真空系

  • 油回転ポンプ
    (oil) rotary pump

    油で気密状態を保った状態でロータがケース内で回転することによって吸気口からガス分子を吸入し、圧縮してその圧力で排出口にある弁を開けて、ガスを大気に放出するポンプ。大気圧(105Pa)から動作するので、透過電子顕微鏡の粗引きおよび油拡散ポンプ、ターボ分子ポンプのバック側の排気に用いられる。使用圧力範囲は105~1Pa。排気限界で長時間排気すると、ポンプの油の蒸気が真空槽に還流するので、長時間の排気は良くない。オイルフリーのポンプを望む場合はスクロールポンプを使う。

  • 油拡散ポンプ
    (oil) diffusion pump

    油を高温に加熱し、油蒸気をノズルから高速で吹き出させ、その噴流の勢いにのせて気体分子を輸送するポンプ。ポンプのバック側は油回転ポンプなどで引かれる。機構が簡単で安価。10-1Paの真空度から使用でき、しかも排気速度が大きいので、透過電子顕微鏡では排気容積が大きく放出ガスが多いカメラ室の排気に用いられる。使用圧力範囲は10-1~10-8Pa。オイルフリーの高度な真空を要求する場合には使用できない。水の排気は不得意。

  • 粗引き
    rough pumping

    大気圧から主高真空ポンプに切り替える圧力まで排気すること。油回転ポンプー油拡散ポンプ系の場合は1Pa~0.1Paで切り替える。

  • イオンポンプ(スパッタイオンポンプ)
    ion pump (sputter ion pump)

    油を使用しないドライ真空系ポンプ。電界と磁界を利用して残留ガスを電離し、生じたイオンでチタンカソードを衝撃し、チタン原子をスパッタして、アノードなどの表面に新鮮なゲッタ膜(化学吸着させる膜)を生成させ、活性ガスはゲッタ膜に吸着され、不活性ガスはイオンとしてカソードに吸着される。透過電子顕微鏡の電子銃室や鏡筒の高真空の排気に用いられる。使用圧力範囲は10-4~10-9Pa。

  • 液体窒素トラップ
    liquid-nitrogen trap

    真空に露出している金属面を液体窒素で冷却し、そこに気体分子を凝結させる装置。透過電子顕微鏡では鏡筒内の高真空の維持や試料汚染(コンタミネーション)の防止に利用される。

  • ガス放出
    outgas

    物体からの気体の放出のこと。透過電子顕微鏡においては、鏡体内で真空に曝されている表面からガスが放出されることを指す。

  • 逆流(真空ポンプオイルの)
    back-stream

    油回転ポンプや油拡散ポンプの油蒸気がポンプの高真空側へ流れ込むこと。逆流は防止しなければならない。

  • クライオポンプ
    cryo pump

    液体ヘリウムなどの冷媒により極低温の面を作り、そこに気体分子を吸着させ、高真空を得るポンプ。使用圧力範囲は10-2~10-13Pa。ただし、水素、ヘリウム、ネオンの吸着には不適。透過電子顕微鏡の試料室では液体窒素で冷却したフィンを用いて高真空化を図っている。

  • 差動排気
    differential pumping

    排気抵抗の高いオリフィスや細管でつながっている二室の各室に対して個別にポンプを設けて排気すること。各室は互いに影響されることなく、それぞれのポンプの性能による到達圧力に達する。カメラ室と鏡筒の間にはオリフィスに相当する0.5~2mmの固定絞りが入っており、両部分は差動排気になっている。試料室と電子銃室の間も差動排気になっている。

  • サブリメーションポンプ
    sublimation pump

    高真空中でチタンを加熱、昇華させ、新鮮なチタンの蒸着膜を壁面に作り、チタンのゲッタ作用(気体分子を化学的に吸着する作用)により排気をおこなうポンプ。高真空領域で効果が著しい。使用圧力は10-5Pa以下。サブリメーションポンプは加熱するので、常時使用するのは高真空保持のためには好ましくない。そこでイオンポンプとセットになっていることが多く、イオンポンプを常時作動させておき、必要なときにサブリメーションポンプでさらに高真空を得るという使い方をする。電子顕微鏡では現在あまり使われていない。

  • 仕切り弁
    isolation valve

    ある部分を他の部分と隔離するための弁。電子銃室、試料室―鏡筒、カメラ室を、他の部分に影響を与えることなく独立に真空を破ることができるように、それらの間に設けられている。

  • 始動圧力
    starting pressure

    排気ポンプが損傷しないで始動することができ、かつ正常な排気作用が得られるポンプ始動時の圧力。

  • 真空排気系
    evacuation system

    透過電子顕微鏡の真空排気系は、電子銃室、鏡筒、試料室、カメラ室の被排気系と各種ポンプや弁、排気管で構成されている。標準的構成では、電子銃室、鏡筒は油回転ポンプ―油拡散ポンプ―イオンポンプの系、カメラ室は油回転ポンプ―油拡散ポンプの系が採用されている。電子銃が電界放出型の場合、電子銃室は独立なイオンポンプが配置され高真空が得られるようになっている。最近は、油を用いないオイルフリー排気系の要求が増えており、その場合には、鏡筒やカメラ室はスクロールポンプ-ターボ分子ポンプの系が採用される。

  • スクロールポンプ
    scroll pump

    油を使用しないドライ真空系ポンプ。渦巻状の羽根を回転させて、気体を外側から中心へ送り込んで圧縮して排気する。グリス以外の油は使っていないのでオイルフリーで、油回転ポンプのようにオイルミストの排気がない。低振動、無騒音。使用圧力範囲は105Pa~1Pa。カメラ室に対してもオイルフリーの真空系を望む場合が多くなり、ロータリーポンプ-油拡散ポンプの系を使わず、ターボ分子ポンプとスクロールポンプの組み合わせの排気系を組むことが増えている。

  • スパッタイオンポンプ
    sputter ion pump

    油を使用しないドライ真空系ポンプ。電界と磁界を利用して残留ガスを電離し、生じたイオンでチタンカソードを衝撃し、チタン原子をスパッタして、アノードなどの表面に新鮮なゲッタ膜(化学反応を起こして吸着させる膜)を生成させ、活性ガス(水素、酸素、一酸化炭素など)はゲッタ膜に吸着され、不活性ガス(ヘリウムなど)はイオンとしてカソードに吸着される。透過電子顕微鏡の電子銃室や鏡筒の高真空の排気に用いられる。使用圧力範囲は10-4~10-9Pa。

  • 大気にする(開放して)
    venting

    真空チャンバーなどを大気圧にすること。空気を用いる場合と湿気が入らないように窒素ガスを用いる場合がある。

  • ターボ分子ポンプ
    turbo-molecular pump

    油を使用しない機械式ドライ真空系ポンプ。高速で回転するロータにより気体分子に排気方向の運動量を与え、気体分子を排気する機械ポンプ。バック側には油回転ポンプなどの排気ポンプが必要。低真空から動作する。最近は音や振動の問題も解決されている。排気する気体の種類を選ばない。油拡散ポンプと違って、H2Oの排気に強いので生物分野の電子顕微鏡に使われることがある。イオンポンプより高価であることと機械的な故障の危険性がある。使用圧力範囲は10-1~10-8Pa。

  • 脱ガス
    degas

    人為的な操作による物体からガスを放出させること。透過電子顕微鏡においては、電子銃部や鏡筒を真空にして加熱などを施し強制的にガスを放出させる。自然なガスの脱離はガス放出という。

  • 超高真空
    ultra-high vacuum

    10-5Pa以下の高真空のこと。超高真空を実現するには、ポンプ/容器に用いる材料の選択をはじめ高い技術が必要。

  • 電磁弁
    electromagnetic (solenoid) valve

    電磁石(ソレノイド)で作動する弁。管の中を流れるガスや液体の流量を制御したり真空バルブの開閉動作に利用される。

  • 電離真空計
    ionization (vacuum) gauge

    残留気体を電離させて生成したイオンまたは電子を捕獲し、流れる電流量から気体の圧力を測定する真空計のこと。気体を電離させる電子源として、フィラメントを加熱して熱電子を用いる熱陰極電離真空計とプラズマを用いる冷陰極電離真空計がある。前者の例としてB-A真空計、後者の例としてペニング真空計がある。

  • 到達圧力
    ultimate pressure

    真空ポンプ系において、現実的な排気時間内で到達できる最も低い圧力。

  • ドライポンプシステム
    dry-pumping system

    油や水を使用しない真空排気系のこと。スクロールポンプ、スパッタイオンポンプ、ターボ分子ポンプがある。

  • 背圧
    backing pressure

    (気体を大気圧(105Pa)以下の圧力空間に排出するとき、)真空ポンプの排気口(排出口)での圧力。

  • ハイドロカーボン
    hydrocarbon

    炭化水素。透過電子顕微鏡の構成部品に付着し吸着された炭化水素が鏡筒内に放出されて試料に付着する。この試料が高エネルギーの電子ビームで照射されると、炭化水素は重合し、試料汚染(コンタミネーション)を引き起こす。

  • B-A真空計
    B-A (vacuum) gauge

    熱陰極電離真空計の一種。加熱したフィラメントから放出される電子を加速し残留気体に当ててイオン化し、イオン電流を測ることから中~高真空での圧力を測定する真空計。測定範囲は0.1~10-5Pa。ペニング真空計より低真空を計れる。ガラス管でできているので破損しやすいこととガス放出の問題があるので、測定子を直接真空にさらす方式の方がよく採用される。これをヌードゲージという(~10-9Pa)。出力電流は圧力に比例する。電顕では超高真空試料室の圧力測定などに使われている。

  • ピラニ真空計
    Pirani (vacuum) gauge

    加熱されている素子の電気抵抗が温度によって変化することを利用した熱伝導真空計。この真空計では管球の内部にタングステンなどの金属線が張られ、電流で加熱される。真空度によって熱伝導度が変化し、金属線の温度が変わる。測定範囲は0.1~103Pa。電顕ではロータリーポンプ(RP)引きから油拡散ポンプ(DP)引きへ切り替える圧力の検出に使用される。

  • ベーク装置
    bakeout device

    透過電子顕微鏡の真空を高真空に保つために、電界放出型電子銃室、鏡筒内壁や試料ステージを焼きだす加熱装置。

  • ペニング真空計
    Penning (vacuum) gauge

    冷陰極電離真空計の一種。一対の平行平板電極間(陰極)に環状電極(陽極)を置き、それらの軸に平行に磁界をかけ、電子の飛程を長くすることで低い圧力でも持続的に放電を起こさせ、中~高真空領域での圧力を測定する真空計。測定範囲は1~10-4Pa。放電電流は圧力に比例する。堅牢で使い勝手が良いことから、電顕では油拡散ポンプ(DP)引きからスパッタイオンポンプ(SIP)引きへ切り替える制御用に使われている。

  • 本引き
    main pumping

    粗引きポンプから高真空ポンプに切り替えて排気すること。主排気ともいう。

  • 焼きだし(鏡筒内壁などの)
    baking

    透過電子顕微鏡の真空を高真空に保つために、電界放出型電子銃室、鏡筒内壁や試料ステージを真空状態で加熱すること。吸蔵されているガスを強制的に脱ガスし、その後のガス放出を少なくさせる。電界放出型電子銃の場合は電子銃の安定な作動、長寿命、放電損傷の減少などの目的で~300℃の高温で40時間以上の焼き出しを行う。鏡筒等の場合はOリングを使っているので、高温での焼き出しはできないので~60℃で3日間くらいの焼きだしを行う。

  • 予備排気
    pre-evacuation

    試料ホルダの予備排気室を大気圧から一定の低圧力まで排気することをいう。試料予備排気室を大気にして試料を装着し、予備排気した後、仕切り弁を開けて試料を試料室に移動する。

  • ライナーチューブ
    liner tube

    レンズ等からのガスが透過電子顕微鏡の鏡筒や試料室を汚染しないようにするために、照射系、結像系の鏡筒内に挿入される直径6~7mmのアルミ製パイプ。

  • 臨界背圧
    critical backing pressure

    油拡散ポンプが、その正常な機能を維持することができる最大の背圧。