分光分析

  • アイソクロマティシティ
    isochromaticity

  • アクロマティック面
    achromatic plane

    物面の一点から出射する異なるエネルギーを持った電子線がエネルギーフィルタを通ったとき、エネルギー分散がなく一点に集まる(色消し)像面のこと。このようにしてできる像をアクロマティックイメージという。

  • ALCHEMI
    atom-location by channeling-enhanced microanalysis (ALCHEMI)

    入射電子が特定の原子位置を通過する現象(電子チャンネリング)を利用し、結晶中の不純物原子の位置を決定する手法。透過電子顕微鏡で電子回折パターンを見ながら電子ビームをブラッグ条件のプラス側およびマイナス側に順次傾斜してEDS装置で得た特性X線強度の違いを観察することから、不純物原子の占有位置(サイト)が区別できる。この方法では二つの結晶方位でX線強度が測られるが、電子ビームを二次元的にロッキングして連続的な広い角度にわたる特性X線強度のパターンを観察する、より信頼性の高い方法が普及し始めている。

  • アルファフィルタ
    alfa filter

    インコラム型のエネルギーフィルタの一種で透過型電子顕微鏡の中間レンズと投影レンズの間に組み込まれる。分光の原理はオメガフィルタと同じであるが、オメガ型分光器が4個の電磁石から構成されているのに対して、アルファ型は2個である。この分光器を通る電子軌道がアルファという文字に似ていることから、アルファフィルタと呼ばれる。エネルギー分散能はオメガフィルタより小さく~0.7μm/eV。

  • イオン化エネルギー
    ionization energy

    基底状態の原子1個から電子1個を取り去って1価の陽イオンにするためのエネルギー(第1イオン化エネルギー)。

  • イオン化断面積
    ionization cross section

    中性の原子や分子が、他の粒子との衝突によって電子を失ったり得たりしてイオンとなる現象をイオン化(電離)というが、この現象が起きる確率を面積の次元で表わしたもの。

  • イメージEELS
    Image EELS

    電子エネルギー損失スペクトルの特定のエネルギー範囲のスペクトルを用いた電顕像をいう。

  • インコラムタイプ
    in-column type

    エネルギーフィルタまたはエネルギーアナライザで電子顕微鏡の鏡筒内に装着されるものをいう。オメガフィルタ、アルファフィルタなどがこれに当たる。

  • ウィーンフィルタ
    Wien filter

    インコラム型のエネルギーフィルタで、オメガフィルタやアルファフィルタが磁界のみを用いるフィルタであるのに対し、ウィーンフィルタは直交する磁界と電界を用いる。主にモノクロメータとして使われ透過電子顕微鏡の照射系に組み込まれる。高電圧の200kVの電子線に対するエネルギー分散能は小さいので、電子線の加速前あるいは電子線を数100Vに減速してフィルタに導入する。この場合のエネルギー分散能は~10μm/eVである。また電極間の放電等の問題からフィルタに高い電圧をかけるのに限界がある。そのために、このフィルタは~10keV以下の入射電子線に使われる。フィルタ内の軌道が光軸に平行で直線的なのが特徴であり、利点である。

  • 運動量移送分解電子エネルギー損失分光法 (q-EELS)
    momentum transfer resolved electron energy-loss spectroscopy (q-EELS)

    高速電子が固体に入射し、物質中の電子および原子核とのクーロン相互作用によってエネルギーを失った非弾性散乱電子は、物質中の電子や原子核に運動量qを与え、自身はエネルギーを失って-q方向に散乱される。このように散乱された非弾性散乱電子を、エネルギー損失量だけでなく、運動量移送qの関数として分光する測定手法を、運動量移送分解電子エネルギー損失分光法(q-EELS)または角度分解EELS(AR-EELS)法と呼ぶ。
    q-EELS測定は、バンド間遷移(0~10eV)の測定では損失関数から誘電関数のq依存性 ε(q,ω)を、プラズモン振動(10~50eV)の測定では結晶方位依存性(q依存性)を得ることができる。内殻電子励起スペクトル(50eV~)のq分解測定では、誘電関数の虚部ε2 (q,ω)が求まり非占有電子軌道の空間配向の状態がわかる[1,2]。

    q-EELSの測定

    Ωフィルターを用いたq-EELS測定の例を図1に示す。電子顕微鏡を回折モードに設定する。すなわち、対物レンズによって試料の回折図形の拡大図がスリットを挿入する面上に作られる。この面はΩフィルターの物面になっている。スリットによってスリットに垂直な方向のqを制限する(図では3個の回折スポットO, Gおよび-Gが取り込まれている)。このとき、スリットの長手方向は、分光器(Ωフィルター)のエネルギー分散がない方向に設定する。これらの回折スポットをΩフィルターに通すと、スリットに垂直な方向にエネルギー分散を起こし、スリットに平行な方向のqの関数としてエネルギー損失分光(EELS)スペクトルが得られる。すなわち、分光器を通った非弾性散乱電子は、運動量移送qを横軸として、エネルギー損失量Eを縦軸にして二次元的に表示される。つまり、E-qマップが得られる。

    図1. 分光器としてΩフィルターを用いたq-EELS測定の概念図

    図1. 分光器としてΩフィルターを用いたq-EELS測定の概念図。
    Ωフィルターの物面に電子回折図形を結像し、スリットを挿入してスリットに垂直な方向のqを制限する(この図では、透過波O,反射はGおよび-Gが取り込まれている)。分光器を通過した非弾性散乱電子は像面に、エネルギー損失量(スリットに垂直な方向)を運動量移送量q(スリットに平行な方向)の関数として二次元表示される。

    アルミニウムの体積プラズモンのq依存性

    図2にアルミニウムから測定したE-qマップを示す。q=0 Å-1でのエネルギーロスがゼロの強度は本来の透過スポットに対応する。q=0 Å-1でエネルギーロス15eVの強度はアルミニウムの体積プラズモンに起因するものである。体積プラズモンによるスペクトルが、q=0 Å-1でエネルギーロス15eV の位置からqの増加とともに放物線状に伸びているのが見られる。このことは、体積プラズモンエネルギーがqの増加とともにq2に比例して増加していることを示しており、アルミニウム中の伝導電子は、自由電子ガスのように振舞うことを表している([付録1]を参照)。q=±3.1 Å-1の002( 00 2 - )反射の位置には、q=0 Å-1と同様のエネルギー分散が観察されている。

    図2. アルミニウムのE-qマップ

    図2. アルミニウムのE-qマップ。
    q=0 Å-1およびq=±3.1 Å-1でのエネルギー損失15eVの周りに、q2に比例するプラズモンエネルギーの(白い点線に沿った強度)が観察されている。qc=1.3Å-1はアルミニウムの体積プラズモンでの臨界運動量移送を表し、|q| > qc でプラズモン強度は消失する。そのほかに、qに依存しない15eVの強度(黒矢印)は、体積プラズモンといろいろなqを持つ格子振動による多重散乱強度である。詳細は[付録1]に記述した。

    q-EELS測定は、異方的な金属材料のプラズモンエネルギーの振動方向依存性の解析に用いられる([付録2]を参照)[3]。また、金属と誘電体界面の表面(界面)プラズモンエネルギーのq依存性の測定や、周期的な界面構造を有するプラズモニクス材料中のプラズモンエネルギーのq依存性の解析に用いられている [4, 5]。
    このほかに内殻電子励起スペクトルのq依存性の測定では、非占有電子軌道の方位の同定に応用されている[1, 2]。さらに近年エネルギー分解能が数十meVまで向上し、赤外領域の測定が可能になってきている。そのエネルギー領域では、格子振動エネルギーのq依存性の測定が可能で、局所領域でのグラファイトやグラフェンのフォノンのq分散が報告されている[6]。

    (東北大学多元物質科学研究所 准教授 佐藤庸平 執筆)

    文献

    [1] K. Saitoh, K. Momonoi, N. Tanaka, and S. Onari, J. Electron Microsc. 55, 281-288 (2006).
    [2] K. Saitoh, K. Momonoi, N. Tanaka, and S. Onari, J. Appl. Phys., 112, 113920 (2012).
    [3] Y. K. Sato et al., J. Appl. Phys., 126, 185107 (2020)
    [4] H. Saito and H. Kurata, J. Appl. Phys., 117, 133107 (2015)
    [5] H. Saito et al., Phys. Rev. B, 100, 245402 (2019).
    [6] R. Senga, K. Suenaga, P. Barone, S. Morishita, F. Mauri, and T. Pichler, Nature, 573, 247-250 (2019).

    [付録1]
    体積プラズモンエネルギーのq依存性

    プラズモンエネルギーのq依存性は、金属中の電子が自由電子ガスのように振る舞うならば、次式で与えられる。

    数式

    ここで、ħ=⁄ 2π:プランク定数、m:電子の質量、e:素電荷、N:電荷密度である。αはプラズモンの分散係数と呼ばれる。EFは金属のフェルミエネルギー、EP(0)は q=0のときのプラズモンエネルギーである。
    金属中の自由電子全体は密度一定のまま、原子核による一様な正電荷に対して変位し、その変位によって金属表面に誘起される電荷のクーロン力を復元力として自由電子全体が振動する。これがq=0のときのプラズモンである。運動量qを持つプラズモンとは、qの方向に波長∝1/|q|をもつ電荷疎密波である。式(1)から分かるように、プラズモンエネルギーがq2に比例して増加する。q値が大きくなるにつれて電荷の疎密の間隔(波の波長)が小さくなり、電荷密度が局所的に増大する。これが、qの増加にともなってプラズモンエネルギーが増加する理由である。
    qが増加し臨界値(qc)を超えると、プラズモンは急速に減衰し消失する。すなわち、q > qcでは、電子が集団で励起されるのでなく、個々の電子が伝導電子帯バンド内の非占状態へ励起(バンド内遷移)されるようになり、集団励起としての電荷疎密波は崩壊する。アルミニウムのqcは1.3 Å-1と見積られており、その位置でプラズモン強度が消失する様子が図2にみられる。

    [付録2]
    体積プラズモンエネルギーの異方性の観測

    プラズモンエネルギーのq2分散の係数αは、金属バンドの構造を決める電荷密度Nや有効質量mに依存している。異方的な結晶構造をもつ金属材料では、有効質量mが結晶の方位で異なっており、プラズモンの分散関係も結晶方位で異なっている。
    図3(a)は、低密度のキャリア電子(5.4×1021 e/cm3)をもつ六方晶Cs0.33WO3(CWO)の結晶構造である。キャリア電子は1価のCs原子から電子が供給される。図3(b),(c)は、その結晶から0~3 eVの範囲で測定したq-EELSスペクトルである。図3(b)は q// 11 2 - 0 (ab面内の方向)の、図3(c)は q//0001 (c軸方向)のq依存性を示している。q=0 Å-1のスペクトルに見られるピークA (1.2 eV)は CWOのキャリア電子による[ 11 2 - 0 ]方向に振動する体積プラズモンであり、ピークB (1.8eV)は[0001]方向に振動する体積プラズモンである。プラズモンのエネルギーが、振動の方向が[0001]方向のときに、振動の方向が[ 11 2 - 0 ]方向のときよりも高いことを示している。CWO結晶のキャリア電子の有効質量が[0001]方向で小さく、[ 11 2 - 0 ]方向で大きいことが知られているので、(2)式より[0001]方向のプラズモンは[ 11 2 - 0 ]方向よりもエネルギーが高いことが理解できる。
    q// 11 2 - 0 のスペクトル(図3 (b))では、[ 11 2 - 0 ]方向に振動する体積プラズモンのピークA(1.2 eV)が主に観測される。ただし、q=0 Å-1の近くでは[0001]方向に振動する体積プラズモンであるピークB(1.8 eV)も観測される。 q//0001のスペクトル(図3 (c))では、[0001]方向に振動する体積プラズモンのピークB(1.8 eV)が主に観測される。同様に、q=0 Å-1の近くでは[ 11 2 - 0 ]方向に振動する体積プラズモンのピークB(1.8 eV)も観測される。このように異方性のある金属に対して、異なるq方向に振動するプラズモンのエネルギーの違いを測定することができる。

    図3 (a) 六方晶Cs0.33WO3結晶構造。
    図3 (a) 六方晶Cs0.33WO3結晶構造。
    1価のCs原子から電子が供給され、系全体では電荷密度n=5.4×1021 e/cm3のキャリア電子を有する金属である。 (b) q// 11 2 - 0 (ab面内の方向) の体積プラズモンのq依存性。(c) q//0001 (c軸方向)の体積プラズモンのq依存性。異方性のある金属では、体積プラズモンエネルギーはqの方向によって異なっているので、体積プラズモンの異方性を測定できる。

  • エキシトン
    Exciton

    光または電子線によって固体内の電子が励起されると、占有電子状態に正孔が生じる。正孔は正の電荷とみなされる。励起された電子と正孔はクーロン引力によってお互いに引きつけ合い、電子―正孔対を形成する。これをエキシトンと呼ぶ。エキシトンの正孔と電子は、固体中でお互いに一定の距離を保ちながら周回している状態にある。このときのエキシトンは、伝導帯の最低エネルギー準位よりも数十~数百meV低いエネルギー位置にエネルギー幅の狭いエネルギー準位を形成する。この準位は、電子エネルギー損失スペクトルの立ち上がり位置の付近にシャープなピークとして観測される。

    図1(a)にダイヤモンドの内殻電子励起スペクトルを示す。このスペクトルは、ダイヤモンドの1s内殻準位から伝導帯への遷移に対応し、伝導帯の状態密度(DOS)分布を表す。289 eVに観測されるシャープなピーク(▼)がエキシトンピークである。ダイヤモンドの電子状態の模式図を図1(b)に示す。1s内殻準位にできた正孔と励起された電子とでエキシトンが形成される。このとき、エキシトンの大きさ(直径)は0.1 nm程度である。ダイヤモンドのエキシトンの電子準位は、伝導帯の最低エネルギー準位よりも約0.2 eV低い位置に形成される(図1(b)赤点線)。

    図1(a)ダイヤモンドの内殻電子励起スペクトル。289 eVのシャープなピーク(▼)がエキシトンピークである。それに続く高エネルギー側のスペクトルの強度分布は、ダイヤモンドの伝導帯のDOSを表す。(b)ダイヤモンドの電子状態の模式図。電子線によって1s内殻軌道電子が励起され(e-)、1s軌道に正孔が生ずる(h+)。励起された電子は、その正孔と引き合い、ダイヤモンドの伝導帯の最低エネルギー準位よりも約0.2 eV低い位置にエキシトン準位 (赤点線) を形成する。

    図2(a)にSiO2の価電子励起スペクトルを示す。SiO2のバンドギャップエネルギー(~9 eV)付近に観測されるスペクトルの強度立ち上がりは、価電子帯の最高エネルギー準位から伝導帯の最低エネルギー準位への遷移に対応する。この強度の立ち上がり位置の直上すぐ高エネルギー側(10.4 eV)に見られるピーク(図2 (a)▼印)がエキシトンピークである。図2(b)にSiO2の電子状態の模式図を示す。価電子帯にできた正孔と励起された電子の間でエキシトンが形成される。この場合のエキシトンは、図1(a)に示したエキシトンよりもクーロン引力が弱く、空間的に直径が数nm程度広がっている。そのために、エキシトンのエネルギー準位は伝導帯の底部に形成される(図2(b))。さらに、SiO2内のエキシトンは数十~数百nmの範囲に拡散し、拡散中に再結合して消滅することもある。

    注意する点として、価電子励起スペクトル(図2(a))は損失関数であって、図1(a)に示したような誘電関数の虚部ではないことである。したがって、エキシトンの電子準位の正確な値は、Kramers-Kronig解析を用いて損失関数から誘電関数を導出し、誘電関数の虚部のピークエネルギーから求める必要がある。しかし、観測された損失関数でのSiO2のエキシトンピークは十分にシャープなため、誘電関数の虚部に表れるピーク位置とほぼ同じになる。
    (東北大学多元物質科学研究所 准教授 佐藤庸平 執筆)

    図2(a)SiO2の価電子励起スペクトル。10.4 eVのピーク(▼)がエキシトンピークである。22 eVのピーク(縦太線)は、SiO2の価電子全体の集団振動によるプラズモンピークである。その他のスペクトル構造(縦細線)はバンド間遷移によって生じる構造である。(b)SiO2の電子状態の模式図。励起された電子(e-)は、価電子帯に生成された正孔(h+)と弱く結合し、伝導帯の底部にエキシトン準位((b)赤い領域)を形成する。

  • エスケープピーク
    escape peak

    EDS分析において、試料から放出されるX線を半導体検出器で検出するとき、半導体検出器に入射したX線のエネルギーの一部が検出器の構成元素であるシリコン(Si)などの内殻電子励起に使われてしまい、その分だけ低いエネルギー位置に小さなピークが現れる。これがエスケープピークであり、スペクトルの解析の際には注意を要する。

  • X線吸収分光
    X-ray absorption spectroscopy (XAS)

    X線を光源として物質に照射したとき、物質によって吸収されるX線のスペクトルを得る方法。特に軟X線領域では、EELSと同様に、電子のバンド構造の非占有状態(伝導帯)の状態密度がわかる。

  • X線発光分光
    X-ray emission spectroscopy (XES)

    物質にX線、電子線などを照射し、放出されたX線を分光分析して固体の電子の占有状態(価電子帯)の状態密度を測る手法。

  • エネルギー損失吸収端微細構造
    energy-loss near-edge structure (ELNES)

    EELSの内殻電子励起スペクトルにおいて、吸収端から高エネルギー側に約30eVにわたって現れる微細構造。ELNESは内殻準位から伝導帯への遷移に伴って生じるもので、物質の伝導帯の状態密度分布がわかる。

  • エネルギーフィルタ
    energy filter

    試料から出射する電子の内、特定のエネルギーを持つ電子のみを選択する装置。エネルギーフィルタを使い、特に弾性散乱電子のみを選択すると、非弾性散乱電子によるバックグラウンドが取り除かれるので、明瞭な像や回折図形を得ることができ、精度の高い構造情報が得られる。また特定の元素の吸収端エネルギーを選択すると、その元素のマッピングができる。エネルギーフィルタには、透過電子顕微鏡の鏡筒内に組み込むタイプと鏡筒の下に付加するタイプがあり、前者をインコラム型、後者をポストコラム型という。デザインの違う様々なエネルギーフィルタがある。

  • エネルギーフィルター透過電子顕微鏡法
    Energy Filter Transmission Electron Microscopy, EFTEM (EFTEM)

    試料を透過した電子の内で特定のエネルギーを持つ電子のみを用いて結像する方法。試料を透過する際にエネルギーを失った電子(非弾性散乱電子)を電子線プリズムによって分光し、エネルギー分散面にエネルギー選択スリットを挿入して、特定のエネルギーを失った電子のみで結像する。

    1) エネルギー損失が~10eV以下の電子を用いて結像すると、主に弾性散乱した電子で結像することができるので、TEM像のコントラストが増強される(ゼロロス像と呼ばれる)。

    2)特定の元素の内殻電子励起によってエネルギー損失を受けた非弾性散乱電子を選択して結像すると、その元素の試料内での分布が分かる。

  • エネルギー分解能
    energy resolution

    分光分析において、スペクトルの判別可能な最小エネルギー(eV)。EDSでは、分解能は検出器によって決まり、130~140eV程度、WDSでは約10eVであるが、最近では1eV以下のものもある。EELSでは、入射電子線のエネルギー幅が、ほぼエネルギー分解能を決める。電界放出型電子銃を利用した通常のEELSでは0.7eV程度である。モノクロメータを持つ電子銃の場合は0.2eV程度である。

  • エネルギー分光器
    energy analyzer

    WDS分析やEELS分析の際、前者では特性X線や軟X線の、後者では非弾性散乱電子のエネルギーを分散させる分光器のこと。WDSの場合、特性X線を分光して元素分析を行う場合は分光結晶を、軟X線を分光して価電子帯の状態密度を測定する場合は回折格子を用いる。EELSの場合、インコラムタイプでは分光器としてオメガフィルタなどが用いられ、ポストコラムタイプではセクター型の分光器が用いられる。

  • エネルギー分散型X線分光
    energy-dispersive X-ray spectroscopy (EDS)

    試料から発生した特性X線を直接半導体検出器で検出し、電気信号に変えて分光分析する手法。検出した特性X線のエネルギーに比例したパルス電流を生じさせ、これを多チャンネル波高分析器で選別して測定する。波長分散型と比べ軽い元素(B: ボロン以下)は分析できないが、X線の検出効率は高い。照射電流量は波長分散型より少なくてすむので(数pA~数nA)試料へのダメージは少ない。通常の分解能は~140eV(Mn: マンガンのKα発光(5.9keV)に対して)程度である。統計誤差で決まる分解能は発生X線のエネルギーEの平方根×√3程度である(生成される電子数nは、バンドギャップエネルギーを~3eVとして、n~E/3、統計誤差Δn~√n。したがって、エネルギー巾(誤差)~Δn・3=√E・√3)。最近はBe(ベリリウム)も分解できる検出器も開発されている。定量精度は0.5~5%である。EDSはEPMA(分光結晶を用いる)に比べて、空間分解能は2桁高いが分析の定量精度は1桁悪い。略称はEDSであるが、EDXともいう。

  • (L2, L3), (M4, M5)…スペクトル
    (L2, L3), (M4, M5)…spectra

    EELSスペクトルにおいて、元素のL2とL3準位あるいはM4とM5準位から伝導帯への電子励起に伴うスペクトル。L2とL3準位のエネルギー差だけ異なる似た形状のスペクトルが二つ現れる。 これを (L2, L3)スペクトルと呼ぶ。例えば、3d遷移金属元素のL2とL3準位のエネルギー差は5~20eV程度である。M4とM5スペクトルも同様の性質を持つ。
     
    内殻電子準位2pおよび3dは、スピン軌道相互作用により、それぞれL2(2p1/2)と L3(2p3/2)およびM4(3d3/2)とM5(3d5/2)に分かれている。 L2およびL3スペクトルは、それぞれ内殻電子準位L2(2p1/2) および L3(2p3/2)から伝導電子帯の3d成分への遷移スペクトルである() M4およびM5スペクトルは、それぞれ内殻電子準位M4(3d3/2)およびM5(3d5/2)から伝導電子帯の4f成分への遷移スペクトルである。 L2スペクトルとL3スペクトルは、終状態である3d非占有状態は同じなので、内殻準位L2とL3のエネルギー差だけ離れて似た形状のスペクトルとして現れる。
     
    L2スペクトルとL3スペクトルの強度比は、内殻軌道のL2, L3準位での電子の占有数からは1:2になると期待される。 しかし、実際にはコア・ホール相互作用、終状態でのスピン軌道相互作用や3d電子のクーロン反発によって、3d電子の伝導電子帯の状態密度や遷移の選択測が変わるために強度比が1:2からずれる。 逆に、強度比が1:2からずれる現象を使って、3d遷移金属の価数の知見を得ることができる。
     
    酸化銅(CuO)のL2,L3吸収端スペクトルを図1(a)に示す。20eV隔ててL2とL3の2つのピークがみられる。L2とL3遷移の強度比は1:2からずれている。 図1(b)にCuOの電子エネルギー状態の模式図を示す。L2, L3準位はスピン軌道相互作用により、約20eVのエネルギーの隔たりがある。伝導電子帯の底にエネルギー的に狭いCu-3d成分の非占有状態が存在する。 観測されたスペクトルは、L2, L3内殻準位からその3d非占有状態への遷移スペクトルである。CuOのCu2+の電子配置は、[3d9, 4s0]であり3d5/2に1つ空孔がある。 この場合の遷移選択則は、スピン軌道相互作用によって、軌道角運動量ではなく全角運動量 である。よって、2p3/2(L3)から3d5/2への遷移は許容されるが、 2p1/2(L2)から3d5/2への遷移は禁制である。そのため、L3ピークは観測されるが、L2ピークは観測されないはずである。しかし、実際には弱いL2ピークが観測されている。 その理由は、Cu-O間でわずかに共有結合をして3d3/2軌道成分に空孔ができているからである。

    図1: 
    (a)酸化銅(CuO)のCu-L2, L3吸収端スペクトル。932eVのピークがL3遷移スペクトル、952 eVのピークがL2遷移スペクトル。L2スペクトルとL3スペクトルの強度比は1:2からずれているのがわかる。 ⇒図1(a)
    (b)CuOのエネルギー状態とL2, L3遷移過程の模式図。V.B.は価電子帯、C.B.は伝導電子帯を表す。図中の赤とピンクの領域は、それぞれCu-3d軌道の占有状態と非占有状態を表す。 伝導電子帯のCu-4s軌道成分はエネルギー的に広がっており、その状態密度は小さい。そのために4s軌道への遷移スペクトル強度はブロードなバックグラウンドとして観測されている。⇒図1(b)

    第6周期元素のM4とM5準位のエネルギー差は10 ~ 120eVなので、EELSスペクトルには、それらのエネルギー差だけ異なる似た形状のスペクトルが連続して現れる。M4スペクトルとM5スペクトルの強度比は、内殻軌道の3d電子準位での電子の占有数から2:3になると期待される。
    チタン酸バリウム(BaTiO3)のBa-M4, M5吸収端スペクトルを図2(a)に示す。約15eV隔ててM4とM5の2つのピークがみられる。M4とM5遷移の強度比はほぼ2:3になっている。図2(b)にBaTiO3のエネルギー状態の模式図を示す。BaのM4, M5準位はスピン軌道相互作用により、約15eVのエネルギーの隔たりがある。伝導電子帯中に、エネルギー的に狭いBa-4f成分の非占有状態が存在する。M4, M5内殻準位から4f非占有状態への遷移スペクトルが観測される。
    バリウム原子のL2, L3吸収端は5247eVおよび5624eVと報告されている。通常、EELS測定は1000eV程度までなので、BaのL2, L3吸収端の観測は困難である。

    図2:
    (a)チタン酸バリウム(BaTiO3)のBa-M4, M5吸収端スペクトル。780 eVのピークがM5遷移スペクトル、795 eVのピークがM4遷移スペクトル。M4スペクトルとM5スペクトルの強度比は占有比から期待される比とほぼ同じ2:3になっている。 ⇒図2 (a)
    (b)BaTiO3のエネルギー状態とM4, M5遷移過程の模式図。ピンクの領域はBa-4f軌道成分を表す。Ba-4f軌道の14個の席はすべて非占有状態なので、M4とM5のピーク強度は非常に強く観測される。Ba-6sとBa-6p軌道成分はエネルギー的に広がっており、その状態密度は小さい。6s軌道への遷移は禁制である。6p軌道への遷移スペクトル強度はブロードなバックグラウンドになる。しかし、その強度はM4とM5のピーク強度に比べて非常に弱い。 ⇒図2(b)

    スピン軌道相互作用は、原子核の正電荷+Zeと内殻電子の軌道半径の-3乗に比例する。そのため、原子番号が大きくなるにつれ、L2, L3準位間およびM4, M5準位間のエネルギー差は大きくなる。また、同一原子の場合、M殻の軌道半径はL殻よりも大きいので、M4, M5準位間のエネルギー差はL2, L3準位間の差よりも小さくなる。
    AlやSiなどの第3周期元素では、L2, L3スペクトルは内殻2p準位から伝導帯3s成分への遷移として観察される。原子番号が小さいのでL2とL3準位の差が1eV以下になり、L2, L3スペクトルは分離しない一つの吸収端スペクトルとして観測される。このような場合、L2,3と書かれることが多い。
    (東北大学多元物質科学研究所 准教授 佐藤庸平 執筆)


     

  • オメガフィルタ
    omega filter

    インコラム型のエネルギーフィルタで透過電子顕微鏡の中間レンズと投影レンズの間に組み込まれる。4個の電磁石からなる分光器は、Ω(オメガ)という文字の形に似ていることから、オメガフィルタと呼ばれる。エネルギー分散能は200keVの電子線に対して、およそ1μm/eVである。おもにフィルタ像(ゼロロス)像、ゼロロスCBED図形、エネルギーロス像を得るために使われる。

    omega filter ⇒
    Ωフィルタの働きと得られるスペクトルの概念図。
    エネルギーEの電子の軌道(光軸を通る軌道)を青で示し、⊿Eだけエネルギーを失った電子の軌道(エネルギー分散を起こした軌道)を赤線で示す。エネルギー分散が起きている面 (S) をスクリーンに投影すると、ロス(損失)エネルギーに対する強度分布(エネルギースペクトル)が観察される。面S上にはエネルギースリットが置かれている。
    また、エネルギー分散が消滅する面、すなわちアクロマティック面 (A) をスクリーンに投影すると、エネルギー分散の無い像が観察される。その際、エネルギースリットを用いて、ゼロロスエネルギーを選択するとゼロロス像(フィルタ像とも言う)が得られ、ロスエネルギーを選択するとロス像が得られる。

    (a) Siのエネルギースペクトル(加速電圧:200kV)、(b)エネルギースペクトルのラインプロファイル ⇒
    ZLPはゼロロスピーク。P1 はプラズモンロス (Ep = 16.7eV) によるピーク。P2, P3… はプラズモンの多重散乱によるピーク。L2,3 は内殻電子励起によるなだらかなピーク。

    cubic-BN [110]のCBED図形(加速電圧100kV) ⇒
    アクロマティック面にできているCBED図形をそのままスクリーンに投影した図形(a)と面S上にあるエネルギースリット用いてゼロロスエネルギーを選択した図形(b)との比較。下のグラフは写真の線A-B上のラインプロファイル。
    エネルギースリット無し (Unfiltered)の左図では、縞模様がぼやけて不明瞭であるが、エネルギースリットでロスエネルギー (約10eV以上) をカットした右図 (Filtered) では、縞模様が明瞭に観察されている。回折図形の定量解析を行う場合、エネルギーフィルタは必要不可欠である。

    氷包埋したリポソームの像(加速電圧200kV) ⇒
    アクロマティック面にできている像をそのままスクリーンに投影した像(a)と、面S上にあるエネルギースリットを用いてゼロロスエネルギーを選択したフィルタ像(b)との比較。フィルタ像(b)では、リポソームのコントラストが増加している。

  • オンサイト励起
    on-site excitation

    EELSにおいて内殻励起が空間的に励起原子の上でしか起こらないことを指す。すなわち、内殻電子から非占有バンドへの励起を考えるとき、内殻電子の波動関数は原子に局在しているので、終状態もその原子に局在していないと、両状態の波動関数が重なり合わないので遷移が起きない。したがってELNESのスペクトルからは励起原子自身の反結合状態が得られる。

  • 化学結合状態
    chemical-bonding state

    分子または結晶内の原子同士を結びつけている電子の状態(エネルギーおよび運動量)。EELSにより化学結合状態の詳細な分析ができる。

  • 化学シフト
    chemical shift

    EELSの内殻電子励起スペクトルにおいて、そのスペクトルの立ち上がりエネルギー (閾エネルギー) が励起原子の結合状態や価数 (化学的環境) の違いにより変わることを化学シフトという。

    閾エネルギーは、励起の始状態である内殻準位と終状態の非占有バンドの最低エネルギー準位の差により決まる。化学的環境の違いにより始状態と終状態のエネルギーは変化する。例として、金属とその酸化物における金属原子の内殻電子励起スペクトルの場合を考える (図1)。金属の場合は、スペクトルの閾エネルギーは励起される内殻準位からフェルミ準位直上の準位までのエネルギー差となる。その金属との酸化物の場合は、酸素との結合により金属原子から酸素へ電子が移動するため、金属イオン上の価電子密度は減少する。その結果、内殻電子が受ける原子核の静電ポテンシャルエネルギーが増加する (価電子による核ポテンシャルの遮蔽が減少する) ため、始状態である内殻準位は低エネルギー側にシフトする。そのため、エネルギー差は大きくなり、閾エネルギーは高エネルギー側にシフトする。同じ金属の酸化物でも金属イオンの価数が高いほど内殻準位の低エネルギー側へのシフトは大きくなる傾向がある。加えて、絶縁性の酸化物ではフェルミ準位近傍にエネルギーギャップが生じ、終状態である非占有バンドの底のエネルギーは高エネルギー側にシフトする。したがって、酸化物の閾エネルギーは金属に比べて大きくなり、正 (高エネルギー側) の化学シフトを与えることになる。図2にいくつかのマンガン酸化物について、マンガンのEELSスペクトルの化学シフトの例を示す。マンガンの価数が大きくなるにつれてスペクトルのピークがエネルギーの高い方に数eVシフトしているのが分かる。

    上記の説明は、基底状態 (内殻電子が励起されていない状態) に基づいた電子遷移で考えた場合だが、実際には内殻電子が励起されることにより生じる内殻空孔の影響が無視できない。内殻空孔は引力型のクーロンポテンシャルを生じ、近傍の電子が引き寄せられてそれを遮蔽する。これにより内殻準位は高エネルギー側にシフトするが、その影響は小さいと考えられている。

    また、絶縁物では、内殻空孔と励起電子が結合した状態(内殻励起子)を形成する場合がある。この場合、バンドギャップ内に励起子準位が形成され、それがEELSの終状態になる場合もある。この場合は、閾エネルギーは励起子の結合エネルギー分だけ減少する。内殻励起子の結合エネルギーは物質に依存し、100 meV程度から1 eV以上になる物質もある。結合エネルギーが大きな内殻励起子は吸収端直前のピークとして観察される。このように、EELSによって測定される化学シフトには終状態の変化も寄与するため解釈が難しいが、標準物質から測定されたスペクトルと比較することで、化学シフトは価数の決定に利用できる。

    なお、内殻電子のイオン化により得られるX線光電子分光 (XPS) でも同様の化学シフトが現れる。XPSの終状態は試料外の真空中であるため、EELSの場合のようなコアホール相互作用による終状態のシフトは関与しないので、スペクトルの解釈はEELSに比べて容易である。

    (執筆 京都大学 倉田 博基教授)

    図1 基底状態における金属とその酸化物の内殻電子励起スペクトルの閾エネルギー
    図1 基底状態における金属とその酸化物の内殻電子励起スペクトルの閾エネルギー
    図2 種々のマンガン酸化物のL2,3殻電子励起スペクトル
    図2 種々のマンガン酸化物のL2,3殻電子励起スペクトル
    マンガンの価数が高くなるほどL2,3吸収端が高エネルギー側にシフトしている。

  • カソードルミネッセンス
    cathodoluminescence

    電子ビームの照射によって固体内の電子を励起して、その電子が空孔と再結合するときの発光(紫外光から赤外光)のことをカソードルミネッセンス(CL)と呼び、この励起と再結合の現象を用いて固体の電子状態を電子顕微鏡を用いて分析することができる。固体中の不純物や格子欠陥等によって価電子帯と伝導帯の間(禁制帯内)にできる各種の電子状態(エネルギー準位)を調べることから、無機材料の結晶構造の欠陥などを1μm以下の高い空間分解能でSEM像やSTEM/TEM像から得られる構造的情報と合わせて材料評価を行うことができる。また、特定タンパクの検出など、生物試料への応用も研究されている。

    • 半導体の場合、入射電子によって価電子帯の電子が伝導帯に励起され、価電子帯には正孔が生成される(対生成という)。励起された自由電子と正孔はクーロン力によって結びつけられた対(自由励起子;低温で顕著に起こる)を形成する。自由励起子は不安定で任意の場所で再結合して発光する。また、生成された自由励起子を形成できない温度(通常室温以上)では電子および正孔は電荷のキャリアとして個別に半導体中を拡散する。キャリアがドナーやアクセプターとなる不純物原子に捕獲されると発光性の再結合が起こる。転位などの格子欠陥に捕獲されると非発光性の再結合が起こる。このことを利用すると、特定の波長を使ったCL像から不純物原子の空間分布が検出できる。 なお、試料の温度が上昇すると格子振動が大きくなり、格子振動を介した非発光性の再結合が増加し発光は弱まるので、多くの場合液体窒素温度程度またはそれ以下の低温で測定する必要がある。また、照射電子ビームの加速電圧が閾電圧(~100kV)を越えると点欠陥の生成が増加し、禁制帯内に深い欠陥準位が作られ、その準位を介した非発光性再結合が生じてCLの発光強度が減少するので、100kV以下の加速電圧で測定する必要がある。
    • 絶縁体の場合、酸化物や硫化物中に添加した遷移金属元素のd電子や希土類元素のf電子がつくる不純物中心や、アルカリハライド結晶中の空孔に局在した電子(この状態を色中心という)などが禁制帯内に基底準位と励起準位を形成し、それらの準位間の電子遷移で発光が起こる。この発光位置から添加元素の位置情報が得られる。加速電圧の制限は特に厳しくない。
    • 有機物では有機分子の最低非占有分子軌道(LUMO)から最高占有分子軌道(HOMO)への電子遷移によって発光する。局所的な情報は得られないが、有機分子の劣化や経年変化の情報が得られる。試料が電子線に弱いので低加速電圧での観察が求められる。

    (東工大 山本直紀博士 執筆)

    図1 カソードルミネッセンス(CL)検出システムの概念図 ⇒図1

    電子ビーム入射により試料から放出された光は放物面ミラーによって集光され、反射されて平行光となり、電子顕微鏡の鏡筒外に導かれる。この光は、レンズ1(L1)を通り、レンズ2(L2)によってCCD検出器の前の分光器のスリット上に焦点を結ぶ。スリットを通った光の分光スペクトルはCCDにより記録される。パソコンからの信号によって偏向コイルを駆動して電子ビームを二次元的に走査し、各ビーム位置からの発光スペクトルをCCDにより逐次測定する。測定後に波長を選んで単色CL二次元像を表示する。試料のSTEM像またはSEM像とCL二次元像を照合することから、試料中の構造的欠陥と光学的性質との関係についての情報を得る。
    発光は赤外光(波長1~2.5μm)から紫外光(波長200nm~380nm)に亘る。分光には紫外光、可視光、赤外光に対して、専用の回折格子および検出器が使われる。検出器の波長分解能は1nm(エネルギーにすると10meV以下)程度である。

    図2 貫通する転位を含むGaN成長膜のTEM暗視野像、CL像とCLスペクトル(加速電圧80kV) ⇒図2

    サファイア基板上にMOCVD法で成長させたGaN膜(膜厚 4μm)を基板側からイオンミリングにより薄膜化し、エッジの薄い領域で、試料を貫通する転位を含む領域を透過電子顕微鏡(TEM)とCLにより観察した結果を示す。
    (a) TEM暗視野像。図中の矢印は転位を示す。
    (b) 同じ領域を室温において波長366nm(3.39eV)の光を使って表示した単色CL像。試料の広い領域で自由励起子(FX)発光が起こっているのが見られる(明るい部分)。矢印で示した転位のところでは、キャリアが捕獲され非発光性再結合を起こすため、暗いコントラストを示している。
    (c) 異なる試料温度で測定したCLスペクトル。主ピーク(P1)はGaNのFX発光、P2ピークは不純物が関与した発光、P3ピークはドナー・アクセプタ対発光(D,A)である。CL像で転位を明瞭に見るためにはバックグラウンドを形成するFX発光が重要である。 FX発光強度は温度の上昇とともに減少し、室温での強度は19Kに比べ2桁小さくなる。特に試料の薄い領域の観察など発光強度が弱い場合には低温での測定が必要である。転位の周囲のCL強度分布の解析からキャリアの拡散距離が求められる。

  • 価電子励起
    valence-electron excitation

    価電子が伝導帯に励起される現象のこと。EELSでは、価電子励起スペクトルを解析することにより、物質の誘電関数を得ることができる。

  • 価電子励起スペクトル(低エネルギー損失スペクトル)
    valence-loss spectrum (low-loss spectrum)

    EELSスペクトルの内、低エネルギー損失領域(約50eV以下)のスペクトル。バンドギャップエネルギー(0~10eV)やプラズモンエネルギー(10~50eV)がわかる。このスペクトルから、固体の誘電的性質、光学的性質を調べることができる。

  • キャスタン・ヘンリー型フィルタ
    Castaing-Henry filter

    インコラム型のエネルギーフィルタで透過電子顕微鏡の中間レンズと投影レンズの間に組み込まれる。分光器は二等辺三角形状の(1個の)電磁石と入射電子の方向を反転させる静電反射ミラーからなる。静電界を用いることから入射電子のエネルギーは80keVが限度である。エネルギー分散能は80keVで~1μm/eVである。

  • 吸収効果
    absorption effect

    特性X線の分光分析(EDS)において、試料中で発生したX線の一部が試料に吸収されてしまう効果。試料が厚くなると(測定元素により違いがあるが、ほぼ数10nm以上)、定量測定の際、この効果が無視できなくなるので、検出したX線の強度を補正する必要がある。原子番号効果、蛍光励起効果に比べて効果が大きいので、厚い試料の場合に重要な補正。

  • 吸収端エネルギー
    absorption-edge energy

    原子の軌道に束縛されている電子を最低の非占有状態に励起させるためのエネルギー。

  • クラーマス・クローニッヒ解析
    Kramers-Kronig analysis

    電子エネルギー損失分光 (EELS) スペクトルから誘電関数ε(ω) の逆数である1/ ε(ω) の虚部が求まる。得られた虚部にクラーマス・クローニッヒの関係式を適用すると、1/ ε(ω)の実部が求まる。求まった1/ ε(ω)の実部と虚部から代数計算によって、複素誘電関数 ε(ω) = ε1(ω) + 2(ω) が導出される。1/ ε(ω)の虚部からε(ω) = ε1(ω) + 2(ω) を導出する手法をクラーマス・クローニッヒ解析 (KK解析) と呼ぶ。複素誘電関数は、材料の光学的性質(屈折率、反射率、光吸収)を与えるので、KK解析はEELSスペクトルから材料の光学的性質を求めるために不可欠な方法である。

    EELSにおけるクラーマス・クローニッヒ解析の手順

    ダイヤモンドのEELSスペクトル (図1 (a) 黒線) からKK解析により複素誘電関数ε(ω) を得る手順を以下に示す。

    • 1 ) 価電子全体の集団振動であるプラズモンによる多重散乱強度を、フーリエ・ログ・デコンボリューション法を用いて除去する (図 (a)、矢印①)。
    • 2 ) 0-2 eV付近のゼロロスピークの裾野強度を除去する (図1 (a) 矢印②)。裾野強度を除去する方法には、試料を挿入していないゼロロスピークの裾野強度を用いて除去する方法や、適当な関数を仮定してフィッティングして除去する方法がある。
    • 3 ) 分光器の取り込み角の制限で取得できなかったスペクトル強度を補正する。電子の非弾性散乱はほとんど前方散乱であるが、分光器による取り込み角を超える散乱も多少あるためである。以上の3つの処理を行ったスペクトルを、1回散乱スペクトル (SSD) と呼ぶ。
    • 4 ) SSD強度ISSD(ω) の規格化を行って損失関数を導出する (図1 (b)実線)。ISSD(ω) を規格化し損失関数Im[-1/ ε(ω)]を求めるには、スペクトルの強度が固体中の電子の数に比例することを利用して、Sum-rule法 (付録1) を用いる。
    • 5 ) クラーマス・クローニッヒの関係式 (1) (後述) を用いて、Im[-1/ ε(ω)]からRe[1/(ω)]を導出する (図1 (b) 点線)。
    • 6 ) 最後に、代数式 (2), (3) (後述) を用いて誘電関数ε(ω) を導出する (図1 (c))。

    クラーマス・クローニッヒの関係式

    クラーマス・クローニッヒの関係式 (線形応答において周波数応答関数の実部と虚部の間に成り立つ関係式) は、分光測定で得た複素誘電関数の虚部から実部を求めるために用いられる[1, 2]。この関係式を用いて、EELSスペクトルから求めた損失関数Im[-1/ ε(ω) ]から、Re[1/ ε(ω)]が次式を用いて導かれる。

    図(1)

    ここでReとImは、それぞれ複素関数の実部および虚部を表す。ωは角振動数を表す。Pはコーシーの積分主値と呼ばれ、ω = ω'の極以外での積分を表す。(1) 式の角振動数の積分範囲は0~無限大までだが、実験で得られるスペクトルのエネルギー範囲は100 eV以下である。そこで、(1) 式の計算を行うために、400 - 500 eV程度までのスペクトルを外挿して求める。
    (1) 式を用いてRe[1/ ε(ω)]とIm[-1/ ε(ω)]が分かれば、 誘電関数の実部ε1(ω) と虚部ε2(ω) は以下の式を用いて代数的に求められる。

    図(2)と(3)

    誘電関数から何がわかるか

    導出した誘電関数 (図1 (c))から次のことがわかる。

    • 1 ) ħω=0 eVでの誘電関数の実部ε1(0) はダイヤモンドの誘電率で、EELSから導出された値 ε=5.7は光学測定の結果と良く一致している。
    • 2 ) ħω=34 eVの位置でプラズモンの励起条件ε1(ω) ~ 0(赤線)かつε2(ω)<<1 (青線)が満たされており、EELSスペクトルのプラズモンのピークに対応している。
    • 3 ) ε1(ω) は12 eVで強い共鳴型の分散を示しており、バンド間遷移に対応している。そのとき、遷移によるエネルギーの吸収のために、誘電関数の虚部ε2(ω) にピークを生じている (青線のピーク)。このバンド間遷移は、sp3電子軌道のσ結合軌道 (σ) からσ反結合軌道 (σ*) への遷移である。さらにsp3電子軌道を構成する成分のうち、2p結合軌道から2s反結合軌道への弱い吸収が7 eVに見られ、ε1(ω) の弱い分散とε2(ω) の吸収の構造が観測できる (縦点線)。
    • 4 ) 5.5 eVの位置に (逆三角印▼) ε2(ω) の強度立ち上がりが見られる。これは間接型のバンドギャップ間の遷移に対応する。間接型バンドギャップ間の遷移は、フォノンの励起を必要とするために、直接型の遷移よりも吸収が小さく観測されている。

    エネルギーの吸収として誘電関数の虚部ε2(ω) に表れる7 eVの肩および12 eVのピークは、EELSスペクトルには明瞭には観測されず、KK解析によって誘電関数の虚部ε2(ω) として表したときに初めて明らかになる。他方、光学測定によるε2(ω) のスペクトルにはプラズモンのピークは表れず、EELSではプラズモンの直接観察ができるのが利点である。さらに、バンドギャップエネルギーは、KK解析をしなくても、EELSの強度の立ち上がり位置 (図1 (a) 逆三角印▼) から直接測定することができ、ε2(ω) の強度の立ち上がり位置 (図1 (c) 逆三角印▼) とも一致する。

    図1 (a)
    図1 (b)
    図1 (c)

    図1. (a) 実験で観測したダイヤモンドのEELSスペクトル (黒線) と一回散乱スペクトル (SSD) (赤線)。
    SSDは、プラズモンの多重散乱強度の除去 (矢印①) およびゼロロスピーク強度を除去 (矢印②) することによって得たスペクトルである。
    点線は本文中の (1) 式を用いて導出したRe[1/ε(ω)]である。(c) 末文中 (付録2) の (2)、(3) 式を用いて得た誘電関数の実部ε1(ω) (赤線) と虚部ε2(ω) (青線)。

    光学的に得られたスペクトルとの比較

    求めた誘電関数 ε(ω) =ε1(ω) + iε2(ω) から、複素屈折率 n ̂(ω)=n(ω)+ik(ω) (屈折率n (ω)、消衰係数k(ω) )、反射率R(ω)、光吸収係数μ(ω) を計算して、光学実験で求められた値と比較することができる (光学的性質については付録2を参照)。EELSスペクトルから導出した誘電関数を使って求めた反射スペクトルを図2 (a) に示す。この反射スペクトルの7 eV, 13 eV, 21 eVのスペクトル構造は、光学測定[4]で得られるスペクトル構造 (図2 (b) ) とよく一致している。この結果はEELSを用いて光学的性質が測定できることを示している。

    図2 (a)
    図2 (b)

    図2. (a) EELSから導出した誘電関数を用いて計算した反射スペクトル。 (b) 点線は光学測定によって得られた反射スペクトル[4]。
    実線は、仮定したバンド構造から計算した反射スペクトルである。
    図 (a) のEELSから導出した反射スペクトルは、図 (b) の光学測定の結果とよく一致している。

    (東北大学多元物質科学研究所 准教授 佐藤庸平 執筆)

    参考文献

    • [1] F. Wooten, "Optical properties of solids", Academic press INC. (1972).
    • [2] 渡辺誠、佐藤繁 「放射光科学入門」、東北大学出版会
    • [3] R. F. Egerton, Electron Energy-Loss Spectroscopy in the Electron Microscope
    • [4] A. D. Papadopoulos, Phys. Rev. B, 43, 5090 (1991).
           https://doi.org/10.1103/PhysRevB.43.5090

    付録1: SSDの規格化

    ISSD(ω) の規格化の方法として、Sum-rule法を用いた例を示す。材料の価電子密度Nが分かっているとき、以下の関係式を用いてISSD(ω) を規格化する。

    関係式

    ここで、Aは規格化定数、ωpはプラズマ角振動数、eは電子の素電荷、mは電子の質量である。(6) の第2式と第3式からAが決まる。A・ISSD(ω) = Im[-1/ε(ω) ]から損失関数が求まる。

    付録2: 誘電関数と各光学的性質との関係式

    誘電関数ε(ω) =ε1(ω) + iε2(ω) と光学的性質との関係を以下に示す。

    上から屈折率、消衰係数、反射率、吸収係数の関係式

  • クリフ・ロリマー法(薄膜近似法)
    Cliff-Lorimer method

    特性X線の分光分析(EDS)において、目的元素の定量に用いる手法で試料が数10nm以下(測定元素の違いにより変わる)の場合に適用される。薄膜近似法ともいう。たとえば二元素A、Bから成る物質の場合、特性X線強度IA、IBを測り、問題の物質のイオン化断面積、蛍光収率などに比例定数(k 因子)を用いて、元素A、Bの濃度比CA/CBを式CA/CB=k・IA/IBから求める方法。試料が薄い場合は、吸収効果、原子番号効果、蛍光励起効果の三つの効果に対する補正を行わなくても、比較的高い精度の定量ができる。試料が厚いときは、放出X線の強度は上記の三つの効果を受けるので、これらの影響を補正しなければならない(ZAF補正)。

  • 蛍光
    fluorescence

    蛍光とは、X線や電子線などの刺激により、物質中の電子が遷移した励起状態 (非占有状態) から放出される光(赤外線~紫外線~X線)。EDSでは蛍光X線を元素分析に用いる。結晶で、ある元素のK殻の電子が非占有状態に励起され、その元素のL殻の電子が空いたK殻に遷移するとき、元素に固有なK特性X線が放出される。

  • 蛍光励起効果
    fluorescence excitation effect

    特性X線の分光分析(EDS)において、分析の対象となる元素(目的元素)から放出される特性X線のほかに、目的元素以外の元素から放出されるX線が目的元素の特性X線よりも高いエネルギーの場合、これが励起源となって目的元素の特性X線を余分に放出する効果。試料が厚くなると(測定元素により違いがあるが、ほぼ数10nm以上)、定量測定の際、この効果が無視できなくなるので、検出したX線の強度を補正する必要がある。吸収効果よりは重要でない。

  • 結晶場分裂
    crystal field splitting

    たとえば、ペロブスカイト構造のように、3d電子を持つ原子が酸素8面体の中心に位置しているとき、3d電子軌道が酸素の方向に向く軌道(eg)と酸素と酸素の間に向く軌道(t2g)では前者のほうがクーロン反発のためにエネルギーが高い。このように3d電子を取り巻く結晶場の環境によって3d電子のエネルギー順位が分裂することをいう。EELSでは2p電子を3d非占有バンドに励起するとき、1s電子を3dバンドに混成した2p状態に励起するときに、結晶場分裂によるt2gおよびeg状態に対応するピークが現れる。

  • 検出立体角
    solid angle

    EDSにおいて、試料から放出される特性X線を、検出器が試料を見込む立体角度のこと。検出立体角は、検出器の有効検出断面積が大きく、試料と検出器の距離が短いほど大きくとることができる。

  • k 因子
    k factor

    EDSでクリフ・ロリマー法を適用する場合に使う因子。実験的にk 因子を決める場合は、目的の物質に近い組成の二元素A、Bから成る標準試料について特性X線強度IA、IB を測定し、組成CA、CB を用いて、式k=CA/CB ・IB /IAからk 因子を求める。理論的にk 因子を求める場合はk=(MAQBωBαB)/(MBQAωAαA)によって求める。ここで、M、Q、ω、αはそれぞれ原子量、イオン化断面積、蛍光収率、全K線に対するKα線の比。Qおよびωの精度は悪い。また実際には検出器窓材などによる吸収効果も考慮する必要がある。3d金属程度までの元素に対しては、k 因子に実験値を用いた場合と計算値を用いた場合で、誤差は10%程度といわれている。原子番号が大きく異なる元素から成っている物質の場合には定量精度が悪くなる。

  • 原子番号効果
    atomic-number effect

    特性X線の分光分析(EDS)において、入射電子線が後方散乱されて、目的元素のX線放出(目的元素の電子励起)に寄与しない電子の割合が試料の平均原子番号に依存するために、試料から放出される特性X線が原子番号に依存する効果。試料を構成する複数の元素の原子番号が大きく違うときにこの効果が無視できなくなる。試料が厚くなると(測定元素により違いがあるが、ほぼ数10nm以上)、定量測定の際、この効果が無視できなくなるので、検出したX線の強度を補正する必要がある。

  • 元素マッピング
    element (elemental) mapping

    元素マッピングの主な手法には、EELSを用いるものと、EDSを用いるものの2つがある。EELSの場合、内殻電子の励起スペクトル(内殻電子励起スペクトル)中の各元素に固有の損失エネルギーをエネルギーフィルタで選択して像モードにすることにより、各元素の分布像を得る。(この説明はTEM-EELSに準拠しているが、スキャンニング法によるSTEM-EELSもある。) EDSの場合は、電子ビームを二次元走査しながら各元素に固有のX線の強度を測定し、その強度に応じた輝度変調を、走査信号と同期させてコンピュータモニタ上に表示させることにより、二次元元素分布像を得る。

    (a) EDSを用いた高空間分解能元素マップ。試料:SrTiO3、加速電圧:80kV。⇒
    電子ビームを二次元走査してX線スペクトルを取得し、元素に固有の特性X線強度 O-K, Ti-Kおよび Sr-L を走査点上に分布させた像である。RGBは各元素マップを重ね合わせたものである。

    (b) STEM-EELSを用いた高空間分解能元素マップ。試料:SrTiO3、加速電圧:80kV。⇒
    電子ビームを二次元走査して内殻電子励起スペクトルを取得し、元素に固有の損失エネルギー強度 O-K, Ti-Lおよび Sr-M を走査点上に分布させた像である。RGBは各元素マップを重ね合わせたものである。

    (c) オメガフィルタを用いたTEM-EELSにより得られた元素マップ。試料:SiC/Si3N4、加速電圧:1250kV。⇒
    TEM-EELSで内殻電子励起スペクトル(図右下)を取得し、元素に固有の損失エネルギー強度 C-K, N-K または O-Kをスリットで選択して得た各元素のエネルギーフィルタ像である。RGBは各元素マップを重ね合わせたものである。
    TEM-EELSを用いた元素マッピングは視野数μm程度の広視野低倍像で用いられることが多い。

  • コアホール相互作用
    core-hole interaction

    内殻の電子が励起されて伝導帯へ遷移するとき、内殻にできたホール (内殻空孔,コアホール) と励起された電子との間のクーロン相互作用や内殻空孔が電子構造に及ぼす影響の総称。金属の場合は、自由電子がコアホールの影響を遮蔽するのでコアホール相互作用は小さいが、自由電子がない酸化物の場合には相互作用は大きい。
    酸化物などの絶縁体から得られるEELSの吸収端近傍微細構造 (ELNES) は、内殻にホールを導入しない理論計算ではよく再現されないことが知られていた。この問題を解決するために考え出されたのが、コアホール相互作用である。コアホール相互作用を取り入れてELNESスペクトルを計算すると、実験で得られる吸収端スペクトルが、理論スペクトルによって格段に良く再現されるようなる。EELSにおいて、コアホール相互作用があると吸収端が低エネルギー側にシフトする。励起された電子とホールのエネルギー差が小さいほど効果は大きい。
    図1(a)に、酸化物である酸化マグネシウム (MgO) から実験で得られたO-K ELNESスペクトルを示す。図1(b)に内殻空孔を導入しない場合の計算スペクトルを示す。計算されたスペクトルの形状が、実験で得られたスペクトルの形状に対して一致していないことが分かる。図1(c)に、酸素の内殻 (1s) に空孔を導入して、励起された電子に対するクーロン力が強くなる効果 (コアホール相互作用) を取り入れて計算したELNESスペクトルを示す。コアホール相互作用を取り入れて計算したELNESスペクトルと実験で得られたスペクトルの一致度が格段に改善していることが分かる。ELNESの理論計算のスペクトルの説明にはコアホール相互作用を考慮することの重要性が理解できる。
    図2に、中央の酸素原子 (O*) の1s軌道に、内殻空孔がない場合 (図2(a)) と内殻空孔を導入した場合 (図2(b)) の伝導帯電子の波動関数の二乗を示す。内殻空孔を導入しない場合 (図2(a)) に比べて、内殻空孔を導入した方 (図2(b)) が、波動関数の二乗の強度が中央の酸素原子近傍で高くなっている。これは、空孔を導入したために酸素原子の近傍で伝導電子の感じるクーロン力が強くなったためである。このように、コアホール相互作用は、波動関数の局所的な空間的形状に影響を及ぼしていることが分かる。
    (東京大学 溝口照康教授による)

    O-K ELNES spectra of MgO.

    図1 MgOのO-K ELNESスペクトル
    (a) 実験で得られたELNESスペクトル
    (b) 計算によるELNESスペクトル: コアホール相互作用(内殻空孔)を導入しない場合
    (c) 計算によるELNESスペクトル: コアホール相互作用(内殻空孔)を導入した場合
    コアホール相互作用を取り入れて計算したELNESスペクトルが実験で得られるスペクトルと良く一致していることが分かる。

    Fig.2

    図2 MgO (001)の伝導帯における電子の波動関数の二乗、内殻空孔の有無による違い
    (a) コアホール相互作用(内殻空孔)を導入しない場合
    (b) コアホール相互作用(内殻空孔)を導入した場合
    酸素の1s軌道に内殻空孔を導入すると (図2(b))、導入しない場合 (図2(a)) に比べて伝導帯の波動関数の存在確率が酸素の原子近傍でより大きくなっていることが分かる。

  • 広域エネルギー損失微細構造
    extended energy-loss fine structure (EXELFS)

    EELSの内殻電子励起スペクトルにおいて、吸収端から高エネルギー側に約40~200eVの広い領域にわたって現れる微細構造。内殻準位から伝導帯に励起された電子が最隣接原子によって散乱されるために生じるもので、これをフーリエ変換すると原子の局所的な配置に関する情報が得られる。X線の場合のEXAFSに対応するものである。

  • サイト占有
    site occupation (occupancy)

    原子が特定の席を占有することであるが、ALCHEMIにおいて、不純物原子、添加原子がどの席を占有しているか、というときに用いられる。

  • サムピーク
    sum peak

    EDS分析では、試料から放出される特性X線を半導体検出器で検出し、X線のエネルギーに比例したパルス電圧を生じさせ、これを多チャンネル波高分析器で選別して測定するが、このとき、複数の特性X線がほぼ同時に検出器に入射すると、これらは別々のパルスとして認識することができない。その結果、試料からのスペクトルピークとは別に、複数のX線のエネルギーの和の位置にピークが現れる。これがサムピークであり、スペクトル解析の際には注意を要する。

  • ZAF(ザフ)補正法
    ZAF correction method

    特性X線の分光分析(EDS)において、目的元素の定量に用いる補正法。試料が厚くなると(測定元素により違いがあるが、ほぼ数10nm以上)、放出される特性X線の強度は原子番号効果、吸収効果、蛍光励起効果を受けるので、これらの三つの効果を補正する必要がある。未知試料と標準試料(単純組成の化合物)から得たX線の相対強度を求め、その値にこれら三つの効果の補正をほどこす。EPMAの場合は三つの効果の補正をするが、TEMの場合には一番効果の大きい吸収補正だけを考慮することが多い。通常は、試料が薄い場合のクリフ・ロリマー法(薄膜近似法)を適用し、それだけでも比較的高い精度の定量ができる。

  • シリアル検出
    serial detection

    EELSでエネルギー損失スペクトルを取得するさい、シングルチャンネルの検出器(0次元ディテクタ)を用いて、エネルギー軸に沿って、時系列的にスペクトルを測定する方法。最近はパラレル検出に移行している。

  • 振動子強度
    oscillator strength

    EELSにおいて、価電子帯や内殻の電子を伝導帯に励起するとき、電気双極子遷移の確率に対応する古典モデルでの量。すなわち、この遷移は、古典的モデルでは束縛電子の振動(調和振動子)として、ローレンツモデルで考えることができる。振動子強度は古典的な調和振動子の個数であり、これは量子力学的に与えられる遷移確率に対応する。

  • 状態密度
    density of states

    単位体積あたり、エネルギー帯の単位エネルギー幅あたりに存在する電子状態の数。伝導帯の状態密度は、高いエネルギー分解能のEELSによって調べることができる(熱電界放出型電子銃を搭載した透過電子顕微鏡で1eV以下、冷陰極電界放出型電子銃では約0.3eV)。価電子帯の状態密度は、入射電子線によって試料から発生するX線を分光する(XES)ことによって得られる。このとき、エネルギー分解能を1eV以下にすることが必要である。最近開発された波長分散型X線分光(WDS)では、約0.5eVの分解能で価電子帯の状態密度を得ることができる。

  • GIF
    Gatan imaging filter (GIF)

    Gatan社から販売されているエネルギーフィルタの一種で、鏡筒の背後に装着して用いる。磁界型セクタータイプの分光器、像拡大のための4極子、8極子、検出器としてのシンチレータおよびCCDカメラから成る。

  • スタンダードレス定量
    standardless quantitative analysis

    EDSによる元素の定量分析をする際に、標準物質からの発光X線強度の測定をその都度行うこと無しに定量する方法。最近の装置では、あらかじめ多くの標準試料(スタンダード)で実測したX線強度のデータからクリフ・ロリマー(Cliff-Lorimer)法で用いられるk因子をメモリに内蔵しており、標準試料をその都度、測定しなくても定量結果が得られるようなシステムになっている。この方法を、毎回の標準試料測定による定量と区別するため、スタンダードレス定量とよんでいる。TEMでは約数10nm以下の薄膜試料の場合、試料による吸収効果や蛍光励起効果を無視できるとしてクリフ・ロリマー法による定量法が一般に用いられる。例えば二元系試料ABの場合、ABの質量濃度比を、計測されるAB元素のX線強度比に比例する(その比例定数k)として算出する。k因子は、イオン化断面積、蛍光収率および検出器窓材の吸収などによるが、実際には標準試料を用いた実測により求められる。ただし、試料が厚い場合にはkは定数でなくなる。

  • スタンダードレス補正
    standardless correction

  • スピン・軌道相互作用
    spin orbit coupling

    電子のスピンsと軌道角運動量lが平行のときと反平行のときで、相互作用の大きさが違うので二つの状態は異なるエネルギー状態をとる。2p電子ではエネルギーの低いほうから順にL2 (全角運動量j = l - s = 1/2)とL3 (全角運動量j = l + s =3/2)とができる。EELSにおいて2p状態から3d非占有バンドへの遷移(Lエッジ)ではエネルギーロスの小さいほうからL3、L2の順にスペクトルが現れる。これらのスペクトルは占有状態のエネルギー分裂(数eV~20eV)を与えるものなので、EELS解析での目的である非占有状態についての情報を与えるものではない。ただL3/ L2の強度比は2:1になるはずだが非占有状態の状態密度(化学結合状態)の影響を受けて変化する。この強度比プロファイルを計算と比較すると3d電子の価数についての情報が得られる。計算にはコアホール相互作用、3d電子の電子相関、価数などを入れなければならない。L3とL2の強度比L3/L2はハイスピンのとき大きく、ロウスピンのとき小さい傾向がある。

  • スリーウィンドウ法
    three-window method

    EELSによる定量的元素マッピングに用いる方法。試料の同じ場所から、ある元素の内殻励起の直前のバックグラウンド強度をエネルギーを変えて2枚取り、二つの強度から内殻励起直後のバックグラウンドを外挿して求め、内殻励起直後のスペクトル強度から差し引く方法。この方法で定量的元素マッピングができる。

  • 制動放射
    bremsstrahlung

    電子が原子核と衝突する際、原子核のクーロン場によって急速に減速されるときに放射する電磁波。EDSスペクトルのバックグラウンドとなる。

  • セクター型分光器
    sector analyzer

    ポストコラム型のエネルギーフィルタで透過電子顕微鏡の鏡筒下に付加される。分光器の磁石部分が扇(セクター)形をしているので、セクター型分光器と呼ばれる。エネルギー分散能は200kVの電子線に対して4~5μm/eV。

  • 選択則
    selection rule

    EELSにおいてクーロン相互作用によるバンド間遷移を考えるとき、小角散乱のみを考慮すると(小角散乱近似)、バンド間遷移を与える相互作用は双極子だけになる(双極子近似)。すなわち、軌道角運動量の変化が⊿l = ±1の遷移のみが許される。このように遷移が選択的に起こる規則をいう。したがって1s殻からの励起では非占有状態の2p、3pなどのp状態への遷移がおきる。したがってELNESでは非占有バンドの全状態密度でなく、部分状態密度が分かることになる。価電子励起のような低エネルギー損失領域では大きな角度の散乱も可能で選択則を破る遷移も起こる。

  • 線分析
    line analysis

    分光分析において、試料上を電子ビームで線状に走査し、その線上でのスペクトルを得る分析。

  • 占有状態
    occupied state

    分子の結晶の中で、あるエネルギーレベルやバンドが(価)電子によって占有されていること。この電子は自由に動くことはできない。

  • ゼロ・ロスピーク
    zero-loss peak

    EELSスペクトルに現れるエネルギー損失がゼロのシャープなピーク。これは非散乱電子と弾性散乱された電子によるものである。実験的には入射電子線のエネルギー広がりのために、エネルギー広がり(<0.7eV)を示す。10eV以下のEELSスペクトル(ローロス・スペクトル)の誘電関数を求める解析には、ゼロ・ロスピークのすそ野を正しく引き去ることが重要である。

  • ζ因子法 (ゼータ因子法, zeta因子法)
    zeta factor method, ζ factor method

    TEMにおける薄膜試料のEDS分析において、元素の定量に用いる手法の一つ[1]。広く用いられているクリフ・ロリマー法 (Cliff-Lorimer法)を改善し、試料の密度と厚さが未知の場合でも高い精度の定量分析ができるのが特徴である。

    特性X線強度からの組成の決定

    ζ因子法 (ζファクター法)では、測定した特性X線強度に ζi 因子と呼ばれる係数を掛けることで、元素の組成を、次式を用いて決定する。

    zeta factor method

    Ci: 元素iの組成
    Ii: 元素iの特性X線強度
    ρt:質量膜厚
    De: 照射電子量 (De = 電子電荷×照射電流量×測定時間)

    (1)式で用いられる ζiρt の求め方を以下に示す。

    ζ因子(ζファクター)の決定

    元素iζ因子 (ζi)は、イオン化断面積Q、蛍光収率ωi  (特性X線の発生確率)や照射電子量De 等から以下のように定義される。

    zeta factor method

    M: 原子量
    N0: アボガドロ定数
    Qi: 元素iからの特性X線のイオン化断面積
    ωi: 元素iからの特性X線の蛍光収率
    ai: 元素iからの全てのK (L, M) 線に対するKα (Lα,Mα) 線の比
    De: 照射電子量 (De = 電子電荷 × 照射電流量 × 測定時間)
    εi : 元素iからの特性X線の検出効率
    Ω: 検出立体角

    ζ因子は式 (2)から理論的に決定することが可能である。しかし、計算に用いるイオン化断面積を求めるためのモデルの取り方によってQの値が変わり、ζ因子の値に任意性が出ることがある。そのため、目的の元素を含み、組成および膜厚が既知の薄膜標準試料からζ因子を実験的に決定することが多い。

    質量膜厚(ρt)の決定

    ζファクター法では、測定した特性X線の強度から以下のように質量膜厚 (ρt)を見積もることができる。
    すべての元素について組成の総和を取ると、∑i Ci =1が成り立つので、式(1)は次の式のようになる。

    zeta factor method

    式 (3)を変形して、質量膜厚 ρt は次式から求めることができる。

    zeta factor method

    ζファクター法では、ζ因子を式 (2)または実験的に求め、さらに式 (3)から質量膜厚を決定することによって、試料の密度と厚さが未知の場合でも、特性X線強度を測定するだけで組成を決定できる。本手法は、試料中での吸収を無視できないエネルギー領域の特性X線 (軟X線)においても、高い精度の定量分析ができる。
    なお、EDSによる薄膜試料の定量分析で一般的に用いられるクリフ・ロリマー法 (Cliff-Lorimer法)では、試料の密度と厚さが既知でないと、特性X線の吸収効果を補正できない。そのため、試料の密度と厚さが未知の場合、吸収効果の補正が不正確になるため、吸収の影響が無視できない特性X線を含む試料では定量精度が良くない。

    [1] M. Watanabe and D.B. Williams: "The Quantitative Analysis of Thin Specimens: a Review of Progress from the Cliff-Lorimer to the New ζ-Factor Methods", J. Microsc. 221 (2006), 89-109.
    (Lehigh大学 渡辺 万三志教授による)


  • 双極子近似
    dipole approximation

  • 損失関数
    loss function

    物質の誘電関数ε(ω)の逆数の虚数部にマイナスの符号をつけたもの、Im[‐1/ε(ω)]。測定したEELSスペクトル(価電子励起スペクトル)から、多重散乱の効果を除去し1回散乱によるEELSスペクトルを得る。次に、入射ビームの強度や絞りの大きさの効果などを取除いてから、スペクトルの強度を規格化することで、1回散乱によるエネルギー損失の絶対値、すなわち損失関数を得る。損失関数はEELSから得られる基本的な量である。Kramers-Kronigの関係式を用いて、損失関数から,それに対応する実数部Re[‐1/ε(ω)]を得る。この虚数部と実数部から代数計算によって誘電関数が得られる。誘電関数から、いろいろな物理量(屈折率、光学反射率、光吸収強度など)が得られる。

  • 体積プラズモン
    volume plasmon

    電子線・荷電粒子線によって金属内で誘起される自由電子の疎密波による集団振動。半導体・絶縁体においても体積プラズモンは誘起される。その振動エネルギー(プラズモンエネルギー)は自由電子密度(半導体・絶縁体のときは価電子密度)の平方根に比例する。体積プラズモンは、電子エネルギー損失分光法(EELS)のスペクトルのピークとして直接観測される。体積プラズモンは縦波なので、横波である光では励起も出来ないし観測も出来ない。

    高速電子が金属固体に入射すると、入射電子のクーロン力により、金属中に均一に分布している自由電子に疎密が生じる。誘起された疎密によるクーロン力を駆動力として、自由電子は特定の振動数を持つ縦波振動すなわち固有振動(プラズマ振動)を起こす。この振動を量子化したものを体積プラズモンと呼ぶ。プラズマ振動のエネルギー(プラズモンエネルギー)EPは以下のように表される。

    プラズマ振動のエネルギー(プラズモンエネルギー)Ep

    ここで、ωpはプラズマ振動の角振動数。ħ= ⁄ 2πはプランク定数、eは電子の素電荷、mは電子の質量、Nは自由電子の密度を表す。プラズモンエネルギーは金属内自由電子の密度の平方根に比例する。
    プラズモンは本来、金属に対して考えられたものであるが、半導体・絶縁体のように束縛されている電子でも価電子全体の集団振動として励起される。全価電子は原子核および内殻電子からなる正イオンに対して振動する。振動数は価電子密度を上の式に代入して計算される。

    図1
    (a) 自由電子によるプラズモンの模式図。金属内では、原子核および内殻電子からなる正イオンと自由電子が一様に分布し、全体として電気的に中性の状態にある。そこに外から高速電子が入射すると、そのクーロン力によって自由電子に疎密が生じ、プラスとマイナスの電荷領域が現れる(図1(a)中+と-の領域)。その結果、電場が誘起され(青矢印)、その電場を駆動力として自由電子の集団は固有振動(プラズマ振動)をする。(b)束縛電子によるプラズモンの模式図。赤い点は正イオン、青い丸は価電子を表す。入射電子のクーロン力によって束縛電子(価電子)が変位し、価電子の集団がプラズマ振動をする。図1(b)の上方の矢印は価電子の変位による分極を表す。
    束縛電子のプラズマ振動は原子の分極による縦波である。

    Alの自由電子密度はN=1.8×1023 e/cm3である。プラズモンエネルギーは15.7eVと計算され、実験値の15.0eVと良く一致する。LiやNaなどの一価金属でも計算値と実測値は良い一致を示す。
    絶縁体であるダイヤモンドでは、価電子密度N=7.0×1023 e/cm3から求められるプラズモンエネルギーは31eVであり、実験値の34eVと比較的良い一致を示す。LiFやNaClなどのイオン結晶でも、価電子密度から計算したプラズモンエネルギーは実験値をよく再現する。表1に、いろいろな物質に対するプラズモンエネルギーを示す。
    ただし、計算で予想されるプラズモンエネルギーと近いエネルギーにバンド間遷移が強く起きる物質では、プラズモンエネルギーが予想値からは大きくずれることがある。銀のプラズモンの場合では、自由電子密度N=0.59×1023 e/cm3から予想されるプラズモンエネルギーは9.0eVである。
    しかし、4.0eVで励起されるd軌道電子のバンド間遷移の影響により、プラズモンピークは3.9eVまで押し下げられる。

    Table1. Plasmon energies for several materials

    プラズモンは、電子エネルギー損失分光法(EELS)のスペクトルとして実験的に観測される。図2は、EELSで得られたAl、Si、ダイヤモンドのプラズモンによるエネルギー損失スペクトルである。それらのピーク位置は表1の値と良く一致している。Al、Siのスペクトルではそれぞれのプラズモンエネルギー(大きなピーク)の整数倍の位置に弱いピークが観測される。これらは、プラズモンを2回、3回・・・と励起してエネルギー損失したスペクトルである。SiやダイヤモンドのプラズモンピークはAlのピークに比べてピークの幅が広い。これは、プラズマ振動の減衰が大きいことを示しており、価電子がバンド間遷移を起こしてプラズマ振動が崩壊するためである。
    (東北大学 佐藤庸平准教授による)

    図2
    Plasmon peaks of Al, Si and Diamond in EELS spectra

  • 立ち上がりエネルギー
    onset energy

    EELSの価電子励起スペクトルや内殻電子励起スペクトルにおいて、損失スペクトル強度が立ち上がるエネルギーのこと。このエネルギーは価電子帯励起ではバンドギャップに対応し、内殻励起スペクトルでは伝導帯の底に対応する。

  • ツーウィンドウ法
    two-window method

    EELSによる定性的元素マッピングに用いる方法。試料の同じ場所から、ある元素の内殻励起の直前のバックグラウンド強度I1と励起の直後のスペクトル強度I2を測定しI = I2/I1を計算する方法。この方法で二次元マッピングすると、定量性には欠けるが簡単に定性元素マッピングができる。

  • 定量組成分析
    quantitative compositional analysis

    物質中の組成(構成元素の種類)とその存在比(濃度)を分析することをいう。分光分析においては、スペクトルのエネルギーピークの位置から組成を分析し、その強度から存在比を定量的に分析する。

  • 点分析
    point analysis

    分光分析において、電子ビームを試料の一点に止め、その点でのスペクトルを得る分析。

  • 電子エネルギー損失分光
    electron energy-loss spectroscopy (EELS)

    入射電子が物質を透過するとき、物質中の電子や原子核とのクーロン相互作用によって散乱されそのエネルギーを一部失う (速度が遅くなる) 電子を非弾性散乱電子という。この電子の損失したエネルギーを分光し、損失スペクトルを得る測定手法を電子エネルギー損失分光 (EELS) 法という。

    透過型電子顕微鏡 (TEM) と組み合わせることで、試料物質の微小領域からのエネルギー損失スペクトルを測定することができ、試料の元素の定性・定量分析や誘電的性質 (電子の結合状態) を知ることができる。エネルギー損失の対象となる非弾性散乱 (散乱の素過程) は、格子振動励起 (数十~数百 meV)、価電子励起によるバンド間遷移 (0~10 eV)、自由電子および価電子の集団振動によるプラズモン励起 (10~50 eV)、内殻電子励起 (50 eV~)、である。

    損失関数と誘電関数

    エネルギー損失スペクトルの強度分布は、外部電場の角振動数ωの関数である誘電関数ε(ω)を使って損失関数Im[-1⁄ε(ω)]で表される[1]。 (角振動数ωはħω=ELossで電子線の損失エネルギーと結びついている。) 誘電関数は、角振動数ωの外部電場に対する誘電応答であり、物質の性質を表す固有の関数である。損失関数は、誘電率の実部ε1(ω)と虚部ε2(ω)を使って次式のように表される。

    物質に外部振動電場が印加されると、価電子の重心は原子核から変位して電子分極P(ω)=N/V |q|r(ω)が誘起される。ここで、Nは単位胞中の原子数、Vは単位胞の体積、qは価電子の電荷、r(ω)は価電子の変位ベクトルである。誘電関数と電子分極P(ω)の間には、

    の関係があり、分極P(ω)によって物質定数ε(ω)の値が決まる。価電子の分極振動の減衰はP(ω)の虚数成分として表され、エネルギーの損失は誘電関数の虚数部分に対応する。

    価電子励起スペクトル

    エネルギー領域0~50 eVのエネルギー損失スペクトルは、価電子励起スペクトルと呼ばれる。このエネルギー領域は、振動数 ωが~1015Hz(E=10~20 eV)の誘電応答に対応する。価電子は共鳴振動を起こして、ε1(ω)は共鳴状態に特有な分散(図1(b))を示す。ε2(ω)が小さく、ε1(ω)がゼロまたは非常に小さい値のとき、損失関数 (1) は大きなピークを示す。このときの振動数ωをプラズマ振動数ωpと呼び、プラズマ振動のエネルギーはE=ħωpと表される。

    電子線や荷電粒子線が物質に入射すると、物質内の自由電子または価電子全体が入射電子とのクーロン相互作用によって電荷の疎密波、すなわち縦波振動を励起する。これがプラズモンである。他方、光が物質に入射すると、光は電磁波で横波なので、縦波であるプラズモンを励起することは出来ない。また光によってプラズモンを観測することもできない。光の吸収スペクトルは、価電子の双極子振動の減衰によるエネルギー吸収を表し、誘電関数の虚部ε2(ω)に比例する。

    図1(a)にグラファイトの価電子励起スペクトル、図1(b)にグラファイトの誘電関数の実部ε1(ω)(青線)と虚部ε2(ω)(赤線)を示す。図1(a)の27 eVのピークはグラファイトの価電子全体 (すなわちπ電子およびσ電子の合計) の集団による縦波振動でありπ+σプラズモンと呼ばれる。6.5 eVのピークはπ-π*バンド間遷移に起因したピークであり、πプラズモンと呼ばれている。図1(b)に、6.5 eVと27 eVの位置(黒点)でプラズモンの励起条件 ε1(ω)=0が満たされていることを確認できる。さらに、グラファイトの誘電関数の実部 ε1(ω)は、4.2 eVと11.7 eVでπ-π*バンド間遷移、σ-σ*バンド間遷移による共鳴型の分散を示している。そのとき、バンド間遷移によるエネルギーの吸収が起こり、誘電関数の虚部 ε2(ω)にピークを生ずる。しかし、損失関数ではこれらの遷移によるε2(ω)のピークを直接観測することはできない(図1(a))。損失関数から物質の特性を表す誘電関数 ε(ω)を得るには、損失関数にKramers-Kronig変換を施す必要がある[2]。この操作によって得られる誘電関数ε(ω)は、光学的測定で得られる反射率、屈折率、光伝導度などと比較することができる。

    実験で得られるスペクトル強度には、プラズモンによるエネルギー損失を複数回起こした多重散乱強度が含まれていることに注意しなければならない。これらの強度はプラズモンエネルギーの整数倍の位置に観測され、試料厚さが増すとその強度は増大する。誘電関数ε(ω)を求めるには一回散乱のみのスペクトル強度を得る必要がある。全スペクトル強度から一回散乱のスペクトル強度を導出には、フーリエ・ログ・デコンボリューション法[2]を用いる。この手法は、n回散乱した非弾性散乱強度がポアソン分布に従い、そのエネルギー分布は1回散乱スペクトル強度のn回のコンボリューションとして表されることに基づいている。また、損失スペクトルに現れる0 eV付近の強度(ゼロロスピーク)は、エネルギーを損失せずに透過した弾性散乱電子であり、測定したスペクトルからゼロロスピークを注意深く差し引かなければならない。ゼロロスピークの差し引き方はスペクトル解析の精度に重要な影響を与える。


    図1:(a)グラファイトの価電子励起スペクトル。6.5 eVのピークはπプラズモン、27 eVのピークはπ+σプラズモンである。(b)グラファイトの誘電関数の実部 ε1(ω) (青線) と虚部 ε2(ω) (赤線)。(b) で、ε1(ω)=0の6.5 eVと27 eVの点 (黒点) はプラズモン励起条件を表し、(a) のEELSスペクトルのピークに対応する。ε2(ω)の4.2 eVと11.7 eVのピークは、それぞれπ-π*バンド間遷移、σ–σ*バンド間遷移によるエネルギー吸収を表す。ただし、これらのピークはEELSでは直接には観測されない。

    内殻電子励起スペクトル

    エネルギー損失量が50 eV以上のEELSスペクトルを内殻電子励起スペクトルと呼ぶ。このエネルギーに対応する角振動数ω(1016Hz以上)は高周波のため、試料中の価電子はこの振動数ωに追従できず分極は小さくなり、ε1(ω)は~1となる。また、吸収も十分小さくなり ε2(ω)≪1と近似してよい。その結果、損失関数は

    と近似でき、光 (X線) の吸収スペクトル (ε2(ω)) と同じ物理量を与える。この領域のエネルギー損失は、内殻電子が伝導帯へ励起されるときのエネルギー吸収で、吸収のエネルギー値から構成元素の定性/定量分析、スペクトルの強度分布から伝導帯の状態密度、電子の結合状態を調べることができる。

    炭素材料の電子の結合状態と内殻電子励起スペクトル

    グラファイトとダイヤモンドの電子の電子状態の模式図を図2(a)に示す。グラファイト中の炭素原子は、sp2混成軌道によるσ結合とpz軌道によるπ結合を形成している。グラファイト全体では、σ結合軌道(σ)とπ結合軌道(π)は価電子帯を構成する。π反結合軌道(π*)と σ反結合軌道(σ*) は伝導帯を構成している。π軌道による価電子帯とπ*軌道による伝導帯は、僅かに重なり半金属である。

    ダイヤモンド中の炭素原子は、sp3混成軌道によるσ結合を形成し、π結合は存在しない。ダイヤモンド全体では、σ軌道は価電子帯を構成し、σ*軌道は伝導帯を構成する。2つの軌道の間には5.5 eVのバンドギャップが存在する。

    図2(b)はグラファイトの内殻電子励起スペクトルである。285.5 eVのピークは1s軌道からπ*軌道による伝導帯への遷移に対応し、292 eV~310 eVの強度は1s軌道からσ*軌道による伝導帯への遷移に対応する。πおよびσ結合軌道による価電子帯はすでに電子が占有しているので、1s軌道から価電子帯への遷移は起こらない。291.5 eVのシャープなピーク(▼)は、1s軌道に生成された正孔とσ*軌道へ励起された電子とがクーロン引力によって束縛されている状態、すなわち励起子によるものである。

    図2(c)はダイヤモンドの内殻電子励起スペクトルである。その強度分布は1s軌道からσ*軌道による伝導帯への遷移に対応する。ダイヤモンドの結合軌道にπ軌道はなく、伝導帯にπ*軌道が存在しないため、285 eV付近に強度は現れない。289 eVのシャープなピーク(▼)は、1s軌道に生成された正孔とσ*軌道へ励起された電子とのクーロン引力によって束縛された励起子によるものである。ダイヤモンドにはバンドギャップがあることとπ結合がないことから、スペクトル強度立ち上がりの位置(288 eV)はグラファイトのスペクトル強度立ち上がりの位置(284 eV)よりも高エネルギー側で観測される。

    このように内殻電子励起スペクトルは、π結合やσ結合すなわち電子の結合状態を明らかにし、さらに伝導帯の状態 (反結合軌道の電子状態) の密度分布を反映する。ただし、EELSは、価電子帯の電子状態を観測することはできない。

    図2:
    (a) グラファイトとダイヤモンドの電子構造と1sから2p伝導帯への遷移過程の模式図。
    グラファイトの価電子帯 (左図) はπ, σ軌道から成り、伝導帯はπ*, σ*軌道から構成される。ダイヤモンドの価電子帯 (右図) はσ軌道、伝導帯はσ*軌道から構成される。赤い点線は、1s軌道の空孔と励起電子とのクーロン引力によって生じる励起子準位を示す。
    (b) グラファイトの内殻電子励起スペクトル。
    285.5 eVのピークは1s軌道からπ*伝導帯への遷移に対応する。292 ~ 310 eVは1s軌道からσ*伝導帯への遷移に対応する。291.5 eVのシャープなピーク (▼) は1s軌道から励起子準位への遷移に対応する。
    (c) ダイヤモンドの内殻電子励起スペクトル。
    288 eVから高エネルギー側の強度は、1sから σ* 伝導帯への遷移に対応する。289 eVのシャープなピーク (▼) は1s軌道から励起子準位への遷移に対応する。

    電子エネルギー損失分光法とX線発光分光法

    EELS測定は、伝導帯 (非占有状態) の電子状態を観測する手法であり、価電子帯の電子状態を観測することはできない。価電子帯 (占有状態) の電子状態は、電子線を物質に照射することによって放出されるX線をエネルギー分光するX線発光分光法 (X-ray Emission Spectroscopy: XES) によって調べることができる。すなわち、電子線照射によって内殻準位に生じた正孔に、価電子帯から電子が遷移する。その際に放出されるX線を分光することによって得られるXESスペクトルから価電子帯の状態密度分布が得られる。これらの二つの手法を合わせて行うと、伝導帯 (非占有状態) および価電子帯 (占有状態) の両方の電子状態が得られる。

    EELS測定装置の現状

    高エネルギー分解能EELS測定は、電子線のエネルギーを単色化するモノクロメータと、非弾性散乱電子を分光するアナライザーを搭載したTEMを用いて行われる。汎用型モノクロメータ付きTEMを加速電圧200 kVで作動したとき、約0.2 eV以下のエネルギー分解能のスペクトルを取得できる。近年は、さらに高いエネルギー分解能のEELS測定を行うためのモノクロメータ搭載電子顕微鏡の開発が行われており、数 meVの分解能を達成しているものもある。エネルギー分解能の向上に伴い、測定可能エネルギー領域が赤外領域 (数 meV~0.5 eV) まで拡がり、これまで準弾性散乱電子として扱っていた格子振動による非弾性散乱電子 (数十~数百 meV) の分光が可能になってきている。この性能を生かして、局所領域の格子・分子振動の測定が試みられている。

    運動量移送分解EELS (q-EELS)

    非弾性散乱電子は、一般には物質中の電子に運動量qを与え (移送し)、入射方向に対して-q方向に散乱される。非弾性散乱電子を単にエネルギー分光するのでなく、運動量移送qの関数として非弾性散乱電子を分光する測定法を運動量移送分解EELS (角度分解EELSまたはq-EELS) 法と呼ぶ。

    光による電子遷移はq~0の遷移しか起こせないが、電子線による励起では、光では禁制なq ≠ 0の電子遷移が可能であり、qに依存した価電子励起スペクトルの解析から誘電関数にq依存性も含めた ε(q,ω) を得ることができる。内殻電子励起スペクトルのq依存性を測定すると、反結合軌道(非占有状態)の軌道の方位や伝導帯の状態密度のq依存性などがわかる。

    参考文献

    [1] H. Raether, Springer Tracts in Modern Physics, 88 (1980), Excitation of Plasmons and Interband Transitions by Electrons (Springer-Verlag Berlin Heidelberg GmbH, 1980)
    [2] R.F. Egerton, Electron Energy-Loss Spectroscopy in the Electron Microscope, Third Edition (Springer, 2011)

    (東北大学多元物質科学研究所 准教授 佐藤 庸平 執筆)

  • 電子構造
    electronic structure

    原子、分子やそれらからなる固体内における電子の状態(配置)。固体では原子の外殻電子の軌道が重なり合い、価電子帯や伝導帯を作る。これらの帯での電子のエネルギーと運動量の関係、エネルギー状態の密度分布を電子構造という。

  • 電子状態分析
    electronic structure analysis

    物質中の電子の状態(エネルギー、運動量)を解明する分析のこと。原子同士の結合状態などを分析する。

  • 電子線プリズム
    electron prism

    光の波長の違いを分散するプリズムのように、電子のエネルギーを分散させる分光器。EELSの分光器や、電顕像や回折図形のエネルギーフィルタに利用される。ウィーンフィルタ、オメガフィルタ、アルファフィルタ、キャスタン・ヘンリー型フィルタがある。

  • 電子プローブマイクロアナライザ
    electron-probe microanalyzer (EPMA)

    細く絞った電子線を試料表面に照射し、発生する特性X線を計測することにより、試料中の元素同定、定量、及び元素分布分析を行う装置。通常、走査電子顕微鏡と同様の電子光学系が用いられるので、二次電子像や反射電子像観察が可能であるが、光学顕微鏡(OM)も内蔵し視野位置を決定するのが大きな特徴である。X線分光には複数の波長分散型分光器(WDS)が同時に用いられ、分析効率の向上が図られている。エネルギー分解能は、エネルギー分散形分光器(EDS)は130eV程度であるのに対し、WDSでは10eV程度であり、一部の元素は電子状態の分析も可能である。微小領域の定量に優れ、元素の検出限界は数10ppm、定量誤差は±1%程度も可能である。バルク試料の分析領域はおよそ1μm程度であるが、最近は0.1μm程度の微小な領域の分析を目的として、FE電子銃を搭載するようになってきている。

  • 特性X線
    characteristic X-ray

    内殻電子の1つが励起して生じた空孔に、より高いエネルギー準位にある外殻電子が落ちる際、そのエネルギー差に対応するX線が放出される。これが特性X線であり、そのエネルギーは元素に固有である。これを用いて微小領域の定性定量元素分析を行なう。

  • 取り出し角
    take-off angle

    EDSにおいて、試料から放出される特性X線を、試料より上方に位置する検出器で取り出す角度のこと。試料中心と検出器の検出面の中心を結んだ線が電子顕微鏡の光軸に垂直な面となす角度を表す。この角度を大きく設定することによって、試料自身やホルダによって信号がけられる確率を低くすることができる。また、試料から放出されるX線の試料内での拡散距離を短くできるので、定量性がよくなる。以前は、取り出し角を60~70°に設定していた。すなわち、上記の効果を低減するために、検出器を対物レンズの上方に配置しポールピース上極穴を通して信号を取り出す方式が、取り出し角を大きくすることができるので、理想とされ、High-Angle EDSもしくはTop Take-off方式と呼ばれた。しかし、現在ではポールピースの穴径を小さくして像の高分解能化が求められることと、nmオーダ以下の分析において検出効率を上げることを優先し、検出器をポールピースの横方向に取り付けて試料に近付け、試料を見込む立体角を大きくするように設定されており、取り出し角は~20°になっている。この方式はSide Take-off方式と呼ばれることがある。

  • ドゥルーデモデル
    Drude model

    外部から電場をかけて固体内の電子の振動を考えるとき、固体内の自由電子を対象とするモデル。プラズマ振動が導かれる。

  • 内殻電子励起
    inner-shell (core) excitation

    内殻電子が、X線を吸収したり、高エネルギーの電子やイオンと衝突して伝導帯に励起され、内殻に電子の空孔ができる過程。EELSでは内殻励起現象の詳細な解析ができる。

  • 内殻電子励起スペクトル
    core-loss spectrum

    EELSスペクトルの内、高エネルギー損失領域(約50eV以上)のスペクトル。内殻電子が伝導帯へ励起されるときのスペクトルで、構成元素の定性/定量分析や、伝導帯の状態密度を得ることができる。このスペクトルには、物質に固有な電子状態を反映した構造が現れる。

  • ノンアイソクロマティシティ
    nonisochromaticity

    エネルギーフィルタにおいてフィルタへの電子線の入射角をフィルタの光軸からずらすと、フィルタの二次の収差のために、エネルギースペクトルがフィルタの光軸に入射したときに比べて、エネルギーシフト⊿E=⊿E(α)(αは入射角)を受ける。入射角の変化に対するエネルギーシフトの量をいう。有限の大きさのエネルギースリットを用いると、入射角が小さいところに挿入した場合と大きいところに挿入した場合で選択されるエネルギーが変わる。

  • 薄膜近似法
    thin-film approximation method

  • 波長分散型X線分光
    wavelength-dispersive X-ray spectroscopy (WDS)

    試料から発生する特性X線を、分光結晶でのブラッグ反射を利用し特定波長のX線を分離検出することにより、分光分析する手法。分光結晶によりブラッグ反射した特性X線の回折角度からX線の波長を測定し、元素の種類を同定する。エネルギー分散型に比べX線の検出効率は悪いが、B(ボロン)以下の軽元素まで分析できる。検出効率が悪いために照射電流量をエネルギー分散型より多くする必要がある(数nA~数100nA)。そのために試料へのダメージに注意しなければならない場合がある。通常の分解能は10eV程度である。定量精度は0.1~0.2%である。最近、価電子帯の状態密度の解析に使える回折格子を使った1eVをきる高分解能の分光器が開発された。略称はWDSであるが、WDXともいう。定量精度は0.1~0.2%である。略称はWDSであるが、WDXともいう。

  • 発光効率
    luminous efficiency

    外部からの放射線により蛍光物質を励起し発光させたとき、吸収されたエネルギーに対する放出エネルギーの比。

  • バンド間遷移
    interband transition

    価電子帯と伝導帯の間を結晶中の電子が遷移する現象。EELSでは、バンド間遷移を反映するスペクトルの立ち上がりからバンドギャップエネルギーが分かる。

  • バンドギャップ
    band gap

    価電子帯と伝導帯の間にあって結晶中の電子が存在し得ないエネルギー帯を禁制帯といい、禁制帯のエネルギー幅のことをバンドギャップという。バンドギャップが大きい程、物質の絶縁性が高い。

  • パラレル検出
    parallel detection

    EELSでエネルギー損失スペクトルをとるさい、1次元検出器または2次元検出器を用いて、エネルギースペクトルを一括して効率よく測定する方法。

  • 光吸収スペクトル
    optical absorption spectrum

    電磁波、特に可視光を光源として物質に照射したとき、特定の光が物質に吸収されて得られるスペクトル。

  • 非占有状態
    unoccupied state

    分子や結晶の中で、あるエネルギーレベルやバンドが(価)電子で占められていない状態のこと。

  • 表面プラズモン
    surface plasmon

    金属の表面や金属と誘電体(真空も含む)の界面に荷電粒子線や光を照射すると、表面や界面に電荷が誘起される。この電荷が作る電場を駆動力として、表面あるいは界面の電荷は縦波振動を起こす。これを表面プラズモンという。

    【表面プラズモンの生成】

    表面電荷によって生じた電場は、表面に平行な成分と垂直な成分を持つ(図1(a))。表面に平行な電場成分(Ex)は電荷の縦波振動の駆動力となる。一方、表面に垂直な電場(Ez)の時間変化は、表面に沿った電磁波を誘起する。この電磁波の周期と一致する縦波が促進され伝播する。このようにして表面プラズモンが生成される。表面プラズモンは、金属表面からの深さとともに急激に減衰する。表面プラズモンは体積プラズモンとは異なり、電子線だけではなく、光でも観測できる。その理由は、表面に垂直な電場が表面プラズモンに対して横波成分であり、外からの電磁波はこの横波成分と相互作用を起こすからである。

    【表面プラズモンの式】

    金属―誘電体界面で、金属側と誘電体側の界面に垂直な電場成分をそれぞれ Ez=0- 、Ez=0+ と表す。金属側と誘電体側での電束密度が等しいことから εMEz=0- = εd Ez=0+ となる。ここで、εMεdはそれぞれ金属と誘電体の誘電率である。図1(b)から -Ez=0- =Ez=0+ であるから、

    ε n + ε d =  ・・・(1)

    が得られる。金属の誘電率 εを自由電子モデルによる誘電関数 εM (ω)=1-(ω⁄ ω)に置き換える。
    ここで、 ω p = 4 π e 2 N / m は体積プラズモンの角振動数である。(1)式をωについて解くと、表面プラズモンエネルギーES

    E s = ω = ω p 1 + ε d = E p 1 + ε  ・・・(2)

    となる。ここで EPωは体積プラズモンエネルギーである。金属と真空との界面での表面プラズモンエネルギーは、真空の誘電率が εd=1 であることから、 E s = E p / 2 となる。

    図1
    (a) 金属の表面プラズモンの模式図。外からの荷電粒子や光によって金属表面に正 (+) と負 (-) の電荷が誘起される。この電荷による電場 (図中 Ex (z=0±)) を駆動力として、表面の自由電子は縦波振動する。
    (b) 金属―誘電体 (真空を含む) の界面に垂直な電場成分 Ez=0± と平行な成分 Ex (z=±0)。電束密度の縦成分の連続 εMEz=0- = εdEz=0+ と、電場の横成分の連続が満たされている。

    【実験で得られた表面プラズモン】

    図2は、電子エネルギー損失分光(EELS)によって得られたアルミニウムのスペクトルである。通常アルミニウムの表面は酸化膜で覆われている。15eVのピークは体積プラズモンによるものである。7eVに表面プラズモンのピークがみられる。アルミニウム酸化膜(Al2O3)の誘電率は εd=3.7なので、表面プラズモンエネルギーは ES=6.9 eVと計算され、実験値と良く一致する。

    図2
    AlのEELSスペクトル。15eVのピークは体積プラズモン。7eVのピークが、AlとAlの表面酸化物との界面での表面プラズモン。

    d電子を含む金属(Ag, Auなど)では、予想される表面プラズモンエネルギーとほぼ同じエネルギー位置でd電子のバンド間遷移が起き、表面プラズモンはバンド間遷移と強く相互作用する。そのため簡単な(2)式は適用できず、表面プラズモンは(2)式で計算される値よりも低エネルギー側に現れる。シリコンやGaAsなどの半導体では、(2)式で計算されるエネルギー値に表面プラズモンピークが観測される。しかし、表面プラズモンはバンド間遷移によってエネルギーを失い、振動は減衰しピークはブロードになる。ダイヤモンドやイオン結晶など、価電子が強く束縛されている絶縁体では、バンド間遷移によるスペクトルが優勢になり、表面プラズモンは弱いバックグラウンドとなって観測は困難になる。

    なお、ナノメートルオーダーの微小な金属粒子や金属ワイヤーの表面においても、表面プラズモンが誘起される。この場合は、微小粒子やワイヤーの形状に依存する固有振動モード(定在波)として、表面電荷の疎密波が誘起される。波が微小粒子に閉じ込められていることから、局在プラズモンとも呼ばれる。

    (東北大学多元物質科学研究所 佐藤庸平准教授による)

  • P/B比
    peak-to-background ratio

    1)EELS でのスペクトルのピークとバックグラウンドの比。ELNESの場合、高いバックグラウンドの上に信号乗るのでP/B比は悪い。入射電子線の加速電圧が高くなると、多重散乱の減少と有効取り込み角の増大のためにP/B比は増大する。2)EDSでの特性X線の強度とバックグラウンドの比。TEMの場合のP/B比は非常に良い。加速電圧が高くなると制動放射を起こす確率が減り、バックグラウンドが減るためにP/B比は増大する。

  • フィンガープリント法
    finger printing

    EELSのELNESにおいて、あらかじめいくつかの既知の結合状態の試料に付いてスペクトルをフィンガープリント(指紋)として取っておき、未知の試料のスペクトルと照合することによって結合状態を同定する方法。

  • フェルミ準位
    Fermi level

    結晶の基底状態において、電子で占有された準位の中で最もエネルギーが高いものをフェルミ準位という。基底状態ではこの準位より上の準位には電子はいない。

  • 深さ方向プロファイル
    depth profile

    イオンミリングなどで試料表面を少しずつ削りとり、試料の深さ方向に沿って組成分析した結果をプロファイルしたもの。

  • 不純物準位
    impurity level

    不純物原子によって導入された半導体のギャップ中にできるエネルギー準位。

  • 分析電子顕微鏡法
    analytical electron microscopy (AEM)

    透過電子顕微鏡にEDS、EELSなどの分析機能を付加し、TEM観察した場所の微小領域の元素の定性/定量分析や電子状態の分析を行なう方法。

  • 分析領域
    analysis region

    EDSでの分析領域の大きさ(空間分解能)は、入射ビーム径に加えて加速電圧、試料の厚さ、構成元素などに依存する試料内でのビームの拡がりによって決まる。加速電圧200kVのとき分析領域は10~50nm径である。試料内でのビームの拡がりは加速電圧の増加とともに減少する。

  • プラズマ振動
    plasma oscillation

    一般的にはプラズマ状態の電子やイオンの種々の振動のこと。EELSでは、自由電子の集団振動(体積プラズモン)や固体表面での電子の振動モード(表面プラズモン)が検出の対象となる。体積プラズモンの振動数は電子密度の平方根に比例する。表面プラズモンの振動数は、表面が真空にさらされているとき、体積プラズモンの振動数の(1/√2)倍になる。

  • プラズモン
    plasmon

    プラズマ振動を量子化したもの。プラズモン(体積プラズモン)は縦波振動なので、光学的な方法では観測されないが、EELSではプラズモン励起スペクトルとして直接観察できる。

  • プロセスタイム
    process time

    EDS分析において、EDSスペクトルのエネルギー分解能と分析時間の短縮(スループットの向上)のどちらを優先するかを決めるための時間の指標。プロセスタイムの設定により、分析目的に合わせたEDS分析を行うことができる。EDSメーカーによっては、時定数と表記する場合もある。
    EDSでは、試料から発生した特性X線をエネルギーの違いにより選別(分光)し、元素分析を行う。X線を分光する過程において、半導体検出器で検出されたX線のエネルギー値を正確に求めるために、X線信号のノイズ成分に対して平均化処理が行われる。プロセスタイムを変更することにより、平均化処理の時間が変更される。プロセスタイムが大きい(平均化処理の時間が長い)と、X線のエネルギー値を求める誤差が減り、エネルギー分解能の良いEDSスペクトルが得られる。ただし、その場合、平均化処理時間内に入射するX線は計測されず、不感時間(デッドタイム)が増加する。プロセスタイムが小さい(平均化処理の時間が短い)と、デッドタイムが減り、分析に要する時間が短縮される。ただし、求めるX線のエネルギー値の誤差が増え、エネルギー分解能は悪くなる。

  • 並列型電子エネルギー損失分光
    parallel electron energy-loss spectroscopy (PEELS)

    エネルギー分散面に並列型検出器を配置した検出方式のEELS。エネルギーを時系列的に変化させてスペクトルを得るシリアル検出方式より検出効率が高い。

  • ベーテリッジ
    Bethe Ridge

    入射電子と固体内の準自由電子との電子-電子衝突におけるエネルギーロス(E)と散乱角(θ) の関係式 E(θ) において見出される尾根状のピーク。 X線の散乱との類似からCompton peak ともいう。古典力学的取り扱いでは、ベーテリッジの位置はE/E0~sin2θ と表せる。ただしE0は入射電子のエネルギー。 角度分解したEELSスペクトルをとるとベーテリッジが観測される。

  • ポストコラムタイプ
    post-column type

    エネルギーフィルタまたはエネルギーアナライザで、電子顕微鏡の鏡筒の背後に装着されるものをいう。GIF、トリディエムなどがこれに当たる。

  • 面分析
    area analysis

    分光分析において、試料上を電子ビームで面状に(二次元的に)走査し、その面上でのスペクトルを得る分析。

  • メーレンシュテット型分光器
    Moellenstedt analyzer

    インコラム型のエネルギー分光器で透過電子顕微鏡の中間レンズと投影レンズの間に組み込まれる。エネルギーを分散するのに磁場や電場による偏向を利用するのではなく、レンズの収差を用いる。初期には静電レンズが使われたが、100kV級以上の透過電子顕微鏡では磁界レンズが用いられる。

  • モノクロメータ
    monochromator

    電子ビームを単色化させる装置。加速電圧200kVの透過電子顕微鏡で電子ビームのエネルギー幅は、LaB6を用いた熱電子銃の場合2eV程度、ショットキー型電子銃の場合0.7eV程度、冷陰極電界放出型電子銃では0.4eV程度あるが、モノクロメータを使うことにより0.1eV以下まで単色化することができる。モノクロメータの使用によりEELSのエネルギー分解能が向上する。EELSによる固体の電子状態解析にはモノクロメータが必要である。

  • 誘電関数
    dielectric function

    物質の誘電率を振動数の関数として表したもの。もっと一般的には複素誘電関数として振動数と波数ベクトルの関数として複素数で表される。誘電関数が分かると光学的性質(振動数の関数としての屈折率、反射率など)が分かる。EELSから得られるものは損失関数と呼ばれるもので複素誘電関数の逆数の虚部に比例する。

  • ライブタイム
    live time

    有効計測時間。実際の測定時間から不感時間(デッドタイム)を引いた正味の計測時間。EDS分析に用いられる。

  • ライブタイムスキャン
    live time scan

    EDSによる面分析において、各走査点で計測するX線の有効計測時間(ライブタイム)が等しくなるように電子プローブの滞留時間(ドゥエルタイム)を変えながら走査をする測定法のこと。
    各走査点でのドゥエルタイムを固定して電子プローブを走査した場合、X線の発生量が大きい走査点では不感時間率(デッドタイム)が大きいため、X線の数え落しが多くなり、元素濃度が過小に見積もられてしまう。各走査点でのライブタイムが等しくなるように電子プローブのドゥエルタイムを変えながら走査する(ライブタイムスキャン)ことで、この問題を回避することができ、試料本来の元素濃度に対応した二次元元素分布像を得ることが可能になる。

  • リターディング
    retarding

    電子顕微鏡光学系内で、リターディング用に追加した電極やレンズ、試料などに一定の電位を与え、局所的に電子の速度を落とすことをリターディングという。電子を減速することによって、分光器のエネルギー分散能を向上させて、高いエネルギー分解能での電子エネルギー損失分光スペクトルを得ることができる。また試料ステージにリターディング電位を与えることにより、電子顕微鏡の加速電圧は高いまま低加速電圧電子顕微鏡像を観察して多機能化をはかることも行われる。また、背面散乱電子観察用スクリーンの手前の電極のリターディングポテンシャル(電圧)を変えることによって、背面散乱した電子のエネルギー分布を調べたり、弾性散乱電子のみを取り出して反射電子回折を得るときにも利用される。

  • 連続X線
    continuous X-ray

    電子が原子核のクーロン場によって急激に減速されたとき(制動放射)に生じる連続的な波長分布を持つX線。実験室で用いるX線管はこの現象を利用したものである。

  • ローランド円
    Rowland circle

    球面の凹面に作った回折格子の中心で接し、その凹面回折格子の曲率半径を直径とする円。(凹面回折格子の作る円の半分の大きさの円。)ローランド円上の任意の点にスリットを置いて光を入射する。スリットを光源とした光は凹面回折格子で回折を起こし、ローランド円上に収差のないスペクトルができる。

  • ローレンツモデル
    Lorentz model

    外部から電場をかけて固体内の電子の振動を考えるとき、固体内の電子を束縛された電子と考えるモデル。価電子励起スペクトル、内殻電子励起の古典的モデルを与える。