影響(応答や伝搬)を与える関数である。以下では二つの数理モデルを例に挙げ、グリーン関数を用いた問題の解法を説明する。

    例1。電荷分布ρが作るポテンシャルφの満たす方程式 Δφ=-ρ/ε0 (Poisson方程式) を考える。もし、Ĝ-1 であるような微分作用素の逆が得られれば、φ=-Ĝρ/ε0 のようにして解が得られる。この積分作用素Ĝをグリーン演算子と呼び、実空間で表した積分核 Gx, x' ) ≔ ⟨ xĜx' ⟩ をグリーン関数と言う。定義よりΔ⋅Ĝ=1 (恒等変換) となるので

    式1

    これを用いて、φの積分形式の解を得る。

    式2

    ここで、G(x,x')は点x’ にある電荷ρ(x') が点xに形成するポテンシャルφ(x)を与える応答関数ととらえることができる。

    例2。電子線の動力学理論では、結晶に入射した電子は定常状態のシュレーディンガー方程式 [Δ+K2]ψ=- に従う。ここで、電子線の波数ベクトル K, 結晶のポテンシャルエネルギー分布 U(r) とする。Ĝ=[Δ+K2 ]-1 とおいて、ψ=-ĜUψ および、[Δ+K2 ]⋅Ĝ=1 より、次の式が得られる。

    式3

    これを用いて、積分形式解を得る。

    式4

    ここでは、G(x,x') は点x’ にある波動関数 ψ(x') と散乱体 U(x') が点x に形成する波動関数 ψ(x) を与える応答関数である。もしくは、散乱体 U によって電子波の状態が |x' ⟩ から|⟩ へ遷移する確率を与える伝搬関数ととらえることもできる。
    等式 (4) は、求めるべきψが右辺の積分の中にも入っているので、逐次近似によって解を求める。散乱問題では無限遠点の解 (U =0の特殊解) を入射平面波φ(x' )=exp(iKx')とし、これを(4)式の右辺に代入した一次近似解を ψ=φ-ĜUφ のようにして求める(ボルン近似)。これは一回散乱した散乱波を求めることに相当し、振幅はUのフーリエ係数に比例する。

    付録

    【式(1)の証明】

    原点を中心とする半径 r の球をV、その表面をS とする。Gaussの発散定理により、

    式5

    この積分は半径rによらないことから、被積分関数がδ関数であることがわかる。すなわち、

    式6
    図

    【式(3)の証明】

    式(1)の類推から、式(3)の解は G(x,x')= f(r)/r, (r=|x-x'|) の関数形であると推測できる。これを代入して f''+K2f=0. したがって f(r)=C exp(±iKr) となり与式を得る。

  • 系統反射
    systematic reflection

    電子回折図形で、ある方向に並ぶ一連のg、2g、3g...反射(例えば100、200、300...)のこと。系統反射以外の反射を偶発反射という。

  • 結晶構造因子
    crystal structure factor

    結晶からの回折波の振幅と位相を与えるもので、結晶の単位胞中の原子の種類と位置によって決まる。

  • 結晶構造像
    crystal structure image

    高分解能電子顕微鏡法で薄い結晶試料(<10nm)からの透過波と回折波を干渉させて得る像の内、対物レンズの球面収差と加速電圧によって決められる焦点はずしの条件(シェルツァー・フォーカス)で得られる結晶構造を表す像。通常、低次の晶帯軸と平行に電子線を入射し、対物絞りで透過波と多くの回折波を通して撮影する。シェルツァー・フォーカスに設定しないで得る像を格子像という。格子像は必ずしも結晶構造には直接対応しない。結晶構造に良く対応する像を撮るための3要素は、十分薄い試料を用意すること、精度の高い方位合わせ、シェルツァー・フォーカス条件合わせである。

  • 結晶構造解析
    crystal structure analysis

    電子線による結晶構造解析には電子顕微鏡像ではなく電子回折図形が用いられる。その理由は、電子顕微鏡像の空間分解能は、約0.1nmであり、電子回折図形から得られる分解能は0.001nmに達するからである。構造解析の方法には、運動学的回折を適用する方法と動力学的回折を適用する方法がある。前者は軽元素からなる薄い結晶の場合で、動力学効果が無視できる場合に適用される。実際、蛋白などの結晶に対して用いられ、回折図形から各反射の強度を測定し、対応する電顕像をコンピューターを使ってフーリエ変換して、各反射の散乱因子の実部と虚部から位相を求める。それらの強度と位相をフーリエ合成して結晶構造を得る。後者は収束電子回折法を利用して固体材料のナノスケール結晶構造解析に用いられる。数10mradの入射角を持つ電子線を試料上の直径10nm以下の領域に照射して、その領域からの回折図形を得る。得られた回折図形は入射角の広がりに対応した2次元的に広がるディスク状の回折図形(2次元的なロッキングカーブ)である。この図形は動力学的効果のために複雑な図形をしており、運動学的回折から期待されるロッキングカーブであるラウエ関数とは大変異なっている。動力学効果を全面的に取り入れた強度計算と実験で得られた図形とのフィッティングから結晶構造が解かれる。回折波の位相は、多重回折のために回折強度に反映されているので、運動学的回折のときのように別途回折波の位相を求める必要はない。収束電子回折法による固体への応用では、結晶の1次構造よりも、局所的な構造や電子状態など2次構造の研究が重要である。実験の方法としては非弾性散乱を取り除くエネルギーフィルタが必要である。第3の近似的方法として、プリセッション法がある。この方法では、プリセッション法すなわち入射ビームをある晶帯軸から数度傾けて円錐状に振って、強い動力学効果を避け、そこから得られる強度を加算する。得られた強度に運動学的理論を適用し、位相の推定にはX線回折法で使われる直接法を用いて、結晶構造を解く。

  • 原子形状因子
    atom form factor

    入射電子の原子による散乱振幅。散乱振幅の散乱角依存性は原子の形状によって与えられる。入射電子は原子を構成する原子核と電子が作る電場のポテンシャルによって(X線の場合は電子によって)散乱される。結晶構造因子を計算するために使われる。

  • 原子散乱因子
    atomic scattering factor

  • 減衰
    damping

    波動現象において、その振幅が波の進行とともに減少していくことをいう。

  • 高角度散乱暗視野(走査透過電子顕微鏡)法
    high-angle annular dark-field scanning transmission electron microscopy (HAADF-STEM)

    走査透過電子顕微鏡法(STEM) の円環状検出器による暗視野法(ADF)のうち、格子振動による熱散漫散乱によって高角度に非弾性散乱された電子を円環状の検出器(~50-十分高角:たとえば200mrad)で受け、この電子の積分強度を入射電子プローブの位置に対応させて表示してSTEM像を得る手法。像強度は原子番号の1.4~2乗に比例するとされているので、重い原子がより明るく観察され、軽い原子は見えにくい。高角度に散乱された電子を使うので散乱断面積が小さく多重散乱がないこと、および電子波の干渉効果が結像に関与していない(非干渉像)ため、像の解釈が容易である。分解能は試料上の入射ビームのサイズでほぼ決まり、最高性能の装置では0.05nmを切っている。円環状検出器の中心を通り抜けた電子を使ったEELSとの併用により、原子コラムごとの元素分析ができる。一方、軽元素を効果的に可視化するSTEMとして、環状明視野法(ABF-STEM)、低角度散乱暗視野法(LAADF-STEM)という方法もある。

    HAADF-STEM ⇒
    図(a) HAADF-STEMにおける入射電子線の収束角と散乱電子線の検出器への取り込み角の関係。検出器の典型的な取り込み角はβ1 ~ 50 mrad,β2 ~ 200 mradである。高角度に散乱された非弾性散乱電子を検出する。200 kVの収差補正電子顕微鏡の場合、αは25 mrad程度である。通常、ABF検出器やLAADF検出器はHAADF検出器の下部に配置される。

  • 光学ポテンシャル
    optical potential

    入射線が吸収される効果を取り入れるために虚数部を加えた複素ポテンシャルのこと。電顕像を動力学理論によって説明する際、複素ポテンシャルを使う。複素ポテンシャルの虚数部を与える吸収効果にはプラズモン励起、熱散漫散乱、一電子励起がある。プラズモン散乱は平均吸収に、熱散漫散乱は異常吸収に効く。一電子励起の吸収への寄与は僅かである。

  • 格子振動
    lattice vibration

    結晶を構成する原子は熱エネルギーによってその平衡位置の周りで振動するが、原子同士が特定の位相関係を持って振動することを指す。試料への入射電子が格子振動を励起して散乱されると散漫な散乱を生ずる。これを熱散漫散乱という。

  • 格子縞
    lattice fringe

    結晶から出射する透過波とその結晶のある格子面からの回折波との二つの波で結像すると、格子の面間隔に対応した明暗の縞模様の像が現れる。これを格子縞という。
    格子縞の位置は、対物レンズの焦点の合わせ方によって移動する。したがって、結晶構造像と違って、格子縞は原子面の位置に対応しておらず、原子面の周期性だけを反映している。

    図. グラファイトからの(002)格子縞。加速電圧: 120kV (使用電子銃: 熱電子放出電子銃) ⇒ 

  • 格子像
    lattice image

    高分解能電子顕微鏡法を用いて、薄い結晶性の試料からの透過波と回折波を干渉させて得られる結晶の格子に対応する像。格子像(の強度変化)は、入射電子線の方向に投影した試料の静電ポテンシャル(投影ポテンシャル)の変化に正しく対応はしないが、結晶の周期性を正しく表している。対物レンズの球面収差と加速電圧によって決められる焦点はずしの条件(シェルツァー・フォーカス)で得られる像は、結晶の静電ポテンシャル(原子配列)を投影したものにかなりよく対応し、結晶構造像という。

  • 高次ラウエ帯反射
    higher-order Laue zone (HOLZ) reflection

    入射線の方向に垂直な逆格子面をラウエ帯という。原点(入射点である逆格子点)を含むラウエ帯をゼロ次ラウエ帯(ZOLZ)と呼び、入射線の向きと反対方向に原点から数えてn番目のラウエ帯をn次ラウエ帯と呼ぶ。n = 0以外のラウエ帯を総称して高次ラウエ帯という。図1 (a) は平行な入射ビームで撮った回折図形で、高次ラウエ帯 (HOLZ) に属する反射は中心から離れた位置にリング状に回折斑点として現れている。図1(c) は (a) の拡大図。図1(b) は 円錐状に絞られた(収束)入射ビームで撮った収束電子回折(CBED)図形で、高次ラウエ帯(HOLZ)反射は中心から離れた位置にリング状に細い線として現れている。図1(d) は (b)の拡大図。高次ラウエ帯反射は、収束ビームで撮影した方が明瞭に観察される。
    ゼロ次ラウエ帯(ZOLZ)反射は結晶の二次元的情報しか反映しないのに対し、HOLZ反射は結晶の三次元的情報を反映する。HOLZ反射は大きな回折ベクトルを持ち、その現れる位置は格子定数のわずかの違いに敏感なので、結晶構造解析や格子歪みの高精度の解析に利用される。

    図1. Si単結晶 [111]入射時の (a)制限視野電子回折図形および、(b)収束電子回折図形。

    図1. Si単結晶 [111]入射時の (a)制限視野電子回折図形および、(b)収束電子回折図形。
    (c) (a)の拡大図。(d) (b)の拡大図。(c, d)の橙、赤の矢印は、回折図形の拡大図の中の同じ反射を示している。
    収束電子回折図形では、反射強度の角度分布が見えている。

  • 高分解能電子顕微鏡法
    high-resolution electron microscopy (HREM)

    透過電子顕微鏡で、薄い試料からの透過波と回折波を干渉させて高分解能TEM像すなわち格子像や結晶構造像を得る手法。

    電子線の入射方向を晶帯軸に正確に合わせ、対物レンズのフォーカスをシェルツァー・フォーカス条件に合わせると、結晶の構造をよく表す像が得られる。像の分解能は対物レンズの球面収差や入射電子線の加速電圧に依存する。
    対物レンズの球面収差補正装置を搭載しない場合、結晶構造像は対物レンズの正の球面収差の影響を最適化するために、シェルツァー・フォーカス条件(不足焦点:アンダーデフォーカス)で撮像される。

    一方、球面収差補正装置を搭載した透過電子顕微鏡を用いる場合、元々存在する対物レンズの正の球面収差を補正してゼロにも負にもすることができる。そのため、撮像の際のフォーカス条件は、球面収差係数で定められるフォーカス設定値(シェルツァー・フォーカス条件)にとらわれず、フォーカス条件を変えながら、視認あるいはコンピューターシミュレーションでコントラストが最適と判断した条件で撮像する。

    下図には、球面収差補正装置を搭載した透過電子顕微鏡を用いて、不足焦点(アンダーフォーカス)条件と過焦点(オーバーフォーカス)条件に設定して撮影した高分解能TEM像を示す。
    試料が厚い場合には動力学的回折の影響のために、得られた像は結晶の構造に直接は対応しなくなる。HAADF-STEM像では動力学効果が抑えられるため、像の解釈の信頼性は高くなる。結晶構造や界面、格子欠陥などの構造の解析に利用される。


    図 球面収差補正装置を搭載した透過電子顕微鏡を用いて取得した[0001]入射β-Si3N4の高分解能電子顕微鏡像と一部拡大像。試料端の非常に薄い領域を観察している。拡大図内に示す青丸はシリコン、黄色丸は窒素の原子位置を示す。不足焦点、過焦点で明暗のコントラストが反転していることが分かる。なお、図の左上部は試料の無い真空領域である。

  • 後方散乱電子回折
    electron backscatter diffraction (EBSD)

    試料からの非弾性後方散乱電子によって作られる菊池図形は試料の方位に依存して敏感に変化する。入射電子プローブで試料を走査してこのパターンの変化を解析することから、多結晶性試料を構成する各粒子の結晶方位の分布像を得る方法。空間分解能は~0.1μm、試料方位決定の分解能は~1°、取得角度範囲は~20°。TEM装置で行えないことはないが、通常はSEMで行われる。

  • コラム近似
    column approximation

    結晶下面の一点での電子波の形成に及ぼす結晶上面での領域はフレネルゾーンを使って推定できる。第一フレネルゾーン半径Rは√(λt)で与えられる。ここでλは電子線の波長、tは試料の厚さである。λ=0.0026nm、t=100nmとすると直径2Rは~0.5nmとなる。第三フレネルゾーンまで取っても直径は~1.5nmである。すなわち結晶下面のある点の電子波の振幅を計算する場合、2nm以下のコラムの中で電子波の透過と回折を考えればよいことになる。”乱れ”のある結晶を取り扱う場合、結晶をこのような大きさのコラムに分けて、このコラム内では完全結晶とし、コラム間に”乱れ”に対応する”ずれ”があるとして扱う。これをコラム近似という。

  • コルニュの渦巻き
    Cornu spiral

    フレネル回折による回折強度を計算するとき、複素振幅の実部を横軸に虚部を縦軸にとって積分範囲(光源から観測点までの距離)を変数として図示したもの(振幅位相図)をコルニュの渦巻きという。フレネル回折による観測点での強度は、コルニュの渦巻きの始点(光源の位置)から終点(観測点)へ引いた直線距離の二乗として計算される。

  • コントラスト伝達関数
    contrast transfer function (CTF)

  • 参照波
    reference wave

    電子線ホログラムを得るために、物体を透過して位相変化を受けた波と干渉させるための、光源から直接くる電子波のこと。これらの二つの波はバイプリズムを用いて、干渉させられ、電子線ホログラムが得られる。

  • 散乱角
    scattering angle

    電子線を試料に入射したときに、原子によって電子が散乱される角度。原子による電子の散乱では、原子番号が大きいほど散乱能は大きく、散乱角が大きくなるほど散乱能は弱くなる。

  • 散乱コントラスト
    scattering contrast

    入射電子は試料中の構成原子によって散乱され、散乱された電子が対物絞りで止められると、あたかも試料に吸収があるかのように作用する。これを散乱吸収という。電子に対する散乱断面積は、原子の質量が大きいほど大きく、散乱の大きさの違いによって像にコンラストがつくことを散乱コンラストという。入射電子の散乱断面積は試料を構成する原子の質量が大きいほど大きいので、散乱コントラストのことをマスコントラストということもある。非結晶性試料の場合のTEM像のコントラストは散乱コントラストで説明される。結晶性試料の場合は、弾性散乱波は回折波となり、像のコントラストは回折波の挙動によって説明される。

    scattering contrast ⇒
    加速電圧120 kVで取得したマウスの腎臓尿細管のTEM像。
    試料はグルタルアルデヒド、四酸化オスミウムで化学固定され、酢酸ウラン、クエン酸鉛で電子染色した。重元素であるオスミウム、ウラン、鉛が存在している部分は電子線をより多く散乱し、広角に散乱された電子は対物絞りによって遮られるため、強度が弱く(暗く)観察されている。

  • 散乱断面積
    scattering cross section

    電子が原子によって散乱される確率を示すもので、面積の単位で表わしたもの。原子は有限の大きさを持つので、散乱断面積は低角度散乱で大きく、高角度散乱で小さい。

  • ザイデルの5収差
    Five Seidel aberrations

    電子線(光線)が完全な結像をすると仮定したときの軌道からのずれの量を収差という。単色電子線(光線)が近軸電子(光)線でないために生じる3次(光線が光軸となす角度αと光線の光軸からの距離rの積について3次)の収差の総称をザイデルの5収差という。5つの収差は、球面収差(α3に比例)、(軸外)コマ収差(rα2に比例)、非点収差と像面湾曲収差(r2αに比例)、歪曲収差(r3に比例)である。電子顕微鏡の場合、像拡大の初段、すなわち対物レンズに対しては、物体の拡大する範囲は小さいので、光軸上を通る電子線(r = 0)を考えればよい。したがって像のボケにはα3に比例する球面収差が最も重要である。理論上は次にコマ収差が重要である。(軸外)コマ収差補正の例はあるが、高倍率の像については(軸外)コマ収差の効果は小さい。後段にある中間レンズおよび投影レンズでは、物体(対物レンズで拡大された像)は大きいので、光軸から離れた場所を通る電子線による収差、すなわち距離rの次数の高い収差、非点収差、像面湾曲収差、歪曲収差が重要になる。最近は球面収差補正ができるようになっている。
     

    図1. 収差の分類。 ⇒ 図1

    図2. ザイデルの5収差: 各収差の模式図。 ⇒ 図2

  • シェルツァー・フォーカス
    Scherzer focus

    薄い試料のTEM観察において、結晶構造像を撮影する際に用いられる焦点はずし (デフォーカス) の条件のこと (シェルツァー・デフォーカスともいう) 。対物レンズの球面収差に応じて対物レンズの焦点距離 (焦点はずし量) を調節して、透過波に対する回折波の位相が、できる限り広い空間周波数領域に亘って1/4波長 (位相π/2) ずれるように設定する。
    弱位相物体近似が成り立つような薄い試料では、回折波は透過波に対して位相がπ/2ずれている。透過波を実数とすると回折波は虚数になり、そのまま回折波と透過波を干渉させたのではそれぞれの振幅のたし合わせにならず、試料の像を作ることはできない。対物レンズの球面収差に応じて、対物レンズの焦点距離を調整 (焦点はずし) すると、回折波の位相をさらにπ/2 (合計してπ) ずらすことができ、回折波は透過波と同様に実数になる。この回折波を透過波と干渉させると、二つの波の振幅が足し合わされ、試料の像が観察されるようになる。
    この焦点はずし量、すなわちシェルツァー・フォーカスdfSchは、球面収差係数CSと電子線の波長λを用いて以下の式で表される [1]。

    ここで、dfSchの値はマイナスの値である。すなわち、この式はアンダーフォーカス (対物レンズを正焦点より弱くすること) で、構造像が得られることを意味している。焦点はずし量の絶対値は、球面収差係数が大きいほど大きく、電子線の波長が大きいほど (加速電圧が低いほど) 大きくなる。
    焦点はずし量をdfSchに設定したとき、位相コントラスト伝達関数の値が最初にゼロになる空間周波数に対応する距離は

    で与えられ、弱位相物体の像の空間分解能 (シェルツァー分解能) という。弱位相物体の像のシェルツァー分解能は、球面収差係数CSの1/4乗と電子の波長λの3/4乗に比例する。そのため、球面収差係数が小さい対物レンズが求められ、波長が短い (加速電圧が高い) 方が像の空間分解能が向上する。

    Accelerating voltage
    [kV]
    Spherical aberration coefficient
    [mm]
    Scherzer focus
    [nm]
    Scherzer resolution
    [nm]
    100 0.5 -50 0.26
    1.0 -70 0.31
    200 0.5 -41 0.20
    1.0 -58 0.23
    300 0.5 -36 0.16
    1.0 -51 0.20
    1000 1.0 -34 0.11

    表: 典型的な加速電圧に対して、球面収差係数CSが0.5 mmおよび1.0 mmのときの、シェルツァー・フォーカス (デフォーカス量) およびシェルツァー分解能の計算例。通常の加速電圧300 kVの電顕でCS = 0.5 mmの対物レンズを用いた場合は0.16 nmの分解能が得られる。加速電圧が高い1000 kVの場合にはCS = 1.0 mmの対物レンズの場合でも0.11 nmの分解能が得られる。

    参考文献

    [1] David B. Williams and C. Barry Carter, "Transmission Electron Microscopy: A Textbook for Materials Science", Springer.

    (注) なお、球面収差補正装置 (Csコレクター) が搭載されたTEMでは球面収差係数CSをゼロにすることができる。この場合はシェルツァー・フォーカスおよびシェルツァー分解能の式を用いることができない。これらの式はCS≠0を前提として導出されたためである。仮にCS = 0をシェルツァー・フォーカスの式に代入するとdfSch = 0 となり、正焦点では弱位相物体の像を観察することができないはずであるにも拘わらず、正焦点でも結晶構造像が観察可能という結論になってしまう。Csコレクターが搭載されている場合にもコレクターがない場合と同様に、適切なデフォーカスを設定することで結晶構造像が観察できる。しかも、Csコレクターがない場合と比べるとファーストゼロの周波数をかなり高くでき、分解能がより高い試料の構造像を観察できる。また、Csコレクターを搭載したときの分解能は、ファーストゼロの周波数ではなく、電子線の単色性や装置の安定性などで決まることが多い。ちなみに、電界放出型電子銃とCsコレクターを搭載した電子顕微鏡では300 kV以下でも0.1 nmを超える分解能が得られている。

  • 収束電子回折
    convergent-beam electron diffraction (CBED)

    入射電子線を円錐状に絞って直径10nm以下の微小領域に照射し、ディスク状の回折図形を得て、結晶構造の定性/定量解析をする手法。ディスク内には回折条件の変化に対する強度分布(ロッキングカーブ)が得られる。試料の厚さ、格子定数、結晶の対称性(点群、空間群)、格子欠陥の同定ができるだけでなく、構造精密化(原子座標、温度因子、低次の構造因子の決定(ポテンシャル分布))ができる。大角度収束電子回折法(LACBED)を用いると、格子欠陥の同定が容易におこなえ、多層膜の界面領域での歪み(および転位)を高精度で決定できる。エネルギーフィルタを使うと、一層高精度の解析ができる。

    CBED (a)(b)⇒
    (a) 通常の電子回折 (制限視野回折)
    平行な電子線を試料に照射すると、対物レンズの後焦点面にスポット状の回折パターンが得られる。それを結像レンズ系で拡大してスクリーン上に映し出す。図では結像レンズ系による結像を省略している。
    (b) 収束電子回折
    電子線を絞って試料に照射すると、対物レンズの後焦点面にディスク状の回折パターンが得られる。それを結像レンズ系で拡大してスクリーン上に映し出す。
    通常、隣接する回折波が互いに重ならないようにするために、収束半角αはブラッグ角θ以下に設定する。

    CBED (c)(d)⇒
    (c) 通常の電子回折 (制限視野回折) の例。試料:Si [111]、加速電圧:200kV。
    (d) 収束電子回折図形の例(ゼロロス像)。試料:Si [111]、加速電圧:200kV。

     

  • 小傾角粒界における角度差の精密測定
    Small-angle grain boundary-Precise measurement of angular difference between two crystal grains

  • 消衰距離
    extinction distance

    結晶性の試料に電子が入射し、ひとつのブラッグ反射を起こすとき(二波近似)、入射波はある進入深さ(t)まで達すると、その振幅は0になり反射波の振幅が最大になる。さらに倍の深さ(2t)に達すると、反射波の振幅は再び0になり入射波の振幅が最大になる。このように、電子波がその進入深さにより入射波と反射波の振幅に唸りを生じる。唸りの1周期の距離(2t)を消衰距離という。消衰距離は、起こしている反射の結晶構造因子および入射電子線の波長に逆比例する。

  • 焦点はずし
    defocus

    TEM像の観察において、フレネル縞を観察する場合や格子像、結晶構造像を得るときに対物レンズの焦点をずらすこと。

  • 消滅則
    extinction rule

    禁制反射(ブラッグ条件を満たしても散乱因子がゼロであるために消滅する反射)がどのような場合に起こるかを表す規則を消滅則という。反射の消滅は、空間格子の型によるものと空間群の対称要素による場合がある。前者の場合は、運動学的回折が適用される場合にも動力学的回折が適用される場合にも反射は消滅する。後者の場合、すなわち空間群の対称要素である映進面や螺旋軸による場合は、運動学的回折が適用されるときにのみ反射の消滅が起こる。動力学効果がある場合は、これらの禁制反射は強度を持つ。しかし、動力学効果がある場合にも特定の入射条件のときに反射の一部に消滅が起こる。この消滅は、収束電子回折図形の(運動学的に)禁制な反射内に暗い線として現れる。

  • 振幅位相図
    amplitude-phase diagram

    回折した電子波の伝播を記述するとき、その波動関数の実部および虚部を複素平面上に(x0, y0)と表示するとき、原点から点x0, y0へ引いた線の距離は波の振幅を表し、その線と横軸との成す角は波の位相を表す。これを振幅位相図という。結晶をその厚さ方向に多くの層に分け、各層での回折波の振幅と位相を順次、結晶の下面まで、図形的に足し合わせてゆくと、結晶下面での回折波の強度は、原点から得られた最終座標(x, y)へ引いた線の長さの2乗として求まる。1960年代にHirschらは、振幅位相図を用いて転位や積層欠陥の像コントラストをはじめて明らかにした。

  • 信頼度因子
    Reliability factor, R-factor

    X線構造解析および電子線構造解析において、構造解析の結果から得られた構造の信頼度を表す指標の一つ。実測した回折パターンから求められた結晶構造因子をFobs (hkl)、仮定した構造モデルから計算した結晶構造因子をFcal (hkl)としたとき、信頼度因子(R-factor)は以下のように定義される。

    ここで、(hkl)はブラッグ反射の指数 (ミラー指数) であり、右辺の総和は実測された全ての反射について取る。
    構造解析では、R-factorを最小になるように、結晶構造、すなわち構造モデルのパラメーター(対称性、格子定数、原子座標など)、が決定される。実測で求められた構造因子と決定された構造から計算した構造因子が完全に一致した場合にはR-factorはゼロとなる。実験値をもっとも良く再現する構造が得られたときの信頼度因子の値は、X線構造解析では0.05程度、電子線構造解析では0.2程度である。

  • 弱位相物体近似
    weak phase object approximation

    HREM像の解釈に用いられる近似。試料に入射した電子波が振幅を変えずに位相だけを僅かに変化するとみなす近似。軽い原子で構成されている非常に薄い試料に対してはよく成り立つ。この場合、シェルツァー・フォーカスで得られる結晶構造像は結晶の投影ポテンシャルを表わしているとみなせる。試料が厚い場合は、多重散乱を取り入れた動力学的回折を適用して像の解釈をする必要がある。

  • ステレオ観察
    stereo microscopy

    試料の立体構造を観察するために、試料を5°~10°異なる二つの方向に傾斜して電顕写真を撮り、二枚の写真を左右の目で独立に観察して立体感を得る方法。こみ入った転位などを、回折コントラストを利用して3次元的に見ようとする場合には、二枚の写真の回折条件を極めて似た状態にする注意が必要である。

  • ストッブス因子
    Stobb's factor

    高分解能像のコントラストがシミュレーションから期待されるコントラストより小さいので、両者を一致させるための係数。熱散漫散乱によるバックグラウンドが高分解能像のコントラストを下げていると考えられている。

  • スピン偏極電子波
    spin polarized electron

    電子にはスピン(量子数±1/2)に対応して「上向き」「下向き」と区別される状態がある。近年の新しい電子銃技術によって、歪んだ半導体超格子のフォトカソード型電子源から90%以上スピン偏極した電子線を常温で取り出せるようになった。最初、素粒子物理学の衝突実験のための電子源として開発されていたが、近年の輝度の上昇により、光電子表面顕微鏡や透過電子顕微鏡への応用がわが国で進められ、表面像や透過像が得られるようになってきている。この装置では入射電子のスピンと試料中の原子がもつスピンや磁性モーメントとの相互作用が検出できることになる。

  • スルーフォーカス法
    through-focus method

    格子像や結晶構造像を観察するとき、最適な像を得るために、焦点を少しずつ変化させて像を撮る方法。

  • 制限視野回折
    selected-area diffraction (SAD)

    入射電子線を平行にして試料に照射し、点状の斑点からなる回折図形を得て、結晶構造の定性的な解析をする手法。対物レンズの像面に制限視野絞りを入れることにより、回折図形を得る試料の場所(直径 数100nm)を選ぶことができる。この方法により、特定の場所の格子定数、格子型、結晶方位を知ることができる。

    selected area diffraction⇒
    対物レンズ (OL) と4段結像レンズ系(中間レンズ(IL1, IL2, IL3) および投影レンズ (PL) )で構成される一般的な結像光学系の概略。

    (a)結像レンズ系の焦点を、対物レンズで作られる試料の像に合わせて試料の拡大像を観察する像観察モードで制限視野絞り(Selected Area Aperture : SA絞り)を入れ、視野が選択された状態を示す。

    (b)結像レンズ系の焦点を、対物レンズの後焦点面にできている回折図形に合わせて回折図形を観察する回折図形観察モードに切り替えると、SA絞りで選ばれた視野からの回折図形がスクリーンに結像される。

  • 静電ポテンシャル
    electrostatic potential

    時間的に変化しない電荷分布により、ある空間に生じる電場を静電場というが、静電場の電位(ポテンシャル)のことを指す。ある原子の原子核と軌道電子が作る静電ポテンシャルのフーリエ変換は、原子形状因子を与える。

  • 繊維図形
    fiber pattern

    分子がひとつの軸の方向にのみそろって配向した繊維状の構造からの回折図形。繊維軸入射の回折図形はデバイ-シェラーリングになる。入射方向を繊維軸からずらしてゆくと、次々のラウエ帯にあるリング状の回折強度分布とエワルド球が交わることになる。その結果、歪んだ円弧状の回折図形が現れる。この図形を繊維図形という。

  • 遷移放射
    transition radiation

    相対論的な荷電粒子が異なる誘電率を持つ二つの物質の境界(真空とある物質の間)を通過するとき、その境界面に電気双極子が誘起される。このとき、双極子が時間的に変化するので光を発する。これを遷移放射という。金属、半導体で強く観測される。発光強度は近似的に電子分極率の2乗に比例する。

  • ゼルニケ位相コントラスト
    Zernike phase contrast

    透過電子顕微鏡で、位相物体の観察に位相板あるいはレンズの球面収差と焦点はずしの効果を利用し、試料によって散乱された電子波の位相変化を振幅の変化に変換することによって得られるコントラスト。

    Zernike phase contrast⇒図1

    (a) Conventional TEM (C-TEM) 像 (b) Zernike phase contrast (ZPC-TEM) 像。加速電圧:200kV。試料:氷包埋された T4 ファージ。 (c) T4 ファージの模式図。

    ZPC-TEM 像では、C-TEM像に比べて、カプシド(Capsid)内部のDNAの微細構造、カプシド表面にある毛状構造物、筒状構造等が、より高いコントラストで観察されている。

  • ゼロ次ラウエ帯反射
    zeroth-order Laue zone (ZOLZ) reflection

    入射線の方向に垂直な逆格子面をラウエ帯という。原点(入射点である逆格子点)を含むラウエ帯をゼロ次ラウエ帯(ZOLZ)と呼ぶ。ゼロ次ラウエ帯(ZOLZ)反射はCBED図形内の透過波の周りに、試料結晶に特有な対称性を持ってゆっくりとした角度変化を示す強度分布として現れる。ZOLZ反射は結晶を入射線の方向に投影した二次元的情報を与える。

  • 相関法
    correlation method

    3次元トモグラフィーにおいて、各映像間の相関をとり、相関が最大になるように画像の位置合わせをする方法。

  • 走査低エネルギー電子顕微鏡
    scanning low energy electron microscope (SLEEM)

    試料に対する入射電子のエネルギーを数十から数百ボルトに低減して、細いプローブを試料上で走査し、試料で散乱した電子および二次電子を検出して、表面の像を形成する装置。表面の情報を得るために試料周りは超高真空に保たれる。通常、SEMに改造を加えて作られるので、SEMに使われている二次電子検出器やビームの走査系を利用している。試料に負の電位を印加することにより、試料近傍に減速電界すなわち陰極レンズが形成される。印加電位を可変することにより入射電子のエネルギーを可変することが可能になり、低い入射エネルギーで高い分解能が得られる。入射エネルギーが10eVのとき10nmが得られている。

  • 走査電子顕微鏡
    scanning electron microscope (SEM)

    バルク試料の表面を微小電子プローブで走査し、表面から放出される二次電子や反射電子を検出器で受け、その強度をプローブ走査に同期させて、コンピュータモニタ上に輝点列の像として表示する電子顕微鏡。二次電子からバルク試料表面の微細な構造や形態が、反射電子から組成の違いを観察できる。EDSやWDSをはじめとする様々な分析機能を付加して使われている。SEMの分解能を決める重要な要素は入射ビームの試料上でのプローブサイズである。プローブサイズを小さくするには第一に電子源の大きさを小さくすることである。搭載されている電子銃が冷陰極型電解放出型電子銃,ショットキー型電子銃,LaB6電子銃,タングステン電子銃の順でプローブサイズは大きくなる。第二に対物レンズのタイプによって絞れるビームサイズが決まる。対物レンズには1)アウトレンズ、2)シュノーケルレンズ、3)インレンズがある。アウトレンズ型では大きな試料を傾斜しても像が得られるように、試料を対物レンズの下方に置く。試料に対する制限がゆるい代わりにレンズの焦点距離が長くなり小さいビームは得られにくい。インレンズ型ではTEMのように対物レンズ中に試料を挿入する。焦点距離を短くでき小さなプローブが得られる。ただし、試料の大きさは数mmに制限される。シュノーケル型(潜水用具に形が似ていることによる命名)は前二者の中間的存在で、試料はレンズの下に置かれ,比較的小さいプローブと比較的大きい試料を扱えるように設計されている。低い加速電圧では色収差の効果により分解能は下がる。分解能は加速電圧20~30kVで定義されている。分解能の具体的数値は,超高分解能型で約1nm、汎用型で10nm程度。Csコレクタ、Ccコレクタを使用すると入射ビームの微小化が可能であるが、取り込み角が大きくなるために焦点深度が浅くなりすぎる欠点がある。入射電子の加速電圧を下げると電子の進入深さが減り,反射電子によって生成される二次電子の空間的な広がりが減るために像のコントラストが向上する。低加速の利点はバックグラウンドの減少のほかに帯電の減少、試料損傷の減少がある。SEMでは帯電が像の質を落とす。入射電子量が流出電子量を上回ると帯電が起き、像が乱れ異常なコントラストが形成される。非伝導性試料の場合には,帯電防止のために貴金属やAl,Cのコ-ティングが行われる。低真空SEMではコーティングなしに非伝導性試料を観察できる場合もある。

  • 走査透過電子顕微鏡像 (ステム像)
    scanning transmission electron microscope (STEM) image (STEM image)

    微小電子プローブで薄膜試料上を二段偏向系を使って走査し、試料の一点一点から出てくる透過波(または回折波)の強度を円環状の検出器で受け、その強度をプローブ走査と同期させてコンピュータモニタ上に輝点列として表示して得る像。分解能はプローブ径によって決まる。観察法には明視野法と暗視野法がある。

    グラファイトの担持体上に存在するPt触媒粒子の走査透過電子顕微鏡像⇒
    明視野像(BF像)では、Pt粒子の部分は電子が高角に散乱されるために暗く見えている。環状暗視野像(ADF像)では、散乱した電子を検出しているため、Pt粒子はコントラストが逆転し明るく見えている。

  • 双晶境界における角度差の精密測定
    Twin boundary-Precise measurement of angular difference

    CBED法を用いると、双晶角 (双晶境界における結晶方位の角度変化) や、小傾角粒界における角度変化を、通常の制限視野電子回折の場合の精度約1°を、約2桁上回る0.01°程度の精度で求めることができる[1]。以下では双晶角測定についての例を述べる。

    双晶角測定のためのdefocus CBED図形の撮影方法

    図1に双晶角測定のためのdefocus CBED図形の撮影方法を模式的に示す。試料の表面に対して斜めに入っている双晶境界を考える。双晶境界より上側の結晶 (Domain 1) に対して、下側の結晶 (Domain 2) は角度δだけ結晶方位がずれているとする。コーン状の入射収束ビーム (入射コーン) の焦点を試料から上方にずらして (defocusして)、双晶境界を含む両側の領域を照射してCBED図形を撮影する (Defocus CBED法)。コンデンサー絞りの大きさで決まる回折ディスクを透過波と一つの回折波で示す。このとき、二つの結晶からの反射gの回折線 (の主極大) の位置が、図に示すように、ずれる。このずれは、 双晶境界での上下の結晶の方位変化に対応している。反射gの距離を基準として、このずれを測定することで、0.01°程度の高い精度で双晶角を求めることができる。

    図1

    図1 双晶境界を含む領域から得られるdefocus CBED図形の模式図。
    双晶境界をまたいでDomain 1とDomain 2からの回折線のずれが二つのディスク中に見られる。
    ディスク中の点線は、双晶境界が試料の上面、下面と交わる線の投影を表す。

    双晶による逆格子点のずれと回折線のずれ

    高い精度で双晶角を決定するためには、双晶をなす二つのDomainの逆格子点のずれの方向が、電子線の入射コーンとほぼ平行になるように試料を配置しなければならない。図2 (a) に、Domain 1とDomain 2の逆格子点のずれを表すベクトル gzと電子線の入射方向を模式的に示す。図中に、入射方向AおよびCに対応するエワルド球をそれぞれ実線で示した。また、Domain 1とDomain 2で反射gがBragg条件を満たす入射方向のエワルド球をそれぞれ点線で示した。図2 (b) に、この場合にDefocus CBED図形中に現れる回折線のずれの模式図を示す。透過ディスクOと回折ディスクG (およびG') の中に現れている回折線の間隔は反射gのブラッグ角の2倍2θBに対応し、2つの回折線のずれは双晶角δに対応する (δ = |gz|/|g|)。

    図2

    図2 (a) 双晶によるDomain 1の逆格子点GとDomain 2の逆格子点G'のずれと入射ビームに対するエワルド球の模式図。
    結晶は、逆格子点のずれを表すベクトルgzが電子線の入射方向とほぼ平行になるように置かれている。
    (b) 双晶によるDefocus CBED図形中の回折線のずれの模式図。
    透過波ディスクOと回折ディスクG (およびG') の回折線間の距離は2θBに対応する。回折ディスク内の2つの回折線のずれは双晶角δに対応する (δ = |gz|/|g|)。

    NiO (110) での双晶境界のdefocus CBED図形と双晶角の決定

    図3に、NiOの (110) 双晶境界から加速電圧200 kVで得たdefocus CBED図形を示す。004, 006, 008反射の回折線が、図1に模式的に示したようにずれているのが分かる。双晶による回折線のずれ量は、同じ系列であればどの次数の反射でも同じになる。これは、双晶角は一つであり、反射の次数にはよらないためである。

    図3

    図3 NiOの双晶境界を含む領域から加速電圧200 kVで得たdefocus CBED図形。
    2つのDomainからの004, 006, 008反射の回折線は同じ間隔でずれているのが分かる。
    左下の明るい透過ディスク中にも004, 006, 008反射のずれが確認できる。
    なお、この回折図形では、回折ディスクは互いに大きく重なるように設定されている。

    図4は、NiOの (110) 双晶境界近傍から加速電圧200 kVで得た明視野defocus CBED図形 (大角度収束電子回折図形) および明視野TEM像である。双晶境界領域で00l系列の反射線のずれが見られる (矢印の対で示した)。ここで、004回折線と006回折線間の距離はブラッグ角θ002に対応する。(002) 反射の面間隔をdとして、ブラッグ反射の式 2d sin θB = λ を用いて、加速電圧200 kVでの004と006の回折線間の角度は θ002 = 0.344° と求められる。"2つのDomainからの004回折線のずれの距離"と"004と006回折線間の距離"の比は0.38と測定された。したがって2つのDomainからの004回折線のずれを角度に換算すると、0.344° × 0.38 ≈ 0.13° と求められた (この角度はDomain 1とDomain 2の (001) 面間の角度である)。この値を菱面体格子の角度αに直すとα = 90.07°となった。NiOは室温では菱面体相 (三方晶) に属し、格子定数はa = 4.177 Å、α = 90.06° と報告されている[2]。求めた値α = 90.07°は、報告されている値90.06°ときわめて良い一致を示している。
    なお、(0k0) 面は両ドメインに共通な面なので、これらの面には角野の差はなく、したがって0k0系列の反射の回折線の分裂は見られない。

    図4

    図4 NiOの双晶境界近傍から加速電圧200 kVで得た明視野defocus CBED図形 (大角度収束電子回折図形) および明視野TEM像。
    TEM像のフリンジの部分が双晶境界である。 defocus CBED図形はTEM像中の点線で囲んだ領域から得た。
    CBED図形中に矢印で示したように、双晶境界領域で00l系列の反射線のずれが見られる。

    このように、二つのDomainからの逆格子点のずれの方向を入射電子線と平行にして方位の変化を測定すると、測定精度が0.01°まで飛躍的に向上する。一方で、逆格子点のずれの方向が入射電子線と垂直な場合には、角度測定の精度は制限視野電子回折の場合と同様の1°程度にとどまる。
    なお、この方法は、双晶境界だけでなく小傾角結晶粒界に対しても同様に適用できる。

    (東北大学教授 津田健治 執筆)

    参考文献

    • [1] M. Tanaka, M. Terauchi and T. Kaneyama, J Electron Microsc. 40, 211-220 (1991).
    • [2] R. W. G. Wyckoff, Crystal Structures, Vol. 1, New York, Interscience (1963).

    [付録] CBED図形で結晶の方位変化が高感度で観測できる理由

    図5に、Domain 1の逆格子点を黒い丸、Domain 2の逆格子点を灰色の丸で示した。入射方向AおよびCに対応するエワルド球を図中に示した (簡単のためエワルド球は直線で近似)。逆格子点からのエワルド球までの距離を励起誤差と呼び、sで表す。エワルド球AおよびCで制限される領域が、回折ディスクの横方向の大きさに対応する。

    回折ディスクgの直径は入射ビームの収束角2θに対応する。図5では、透過ディスクと回折ディスクgが接する条件になっており、入射ビームの収束角2θは2θBに等しい (θB: 回折波gの回折角)。

    ディスク内に観測される双晶からの回折線は、双晶角δだけずれて観測される。このずれ量とディスクの直径との比はδ/(2θ) となる。入射ビームの収束角2θは加速電圧200 kVでは10 mrad (= 0.01 rad) 程度なので、δ/ (2θ)=δ×100となり、双晶での角度のずれδを100倍に拡大して見ていることになる。
    これが、前述のNiOで高精度な角度変化が測定できる理由である。

    図5

    図5 CBEDディスク内の回折線と逆格子点の関係

  • 相対論補正
    relativistic correction

    相対論補正とは、電子線の速度が光速と比較して無視できない程度に大きくなる際に現れる相対論効果を取り入れるために必要となる補正である。電子顕微鏡の分野では、相対論効果による質量の増加やド・ブロイ波長の短縮を、加速電圧の変化に置き換えて考える。
    相対論補正後の加速電圧E*[V]は、相対論補正前の加速電圧E[V]を使って、以下の式で計算する。⇒数式
    ここで、m0は電子の静止質量、eは素電荷、cは光の速度である。

  • 阻止能
    stopping power

    荷電粒子が物質を通過するとき単位距離あたりの平均のエネルギー損失量。電子顕微鏡でのエネルギー損失はおもにイオン化や電子の励起である。阻止能は試料の温度上昇や試料の損傷の程度の計算に使われる。

  • タイコグラフィー
    Ptychography

    入射電子プローブを、その照射領域の一部が重なるよう試料上で二次元スキャンして各走査点において回折図形を取得し、回折図形の強度から試料の構造を再構成する方法。Ptychoはギリシャ語で重なり (fold) を意味する。X線構造解析の分野で実用的に使われている。
    透過電子顕微鏡においては、装置の安定性向上と収差補正装置の開発とともに、回折図形の二次元デジタル画像を高速に取得できる高速高感度カメラの登場によって、より精度の高いデータ取得が可能となったことから、2012年頃から原子分解能の構造像を得る (位相回復) 手法の一つとして注目されてきた。特に近年の研究で、ノイズが少なくコントラストの高い構造像 (図2) が得られることが報告され、関心を集めている。透過電子顕微鏡では、以下の二つの方法のタイコグラフィーが現在行われている。

    1) 入射電子線を試料上でデフォーカスして照射した状態で走査する方法 (図(a))
    デフォーカスして照射領域を大きくした入射電子線を用いて、照射領域の一部が重なるように走査する。走査点数は、照射領域とプローブサイズに応じて数10点 ×数10点以下である。タイコグラフィーにより構造像 (位相回復像) を得る計算は以下のようにして行う。
    試料の初期関数を1と仮定し、プローブ関数として箱型関数を仮定する。試料の出射波関数 (試料関数とプローブ関数の積) をフーリエ変換して回折図形を得る。この回折図形の強度を実験で取得した回折図形の強度と置き換える。更新された回折図形を逆フーリエ変換して実空間の像(構造像)に戻す。この操作によりこの試料位置での出射波関数が更新される。プローブ関数を正しい関数 (初期に与えた関数) に置き換え、この計算を繰り返す。その後、次のプローブ位置に移動して、同様の計算を実行する。このようなプロセスを順番に行い、計算による回折図形と実験で得た回折図形の差分が十分に小さくなるまで繰り返す。
    このようにして得られた試料の構造像 (位相像) を図(c)に示す。本手法は従来のインコヒーレントなディフラクティブイメージングと類似しているが、隣り合う照射領域の重なり部分で試料関数が一致することが拘束条件に加わっているために、ディフラクティブイメージングで起きている解の一意性の問題は克服されている。さらに観察領域も走査することによって制限されなくなっている。
    2) 入射電子線を試料上にフォーカスして照射した状態で走査する方法 (図(b))
    試料上にフォーカスした電子線を用いて収束電子回折図形を二次元画像として取得する。その電子線を試料上で二次元的に走査する。通常、走査点は数万点を超え、取得したデータは四次元 (二次元走査+二次元回折図形) の大量のデータとなる。
    まず、[二次元走査R+二次元回折図形K]の四次元データRKを、二次元走査に関する部分Rについてフーリエ変換して [二次元周波数Q+二次元回折図形K]の四次元データQKを得る。ある空間周波数qに対する回折図形Kの中の "透過波と回折波との干渉領域 (K')" には、構造のフーリエ成分q-が強度として表れている (図(b)下部)。次に、得られる構造像(位相像)のS/N比を改善するために、干渉領域 (K') 外の強度の振幅をゼロにする。さらに、透過波に対して対称に位置する回折波と透過波との干渉領域(K'') の強度の符号 (位相)を反転させ、干渉領域 (K') の強度と同位相にする。この操作によって、積分時に通常はK'とK''で相殺されてしてしまう信号を足し合わせて強度を増強できる。引き続いて、QK中の周波数成分q毎に二次元回折図形 (図(b)下部) K' とK'' の強度を積分し、二次元空間周波数図形Q' をつくる。最後に、Q’ を逆フーリエ変換して、試料(実空間)の構造像(位相像)を得る(図(d))。

    (校閲 Dr. Peng Wang、南京大学)

    図1
    (a)電子線の照射領域の一部が重なるようにして走査するタイコグラフィー。照射領域は数nm~数10nm程度で、走査点数は通常、数10点 ×数10点以下である。
    (b)電子プローブ(0.3nm程度以下)を試料上にフォーカスして走査するタイコグラフィー。走査点数は通常のSTEMと同様に数100点 × 数100点程度。回折図形の取得には、高速高感度カメラ(ピクセル型STEM検出器)が用いられている。
    (c) (a)の手法により再構成した単層MoS2の位相像(構造像)。(データ提供:Dr. Peng Wang 南京大学)
    (d) (b)の手法により再構成した単層グラフェンの位相像(構造像)。

    図2
    インフォーカスのタイコグラフィー再構成によって得られた構造像(位相像)、および同時に取得されたADF像との比較。試料:単層グラフェン、加速電:200kV
    (a) 四次元データより再構成されたグラフェンの構造像。ここでは原子位置を明るく表示している。
    (b) 四次元データと同時取得された通常のADF像。
    両者を比較すると、再構成された構造像の方が、像のS/Nおよびコントラストがともに高くなっているのが分かる。

  • 多重散乱
    multiple scattering

    入射電子が試料に進入していく過程で構成原子と次々に衝突し、試料から出て行くまでに多数回の衝突によって進行方向が変わっていく(散乱)現象。多重散乱のうち、弾性散乱(ブラッグ反射)による多重散乱を扱う動力学的回折理論は、入射波および回折波の強度を試料の厚さと散乱角の関数として与える。

  • 多波近似
    many-beam approximation

    結晶に電子を入射したとき、一つの格子面からのブラッグ反射波(回折波)だけでなく、他の格子面からのブラッグ反射波も生ずる。これらの多くの波を考慮して回折強度やTEM像を解釈する近似法。

  • 単粒子解析
    single particle analysis

    タンパク質や核酸など生体高分子の水溶液薄膜を微小孔カーボン薄膜中に形成させ、急速凍結してタンパク質分子等を非晶質の氷薄膜に包埋し、氷薄膜中に分散した分子(単粒子)像を液体窒素温度にて撮影した電子顕微鏡画像から、画像解析によってその三次元構造を解析する手法。
    撮影した画像にはタンパク質粒子を様々な方向から投影した像が記録されている。それぞれの粒子像に画像面内での回転と平行移動を施して、外形や密度分布が同じ粒子像を集めてグループ分けする。その後、各グループの粒子像を加算平均して像のS/N比を向上させる。各グループの粒子像の投影方向のオイラー角(粒子が画像面と成す角)を推定し、その角度に沿って逆投影することによって、タンパク質の三次元構造を再構成する。
    試料作製法や解析ソフトウエアの発展、ならびにCMOSを用いた直接露光検出器の登場により、単粒子解析法の高分解能化・実用化が進んだ。極めて少量(密度: 数mg/mL、容量: 数µL/グリッド)のサンプルでの解析が可能で、結晶化の困難なタンパク質の構造解析にも有効である。2018年現在、最高到達分解能は0.16 nmである。

    試料作製および電子顕微鏡観察法

    ほぼ単一の構造の高純度のタンパク質粒子を水溶液に分散させる。タンパク質の構造を損なわないようにするために急速凍結(-180°C以下)により氷包埋する。タンパク質は C、H、O、N、S など軽元素で構成され電子顕微鏡像のコントラストが低いため、試料作製の際、タンパク質粒子を取り囲む氷の厚みを十分薄くすることが重要である。
    凍結した状態で試料を電子顕微鏡内に挿入する。電顕像の撮影は液体窒素温度で行う。電子線照射による試料の損傷を抑えるため、観察の際は照射電子線量を低くする必要がある。軽元素からなるタンパク質粒子は散乱コントラストによる観察が困難なため、位相コントラストによって観察する。その際、低周波領域のコントラストを向上させるため、対物レンズを大きく(-0.5~数µm)デフォーカスさせる。

    画像取得

    低電子線量で撮影されたタンパク質粒子像のS/N比は極めて低い。S/N比の高い粒子像を得るために、数百から数千枚の画像を撮影し、画像を分類し揃えた後で数万から数十万の粒子像を抽出し加算平均する。近年は自動画像取得システムを使って、数日間にわたって数千枚の画像を撮影する。
    電子線照射によるタンパク質粒子のドリフトは単粒子解析の分解能低下の重要な一因である。シンチレーターを介さない直接露光検出器を用いた単電子検出により、電顕像自体の分解能が向上した。さらに高フレームレート(5~10フレーム/秒)で動画撮影することで粒子のドリフトの影響が軽減し、撮影後に各フレーム間での粒子像の動きを補正することで、高解像度タンパク質粒子像の取得が可能になっている。

    画像解析

    粒子自動検出ソフトにより、数千枚の電子顕微鏡画像から数万〜数十万のタンパク質粒子像を自動抽出する。粒子像は様々な方向で投影されているので、抽出した画像を回転並進させ、同じ方向の投影像に分類した上で位置と向きを揃え、各分類画像を平均化することでS/N比の高い100~200個程度のタンパク質粒子像を得る。この段階では、粒子像の三次元的な方向(オイラー角、今の場合、画像面と成す角)は定まっていない。適当な方向を仮定した粒子の初期モデルを与えて、その投影像と得ている画像との比較から各粒子像のオイラー角を推定する。推定したオイラー角を付与した粒子像を逆投影によって初期の三次元構造を得る。その三次元構造から再び投影像を作成する。再投影した像と元の画像とを比較してオイラー角を再付与する。この画像を逆投影して次のステップの三次元構造を得る。得られた三次元構造が収束するまでこの操作を繰り返す。計算の各段階では統計学の手法により計算結果を評価し、最終的に最も確からしい三次元構造を得る。

    他の解析手法との比較

    電子顕微鏡を用いた構造解析法には、電子線結晶構造解析法、電子線トモグラフィー、単粒子解析法がある。電子線結晶構造解析法では、二次元結晶あるいは薄い三次元結晶を用いて、X線構造解析と類似の方法で構造解析する。分解能は0.2 nmを切っている。電子線トモグラフィーでは、一つの試料を電子顕微鏡内の試料ホルダーで連続的に傾斜して、さまざまな角度からの投影像を撮影し、得られた画像を逆投影して三次元構造を得る。この方法では、加算平均による画像のS/N比の向上を実施することはできない。生体物質への応用では、細胞レベルでの機能構造の解析に用いられており、分解能は数〜10 nmオーダーである。しかし、得られたトモグラムに同じタンパク質粒子が数多く含まれる場合はサブトモグラム平均が可能で、この方法による分解能向上は0.3 nmに近い領域に到達している。
    従来から用いられているタンパク質の構造解析法は、X線結晶構造解析法ならびに核磁気共鳴法(NMR)である。前者ではサイズが10 µm以上の結晶が必要であり、結晶化できないタンパク質は構造解析できない。NMRでは解析できる分子量が~5万以下という制限がある。単粒子解析法にはこれらの制限はなく(ただし、分子量10万以下の小さな分子では画像のS/N比が悪く現時点での課題)、分解能はX線結晶構造解析と同程度に近づいており、単粒子解析法の発展と利用が期待されている。

    (大阪大学 難波啓一特任教授、加藤貴之特任准教授 校閲)
    single particle analysis ⇒
    (データ提供: 大阪大学 難波啓一特任教授、加藤貴之特任准教授)

  • 大角度収束電子回折法
    large-angle convergent-beam electron diffraction (LACBED)

    通常の収束電子回折法では隣接する回折波のために回折ディスクの半径はブラッグ角を越えることができない。大角度収束電子回折法を用いると、角度に関するこの制限を越えて大きな角度の収束電子回折図形が得られる。C-Oレンズを使って、入射ビームの焦点に試料を置くと像面(制限視野絞り)上に明視野像と暗視野像の重なった像ができる。試料位置をビームの焦点からはずして上方または下方にずらすと制限視野絞り上の明視野像と暗視野像は分離する。制限視野絞りで、たとえば明視野像のみを選んで、中間レンズの条件を回折図形を得るモードに設定すると、通常の収束電子回折図形の角度の3~4倍にわたる明視野の回折図形が得られる。大角度収束電子回折図形には像と回折図形の両方の情報が入っており、格子欠陥の同定や界面の歪解析に有効に使われている。

    LACBED (a)(b)⇒
    (a)収束半角をブラッグ角以下にした場合
    通常の収束電子回折法では、隣接する回折波が互いに重ならないようにするために、収束半角αはブラッグ角θ以下に設定する。

    (b) 収束半角をブラッグ角以上にした場合
    収束半角αがブラッグ角θを越えると、隣接する回折波ディスクと重なり、それぞれの回折波の情報が取り出せなくなる。

    LACBED (c)(d)⇒
    (c) 通常の収束電子回折法で収束角をブラッグ角より大きくした場合の光線図。
    通常の収束電子回折法では、入射ビームの焦点に試料を置き、対物レンズのピントを試料に合わせる。その場合、対物レンズの後焦点面に回折図形が形成され、試料の像(この場合はスポット状の像)は制限視野絞り上に形成される。入射電子線の収束角をブラッグ角より大きくした場合、対物レンズの後焦点面で回折図形は透過波ディスクと回折波ディスクが重なる。透過波および回折波による試料の像は制限視野絞り上で重なる。

    (d) 大角度収束電子回折法での光線図。
    ①大角度収束電子回折法では、対物レンズの励磁の強さを変えずに試料位置を入射ビームの焦点から上方に(または下方に)ずらす。
    ②回折図形は(c)の場合と同様に、対物レンズの後焦点面にできているが、制限視野絞りの位置にあった試料の像は上方に(または下方に)ずれ、透過波像(スポット)と回折波像(スポット)は制限視野絞り上で分離する。
    ③ここで、結像系(中間レンズ)で像を観察するモードで制限視野絞りを用いて、たとえば透過波スポットのみを選ぶ。ここで、回折図形を観察するモードに結像系(中間レンズ)を切り替えると、重なりのない、透過波のみで形成された、回折角の制限を超える大角度の収束電子回折図形が得られる。

    大角度収束電子回折図形⇒
    加速電圧:200kV, 試料:Si [111]
     

  • ダイナミックTEM
    Dynamic TEM (DTEM)

    通常の透過電子顕微鏡においては30分の1秒(テレビレート)の時間分解能でしか画像記録できないが、光源や記録系を高速なものに置き換えてナノ秒~フェムト秒オーダーの間隔で透過電子顕微鏡像を取得する技術をDynamic TEM (DTEM)と呼ぶ。パルスレーザによる光電子放出を用いた電子銃が光源として用いられる。電子源からのパルスに試料に照射するパルスレーザを同期させて、高い時間分解能での化学反応過程や結晶化の過程を観察することができる。

  • 脱出深さ(電子などの)
    escape depth

    二次電子、特性X線、オージェ電子などが試料内部から脱出できる深さ。

  • 弾性散乱電子
    elastically scattered electron

    入射電子が試料を構成する原子と衝突し進行方向を変える(散乱)とき、そのエネルギーを失わずに散乱される電子。試料が結晶の場合、弾性散乱された電子はブラッグ条件で与えられる特定の方向にのみ観測される。その電子波を回折波という。試料が薄い場合は、TEM像や回折図形の強度は弾性散乱電子で説明ができる。試料が厚くなると(~10nm以上)、非弾性散乱電子の影響を考慮しなければならない。

  • チェレンコフ放射
    Cherenkov radiation

    物質(媒質)内を運動する荷電粒子が、その媒質中における光速(c/n, cは真空中の光速, nは媒質の屈折率)を超えるとき、媒質から光が放射される。これをチェレンコフ放射という。
    図1に示すように、媒質中に入った荷電粒子のまわりには電気分極が発生し、粒子が通過した後にその電気分極が消滅する過程で光が放射される。粒子の軌跡に沿った各点から放射される光は、粒子の速度が媒質中の光の速度より速い場合、図1に示すように特定の方向に波面がそろい鋭い指向性を持つ光が放射(チェレンコフ放射)される。この現象は、超音速の飛行物体が衝撃波を発生する機構と類似している。荷電粒子の速度が媒質中の光の速度より遅い場合には光の位相がそろわず減衰してしまい、チェレンコフ放射の現象は起きない。
    電子の入射により発生するチェレンコフ光は次の性質をもつ。ここで、nは媒質の屈折率、vは電子の速度、cは真空中の光速を表わし、β=v/cである。

    • チェレンコフ放射の発生条件は v>c/n または >1 で与えられる。(臨界速度)
    • 放射角 θcosθ=1/ で決まる。
    • 放射スペクトル強度I(λ)はλ-2の依存性を示す。

    加速電圧が100kV (200kV) で加速した電子の速度は、光速の0.55倍(0.70倍)になる。媒質の屈折率が 1.8 (1.4) より大きな場合、その電子の速度が媒質中の光速を超えるため、チェレンコフ放射を発生する。図2に、異なる加速電圧で加速した電子をマイカ薄膜に入射したとき、電子顕微鏡で観測されたチェレンコフ放射スペクトルを示す。マイカの屈折率は1.59なので臨界速度を与える加速電圧は146kVである。加速電圧が120kVでは放射は観測されず、160kVおよび200kVでは強い放射が起こっていることが分かる。
    なお、チェレンコフ放射を用いた計数装置は、高エネルギー物理学の分野の測定器としてニュートリノ等の検出に用いられている。

    (東工大 山本直紀博士 執筆)

    チェレンコフ放射の発生機構 ⇒ 図1
    マイカ薄膜からのチェレンコフ放射スペクトル。加速電圧は(a)200 kV、(b)160 kV、および(c)120 kV。 ⇒ 図2

  • 超高圧電子顕微鏡
    ultra-high voltage electron microscope (UHV-EM)

    1000kV以上の高加速電圧の電子顕微鏡。1000kVの電子は波長が0.00087nmにまで短くなる。波長が短いことを利用した高分解能化が図られ0.1nm程度の分解能が得られている。その結果、炭素などの軽元素が明瞭に見られている。ただ、最近の高分解能化は球面収差補正装置を搭載した300kV電顕によって行われている。超高圧電子顕微鏡の特徴は、試料に対する透過能が高いので厚い試料の観察ができること、電子線照射による損傷の研究ができること、試料室が大きいので試料環境を制御する研究が容易であることなどである。

    UHV-EM : ultra-high voltage electron microscope ⇒
    1000kV以上の高加速電圧の電子顕微鏡。
    1000kVの電子は波長が0.00087nmにまで短くなる。波長が短いことを利用した高分解能化が図られ0.1nm程度の分解能が得られている。超高圧電子顕微鏡のその他の特徴として、試料に対する透過能が高いので厚い試料の観察ができること、電子線照射による損傷の研究ができること、試料室が大きいので試料環境を制御する研究が容易であることなどが挙げられる。

  • 低エネルギー電子顕微鏡
    low energy electron microscope (LEEM)

    入射電子線のエネルギーを電場で数ボルトから数百ボルトに低減して試料に照射し、試料から後方弾性散乱された電子を試料直上の電場で加速し、結像レンズによって拡大像をスクリーンもしくは撮像カメラによって観察する装置。空間分解能は5~10nm程度。結像レンズ系で回折パターンを形成し、絞りでLEED (low energy electron diffraction) の回折スポットを選択して暗視野像を得ることもできる。表面構造の研究に使われ、試料周りは超高真空に保たれる。また、結像系が同一なPEEM (photo emission electron microscope)の機能が付加されていることが多い。

  • 低角度散乱暗視野法
    low-angle annular dark-field scanning transmission electron microscopy (LAADF-STEM)

    走査透過電子顕微鏡法(STEM)の円環状検出器による暗視野法(ADF)のうち、低‐中角度(25~60mrad)に回折した電子や非弾性散乱電子を円環状の検出器で受け、この電子の積分強度を入射電子プローブの位置に対応させて表示してSTEM像を得る手法。一般には、この手法で得られるSTEM像は回折コントラストや試料の厚さの違いなどが反映される。
    HAADF法では、軽元素のみで構成されている分子結晶、二次元結晶、高分子や生物などの有機物の場合、高散乱角での弾性および非弾性散乱電子の強度が弱いためSN比の良い原子分解像が得られない。このような軽元素試料にLAADF法を適用すると、原子番号に依存した高分解能の像をSN比良く得ることができる。

    半導体素子(CPUのn-チャンネルMOSFET)の断面薄膜試料のSTEM像 ⇒
    加速電圧: 200 kV、入射電子線の収束角: 半角11 mrad
    図(a) HAADF-STEM像。青矢印で示したように、TaやWなど重い元素の存在する部分が明るく観察されている。検出器の取り込み角:半角46 - 208 mrad
    図(b) LAADF-STEM像。赤括弧で示した領域中のSiNx層は、青括弧で示したSiO2の領域と比較して、明るく観察されている。この層構造はHAADF像においてほとんど観察することができない。また、赤矢印で示したように格子欠陥も観察されている。検出器の取り込み角:半角14 - 63 mrad

    2つの検出器の光線図の比較⇒
    図(a) HAADF-STEMにおける入射電子線の収束角と散乱電子線の検出器への取り込み角の関係。検出器の典型的な取り込み角はβ1 ~ 50 mrad,β2 ~200 mradである。高角度に散乱された非弾性散乱電子を検出する。200 kVの収差補正電子顕微鏡の場合、αは25 mrad程度である。通常、ABF検出器やLAADF検出器はHAADF検出器の下部に配置される。
    図(c) LAADF-STEMにおける入射電子線の収束角と散乱電子線の検出器への取り込み角の関係。入射電子線の収束半角をαとすると検出器の取り込み角は、β1はα より少し大きな角度、β2は 60 mrad程度に設定する。回折波と中低角度に散乱された非弾性散乱波を検出する。

  • 定在波
    standing wave

    ある点における振幅と他の点における振幅の比が時間的に不変な波。電子波が結晶の中でブラッグ反射を起こしているとき、入射波と回折波は定在波を作る。

  • 転位のバーガースベクトルの決定(CBED法による)
    Burgers vector determination of a dislocation using CBED

    CBED 法を用いると転位のバーガースベクトル b を一意に決定することができる。
    TEM像を使う方法では、バーガースベクトルの決定に gb = 0 の情報しか使えないが、CBED法ではこれに加えて gb = n ≠ 0 の情報まで使えるので、バーガースベクトルについての予備情報 (可能な候補)が必要でなく、一義的にバーガースベクトルが決定できる [1, 2]。
    図1に、バーガースベクトル決定のためのdefocus CBED図形の撮影方法を模式的に示す。入射収束ビームの焦点を試料から上方にずらして (defocusして)、転位の歪みが及んでいる範囲全体を照射してCBED図形を撮影する (Defocus CBED法)。
    反射 g の回折線の主極大は、転位線と交わるところで転位の歪によって反射が起こる条件(角度)が変わり、図1のように回折線が曲がる (ずれる)。計算機シミュレーションから、gb = n になる反射 g のdefocus CBED図形には、n 個の節を持つ反射線が現れることが知られている[2]。また、n の符号は反射線の曲がり (ずれ)の向きから判別できる(後述)。

    転位を含む領域からのdefocus CBED 法の模式図
    図1 転位を含む領域からのdefocus CBED 法の模式図。

    ここで g は反射の逆格子ベクトル、u は転位線のベクトル(向きの取り方は任意)、c は試料上の照射領域の中心から入射ビームの焦点に向かうベクトル、vv = u × c により定義されるベクトルである。w は、励起誤差 s に消衰距離 ξg を掛けた無次元量 w = sξg であり、w > 0の向きは反射 g から透過波に向かう方向となる。


    次に、3個の異なる反射 g について節の数 n を調べる。このとき3個の g として一次独立な反射、すなわち同一平面内(同一ラウエ帯)にない反射が必要になる。バーガースベクトルを b = [uvw]として gb = n の3元連立1次方程式を解くことで b が曖昧さなく得られる。
    n の符号は以下のようにして決める。バーガースベクトルの取り方はFS/RH conventionに従うものとする[3]。転位線の向きの取り方は任意なので、図1(a)の矢印 u の向きにとることにする。試料上での照射領域の中心から入射ビームの焦点に向かうベクトルを c とする。ここで v = u × c というベクトルを定義する。
    v の原点は転位線の上にとり、転位線の v > 0 の側に着目する。v > 0 の側で回折線の曲がり方(直線からずれてゆく方向)が(図1のように)反射ベクトル g の向きと同じなら n は負とし、曲がりが g と反対向きなら n は正とする。図1では n = −1 となる。
    図2 に、Si の転位による歪み領域をカバーするように電子線を照射して撮影したdefocusCBED 図形の例を示す。転位のバーガースベクトルを b = [uvw] として、3 個の反射、例えば 440、533、462反射反射について gb = n の連立方程式をつくると

    4u − 4v = +2
    −5u + 3v + 3w = −4
    −4u + 6v − 2w = −1

    となり、これを解くと曖昧さなく b = 反射 [101]/2 が得られる。
    もう一つの反射 反射 735についても、得られた bgb を計算すると gb = 6 となり、CBED 図形から読み取れる n の値 n = + 6 と一致することがわかる。

    Si の転位から得たdefocus CBED 図形。各回折ディスクのディスクを白い点線の円
    図2 Si の転位から得たdefocus CBED 図形。

    各回折ディスクのディスクを白い点線の円で、各反射に現れる転位線の位置を白い点線で示した。また、節の数と回折線の曲がり(ずれ)の向きとから決まる n の値を付記した。反射 440 反射と反射 735反射では、v > 0 の側で回折線の曲がる方向が g ベクトルの向きと反対であり n の符号は正である。
    一方、反射 462反射および反射 533 反射では、v > 0 の側で回折線の曲がる方向が g ベクトルの向きと同じであり n の符号は負である。

    (東北大学教授 津田健治 執筆)

    References

    [1] D. Cherns, A.R. Preston, Proc. of the 11th Int. Congr. on Electron Microsc., Japanese Society of Electron Microsc., Kyoto, 1986, p. 721-722.
    [2] M. Tanaka, M. Terauchi and T. Kaneyama, J Electron Microsc. 40, 211-220 (1991).
    [3] J.P. Hirth and J. Lothe, Theory of dislocations (2nd ed.), Wiley, New York (1982).

  • 点分解能
    point resolution

    実空間の2点を見分けられる最小距離。TEM像の点分解能は、加速電圧を上げること及び対物レンズの球面収差を小さくすることによって高くなる。

  • ディフューズストリーク
    diffuse streak

    (制限視野)回折図形上でスジ状に表れる強度のこと。実空間で面状の欠陥(積層欠陥など)や線状の欠陥(周囲と異なる原子列や空孔の列)から作られる。ディフューズストリークの解析から実空間での構造の乱れが推定できる。

  • ディフラクティブイメージング
    Diffractive imaging

    試料の回折図形からその像を再構成する手法。回折図形では収差の影響が少ないため、原理的には、得られる試料構造像の分解能は、取得する回折図形の最大回折角で決まり、レンズを使った高分解能像より高い分解能の試料構造像(振幅像と位相像)が得られる可能性がある。この手法はX線で盛んに研究されており、X線分野ではCoherent Diffractive Imaging(コヒーレント回折イメージング)と呼ばれている。電子線分野では、Diffractive Imaging(回折イメージング)、回折顕微法と呼ばれることが多い。カーボンナノチューブなどに応用され0.1nm程度の分解能が得られている。また、結晶に限らず、単一分子など非周期構造の試料にも適用できる。像の再構成には、フーリエ反復位相回復法を用いる。すなわち、試料から得た回折図形の強度の平方根を取って回折振幅とし、ランダムな初期位相を与えてフーリエ変換して試料の近似像を得る。得られた像には、試料外形を超える領域にも構造が現れる。試料外形がはっきり決められる場合はその領域以外の強度を0とおいて(実空間拘束条件)、(試料の外形を正確に決めにくいときは試料より少し大きな領域(サポートと呼ぶ)を規定し、サポートを超えた領域の強度を0とおいて)、これを逆フーリエ変換して回折図形を得る。得られた回折強度が実験値と不一致の場合は、回折振幅を実験値に置き換えて(逆空間拘束条件)、再びフーリエ変換して実像を得る。このような操作を繰り返すことで徐々に正しい位相を回復して、試料の真の構造像が得られる。正しい位相が回復されるまでの反復回数は数1000回以上である。得られる像の精度には、回折図形に含まれる原点まわりの非弾性散乱、検出系や電気回路のノイズ、サポート形状などが影響する。回折図形を取得する際、試料面積(サポート)の2倍以上の領域にビームを照射する。これは回折図形を2倍に細かい間隔でサンプリングすることに対応しており、試料に含まれるすべての情報を取り出すことができ、オーバーサンプリング条件と呼ばれている。実験においては、再構成する対象試料の周囲に試料が存在しない領域を作りだし、オーバーサンプリング条件を満たすように回折図形を記録する必要がある。

    Diffractive imaging⇒
    フーリエ反復位相回復法の概念図。フーリエ変換を使って逆空間(回折面)と実空間(像面)を行き来しつつ拘束条件を与えることで、試料の正しい構造像を徐々に求めていく。具体的には、①回折図形から求めた逆空間振幅とランダムな初期位相を与えて逆空間波動場を作成する。②それをフーリエ変換し、実空間波動場にする。③サポートの外の領域の強度をゼロに置き換える(もしくはゼロに近い値にする)。④逆フーリエ変換により逆空間波動場にする。⑤振幅を回折図形から求めた値に置き換える。以上のステップを繰り返すことで、徐々に逆空間での波動の位相および実空間での波動場が正しく求められ、⑥試料構造像を再構成することができる。

  • ディフラクトグラムタブロー
    diffractogram tableau

    入射ビームを1~2度位傾け方位角を次々に変えて撮ったアモルファス試料の高倍像のフーリエ変換図形(diffractogram)を、2次元的に表示したもの。Zemlin tableauとも呼ばれる。このtableauに現れる図形の楕円度や対称性を利用して、非点収差(軸上)補正、コマフリー軸合わせ、3回非点収差補正を行う。Rose-HaiderタイプのCsコレクターが電顕に装着されている場合は、球面収差補正、4回非点収差補正、5次の球面収差の最適化を行うことができる。これらの補正を自動的に行うソフトウェアが開発されている。

    Diffractogram tableau ⇒
    図(a)、(b)は、収差補正を施していない場合と施した場合の diffractogram tableau。それぞれの図において、中心には入射電子線の傾斜角が零のdiffractogram 、外側には電子線を傾斜して得たdiffractogramをその傾斜角と方位角に応じて配置している。
     入射電子線を傾斜した場合、軸上(幾何)収差があると、その大きさや対称性によってdiffractogramの形状が円状から歪む。図(a)では、支配的な収差である三次球面収差のために、電子線を傾斜した場合のdiffractogramが円状から大きく変化している。一方、図(b) では、電子線を傾斜しても収差の影響が少なく、diffractogramの形状がいずれも円状に近く、図形間の形状の変化も少ない。

  • デバイシェラー環
    Debye-Scherrer ring

    多結晶薄膜に平行性のよい電子線を入射させるときに得られるブラッグ反射による同心円状の回折環のこと。

  • デバイワラー因子(温度因子)
    Debye-Waller factor

    原子の熱振動 (格子振動) の大きさを表す因子でB因子と言われる。Bは、熱振動による原子の平均二乗振幅を熱振動による原子の平均二乗振幅 1とすると熱振動による原子の平均二乗振幅 2で与えられ、通常Å2で表す。X線、中性子、電子線の原子による散乱振幅の散乱角依存性 (θまたはk依存性) は、次式によって与えられる。

    X線、中性子、電子線の原子による散乱振幅の散乱角依存性 式

    ここで、Fは熱振動のないときの原子散乱振幅であり、熱振動のないときの原子散乱振幅 (λ: 量子線の波長、θ:散乱角の1/2) である。B因子によって高散乱角側 (θまたはkが大きい領域) で、散乱 (ブラッグ反射) の振幅が減衰する。試料の温度を下げると、熱振動が小さく抑えられBの値は小さくなる。
    その結果、高次の反射の振幅の減少が抑えられるため、高次の反射の強度が増し観察しやすくなる。

  • デルタフリンジ
    δ fringe

    結晶性薄膜試料の表面に対して斜めに入る双晶境界(もっと一般に、結晶方位の違いがある界面)を二波近似回折条件で撮影するとき、明視野像および暗視野像に現れる特定のコントラストを持つ縞のこと。

    図1に、試料の表面に対して斜めに入る双晶境界からの縞状のコントラストとその模式図を示す。図1(a)は、双晶境界とそれによって作られる縞状のコントラストを模式的に示す。結晶の格子面は双晶境界の両側で方位が変わる(角度が変わる)。図1(b)は、酸化ニッケル (NiO)の試料の表面に対して斜めに入る双晶境界からの暗視野像である。図1(c)は、図1(b) の拡大図である。両側の結晶では回折波gの励起誤差sが異なる。両結晶での励起誤差sの差 Δs=s1-s2 の正負によって両端の縞のコントラストの特徴が決まる。縞のコントラストは吸収効果を取り入れた動力学理論によって説明される。

    双晶境界が試料の上下の表面と交わるところに現れる縞のコントラストが、縞の中央(試料の厚さの半分の位置)に関して、暗視野では対称になるが、明視野では反対称になる。図1(b)および(c)で、両端の縞が中央に対して対称、すなわち白(B)と白(B)のペアになっているのが分かる。縞の対称性から、2つの結晶領域間の励起誤差の差 Δsの正負(なす角の正負)や試料に対する界面の傾きの向き(右肩上がりか、左肩上がりか)が分かる。(図1(b)の場合はΔsは正)詳細は文献 Marc De Graef : Introduction to Conventional Transmission Electron Microscopy, pp507~ を参照のこと。δフリンジの名称は双晶境界での結晶の方位変化 δ に由来する。

    しかし、このような縞の対称性が現れるのは、二つの結晶領域のなす角度の差が数度以内のときである。それより角度が大きくなると、一方の領域しか回折条件を満たさなくなり(他方の励起誤差sが大きくなり)、δフリンジを特徴付ける縞の対称性は失われ、回折条件を満たした領域だけからの等厚干渉縞になる。したがって、δフリンジは、αフリンジとの対比において、また吸収効果を取り入れた動力学理論の検証としての意味はあるが、δフリンジから結晶領域間の角度の測定はできない。

    結晶領域間の方位の違い(なす角度)は、大角度収束電子回折法を用いて極めて高い精度で測定できる。以下の文献を参照すると良い。

    • M. Tanaka, M. Terauchi and T. Kaneyama: J. Electron Microscopy 40 (1991) 211-220
    • M. Tanaka, M. Terauchi and K. Tsuda: Convergent Beam Electron Diffraction III (1994) pp188-205, JEOL Tokyo
    α fringe

    図1(a): くさび形の試料に斜めに入った結晶粒界(上)とδフリンジの模式図(下)。
    図1(b): 試料の表面に対して斜めに入った双晶境界の暗視野像。両端の縞が白(B)と白(B)のペア(すなわち中央に対して対称)になっている。試料はチタン酸化ニッケル(NiO)。加速電圧200kV。
    図1(c): (b)の黄色点線部の拡大図。両端の縞が白(B)と白(B)のペアが一層よく見える。


  • 電荷・軌道秩序
    charge and orbital ordering

    遷移金属の3d電子で、二種類の電荷状態が交互に規則正しく整列した状態を電荷秩序状態といい、軌道、たとえばeg軌道、が方向を変えて交互に規則正しく整列した状態を軌道秩序状態という。遷移金属を含むペロブスカイト酸化物で、組成や温度をかえるとこのような秩序状態が出現する。このような電子系の超構造は格子系に反映されるので、電子回折図形に超格子反射として観察される。

  • 電源同期
    Line synchronization

    電子ビームを走査して画像を取得する際、各水平方向の走査線を開始するタイミングを、交流電源の波の位相と同期させること。走査像取得の際に電源同期機能を働かせると、電源と同じ(またはその定数倍の)周波数の外乱の影響が走査線上で揃い、各走査線同士のずれがなくなる。そのため、周期的外乱の影響が画像の水平方向の細かいノイズとして現れなくなり、外乱の影響を見た目上低減できる。

  • 電子回折
    electron diffraction

    試料に電子線を照射し、得られる回折図形から結晶構造の情報を得る手法。試料が結晶のときは、原子配列の周期性、対称性、規則性、結晶格子の完全性からの乱れなどの結晶構造についての情報が得られる。試料が非晶質の場合には第一、第二 ...近接原子の距離や個数などがわかる。電子回折図形の幾何学的解析には、運動学的回折(X線回折で用いられる)が適用できるが、強度の定量的解析には動力学的回折を適用する必要がある。電子線はX線よりビームを細くできるので、局所領域からの結晶構造情報を得ることができる。

  • 電子線ホログラフィー
    electron holography

    電子波の干渉性を利用し、試料によって電子波が受ける位相変化を再生する手法。先ず、試料を透過して位相変化を受けた波(物体波)と電子光源から真空を通過し試料の影響を受けない波(参照波)を、電子線バイプリズムで偏向させ、干渉させて縞(ホログラム)を得る。次に、得られたホログラムをコンピューターでフーリエ変換し、バックグラウンドを作る等間隔の主干渉成分をマスクして取り除き、試料を透過した回折波の変調成分(サイドバンド)を抽出して逆フーリエ変換を行うことにより、試料下面での位相が再生される。
    透過型電子顕微鏡でホログラムを得るためには、干渉性の高いビームが必要なため、電子光源が小さい電界放出型電子銃が不可欠である。もともとはD. Gaborによって電子顕微鏡の収差を除くために考えられた(1971年ノーベル物理学賞)手法であるが、現在は微小領域の電場や磁場の観察に広く用いられている。

    electron holography⇒
    急冷した磁性材料Fe73.5Cu1Nb3Si13.5B9の(a)ローレンツ電子顕微鏡像、(b)ホログラム、(c)位相再生像。

    (a)のローレンツ像では磁区の境界(磁壁)が明線または暗線となって現れている。焦点ずらし(デフォーカス)量を大きくするとこの明暗線の幅は太くなる。また、デフォーカスの向きを逆にすると明暗線のコントラストは逆転する。 (b)には、試料を透過した電子線(物体波)と真空中を透過した電子線(参照波)を電子線バイプリズムを用いて干渉させてできた干渉縞が見られている。
    写真左部の大きな□部分は小さな□部分の拡大図で、試料内部からの干渉縞を示す。電子線は試料によって場所に依存する位相変化を受け、干渉縞に曲がりや縞間隔の変化がみられる。なお、写真右下部の大きな□部分は小さな□部分の拡大図で、試料を通過しない真空領域からの干渉縞を示す。試料からの位相変化を受けないため、干渉縞は等間隔で直線的である。(c)の位相再生像の黒白線が等位相線であり、磁性体の場合、この方向が磁束の方向(白矢印)を示し、線の間隔が磁束の大きさを表している。等位相線がほぼ直線で同じ向きの領域が一つの磁区を表し、等位相線が大きく屈曲している部分が磁壁を表している。ホログラムから得られた(c)の等位相線が屈曲している場所とローレンツ顕微鏡像(a)の明暗線の場所が一致していることが分かる。
    (画像提供: 東北大学 進藤大輔教授)

  • 電子線ホログラム
    electron hologram

    電子線ホログラフィーの第1段階で、物体を透過して位相変化を受けた波と光源から直接やってくる波(参照波)を、電子線バイプリズムで偏向させ干渉させて得られる干渉縞を記録したものをいう。ホログラムには物体波での位相(振幅も含まれる)変化の情報が記録されている。

  • 電子チャンネリング
    electron channeling

    低次の指数を持つ結晶面でブラッグ反射が起きるように電子線が入射すると、動力学的回折効果により原子列の上に局在するブロッホ波と原子列の間に局在するブロッホ波ができる。後者のブロッホ波は原子列に衝突しないので、前者のブロッホ波に比べて結晶をよく透過する。この現象を電子チャンネリングという。

  • 電子の波長
    wavelength of electron

    電子の波長は、ド・ブロイの与えた運動量pと波長λの関係(λ=h/phはプランク定数)を用いて与えられたエネルギー(加速電圧)に対して計算される。電子の静止質量をm0、素電荷をe、相対論補正前の加速電圧をE [V]、相対論補正後の加速電圧をE* [V]とすると、電子の波長λは以下の式で表すことができる。また、電子線の速度v [m/s]は以下のように表される。⇒数式
    表1に、加速電圧E、相対論補正後の加速電圧E*、電子線の波長λ、電子線の速度v、電子線の速度と光速の比β=v/cを示す。

  • 電子らせん波
    Vortex electron wave

    らせん状の波面(等位相面)をもって空間を伝搬する電子波。波面がらせん状であることから、中心軸のまわりを等位相面に沿って一周まわると、波面は軸方向に1波長の整数倍変位するものだけが許される。この変位は、波長λの整数ℓ倍すなわちℓλと表せる。この整数ℓはトポロジカル数、トポロジカル量子数、トポロジカルチャージ等と呼ばれ、らせん波を特徴づけるパラメーターである。回転を表す物理量は角運動量であり、中心軸周りの位相の回転は(軌道)角運動量に対応させることができるので、らせん波は軌道角運動量をもつ波と言える。らせん波の軌道角運動量は、トポロジカル数ℓにh /2πを掛けた値として与えられる。
    2010年に内田と外村は、厚さがらせん状に変わるグラファイトに電子平面波を入射し、透過した電子波とグラファイトを透過しない参照波を干渉させ、その位相変化からグラファイトを透過した電子波の波面がらせん状に成っていることを実験的に示した。その後、電子らせん波は、らせん状に成型した位相板のほかに、フォーク型回折格子(図1a)、スパイラルゾーンプレート(図1b)などによって生成できることが分かっている。
    光のらせん波は1992年に発見されており、その角運動量の授受を利用して回転操作を行う光ピンセットに応用されている。電子らせん波では、電子が電荷をもつことから、その磁気モーメントと磁性体との相互作用を利用した磁気イメージングが期待されている。
    図2の上図は、らせん波の等位相面を示す。ℓ=0は平面波をあらわす。等位相面に沿って中心軸のまわりを1回転すると元の位置に戻る。ℓ=1のらせん波では、等位相面に沿って中心軸のまわりを1回転すると軸方向に1波長進むことを橙色の面で示す。ℓ=‐1のらせん波では、等位相面に沿って中心軸のまわりを1回転すると逆方向に1波長進む。ℓ=2のらせん波では、等位相面に沿って中心軸のまわりを1回転すると軸方向に2波長進むことを橙色の面で示す。緑色の面は、橙色の面が2波長進むことを見やすくするために入れた補助面である。ℓ=3のらせん波では、等位相面に沿って中心軸のまわりを1回転すると軸方向に3波長進むことを橙色の面で示す。紫色と緑色の面は、橙色の面が3波長進むことを見やすくするために入れた補助面である。
    図2の下図は、らせん波の進行方向と垂直な断面での強度分布である。らせん波では中心軸上の位相が定まらない(位相特異点である)ために、中心軸上では有限の振幅をもつことができない。その結果、らせん波のビームの断面を見ると中心軸上の強度はゼロ(暗点)になる。角運動量を持たないℓ=0(平面波)のときは、中心の強度が最も大きい。ℓ≠0のらせん波では、中心での強度は0になっている。ℓが大きくなるにつれて強度のリングの半径が大きくなっている。
    図3は、フォーク型回折格子に平行な電子線を照射して得た回折図形である。透過波の両側にある回折波の強度がリング状になっており中心に暗点が見られることから(図2の下図を参照)、検出された回折波が電子らせん波であることがわかる。

    (名古屋大学 齋藤 晃氏提供)


    図1 電子らせん波を生成するために平面電子波を通過させるプラチナ製マスク⇒
    (a) フォーク型回折格子 (b) スパイラルゾーンプレート

    図2 らせん波の等位相面の模式図(上)とらせん波の動径強度分布(下)⇒

    図3 電子らせん波の検証⇒
    フォーク型回折格子に、平行な電子線を透過させて得た回折図形。回折波の強度がリング状で中心に暗点が見られることから、検出された電子波がらせん波であることが検証された。


     

  • 電磁波
    electromagnetic wave

    互いに垂直の方向を向いた電場と磁場が一体となった「場」である電磁場が、相関を保って周期的に変化しながら、空中(空間)を光の速度(秒速30万km)で伝わっていく波のこと。電磁波の中でいちばん波長が長いのが電波であり、以下波長の短くなっていく順に、赤外線、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線と続く。

  • 等厚干渉縞
    equal thickness fringe

    曲がりのないくさび形の結晶性試料でひとつの回折波をブラッグ条件に合わせた場合、明視野像および暗視野像に厚さの変化にしたがって周期的に変わる縞模様が現れる。これを等厚干渉縞という。縞ができる原因は、二波近似動力学的回折効果によって、透過波および回折波に波長が僅かに異なる二つの波が作られ、それらが干渉して唸りを起こすからである。二つの縞の間での厚さ変化(消衰距離)は回折波の結晶構造因子の逆数に比例する。等厚干渉縞は試料の厚さの推定に使われる。また、結晶構造因子が試料の組成によって変化するので、半導体多層膜での組成変化の解析に利用される。

    equal thickness fringe⇒
    AlCu合金で200反射を励起した場合の明視野像。加速電圧: 200 kV。
    試料は楔状になっていて、像下部の真空側から奥(上側)に向かって厚さが増している。厚さの変化に対応した等厚干渉縞が観察されている。

     

  • 投影ポテンシャル
    projected potential

    結晶の周期的な静電ポテンシャルを、ある方向(通常、低指数)に沿って投影したものをいう。結晶性の試料が非常に薄く弱位相物体近似が成り立つとき、シェルツァー・フォーカスで撮影される像は、かなりよく投影ポテンシャル(投影された原子配列)を表わすので、これを結晶構造像という。

  • 透過電子顕微鏡像 (テム像)
    transmission electron microscope (TEM) image (TEM image)

    試料を透過してくる電子(透過電子)で結像する像。中低倍率で組織観察するときの明視野、暗視野像と高倍率で原子レベルの構造を観察する結晶構造像がある。これらの像は弾性散乱電子で作られる。試料が厚くなると(~10nm以上)非弾性散乱電子が重畳しこれらの像が不明瞭になる。非弾性散乱電子をエネルギーフィルタで取り除くと明瞭な像が得られる。

  • 透過能
    penetrating power

    電子線が物質を透過する能力のこと。100kVの電子線は約100nmの透過能がある。加速電圧が高くなると透過能は増すが、相対論効果によって飽和する。1000kVでは100kVの3.3倍くらいの透過能になる。透過能は吸収係数の逆数で表わされる。透過電子顕微鏡の場合、対物絞りに入らない電子は吸収されたとみなされるので、高角に散乱される弾性散乱も吸収とみなされる。非弾性散乱のうち、プラズモン散乱は、エネルギー変化は大きいが(~15eV)、10-3radくらいに散乱され絞りの中に入ることが多いので、吸収とはみなさない。熱散漫散乱は、エネルギー変化は小さいが(0.1eV)、高角に散乱されるので吸収となる。非弾性散乱の平均自由行程は数100nmで、弾性散乱の平均自由行程の10倍程度である。内殻電子励起は、エネルギー変化は10eV以上と大きいが、散乱断面積が小さく(平均自由行程が大きい)、吸収への寄与は小さい。

  • 透過波
    transmitted wave

    試料を透過して入射電子線と同じ方向に出射する波。二波近似動力学理論では透過波の強度は厚さによって周期的に変化する。

  • 等傾角干渉縞
    bend contour (equal inclination fringe)

    試料結晶に湾曲があると、ブラッグ条件を丁度満たす場所が暗視野像に強い強度を与え、明るく見える。明視野像は暗視野像と相補的に暗くなる。入射波に対して結晶が等しい傾きの場所は等しい強度を与えるので、全体として(曲)線状のコントラストを生ずる。これを等傾角干渉縞という。結晶性試料の湾曲の様子がわかる。 なお、一つの反射だけが強く励起され動力学効果が強い場合には、一本の主極大の線だけでなく弱い副極大の線も観察される。

    等傾角干渉縞を示すTEM像。試料: 雲母、加速電圧: 200kV。⇒
    (a)明視野像。(b)、(c)、(d)、(e)、(f) 回折図形(g) に指示した反射による暗視野像。
    (g)同視野から得た回折図形。

  • 遠回り反射
    Umweganregung

    空間群の対称要素である螺旋軸や映進面によって禁制になっている反射が、二つ以上の回折が引き続いて起こることによって(動力学的回折)、禁制でなくなる現象。電子回折では、遠回りの反射によって禁制反射が励起されるので、螺旋軸や映進面の有無の判定には、遠回り反射が起こらない試料方位を選択する必要がある。なお、動力学効果を取り入れた収束電子回折を使うと螺旋軸や映進面の有無の判定が曖昧なくおこなえる。

  • トポグラフィー
    topography

    原義は地形図のこと。3次元の形状データを表すグラフィック法。 反射電子像で分割検出器を使って試料表面の凹凸を観察する像のことをトポ像という。トポグラフという言葉はX線トポグラフとして使われることが多い。X線の場合はレンズが無いので、試料位置と回折強度との間に1対1の対応をつけて格子欠陥、格子歪み、不純物、分域などの2次元的分布を得る方法をX線トポグラフと呼ぶ(電子顕微鏡ではSTEM法がこれに対応する)。明視野、暗視野像は一種のトポグラフである。

  • トモグラフィー
    tomography

    試料を連続的に傾斜させて撮影した多数の投影像をコンピュータで画像処理し、三次元的内部構造を再構成する手法。医療分野などで用いられているX線CT、MRIなどによる断層撮影の原理を、TEM像に応用した手法である。たとえば多目的用ポールピースを用いた場合は±60°まで1°おきに撮影した121枚の情報を用いて再構成する。試料を傾斜したときのそれぞれの画像の位置合わせの方法には各メーカーの工夫が凝らされている。±80°までの情報が撮れる試料ホルダ、さらには全方位から情報を取れるような試料ホルダも作られている。また、生体、高分子、有機物の観察用に液体ヘリウムで試料を冷却できるトモグラフィー用のステージも開発されている。STEM法によるトモグラフィーでは、TEM法の場合のような試料位置による焦点ずれがなく、HAADF法を用いれば結晶性試料の場合の回折コントラストも除去できるが、画像取得に時間がかかること、照射損傷や試料汚染が避けられないのが欠点である。

    Sperm
    図1. 精子のTEM像
    左) 頭部、鞭毛、ミトコンドリアを黄色線で示した。
    右) ミトコンドリアが並んだ中片部分 (黄色枠内)。
    この部分の連続傾斜像を撮影し、3D再構成を行った。
    観察装置: JEM-1000EES (大阪大学超高圧電子顕微鏡センター) 加速電圧 1000kV

    Orthogonal views of 3D reconstruction image
    図2. 鞭毛の中片部の3D再構成像の断面像
    鞭毛の周りにミトコンドリアが並んでいる。
    (左: 縦断面、右: 横断面)

    3D image (Volume Rendering) by Segmentation
    図3. 鞭毛の中片部の構造ごとに色分けを行った画像 (左: 縦断面、右: 横断面)

    動画
    ミトコンドリアをひとつずつ色分けした。多数のミトコンドリアを確認することができた。

    ◆上のボックス内の左下の再生ボタンをクリックするとムービーが始まります(約18秒)◆

  • Thonの曲線
    Thon's curve

    非晶質からの位相コントラスト(グラニュラ構造)は焦点はずし量を変えると顕著に変化する。位相コントラストが球面収差と焦点はずし量によって決まることを利用して、波の位相が合う空間周波数(強調される間隔)が焦点はずし量と共にどう変化するかを表す曲線。

  • 動力学的回折
    dynamical diffraction

    結晶性の試料に入射した電子はブラッグ条件を満たす格子面で反射(回折)する。試料が厚いと何回も反射が起こり入射波は減少し、ついには反射波の強度が入射波の強度を上回る。すると今度は反射波が入射波のほうに反射される。このように回折波と入射波の相互作用を考慮する回折現象のことをいう。入射波と一つの回折波のみを考える二波近似動力学回折理論によれば、回折強度は結晶構造因子(散乱振幅)の二乗でなく一乗に比例する。試料が薄い場合(<3 nm)、反射が1回しか起こらないと仮定して扱う回折現象を運動学的回折という。

  • 動力学的消滅
    dynamical extinction

    空間群の対称要素である螺旋軸や映進面によって禁制になっている反射(結晶構造因子が零になっている反射)は、動力学的回折効果(遠回り反射)のために禁制でなくなる。しかし、禁制反射に向かう二つの対称な遠回り反射経路が、それらの励起の度合いも等しい場合には、二つの経路を通った波は打ち消しあう。この効果による波の打ち消しあいを動力学的消滅という。動力学的消滅は収束電子回折図形の禁制反射ディスク内に暗い線として現れ、螺旋軸や映進面の同定に使われる。

  • ナノビーム回折
    nano-beam diffraction (NBD)

    電子線を試料に平行照射して電子回折図形を取得したのち、電子線を試料上に収束し、かつ小さなコンデンサー絞りを用いてナノメーターサイズの領域を照射して結晶構造の定性的な解析をする手法。このとき、回折斑点は電子線の収束角に対応してディスク状になる。この手法により、ナノメーターサイズの領域の格子定数、格子型、結晶方位を知ることができる。微細な析出物や界面の解析に用いられる。制限視野回折の場合は、制限視野絞りによって観察領域が決められるが、NBDの場合は、収束角とコンデンサー絞りによって観察領域が決められる。

  • 二次電子
    secondary electron

    入射電子が試料内で衝突を繰り返しながらエネルギーを失い(非弾性散乱)、その過程で試料を構成している原子の外殻電子が弾き飛ばされ、この電子の一部が試料物質の束縛エネルギーに打ち勝って、試料表面から放出される電子のこと。二次電子のエネルギーは低く(通常、数10eV)、試料表面近く(深さ10nm以内)で発生したものしか表面から飛び出すことができない。二次電子の放出効率は電子線の試料への入射角が斜め入射になるほど大きい。この放出効率の違いを利用して二次電子像では試料表面の形態がわかる。

  • 二重回折
    double diffraction

    格子定数がわずかに異なる二つの結晶が上下に重なっている場合、上側の結晶で回折された波が下の結晶でさらに回折される現象。二重回折効果のために、上下の結晶からの回折斑点以外に(偽の)斑点が現れるので、試料の物質同定には気をつけなければならない。上下の結晶が相対的に僅かに回転している場合や双晶になっている場合も、二重回折によって多くの偽の斑点が現れる。

  • 二波近似
    two-beam approximation

    結晶に電子を入射したとき、入射波方向に進む一次波(透過波)と一つの格子面からのブラッグ反射波(回折波)の2つの波だけが結晶内に存在すると仮定して回折強度やTEM像を解釈する近似法。

  • 熱散漫散乱
    thermal diffuse scattering (TDS)

    試料への入射電子が原子の熱振動(格子振動)を励起する非弾性散乱をいう。この非弾性散乱はエネルギーの損失が小さいので(0.1eV以下)、準弾性散乱と呼ぶこともある。

  • 反射電子
    backscattered electron

    反射電子とは、入射電子が後方背面に反射(散乱)され、試料表面から飛び出す電子である。反射電子の強度は試料の原子番号が大きいほど大きい。反射電子のエネルギーは入射電子のエネルギーに近いので、二次電子のエネルギーより高い。また、反射電子は二次電子よりも深い所(表面から100nm以内)から飛び出すことができる。原子番号が大きいほど反射電子は多くなるので反射電子像から試料の組成の違いがわかる。また反射電子は鏡面反射方向に強い強度を持つので試料表面の凹凸もわかる。試料が結晶の場合、反射電子の強度は試料に対する入射電子線の方位に強く依存する(電子チャンネリング)ので、試料の反射電子像を撮ると、試料中の結晶方位の違いを示す像が得られる。

  • ハーウィーウェラン方程式
    Howie-Whelan equation

    電子線を試料に入射して結晶の下面での透過波と回折波の強度を計算する一方法。試料を薄い層に分け、各層に透過波と回折波を入射させ(最上層では回折波は零とおく。)、層の中で各波は結晶構造因子で決まる透過と回折を受ける。その結果、層の下面で新しい透過波と回折波が決定される。この過程を各層で繰り返し、結晶下面での透過波と回折波の振幅(強度)が得られる。積層欠陥や転位などからのコントラストの説明に使われる。

  • 光回折法
    optical diffraction method

    透過電子顕微鏡の対物レンズの性能を検査するのに使われる手法。非常に薄い非晶質試料のHREM像にレーザ光を照射して得られた光回折パターンから、レンズの球面収差の補正、コマ軸の補正、非点収差(軸上)の補正を行なう。また、回折パターンの半径から、HREM像に寄与する最大空間周波数が求められ、分解能が測定できる。回折パターンが真円であれば非点収差が補正されている。最近では、レーザ光を使わずコンピュータ処理で同様の補正が行なわれており、球面収差補正装置の性能評価に活用されている。

  • 非局在性
    delocalization

    像観察や微小プローブを用いた分析において、局所的な情報が得られない現象を、一般に非局在性と言う。非局在性を示す現象には、1) レンズの収差によるものと、2) 非弾性散乱によるものとがある。 1) 高分解能電子顕微鏡像を観察する場合、点分解能以上の細かい格子縞が対物レンズの収差(主に球面収差)により本来とは異なる位置に観察されることがある。例えば結晶粒界近傍の観察では、結晶粒から格子縞がしみ出したように観察される。これをレンズの収差(結像特性)による非局在性と呼ぶ。 2) 入射電子が原子と直接衝突しなくても近傍を通っただけで非弾性散乱される現象を、非弾性散乱による非局在性と呼ぶ。特に電子エネルギー損失分光法で顕著に現れ、エネルギー損失が小さい散乱ほどより非局在化する。例えば表面プラズモン励起は、入射電子が表面近傍数ナノメーターを通過しただけでも観察される。内殻電子励起においても、エネルギー損失量が小さな場合には原子間距離よりも非局在性が大きくなり、その結果、ある原子間隔より小さなプローブで試料を走査しても、その原子位置が特定できないことが起こる。散乱角の小さな非弾性散乱電子は、弾性散乱電子と同様の格子縞や回折コントラストを示す(コントラストが保存される)。そのような、弾性散乱電子と同様の波動性を示す性質を、非局在性の中でも特にノンローカリティー(nonlocality)と呼ぶ。

  • 非弾性散乱電子
    inelastically scattered electron

    入射電子が試料を構成する原子に衝突するとき、電子や結晶格子と相互作用をしてそのエネルギーを一部失って(速度が遅くなる)散乱される電子。非弾性散乱が起こる確率は弾性散乱に比べて一桁以上小さいが、試料が厚くなると(~10nm以上)、非弾性散乱電子の寄与が弾性散乱に重なるために、TEM像や電子回折図形が不明瞭になる。非弾性散乱を取り除くには、エネルギーフィルタを搭載した透過電子顕微鏡が使われる。

  • 微分位相コントラストイメージング
    differential phase contrast imaging

    試料中の電磁場による電子ビームの偏向を各スキャン点で計測し、電磁場を可視化、画像化するSTEM法の一種。試料の電磁場によるビームの偏向を計測するためには分割型検出器やピクセル型検出器が用いられる。分割型検出器では、図のように対向する検出器同士の信号量の差分を取ることにより、試料内でのビームの偏向量(検出器上でのビームの移動量)とその方向を検出する。
    電子ビームが偏向されると、電子波は電子ビームの偏向量に比例した位相変化を受ける。この位相変化(傾き)は、言い換えれば位相の微分なので、微分位相コントラストという名称が付けられている。微分位相コントラストイメージングは、ミクロンオーダーからナノメートルオーダーの磁区観察に活用されている。昨今では電場解析にも用いられ、球面収差補正装置が搭載された顕微鏡では、原子分解能レベルでの電場観察が報告されている。

    分割検出器の模式図⇒
    図(a) 試料による電子線の偏向を、分割型検出器を使って検出するときの模式図(試料によって電子ビームが偏向されていない場合)。
    この例ではSTEM検出器は四分割されている。検出器にはコンデンサー絞りの影が投影される。
    (b) (a)を、入射電子線の上方から見た図。四分割されたそれぞれの検出器に入る信号量は同じなので、対向する検出器同士の信号量の差分はゼロになる。

    (c) 試料による電子線の偏向を、分割型検出器を使って検出するときの模式図(試料によって電子ビームが偏向されている場合)。
    (d) (c)を、入射電子線の上方から見た図。 x の正方向にビームが偏向されている場合、検出器1で受ける信号量(Idet1)から検出器3の信号量(Idet3)を引いた量は負になるが、検出器2 (Idet2)と検出器4 (Idet4)の差分はゼロのままである。これにより、ビームが x の正方向に偏向されたことを知ることができ、また差分の絶対値から偏向量を計算することができる。

  • 微分干渉コントラスト
    differential interference contrast

    光学密度すなわち屈折率のみが異なる物体は透過顕微鏡ではコントラストを示さないが、屈折率の違いによって与えられる明暗のこと。光学顕微鏡の場合には、ポラライザで光を偏向が異なる2本の光線に分け、試料の異なる場所を通し、試料を透過するさい二つの場所で異なる位相差を生じた光を、ポラライザで偏向を区別しない1本の光線に戻して、干渉させてコントラストをつける手法。二つの光線の間にさらにバイアス位相差を与えると物体の輪郭に影をつけた像が得られる。電子顕微鏡の場合、物体を通過した電子線の半分にバイアス位相を与えて鮮明なコントラストを得る試みがなされている。

  • ピーム
    photo emission electron microscope (PEEM)

    紫外線または真空紫外線を表面に照射することによって、発生する光電子(photo electron)を使って像を形成する顕微鏡。試料で発生した光電子は試料直上の加速電場(界浸レンズとして作用)で加速される。この電場は対物レンズとして作用する。後段には結像レンズ系が配置され、スクリーンもしくはCCD等の撮像カメラによって拡大像を観察する。光電子像強度は試料の仕事関数と励起光の波長に依存するので、適当な励起波長を選ぶことによって試料の表面原子の電子状態に敏感な像を得ることでき、表面構造に起因したコントラストを得ることが可能である。通常は清浄表面の情報を得るために用いられので、試料周りは超高真空に保たれる。さらに、電子状態についての詳細な情報を得るために、発展形としてイメージングフィルタによって光電子のエネルギー選別をすることも行われている。また、結像系が同一な低エネルギー電子顕微鏡(LEEM(low energy electron microscope))にPEEMの機能が付加されていることが多い。

  • ファーストゼロ
    first zero

    シェルツァー・フォーカスでの位相コントラスト伝達関数が、最初に位相ゼロの軸と交わる波数。この波数の逆数を結晶構造像の分解能という。

  • フェルマの原理
    Fermat's principle

    光(電子)は光路長が最短の(極値をとる)経路を通って進むことを述べた原理。光学、電子光学を考える基礎を与える原理で、反射、屈折の法則もこの原理から導かれる。

  • フォノン
    phonon

    熱散漫散乱の原因となる格子振動を量子化したもの。フォノンのエネルギーは非常に小さいので(0.1eV以下)、現在のEELSではフォノンの分光はできない。エネルギーフィルタでも、フォノンによる非弾性散乱電子を現在は取り除くことはできていない。

  • フラウンホーファー回折
    Fraunhofer diffraction

    光源、観測点が共に物体から無限の距離にあり、入射波も出射波も平面波とみなせるときの回折現象をいう。透過電子顕微鏡を用いて、平行な入射ビームを物体に照射し、レンズを用いてその後焦面上にできる回折図形が、フラウンホーファー回折図形である。

  • 振り子解
    Poendel Loesung

    ひとつの回折波を強く励起すると消衰距離の半分の厚さで(~数10nm)、入射波のエネルギーは完全に回折波に移る。さらに同じ厚さだけ進むと回折波のエネルギーは再び入射波に完全に戻る。このように波のエネルギーが入射波と回折波の間で行ったり来たりする現象を動力学的回折の振り子解(ペンデルレーズンク)という。したがって電子回折では回折波の強度は回折波の散乱振幅に比例せず、厚さによって強度は周期的に変化する。

  • 振り戻し時間
    Flyback time

    電子ビームを走査して画像を取得する際の、水平方向の走査線の終端から振り戻して次の走査線を開始するまでの待機時間。
    各水平方向走査を開始する際、一般的に走査装置の電子回路が非線形応答し、走査波形が歪む時間帯が生じる。走査像取得には、走査像が歪まないようにするために電子回路が線形応答する時間のみを用いる。そのため、Flyback timeを非線形応答時間より長い時間に設定して、歪んだ波形の応答時間帯を画像取得時間内から取り除くことにより、走査画像の歪みをなくしている。

  • フリーデルの法則
    Friedel's law

    極性を持つ結晶に対しても、結晶格子面 hkl反射の強度と-h-k-l反射の強度が等しいという法則。この法則は運動学的回折が適用できるX線回折では成り立つが、動力学的回折効果の強い電子回折では破れる。X線回折では、異常分散を使わない限り、極性のある結晶とない結晶の判別が出来ないが、電子回折では区別できることを意味している。

  • フレネル回折
    Fresnel diffraction

    光源、観測点の一方または両方が物体に対して有限の距離にあって、入射波または出射波を平面波とみなせない回折現象をいう。フレネル回折の現象は、TEM像を観察するとき少し対物レンズの焦点をはずすと、試料の端を透過した波は陰の部分へ回り込み、干渉縞(フレネル縞)として観察される。

  • フレネル縞
    Fresnel fringes

    試料の縁から散乱される球面波と入射波が干渉して、試料の縁から遠ざかるにつれて狭くなる縞模様ができる。これをフレネル縞と呼ぶ。試料の内側にできる縞は実際上は見えない。試料の外側にできる縞は、アンダーフォーカスのときには、明るく見える。オーバーフォーカスのときには、黒い縞が1本見え、試料の像の縁が滲んだように見える。アンダーフォーカスでは像の縁がくっきり見えるので、低倍率の像ではむしろアンダーフォーカスで像を撮るのがよい。広義には、フレネル回折が起こる領域での干渉縞一般を指す。

    Fresnel fringes ⇒
    カーボングリッド上に乗った酸化モリブデンのTEM像。加速電圧:80 kV。
    酸化モリブデンだけでなく、カーボングリッドの縁にもフレネル縞が現れている。
    アンダーフォーカス条件で取得されているため、試料のすぐ外側にできるフレネル縞は明るく観察されている。

  • ブラッグ反射
    Bragg reflection

    (結晶の)格子面は、入射電子線に対して特定の角度になったとき(ブラッグ条件を満たしたとき)、鏡のように電子線を反射させる。入射電子は結晶を作っている個々の原子に当たり様々な方向にはじかれ(散乱し)、互いに干渉しあうが、ブラッグ条件を満たした電子だけが位相を合せて強めあい、特定の方向に回折波(反射線)として強度を持つ(それ以外の方向に進む電子波は打ち消しあって消える)。このような電子の反射をブラッグ反射といい、透過電子顕微鏡の対物レンズの後焦点面に回折図形を形成する。

  • ブリルアン帯
    Brillouin zone

    波数空間(逆空間)で原点から引いた逆格子ベクトルの垂直二等分面で囲まれる領域のこと。領域の境界ではブラッグ反射が起きるので、エネルギー一定の入射電子はその波数に分散が起き分散面ができる。結晶の周期性によって、分散面も周期的になるので、動力学的回折による波数の変化(分散面)はブリルアン帯の中だけで計算すればよい。

  • ブロッホ波
    Bloch wave

    結晶に入射した平面電子波は単一の平面波としては存在せず、反射波との強い相互作用(動力学回折効果)を通して、入射波と反射波が一体となった波として存在する。この電子波をブロッホ波という。入射波とひとつの反射波を考えるとき(二波近似)、 結晶中で二つのブロッホ波ができる。ひとつのブロッホ波は原子列の上に局在し、もうひとつは原子列の間に局在する。

  • 分散面
    dispersion surface

    結晶に入射した電子波を二波近似動力学的回折理論で考えるとき、入射波と反射波はブラッグ反射を満たす付近で、ブラッグ反射の励起の強さに応じてその波数が変化し、分散球は分裂して(分散を起こして)新たな二つの面をつくる。これが分散面である。そこでは入射波と反射波は別々に存在するのでなく、それらの一次結合である二つのブロッホ波として存在する。

  • プリセッション電子回折
    precession electron diffraction

    光軸に対してある角度に傾斜した入射電子線を歳差運動させながら試料に照射し、動力学的効果を軽減させた電子回折図形を取得する方法。
    入射電子線を傾斜(最大5°程度)し歳差運動させて試料上のある点に照射させるには、照射系の2段偏向コイルが用いられる。得られる電子回折図形が入射電子線の歳差運動のためにスクリーン面上で移動しないようにするために、試料を通過した電子線を結像系の2段偏向コイルにより光軸上に振り戻す(デスキャン)。
    電子線を歳差運動させながら試料に照射すると、同時反射の効果(同時に強く励起された他の反射を経由して、ある反射が強められる効果)が抑えられ、観測される回折強度は運動学理論から期待される回折強度に近づく。
    また、電子線の歳差運動により、エワルド球に乗る逆格子点の数が増え、高次の回折点も現れる。このようにして得られた回折強度は、X線回折法で用いられている直接法などの方法を適用して構造解析に用いられる。複雑な構造を持つ無機結晶、有機結晶、ゼオライトなど、微小結晶しか得られない物質の構造解析に利用される。

    precession electron diffraction

    (a) プリセッション電子回折の光線図。照射系の偏向コイルを用いて、入射電子線を試料上で光軸に対してある傾斜角で歳差運動させ、試料を通過した電子線を、結像系の偏向コイルを用いて光軸上に振り戻すことにより、プリセッション電子回折図形を得る。
    (b)ガーネット[111]入射による通常の電子回折図形と(c)プリセッション電子回折図形。 図(c) では、電子線を歳差運動させることにより、運動学理論から期待される回折強度に近い回折図形が得られている。また、通常の電子回折図形(b)より、高次の反射が多数現れている。

  • 平均自由行程
    mean free path

    入射電子が、ある散乱を起こすまでに走行する距離。非弾性散乱に対する平均自由行程は入射線のエネルギーが大きいほど大きく、原子番号が大きいほど小さい。また入射線の取り込み角が大きいほど小さい。200kVの電子線に対する全非弾性散乱に対する平均自由行程は150nm程度である。平均自由行程(nm)の目安として、入射エネルギー(keV)に0.8倍した値で与えられるとの提案がある。弾性散乱に対する平均自由行程は非弾性散乱の場合の20分の1程度である。

  • 平均内部電位
    mean inner potential

    ある点 rでの各原子からのクーロンポテンシャルを全ての原子について足し合わせたものをV(r)と書くと、V(r)は結晶格子の周期性を持つので、V(r)を格子ベクトルでフーリエ展開することができる。この展開の0次の項V0のことをいう。V0は結晶の(平均の)屈折率を与える。通常10~20V。各次の展開係数(フーリエポテンシャル)は結晶構造因子から計算される。

  • ベーテ法
    Bethe's method

    結晶に電子線が入射したとき結晶下面での透過波および回折波の強度を計算する手法の一つ。電子波のエネルギーを与えて、結晶中で存在し得る電子波の状態(波数ベクトル)をシュレ-ディンガ-方程式から求め、境界条件によって入射する電子波と接続して出射面での透過波、回折波の振幅を求める方法。結晶中での多重回折(動力学的回折)が考慮されている。波数ベクトルを求める式はマトリックス形式になるので、マトリックス法とか、固有値法ともいう。

  • ホログラフィー
    holography

  • ボルン近似
    Born approximation

    結晶のポテンシャルエネルギーが電子線のエネルギーに比べて小さい場合、結晶に入射する電子線は結晶中で散乱されるが、散乱は一回のみで入射波は弱まらないとして、散乱波の振幅を求める近似のこと。
    結晶による入射電子の散乱振幅をシュレーディンガー方程式の積分方程式の解として求めるとき、散乱波の振幅は結晶中の各点でのクーロンポテンシャルとその点での入射電子波の振幅に比例する。結晶中の電子波を入射波で置き換えて一回散乱した散乱波の振幅を求める。電子線の散乱振幅は結晶ポテンシャルのフーリエ係数で与えられる。

  • ポアソン分布
    Poisson distribution

    ある母集団において、Aである確率がpで、Aでない確率が1-pのとき、無作為にn個取り出したとき、Aがx個である確率はnCxpx(1-p)n-xで、これを二項分布という。(生成)確率pが極めて小さいとき、二項分布はポアソン分布e・λx/x !になる。電顕の場合には、非弾性散乱の起こる確率にポアソン分布が適用される。EELSスペクトルで高次プラズモンロス強度はポアソン分布を仮定して除去される。またCCD検出器の計数エラーの評価にも使われている。

  • マイクロ電子回折法
    micro electron diffraction method, Micro ED

    入射電子線に対して試料を傾斜しながら動力学的効果を軽減させて回折パターンを取得し、運動学理論(フーリエ変換)を適用して結晶構造を解析する方法。
    試料上の数µm程度の領域に電子線を照射し、試料を傾斜(0.1~1 deg/s で 30°~60°程度)させながら、回折パターンを動画もしくは一連のフレーム画像として取得する。このようにして得られた回折強度にX線構造解析法の手法(具体的には直接法など)を適用して、結晶の構造解析を行う。

    通常、電子回折では、同時反射の効果(ある反射が、同時に強く励起された他の反射を経由して、強められる効果(動力学効果の一つ))があるので、動力学効果を考慮せず、運動学理論(フーリエ変換)に基づくX線構造解析の手法を適用することができない。しかし、試料を傾斜させながら回折パターンを取得する。図1に、回折図形の実例を示す。それらのパターンを足し合わせると回折強度が平均化され、同時反射の効果が弱められ、運動学理論から期待される回折強度に近づく。一つの試料から傾斜操作で取得できる角度範囲は限られるので、いろいろな方位を向いた試料に対して傾斜操作を行って得られた回折パターンを組み合わせて、広い角度範囲をカバーしたデータセットを取得する。このデータにX線構造解析の手法、直接法を適用して構造解析を行う。 ※1.

    マイクロ電子回折法の特徴は以下の通りである。
    電子に対する結晶の散乱断面積はX線に対する散乱断面積に比べて104 倍程大きいため、サイズ1µm以下の微結晶から十分強い回折強度が得られる。そのため、微小結晶しか得られない有機および無機化合物の構造解析に有効である。X線構造解析の場合、数10µm程度の大きな結晶が必要である(放射光施設を使用すると数µm程度の大きさの結晶まで可能)。なお、電子回折の場合の注意点として、電子線による試料損傷が問題となることがあり、液体窒素による試料の冷却や電子線のドーズ量の低減が必要である。

    ※1. 註釈
    荷電粒子である電子は、結晶内原子の原子核と電子で作る電位(ポテンシャル)によって散乱される。電磁波であるX線は、結晶内原子の電子密度に比例して散乱 (Thomson散乱という) される。原子核は、電子に比べてはるかに重いのでX線によって振動しないため、X線の散乱には寄与しない。したがって、電子回折による結晶構造解析からは、結晶内原子のポテンシャル分布が求まり、X線回折の場合には電子の密度分布が求まる。両者は変換公式によって関係づけられており、一方が求まれば他方も求まる。

    Micro ED
    図1.L-ヒスチジン微結晶の試料を傾斜しながら逐次撮影した電子回折パターン。
    傾斜角度範囲:–16° ~ +15° 傾斜スピード:0.1°/s. 電子線照射量:0.06 e-2/s. 加速電圧 200 kV.
    各フレームに示す角度は各回折パターン取得の開始時の傾斜角度である。
    L-ヒスチジン 分子モデル
    図2.構造が既知であるL-ヒスチジンにマイクロ電子回折法を適用し、構造解析から得られた等電位面(ポテンシャルマップ)をメッシュパターンで示した。
    中性子回折法により得られている分子モデルを重ねて示す。マイクロ電子回折法による結果は既知の構造をよく再現している。
    (各元素と色表示の対応は次の通り: C-灰; N-青; O-赤; H-白)
    (Reconstruction model: Courtesy of Dr. Yusuke Nishiyama (JEOL RESONANCE Inc.))

  • マルチスライス法
    multislice method

    結晶に電子線が入射したとき結晶下面での透過波および回折波の強度を計算する手法の一つ。結晶を表面に平行で充分薄いスライスがたくさん積み重なったものとみなし、この結晶に入射した電子は最初のスライスで散乱され位相変化を受け、次のスライスまで伝播する。次々のスライスで散乱と伝播を繰り返して電子線が結晶の下面に到達するものとして、結晶下面での回折振幅(強度)を計算する。

  • マーカー法
    marker method

    3次元トモグラフィーにおいて、試料に蒸着した金粒子をマーカーとして使い各画像の位置合わせをする方法。

  • 明視野像
    bright-field image

    対物レンズの後焦点面上に形成される回折図形中の透過波(試料で回折を受けずに透過してきた波)を対物絞りで選んで結像した像。回折を起こしている場所は暗く、回折を起こしていない部分は明るく見える。暗視野像とともに、試料の格子欠陥の解析や試料の膜厚測定に利用される。

    FeAl合金の結晶欠陥(転位線)の明視野像⇒
    転位線以外の場所がブラッグの回折条件を満たすようにして撮られている。転位のひずみによって転位線のところは回折条件から外れるため、暗く見えている。転位線がギザギザのコントラストに見えるのは、転位の試料の深さ方向に依存する動力学的回折効果である。

  • モワレ縞
    Moire fringe

    格子の周期が少し異なるd1、d2の格子を平行に重ねると、元の格子に平行でD=d1・d2/(d2-d1)倍に拡大された元の格子に平行な格子縞が現れる。これを平行モワレ縞という。 周期dの格子を二枚、角度αだけ回転して重ねると、元の格子と90°異なる方向にD=d/α倍に拡大された格子が元の格子と90°異なる方向に現れる。これを回転モワレ縞という。 モワレを利用した観察の応用として、刃状転位を含む格子に完全な格子を少し回転させて重ねると、90°異なる方向に拡大された転位像が現れる。

    Moire fringe⇒図1
    (1a) モワレ縞を示す明視野像。試料: 雲母、加速電圧: 200kV。
    (1b) 同じ周期の結晶格子AとBが僅かな方位のずれを伴って重なったときにつくられる大きい周期の縞(回転モアレ縞)の模式図。

    Moire fringe⇒図2
    (2) 刃状転位を含む結晶格子A’と同じ周期の完全な結晶格子Bが僅かな方位のずれを伴って重なったときにつくられる、90°異なる方向に拡大された転位像の模式図。

  • ヤング縞
    Young fringe

    点光源から出たビームを二つのスリットを通すと、スリットからの出射波が干渉してつくる縞模様をヤング縞という。スリットの間隔が小さいほどヤング縞の間隔が大きくなる。透過電子顕微鏡の分解能(インフォーメーションリミット)を見やすくするために使われる。実際にはCCDの1フレームの画像を取る時間内にビームを移動させて2枚の重なった非晶質試料のHREM画像を取り、これをコンピュータに取り込んでFFT処理して回折図形を得る。非晶質の像の上にヤング縞が重なって現れる。ヤング縞の消える位置(半径)からインフォーメーションリミットを知ることができる。回折図形は瞬時にして得られるので、見やすい間隔のヤング縞が得られるように試料へのビームの移動量を決める。


    (a) カーボン薄膜上の金粒子の高分解能像。
    (b) (a)のフーリエ変換図形。
    (c) 偏向系で視野をずらして得た高分解能像。黄色い矢印で相対移動量と方向を示す。
    (d) (c)のフーリエ変換図形。試料の相対移動量に対応した縞が見られる。縞の見える最大の角度(黄色い円)から容易に情報限界を決定することができる。

  • 有限要素法
    Finite element method (FEM)

    有限要素法とは、解析的に解くことが難しい偏微分方程式の近似解を得る数値解析法の1つ。注目する物体を単純な形状をした有限の大きさの要素に分割し、各要素の物理量(温度や応力など)をできるだけ簡単な方程式で近似し、それらの連立方程式を立てる。こうして得られた連立方程式を、各要素の表面での物理量を境界条件として解くことで、物体全体にわたる物理量の分布を求める方法である。物体を多面体に細分化するため、複雑な形状の物体に適用しやすい。電子顕微鏡においては、機械的強度や熱分布の計算、磁界レンズや静電レンズの磁場および静電場分布の計算などに利用されている。レンズのポールピース開発では、有限要素法で求めた磁場分布を用いて電子軌道を計算することで収差係数を求め、磁極形状の最適化設計を行う。

  • ラウエ関数
    Laue function

    単位胞が周期的に並んでいることによる電子波(X線、中性子)の干渉効果(回折の強度)を、ブラッグ角からのはずれ量の関数として表したものをいう。運動学近似が適用できる場合、回折線の幅は周期的に並んでいる単位胞の数に依存する。結晶の単位胞の数が多いほど回折線は鋭くなる。ラウエ関数には主極大(ブラッグピーク)のほかに副極大が現れる。通常は試料の厚さが単位胞の数に比べて大きいので、副極大は観察されない。試料が厚くて動力学理論を適用しなければならない場合は、干渉効果はラウエ関数にならず、回折線の幅は結晶構造因子の大きさに依存し、強い副極大が現れる。

  • ラウエ条件
    Laue condition

    X線、電子線、中性子線などの波長の短い波が結晶格子によって回折波を作り出す条件。この条件は、ブラッグ反射が起きる条件と同等であるが、ブラッグ条件が直感的な実空間のスカラー表示であるのに対してラウエ条件は逆空間内のベクトル表示であり、理論的発展に欠かせない表現である。

  • ラウエ帯
    Laue zone

    入射線の方向に垂直な逆格子面(逆格子点によって作られる面)をラウエ帯という。原点(入射点である逆格子点)を含むラウエ帯をゼロ次ラウエ帯(ZOLZ)と呼び、入射線の向きと反対方向に原点から数えてn番目のラウエ帯をn次ラウエ帯と呼ぶ。回折図形はエワルド球によるラウエ帯上の逆格子点の切り口と表せる。同じラウエ帯に属する逆格子点は回折図形に円環状または弧状に表れる。より高次のラウエ帯(HOLZ)になるほどその円弧の半径が大きくなる。

  • ラザフォード散乱
    Rutherford scattering

    原子核のクーロン力による荷電粒子の散乱。原子番号Zの二乗に比例し、(sinθ/2)-4に比例する。ここでθは散乱角。電子線の場合、高角度散乱で原子核の周りの電子雲による散乱が無視できる高角度散乱領域でラザフォード散乱になる。

  • ラーモア回転
    Larmor rotation

    電子の速度成分に垂直な磁場成分が存在すると、ローレンツ力により電子がその磁場成分に垂直な円運動をする。これをラーモア回転という。
    透過電子顕微鏡において、試料を透過した電子が鉛直方向(上方から下方)に進む際、磁場型レンズの水平磁場成分によって電子はラーモア回転する。結像系には多段の磁場レンズを用いているため、試料の拡大像は試料に対して回転してスクリーン上に結像される。その回転角は電子の加速電圧や磁場型レンズのトータルアンペアターンにより決まる。

  • リヒテ・フォーカス
    Lichte focus

    シェルツァー・フォーカスのデフォーカス量より大きなデフォーカス量にするとエンベロープ関数が0に近づく空間周波数が大きくなる。このときコントラスト伝達関数はシェルツアー フォーカスのときより低空間周波数側で正負に振動し始める。電子線ホログラフィーによって再生像を得るときには、振動部分の負側の位相を反転させて、振幅として広い空間周波数にわたって足し合わせることができる。ホログラフィーによる像再生の場合にはデフォーカス量をシェルツァー・フォーカスの2~3倍にして、空間分解能の高い構造像を得ることができる。このようなデフォーカス量を発案者にちなんでリヒテ・フォーカスという。

  • 臨界電圧効果
    critical-voltage effect

    入射電子線の加速電圧を上げていくと、ある加速電圧で結晶格子面からの二次の反射強度がゼロになる効果。この効果を利用すると、一次の結晶構造因子が精密に決定できる。

  • 励起誤差
    excitation error

    ある反射gのブラッグ条件からのはずれを表すパラメータsgのことで、逆格子点gから、試料の上表面と垂直な方向に測った、エワルド球までの距離。ブラッグ条件が正確に満たされている場合、sg = 0。逆格子点がエワルド球の外にあるとき、sg>0, エワルド球の内側にあるときsg<0。sg は[長さ]-1の次元をもち観測可能な量である。sg に消衰距離ξgを乗じたw = sg・ξgという無次元の量(tilt parameter)が、回折強度の角度変化を理論的に扱うときに便利な量として、sgの代わりに使われる。ただしwは観測される量ではないことに注意する。

  • レンズ作用 (磁場型レンズの)
    lens action in the magnetic field

    電子が鉛直方向(上方から下方)にポールピースが作る磁場を通り抜ける際、光軸から離れた電子ははじめに磁場の水平成分によりラーモア回転をする。次に電子が受けたその回転速度成分と、ポールピース磁場の鉛直成分との相互作用で発生するローレンツ力により、電子は光軸方向に収束する力を受ける。磁場型レンズにおいては、光軸となす角αに比例する収束力をレンズ作用として用いている。レンズ作用の強さは、(レンズを形成する)電磁場コイルに与える電流によって制御している。

  • ロッキングカーブ
    rocking curve

    回折条件の変化に対する強度分布。試料が非常に薄い場合のロッキングカーブは運動学的回折を反映するが、試料が厚くなると動力学的回折を反映したロッキングカーブになり、CBED回折図形中に見られる。

  • ロンチグラム
    Ronchigram

    照射系レンズによって電子線を試料付近に収束させて、回折面上にできる試料の投影像(図形)のことをロンチグラムという。照射系レンズによって試料付近にできた収束電子線プローブの光学的特性(収差の程度)を知ることができる。STEMにおいて入射電子線の試料への焦点あわせや、プローブの収差のない角度範囲の確認、非点(軸上)収差の補正等に用いられる。

    入射電子線プローブの収束点が試料に近づくにつれて、ロンチグラム内に見られる試料像(図形)の倍率がしだいに大きくなる。プローブの収束点が試料上に正しく合うと(正焦点)ロンチグラムの倍率は無限大になり、アモルファス試料が用いられた場合は、その強度が一様な像になる。ロンチグラムの強度が一様になるところを探すことで、入射電子線を試料上に正しく合わせられたことを確認できる。また、ロンチグラムの強度が一様になる入射角度領域の大きさから入射プローブの収差のない角度範囲がわかり、プローブの良さの判定ができる。三次の球面収差補正なしの場合では、強度の一様な領域が小さな円の中に制限されるが、補正した場合には、強度が一様の領域が大きくなる。このことは、収差補正によって試料上の一点に収束される電子線の角度領域が広がったことを意味している。

    結晶性試料を用いた場合、その結晶の格子面からの回折角より大きな角度の入射電子線を正焦点から少しずれた照射によって得られるロンチグラムには、結晶格子による干渉パターンが現れる。干渉パターンの中に結晶の格子面による縞が観察されれば、入射電子線のプローブ径が、格子面間隔より小さくなっていることを示しており、STEM観察に用いる入射プローブの焦点上での大きさを知ることができる。

    ロンチグラムは元来、光学におけるレンズの性能を検査するために提案されたもので、その名称は、この方法を提案したV. Ronchiに由来する。

    Ronchigram ⇒
    図(a) ロンチグラムの光線図。 図(b)、図(c) アモルファス薄膜試料からのロンチグラム図形。収差補正なしの場合(図(b))では、強度の一様な領域が小さな円の中(半角~11mrad)に制限されている。一方、収差補正を施した場合(図(c))には、強度が一様の領域が大きくなっている(半角~45mrad)。

  • ローレンツ電子顕微鏡法
    Lorentz electron microscopy

    透過電子顕微鏡を用いて強磁性体試料の磁区構造を観察する手法。強磁性体に入射した電子は磁化の方向に依存するローレンツ力を受けて進行方向を変える(偏向する)。隣り合う磁区では異なる偏向を受けるので、これを利用して隣り合う磁区のコントラストを得る。Fresnel法(defocus法)では隣り合う磁区から異なる偏向を受けた電子線の重なりにより、磁区境界は明るいまたは暗い線として観察される。Foucault法(infocus法)では隣り合う磁区からの回折斑点が後焦面で少しずれた位置にできるので、その一方を選んで結像する。選ばれた回折斑点に対応する磁区の像は明るく、選ばれなかった回折斑点に対応する磁区の像は暗く見える。通常の透過電子顕微鏡では、試料は対物レンズの強い磁場中に置かれるので、試料全体が単一磁区になってしまう。磁区観察には試料位置にほとんど磁場がかからない専用の対物レンズを用いる必要がある。