理論

  • EBIC像
    EBIC image,electron-beam induced current image

    電子プローブで試料上を走査したときの、電子線誘起電流の変化を可視化したSEM像。半導体デバイスの動作状態の確認、材料の結晶欠陥の観察などに使われる。

  • ECC像
    ECC image,electron-channeling contrast image (ECCI)

    電子チャンネリングコントラスト(ECC)像。結晶性試料のSEM像を観察すると、場所ごとの結晶方位の違いがコントラストを生じる。これを利用して、結晶方位の分布や転位の観察を行うことができる。回折条件を変える(試料を傾斜したり、加速電圧を変える)とコントラストが変わるのが特徴である。
    下図は試料を傾斜して得られた2枚のECC像を交互に表示したものである。観察には一般に反射電子像が使われるが、試料によって、あるいはプローブ電流が多いときは、二次電子像で観察されることもある。

    ECC像

  • HAADF
    high-angle annular dark field

    STEM暗視野法の一つ。大きな角度に散乱された透過電子を、円環状の検出器で検出し画像化すると、原子番号の2乗に比例したコントラスト(Zコントラスト)を得ることができる。この方法をHAADF(ハーディフ)と呼び、200kVクラスの加速電圧を持つSTEMでは、原子オーダーの解像力で組成情報を得ることができる。

  • LV-SEM
    low-voltage scanning electron microscopy

    低加速電圧観察法の略語。試料の表面層だけを観察するために、数kV以下の加速電圧を使う観察法。

  • P-Nコントラスト
    P-N contrast

    p-n接合では、空乏層を挟んでp領域は負に帯電し、n領域は正に帯電している。したがって、二次電子像で観察すると電位コントラストによって、p領域は明るく、n領域は暗く見える。これを、P-Nコントラストと言う。

  • SE1
    SE1

    入射電子 (一次電子) によって、入射点近く、すなわち、電子プローブ径とほぼ同じ領域で、直接励起された二次電子。この二次電子は入射点付近の試料の形状や物質の違いの情報を持っており、二次電子像の形成に用いられる。二次電子のエネルギーは最大で数10 eVである。

    一次電子は非弾性散乱を繰り返して試料の深部へ拡散する。試料の深部で励起された二次電子は、エネルギーが小さいので、試料内で散乱され試料表面に到達できない。二次電子が試料表面から脱出できる深さ (脱出深さ) は金属で5~10 nmであり、この深さの範囲で生成された二次電子のみが二次電子像の形成に寄与する。
    下図にSE1の発生を模式的に示す。

    SE1の発生→

  • SE2
    SE2

    入射電子 (一次電子) の入射点から離れた部位で、反射電子によって励起された二次電子。したがって、SE2の励起領域は反射電子の放出領域に依存する。
    加速電圧が高くなる (一次電子のエネルギーが大きい) と、反射電子は一次電子の入射点から離れた一層広い領域から放出される。そのため、凹凸のある試料部分では、SE2は像の分解能を下げ、表面の微細構造を見づらくする。
    SE2の放出率は反射電子の放出率に比例する。したがって、SE2は反射電子に依存した試料情報を持つ。表面が平滑で、組成の違いしかない試料では、反射電子放出の原子番号依存性(原子番号が大きいほど明るくなる)が、SE2による二次電子像にも現われる。ただし、そのコントラストは弱い。
    下図にSE2の発生を模式的に示す。

    SE2の発生→

  • SE3
    SE3

    試料から飛び出した反射電子が、対物レンズや検出器などの構造物に当たって励起した二次電子。
    入射電子のエネルギーが数10 keVと高い場合には、SE3が発生する可能性がある。試料の情報を持たず、二次電子像のコントラストを下げるノイズとなる。

  • SIM像 (走査イオン顕微鏡像)
    SIM image,scanning ion microscope image

    走査イオン顕微鏡像の略語。集束イオンビームで試料を走査したとき放出される二次電子を信号として、可視化した像。組成コントラスト、結晶方位コントラストがSEM像に比べて強く現れる。またイオンと試料の相互作用は電子に比べて大きいため表面の情報が強く現れるが、イオンビーム径が大きいため、解像力はSEM像に比べて低い。SIM像(シム像)の組成コントラストはSEMの反射電子像とは違って、原子番号が小さいほど明るくなる。SIM像の結晶方位コントラストは電子チャンネリングコントラストと違って、加速電圧を変えてもほとんど変わらない。ただし、試料を傾斜するとコントラストが変わる。イオン照射による試料表面のエッチングが起こるので、長時間の観察はむずかしい。

  • STEM像 (透過電子像)
    STEM image,transmitted electron image

    STEM(ステム)で得られた像。薄膜試料を透過した電子を検出して、得られたものであるが、散乱吸収コントラスト、回折コントラスト、位相コントラストなどTEMで得られるコントラストは全て得られる。

  • X線
    X-ray

    100eV~数百keVのエネルギー(10nm~数pmの波長)を持つ電磁波の一種。連続的なエネルギー分布を持つ連続X線と、元素に特有なエネルギーを持つ特性X線があり、特性X線は元素分析に利用される。

  • Zコントラスト
    Z contrast

    原子番号(Z)コントラスト。STEMの暗視野観察の際、十分大きな散乱角の透過電子のみを取り込んで像を作ると、組成の違いによるコントラストを得ることができる。これをZコントラストと言い、原子番号の2乗に比例する量である。

  • 暗視野像
    dark field image

    STEM像あるいはTEM像の一つで、試料を透過した電子の内、散乱・回折した電子線を検出して作った像。明視野像のコントラストとは逆で、非晶質試料の場合は(厚さ×密度)積が大きい部分が明るくなり、結晶性試料の場合は回折条件を満足した部分が明るくなる。下図に示すSTEMの暗視野法では、通常、環状の検出器を用いるため、TEMでの暗視野法と違って、特定の回折波のみを選択することはできない。

    暗視野像

  • アンダーフォーカス (不足焦点)
    under focus

    焦点が外れている状態の一つで、試料面より下方に焦点が合っていることをいう。対物レンズを強励磁にするか、試料を下方に移動することで試料面に焦点が合うようになる。

  • イオン化
    ionization

    中性の原子や分子に電子が衝突したときに、電子を失ってプラスイオンとなったり、電子をもらってマイナスイオンとなる現象。

  • 異常コントラスト
    anomalous contrast

    非導電性試料を観察したときに二次電子像にしばしば生じる、試料の表面形態に依存しないコントラスト。試料が観察時に帯電したために起きる現象で、試料から放出された二次電子が帯電による局部的な電界によって偏向され、検出器にうまく入らないために起きる、一種の軌道コントラストである。走査速度を速くすると帯電量が減少するので、これを利用して異常コントラストの発生を抑制することができる。
    下図は無コーティングの濾紙表面を観察したもので、特に画面中央に表面形態と無関係な明るさのムラが見られる。

    異常コントラスト像

  • 位相コントラスト
    phase contrast

    STEM像あるいはTEM像のコントラストの一つ。非常に薄い試料の場合、透過して散乱された電子線は位相のズレを生じるので、散乱されずに透過した電子線、あるいは空間を通ってきた電子線との干渉によってコントラストを生じる。これを、位相コントラストと言う。位相コントラストを得るには、検出器の角度を十分小さくする必要があるが、低加速STEMでは、一般に検出器の角度が大きくなり、位相コントラストを得るのは難しい。

  • 一次電子
    primary electron

    入射電子と同義語。この用語は二次電子や反射電子などの試料から二次的に放出される電子に対比する意味で使われる。

  • 色収差
    chromatic aberration

    電子線が電子レンズを通過するときに、個々の電子のエネルギーのばらつきが原因で生じる電子線の広がり。

    全ての電子のエネルギーEが同じ(単色)電子線は、他の収差がなければ、焦点面上の一点に集束する。しかし、電子のエネルギーにばらつきがあると、エネルギーの大小によって電子線の集束位置が焦点面の前後にずれて、一点に集束しない。その様子を図1に示す。エネルギーEの電子の軌道を黒で、エネルギーEに対してΔE/2だけ大きいエネルギーの電子の軌道を青で、ΔE/2だけ小さいエネルギーの電子の軌道を赤で示す。エネルギーEに対して±ΔE/2のエネルギーのばらつきがある場合、焦点面上での電子プローブの最小の直径(最小錯乱円の直径)dcは、dc = CcαΔE/Eと与えられる。※1  ここで、αはエネルギーEの電子線に対する集束半角、Ccは対物レンズの色収差係数(chromatic aberration coefficient)と呼ばれ、ΔE/Eの比例係数である。Ccは対物レンズと試料の間の距離(working distance、WD)の関数で、図2に示すようにWDの増加に対して、単調に増加する。
    エネルギーのばらつきの幅ΔEは、電子銃のタイプによって異なる。タングステンフィラメントを用いた熱電子銃のΔEは1~3 eV、ショットキーエミッション型電子銃のΔEは0.5 eV、冷陰極電界放出型電子銃のΔEは0.3~0.4 eVである。一般的なSEMの加速電圧は0.5 kV~30 kVであり、加速電圧が低いほど色収差は大きくなり、電子プローブの直径dcは増大する。 アウトレンズ型の対物レンズでは、WDを約10 mmで用いることが多い。その場合、Ccαをそれぞれ20 mmと5 mrad、タングステンフィラメントの熱電子銃のΔEを1 eVとすると、加速電圧が20 kVのとき、dcは5.0 nmと算出される。
    ※1 L. Reimer, Scanning Electron Microscopy, Springer, Berlin, Germany, p. 24 (1998).

    図1.電子レンズの色収差に起因する電子線の広がり
    図1.電子レンズの色収差に起因する電子線の広がり
    図2.対物レンズと試料の間の距離(WD)と色収差係数Ccの関係
    図2.対物レンズと試料の間の距離(WD)と色収差係数Ccの関係

  • エイリアシング
    aliasing

    SEM像の中にある構造の周期が、画素の大きさや走査線の間隔に近くなると、偽の周期として観察される現象。SEM像の中の構造が、画素の大きさや走査線の間隔の2倍以上の周期を持っていない限り、偽の周期を生じてしまうので、構造に応じて高い倍率を選ぶ必要がある。また、低倍率像に記録された細かい構造をあとから拡大して観察する場合は注意が必要である。下図は、周期Tの波形を、ほぼ1T/3と2T/3の周期で観測したときの結果を示しているが、2T/3では元の波形とは異なる周期が観測されている。

    エイリアシング

  • エッジ効果
    edge effect

    試料表面に存在する突起の先端部やステップ構造の輪郭が、二次電子像で極端に明るくなる現象。
    原因は、入射電子(一次電子)が試料の中へ拡散することによって、突起部やステップのエッジ部から放出される二次電子が、他の部分からよりも遙かに多くなるためである。下図(a)に試料の形状に対する二次電子信号強度を模式的に示す。図中の青色の矢印が、平坦部、傾斜部、エッジ部での二次電子の放出の大小を表す。
    エッジ効果は加速電圧に依存し、加速電圧(一次電子のエネルギー)が高くなると、明るさの幅が広がる。これは、加速電圧が高くなると入射電子の拡散領域が大きくなり、二次電子が放出される領域が広くなるためである。下図(b)に、ショウジョウバエの複眼に生えている針状の毛の表面のヒダの二次電子像を示す(加速電圧2 kVと10 kV)。加速電圧2 kVでは、エッジが明るくなる効果が強いために、毛の表面のヒダの形状がよく分かる。一方10 kVでは、エッジ効果が弱いためにヒダによるコントラストが少なく、毛の表面の形状の把握が難しい。この試料は、帯電(チャージアップ)を防ぐために、四酸化オスミウム(OsO4)のプラズマコーティングが施されている。

    試料形状に対する放出二次電子の強度⇒図(a)
    赤い矢印: 入射電子、青い矢印: 放出二次電子

    ショウジョウバエの複眼に生えている針状の毛の表面のヒダの二次電子像⇒図(b)
    (ただし、四酸化オスミウムをプラズマコートした)
    加速電圧: (左) 2 kV、(右) 10 kV、下2枚は上の写真の部分拡大

  • エネルギー幅
    energy spread,energy width

    電子プローブの持つエネルギーの幅(ばらつき)。
    陰極である電子銃からの電子放出のメカニズムによってエネルギー幅は異なるが、陰極の温度が高いほどエネルギー幅は大きくなる。タングステンフィラメントを使った熱電子放出型電子銃は、陰極温度が約2800Kでエネルギー幅は1~3eV。ショットキー型電子銃の陰極温度は約1800Kでエネルギー幅は0.4~1eV。電界放出型電子銃の陰極温度は室温でエネルギー幅は約0.3eVである。SEMでは、エネルギー幅が大きいと、低加速電圧において色収差のために電子プローブ径が光源の大きさよりも大きくなり、高分解能が得にくくなる。

  • 凹凸コントラスト
    topographic contrast

    試料表面の凹凸に依存する像コントラスト。一般的な試料のSEM像はこのコントラストによる。

  • 凹凸像
    topographic image,BSE topographic image

    試料表面の凹凸を示す反射電子像。
    反射電子凹凸像は、入射電子に対して対称に置いた二つの検出器からの出力信号の差を取って得られる。通常、環状の半導体素子を2分割、もしくは4分割した、半導体ペア検出器が用いられる。
    2分割した検出器では、相対して置かれた検出器と平行な方向に試料表面の傾斜が向いていると、その傾斜によるコントラストが付く。しかし、相対する検出器と直交する方向に試料表面の傾斜が向いている場合は、傾斜によるコントラストは付かない。この状況を図1(a)と(b)に示す。図1(c)に示すような4分割した検出器を使うと、検出素子AとBの組み合わせとCとDの組み合わせによるペア検出器およびそれらに直交する検出素子AとDの組み合わせとBとCの組み合わせによるペア検出器を作ることができる。この2通りの検出素子の組み合わせによって得られた画像を比較することで、試料表面のあらゆる方向の傾斜に対する見落としがなくなる。ただし、2分割の検出器でも、1枚の凹凸像の取得後に試料を機械的に約90°回転して凹凸像を取得し、この2枚の像を比較すれば、4分割検出器を使った場合と同じ結果を得ることができる。
    なお、分割した検出器からの出力信号の和を取ると、凹凸のコントラストはなくなり、組成の違いによるコントラストを持つ組成像が得られる。
    図2にダイヤモンド砥石の反射電子凹凸像と反射電子組成像を示す。凹凸像では、表面の微妙な凹凸差を見ることができる。組成像では、凹凸によるコントラストは消え、ダイヤモンドの粒子が黒く見え、組成を反映した像が得られる。

    ペア検出器の方向と試料表面傾斜の関係→図1
    (a)は、試料表面の傾斜が、ペア検出器の配置と平行なため、凹凸のコントラストが付く。
    (b)は、試料表面の傾斜が、ペア検出器の配置と直交方向なため、凹凸のコントラストは付かない。
    反射電子組成像と反射電子凹凸像の比較→図2
    加速電圧: 10kV, 試料: ダイヤモンド砥石
    右図の凹凸像では、わずかな凹凸の差が鮮明に見える。左図の組成像では、反射電子放出率の小さいダイヤモンド粒子が黒く見えている。

  • オージェ電子
    Auger electron

    励起状態にある原子が基底状態に遷移するとき、そのエネルギーが特性X線の放出に用いられず、原子内の電子の放出に用いられるとき、この放出電子をオージェ電子という。オージェ電子のエネルギーは元素に固有であり、その脱出深さが非常に浅いので(0.5~数nm)、固体の極表面の定性定量組成分析および電子状態分析(化学結合状態分析)に利用される。定量精度は約10%である。原子番号の小さい元素では、特性X線の放出の確率よりオージェ電子の放出の確率が高い。逆に原子番号の大きい元素では、特性X線の放出の確率がオージェ電子の放出の確率より高い。

  • オーバーフォーカス (過焦点)
    over focus

    焦点が外れている状態の一つで、試料面より上方に焦点が合っていることをいう。対物レンズを弱励磁にするか、試料を上方に移動することで試料面に焦点が合うようになる。

  • 回折コントラスト
    diffraction contrast

    結晶性の薄膜試料をSTEMあるいはTEMで観察したときに得られるコントラスト。結晶方位の違いにより回折条件が違う部分があると、コントラストを生じるので、結晶粒、結晶粒界のほか、局部的な結晶の歪み、格子欠陥などを観察することができる。試料傾斜をするとコントラストが変わるのが特徴である。
    下図にSTEMおよびTEMでの回折コントラストの形成原理を示す。STEMではコントラスト絞りで、TEMでは対物絞りで回折波が遮られることで形像に寄与せずコントラストを生じる。

    回折コントラスト

  • 回折収差
    diffraction aberration, diffraction limit

    電子の波動性によって起こる焦点面上での電子線の広がり。回折限界とも呼ばれる。

    電子は波の性質を持っており、光と同様に回折現象 (波が物体の背後に回り込んで広がっていく現象) を起こす。SEMの対物レンズでは球面収差と色収差を小さくするために円形の対物絞りが使われる。この絞りの大きさが有限であるために起こる回折現象の結果、光軸と平行に対物レンズに入射する電子線はその焦点面上の1点に集束せず、光軸を中心とする円状の広がり (エアリー (Airy)  ディスク) と、その回りにいくつかの円環 (エアリー (Airy) パターン) からなる干渉パターンになる。
    図1に回折による電子プローブの焦点面上での強度分布を示す。エアリーディスクの強度が0になる半径 (暗環半径) は、r_Airy=0.61λ/sinαで表される。ここで、αは電子線の集束半角で、通常1~20 mradである。対物レンズと試料の間の距離 (working distance、WD) が短いとαは大きく、長いとαは小さい。λは電子の波長で、電子の加速電圧をVacc (V) とすると、λ ≅√(1.5/V_acc ) (nm) と表される。焦点面での電子プローブの直径dd は近似的に第1暗環半径 に等しい。さらに、SEMでは通常αは20 mrad以下なので、sinを一次近似で計算して、d_d ≅ 0.61λ/α ※1と書ける。
    図2に回折収差による焦点面上での電子プローブ径の加速電圧変化を示す。加速電圧が低くなると、電子の波長λが長くなるため電子プローブ径が大きくなり、特に5 kV以下で回折の影響が顕著になる。例えば、α = 5.0 mradの場合、加速電圧20 kVでは dd = 1.1 nm であるが、加速電圧1 kVでは dd = 4.7 nm になる。

    ※1 L. Reimer, Scanning Electron Microscopy, Springer, Berlin, Germany, p. 27 (1998).

    図1 電子の回折現象に起因する電子線の広がり
    図1 電子の回折現象に起因する電子線の広がり
    図2 電子プローブ径(d_d)の加速電圧依存性 (α = 50 mrad)
    図2 電子プローブ径(dd)の加速電圧依存性 (α = 50 mrad)

  • 回折波
    diffracted wave

    電子線が結晶性試料を透過するとき、あるいは反射するときにブラッグ条件を満足して回折を起こしたもの。

  • 解像力
    resolution

    SEM像のシャープさを表す量。どの位小さなものが見分けられるかを意味する。本来、画像の上で識別できる二点間の最小距離を言うが、SEMでは、慣用的に二つの物体の隙間を測定している。分解能がその装置を理想的な条件で使ったときに得られる値であるのに対して、解像力は実際に得られた画像上での値であり、試料、装置の状態、倍率などの撮影条件などによって数値は異なる。ただし、分解能と解像力は混同して使われることが多い。

  • 階調
    gradation

    SEM像の一番明るいところから一番暗いところまで、明るさを段階的に分けたもの。SEM像の場合、モノクロ画像であるから、8ビット(256階調)まであれば十分といわれる。

  • 拡散領域
    diffusion region

    バルク試料に入射した電子が、試料の中で散乱を繰り返しながらエネルギーを失い、最終的に試料の中にとどまるまでの領域。エネルギーを失う要因は、二次電子を発生させたり、内殻の電子を励起してX線を発生させるためである。その大きさは、入射電子エネルギーの1.3から1.7乗に比例し、密度に反比例する。試料中での電子の拡散の様子をモンテカルロシミュレーション法によって計算することができる。
    なお、導電性試料が接地(アース)されている場合は、エネルギーを失って試料内にとどまった電子は、試料内の電荷の不均衡を相殺するためにアースに流れる。アースに流れる電流を吸収電流と呼ぶ。

  • 加速電圧依存性
    accelerating-voltage dependence

    種々の現象が加速電圧と密接な関係を持つこと。例えば、解像力、試料中への電子の侵入深さ、外部磁場変動の像への影響の度合い、などは加速電圧依存性を持つ量である。ちなみに、解像力は高加速電圧では加速電圧の平方根に反比例し、低加速電圧では加速電圧に反比例する。試料中での電子の拡がりは加速電圧の1.7乗に比例し、外部磁場の影響は加速電圧の平方根に反比例する。

  • カソードルミネッセンス
    cathodoluminescence (CL)

    入射電子により、試料を構成する原子の価電子帯の電子が励起され、生成された正孔と電子が再結合するときに放出される光。分光することにより状態分析を行ったり、強度の違いを可視化することでSEM像を作ることができる。発光現象の研究のほか、格子欠陥を観察したり、不純物のエネルギー準位、試料の歪み量などを調べることができる。エネルギー分解能は数meV、検出感度は高く、試料によってはppmオーダーの濃度変化を反映する場合もある。空間分解能は半導体では電子・正孔対の拡がりで決まり、バルク試料では1µm程度である。有機物では電子プローブ径で決まる。

  • ガウス像
    Gaussian image

    光軸に近い軌道でレンズに入射した電子線は、レンズの収差の影響を受けることなく像を作る。すなわち、一点から放出された電子線は一点に像を結ぶ。これをガウス像と言う。

  • 画素
    picture element,pixel

    デジタルSEMの画像を構成する最小単位で、画像そのものの解像力を意味する。100万画素程度の精細度で記録されるのが普通であるが、部分的に拡大するような場合は400万画素程度での記録が可能である。

  • 菊池パターン
    Kikuchi pattern

    厚い試料をSTEMやTEMで観察したとき、あるいはEBSDでバルク試料に電子線が入射したときに得られる電子回折パターン。入射電子が試料中で非弾性散乱を受けた後、結晶面で回折を起こすことで形成されるもので、結晶面に対応したバンドから構成される。パターンと元の結晶は次のように対応する。バンドの幅は結晶面間隔に、パターン上の距離は結晶での角度に対応し、どちらも加速電圧に依存する。バンド同士のなす角度は結晶面のなす角度に対応するが、加速電圧には無関係である。

    菊地パターン

  • 輝度
    brightness

    電子銃の性能(明るさ)を示す量。
    単位は、A/cm2srで、光源の明るさを単位立体角当たりの電流密度で表したもの。プローブ径が小さいと電流密度が上がり輝度は高くなる。高輝度の電子銃は高分解能のSEM像の取得に有利である。
    タングステンフィラメントを使った熱電子放出型電子銃の輝度は105 A/cm2srのオーダーである。電界放出型電子銃とショットキー型電子銃の輝度は、熱電子放出型電子銃より3桁高い108 A/cm2srのオーダーである。

  • 軌道コントラスト
    trajectory contrast

    試料から放出された二次電子、反射電子などが、試料近傍の電界あるいは磁界の影響で軌道が変わると検出器への入射量が変わる。これによって出来た像コントラストを軌道コントラストと言う。帯電の影響による不安定な異常コントラスト、磁性試料を観察したときの磁区コントラストは軌道コントラストによるものである。

  • 吸収電子
    absorbed electron

    試料に入射した電子が、散乱過程でそのエネルギーを失って試料に吸収されたもの。

  • 吸収電流 (試料電流)
    absorbed electron current,specimen current

    導電性の試料に入射した電子が、吸収電子としてアースに流れたもの。これを信号として可視化したSEM像を吸収電流像(absorbed electron current image)と言い、反射電子組成像とは相補的なコントラストを持つ。なお、照射電流の一部は二次電子や反射電子として試料から放出されるため、照射電流と吸収電流は異なる値となる。

  • 球面収差
    spherical aberration

    電子線が電子レンズを通過するときに、光軸に近いところを通過する電子と、光軸から遠いところを通過する電子の集束する位置の違いが原因で生じる電子線の広がり。

    図1に示すように、光軸に平行でレンズの中心部(光軸)に近い軌道を通る電子はレンズの焦点面で光軸上に集束する。しかし、光軸から遠い軌道を通る電子は、焦点面よりもレンズに近い位置で光軸と交わる。そのため、焦点面上で電子は広がる。この広がりの直径は2Csα3となる。ここでCsは対物レンズの球面収差係数(spherical aberration coefficient)、αは電子線の集束半角である。Csは対物レンズと試料の間の距離(working distance、WD)の関数であり、図2に示すようにWDの増加に対して、単調に増加する。電子プローブは焦点面よりレンズに近い位置で最小になり、その位置での直径は最小錯乱円と呼ばれる。最小錯乱円の直径dsds = Csα3/2で表される。※1 アウトレンズ型の対物レンズでは、対物レンズと試料の間の距離(Working distance)を10 mm程度で、加速電圧を15 kVで用いることが多い。この場合、Csαをそれぞれ50 mmと5.0 mradとすると、ds = 3.1 nmと算出される。
    ※1 L. Reimer, Scanning Electron Microscopy, Springer, Berlin, Germany, p. 24 (1998).

    図1.電子レンズの球面収差に起因する電子線の広がり。
    図1.電子レンズの球面収差に起因する電子線の広がり。
    図2.対物レンズでの試料の間の距離(WD)と球面収差係数Csの関係
    図2.対物レンズでの試料の間の距離(WD)と球面収差係数Csの関係

  • キルヒホッフの法則
    Kirchhoff's law,Kirchhoff's current law

    試料に流れ込む電流と流れ出す電流の総和は0であるとする法則。導電性試料では必ず成り立ち、非導電性試料では一般に成り立たないため帯電が起きる。

    キルヒホッフの法則

  • 近軸電子線
    paraxial ray

    レンズに入射した電子線の内、光軸とのなす角度が極めて小さいもの。種々の収差の影響を受けにくい理想的な電子線である。

  • 擬菊池パターン
    pseudo-Kikuchi pattern

    電子チャンネリングパターンの別表現。TEMなどで得られる菊池パターンに類似していることから付けられた名前である。

  • 空間分解能
    spatial resolution

    位置的に接近した2点を独立した2点として見分ける能力。SEMの分解能といった場合、空間分解能を意味する。

  • 後方散乱電子 (背面散乱電子)
    backscattered electron (BE,BSE)

    試料に入射した電子の内、試料内で散乱されて再び試料表面から真空に放出されたもの。反射電子とも呼ばれるが、そのエネルギーは比較的高く、入射電子エネルギーをピークにして、連続的に分布する。

  • 後方散乱電子回折
    electron backscatter diffraction, EBSD (EBSD)

    図1に示すように、水平面に対して大きく傾斜させた(約70°)バルク結晶試料に電子プローブを照射し、試料からの後方散乱回折パターン(EBSDパターンあるいはEBSP, Electron Backscattering Pattern)から、電子プローブ照射点の結晶方位を測定する手法。

    図1 EBSDパターン取得の概念図 ⇒ 図1

    図2にEBSDパターンの形成の機構を模式的に示す。試料に入射した電子(i)は試料の原子で弾性散乱または非弾性散乱され、大きな角度範囲に散乱する(ii)。これらの電子のうちで、試料の結晶面に対してブラッグ条件 2d・sinθ=n・λ を満たす方向θに進んだ電子(iii)は回折されスクリーン上で回折斑点を作る。ここで、d:は格子面の間隔、θは、電子線が結晶面と成す角、n:は正の整数、λは電子波長を表す。ブラッグ条件を満たす電子線は一方向のみでなく、角度θを満たして円錐状(Φ方向)に広がる(iv)。その結果、回折斑点は線状の図形(v)になる。異なる方位の結晶面からの回折線が重なり、図3のような図形が得られる。これをEBSDパターンと呼ぶ(これは、従来から知られている菊池パターンと同じものである)。図3(a)はアルミナ、(b)は銅から得られたEBSDパターンである。

    図2 EBSDパターンの形成の模式図 ⇒ 図2
    結晶面(面間隔d)に対するブラッグ条件(2d・sinθ=n・λ)の角度θを満たして、且つ円錐状(Φ方向)に回折する電子線が回折線を作る。いろいろな方位にできる回折線の重ね合わせとしてEBSDパターンが形成される。

    図3 EBSDパターン(a)アルミナ焼結体、(b)銅 ⇒ 図3

    弾性散乱電子および非弾性散乱電子は入射電子の進行方向に近いほど強い強度分布を持つため、水平面に対する試料の傾斜角度が大きいほど(試料への入射電子の入射角度が小さいほど)EBSDパターンの強度が強くなる。試料の傾斜角度が小さくなり、入射電子の入射角度が40°以上になると、EBSDパターンの強度は急激に弱まる。このため試料を水平面に対して約70°傾け、入射角度を約20°にしてEBSDパターンを取得する。
    EBSDパターンは、試料に対向する位置(電子線に対して約90°の位置)に置かれたスクリーンに投影される。投影されたEBSDパターンをCCDカメラまたはCMOSカメラでPCに取り込み、試料結晶の構造から得たシミュレーションパターンと比較して、電子プローブの照射点の結晶方位を決定する。したがって、EBSD法は、試料結晶の構造を既知と仮定しているので、結晶構造が分からない試料には適用できない。
    方位測定ができる最小領域(空間分解能)は、Wフィラメントの熱電子銃SEMで約0.2 μm径、ショットキーエミッション型電子銃を搭載した高分解能SEMで10~20 nm径である。これらの値は、1 nA程度のプローブ電流を確保したときのプローブ径にほぼ等しい。また、EBSDパターンを作る試料の深さは、加速電圧や試料の原子番号に依存するが、試料表面からおよそ30~50 nmである。これ以上の深さに拡散した電子は、非弾性散乱によるエネルギー損失で波長が大きく変化してしまうため、パターンの形成に寄与しない。
    電子プローブを試料表面のある領域で連続的に移動させながら、各測定点の結晶方位を表示することによって、結晶方位マップを自動的にかつ高速に得ることができる。連続測定の速度は、EBSDパターンの画質やその他の条件設定によるが、1秒間に60~3000点程度である。
    EBSDシステムの開発メーカー各社は、試料結晶の配向に関する種々の情報を表示するアプリケーションソフトを充実させている。主要なものは、1) 逆極点図のカラーキーに従って、結晶粒ごとに結晶方位のカラーマップを表示する、2) 結晶粒界のみを表示する、3) 各測定点のEBSDパターンの鮮明さの違いを利用して、結晶性の良し悪しを明暗のコントラストで表示する、の3つである。
    図4にネオジウム磁石(Nd2Fe14B)へのEBSDの応用例を示す。(a)はEBSD解析を行った試料位置の二次電子像である。(b)は結晶方位(逆極点図方位:Inverse Pole Figure, IPFともいう)マップで、右の逆極点図のカラーキーに従って表示している。試料に垂直な結晶面の方位が示されている。(c)は結晶粒界を示す像で、粒界が黒い線で示されている。連続する測定点での強度の差分(微分)像である。結晶粒内では方位がそろっているので、白色で示されている。(d)は IQ (Image Quality)マップと呼ばれる結晶性の良し悪しを示す像である。像中の明るい結晶粒は結晶性が良く(鮮明なEBSDパターンを示す)、明るさが減るにしたがって結晶粒の結晶性が悪くなることを表している。

    図4 ネオジウム(Nd2Fe14B)磁石の測定例 ⇒ 図4

    • 二次電子(SE, secondary electron)像。
    • 結晶方位(IPF)マップ: 試料の結晶粒の方位のカラーマップ。カラーは右の逆極点図のカラーキーに従って表示した。
    • 結晶粒界マップ: 隣り合う測定点での方位差が一定以上ある場所を黒色で表示したもの(差分像または微分像)で、結晶粒界が黒い線で示されている。なお、黒色で面積がある部分は非晶質と考えられる。
    • IQ (Image Quality)マップ: 得られたEBSDパターンの鮮明さをパラメータとして結晶性の良否を表示したもの。結晶性が良い部分を明るく表示し、悪い部分を暗く表示している。黒色の部分はEBSDパターンが認識できなかった部分である。

    測定結果ご提供: ネオジウム磁石(Nd2Fe14B)のEBSD測定例 JFEテクノリサーチ株式会社

  • コントラスト
    contrast

    SEM像の明暗の差。対象物が観察できるためには、単に解像力だけではなく、ある程度のコントラストが必要である。SEMで観察されるコントラストには、試料表面の凹凸に起因するもののほか、組成、結晶性、磁性、電位などによるものがある。

  • 最小錯乱円
    minimum confusion circle,circle of least confusion

    収差の無いレンズの場合、光軸上の点電子源から出た電子線は光軸上の一点に集束するが、収差がある場合、光軸との角度が異なる電子線は光軸上の異なる場所に像を作り、電子線は有限な太さを持つことになる。場所によりその太さは異なるが、最小の径を持つ断面を最小錯乱円と言う。下図は球面収差の場合であるが、最小錯乱円の半径はr=1/4Csα3となる。Csは球面収差係数、αは開き角である。

    最小錯乱円

  • 散乱吸収コントラスト
    scattering-absorption contrast

    STEM像あるいはTEM像のコントラストの一つ。非晶質試料を観察したときに見られるもので、薄膜状試料の中に(厚さ×密度)積の違いがあると、透過した電子線に散乱強度の違いを生じる。検出器の取り込み角を適当に選ぶことで、この違いをコントラストとして得ることができる。
    下図にSTEMおよびTEMでの散乱吸収コントラストの形成原理を示す。(厚さ×密度)積が大きな領域で散乱された波はSTEMではコントラスト絞りで、TEMでは対物レンズ絞りで遮られることで形像に寄与せずコントラストを生じる。

    散乱吸収コントラスト

  • 収差
    aberration

    理想的なレンズでは、一点から放出されてレンズに入射する電子線は像面の一点に集束する。しかし実際のレンズでは一点には集束せず、拡がりを持つ。これを収差と言う。

  • 照射量
    illumination dose,dose

    試料上に照射される電子の量。プローブ電流と照射時間の積であるが、全電荷量を言う場合と、単位面積当たりの電荷量を言う場合がある。また、電荷量の代わりに電子の数で表現する場合もある。

  • 焦点深度
    depth of focus,DOF,focal depth

    試料のある点に焦点を合わせたとき、その正しい像面の前後にボケが十分に少ない像が得られる範囲がある。この範囲を焦点深度という。焦点深度は、入射プローブの開き角が小さいほど深くなり、観察倍率が高くなるほど浅くなる。 SEMの入射プローブの開き角は光学顕微鏡の場合に比べて、約100倍小さい。そのため、SEMの焦点深度は、光学顕微鏡の焦点深度の約100倍大きい。図1に、対物レンズの絞りの径を変えたときに、焦点深度が変わる様子を模式的に示す。図2に、対物絞り径の違い(入射プローブの開き角の違い)によって、焦点深度が異なるSEM像の例を示す。

    対物絞り径の大小による焦点深度の違い⇒図1

    絞り径の大小による焦点深度の比較⇒図2
    (試料:電球のフィラメント、加速電圧10kV)
    左:絞り径100μm、右:絞り径200μm

  • 照明効果
    illumination effect

    SEM像は、検出器方向から光を当てたようなコントラストを持っており、これを照明効果と言う。これは、試料から放出されて検出器に入る二次電子、反射電子の軌道を逆進するような光で照明されるように見えることから起きることである。アウトレンズ検出器、下方検出器では照明効果は強く現れるが、TTL検出器の場合は一様な照明となり、照明効果は弱い。

    照明効果

  • ショットキー放出
    Schottky emission

    金属表面に107V/cm程度の強電界が掛かると、ポテンシャル障壁が真空との境界で傾斜を持つ。この結果、障壁上端部は低くなり、通常の熱電子放出より低い温度で電子放出が起きる。これをショットキー放出と言う。

    SE放出

  • 試料汚染 (コンタミネーション)
    specimen contamination,contamination

    観察中に電子線照射によって試料表面に汚れが付着する現象。高倍率で観察した後倍率を下げると、高倍率での観察領域に対応した黒い(場合によっては白い)長方形の跡が付くが、スポットモードにすると照射点には白い円形の跡が付く。試料室中の炭化水素系の残留ガス分子が電子線照射によって解離し、試料表面にカーボンの堆積物ができると考えられている。試料が“焼ける”と言われるのは試料汚染の場合が多い。なお、試料そのものが汚れていて汚染源となる場合もある。
    下図左はスポットモードでの試料汚染堆積物の生成のメカニズム、下図右は試料汚染によって中央部が黒くなった様子を示す。

    試料汚染試料汚染(像)

  • 試料損傷 (電子線損傷)
    specimen damage,electron-beam damage,irradiation damage

    観察中に電子線照射によって試料が変形したり、観察している場所が凹んでしまう現象。一般に熱に弱い試料を高倍率で観察するときに起きやすい。SEMでの試料損傷は熱損傷が主な原因と考えられるので、観察時の加速電圧を下げたり、プローブ電流を減らす等によって、損傷の度合いを小さくすることができる。試料を冷やしたり、金属コーティングをする、といった工夫が行われる場合もあるが、同一視野を長時間観察しない、倍率を上げすぎないといった注意も必要である。下図は2種類の試料損傷の例である。上の半透膜の場合、中心部を高倍率で長時間観察していたため熱損傷により観察部位がくぼんでいる(b)。下のハロゲン銀粒子では、電子線の感光作用のため結晶成長が起きている(d)。

    試料ステージ

  • 侵入深さ
    penetration depth

    入射電子が試料内部へ散乱を繰り返しながら侵入する最大深さ。
    侵入深さは入射電子のエネルギーに比例し、試料の密度に反比例する。
    5 keVの電子がアルミニウム(密度:2.7 g/cm-3)に入射する場合、侵入深さは約400 nmである。入射電子のエネルギーが10 keVの場合、侵入深さは約1.0μmになる。また、5 keVの電子が金(密度:19.3 g/cm-3)に入射すると、その侵入深さは約60 nm、10 keVでは150 nmになる。

  • 磁気コントラスト
    magnetic contrast

    磁性体試料を観察したときに観察されるコントラスト。試料に入射した電子あるいは試料から放出される二次電子が磁界により偏向されて軌道が変わり、形成されるコントラストである。

  • 磁区コントラストI (タイプI 磁区コントラスト)
    type-I magnetic domain contrast

    二次電子モードで得られる磁気コントラスト。試料外部に大きな漏洩磁界を生じるような垂直磁区を持つ磁性試料を観察したときに生じる。試料から放出された二次電子が、この漏洩磁界により偏向され、検出器に入射したりしなかったりするために明るさの違いを生じる。これを磁区コントラスト I またはタイプ I 磁区コントラストと言う。磁壁の部分で明るさが逆転するが、漏洩磁界がブロードな分布をするため、解像力は高々数~数十µmである。試料を回転するとコントラストは変化し、180゜回転するとコントラストは逆転する。
    下図は、画面上向きの磁束を持つ試料に対して、画面手前から電子線を入射させた場合である。Aの磁壁付近で放出された二次電子は漏洩磁場によって検出器に向くローレンツ力を受けるため、より多く検出されて明るくなり、Bの磁壁付近では反対向きのローレンツ力を受けるため暗くなる。

    磁区コントラスト1

  • 磁区コントラストII (タイプII 磁区コントラスト)
    type-II magnetic domain contrast

    反射電子モードで得られる磁気コントラストの一つ。面内磁界があると、試料に入射した電子は、ローレンツ力により偏向されるが、磁束の方向によって、より表面に近づく向きと、より内部に向かう向きの電子ができる。この結果、試料表面から真空中に放出される反射電子の量に違いができ、コントラストを生じる。これを磁区コントラスト II あるいはタイプ II 磁区コントラストと言う。解像力は数百nm~数µmとなる。観察時には試料を45゜程度に傾斜し、反射電子検出器で検出する。磁束の方向が傾斜軸に垂直な場合はコントラストが生ぜず、傾斜軸と平行な場合はコントラストが最大となる。傾斜面内で試料を回転するとコントラストは変化し、180゜回転するとコントラストは逆転する。

    磁区コントラスト2

  • 磁壁コントラスト
    magnetic domain-wall contrast

    反射電子モードで得られる磁気コントラストの一つ。面内磁界があるような試料を水平に置いて観察すると、磁壁に入射した電子は、磁壁の両側でローレンツ力により偏向され、表面に向かう量が多くなるところと、試料内部に向かう量が多くなるところができる。この結果、反射電子が多くなる磁壁と、反射電子が少なくなる磁壁が交互に現れる。試料の直上に置いた反射電子検出器で信号を検出すると、磁壁は白または黒のコントラストを生じる。これを磁壁コントラストと言う。下図に示すように、左の磁壁では入射電子が表面に向かう方に偏向されるため反射電子放出量が多くなって明るくなり、右の磁壁では内部に向かうため暗くなる。通常の磁区コントラスト II を観察している場合でも磁束の方向が傾斜軸と垂直な場合は現れ、平行な場合でもよく見ると白黒の磁壁コントラストが現れることがある。

    磁壁コントラスト2

  • ジャストフォーカス (正焦点)
    just focus

    試料面に焦点が合っている状態。

  • 制限視野電子チャンネリングパターン
    selected-area electron channeling pattern (SAECP)

    電子チャンネリングパターンを得るためにビームロッキングを行った時起きる電子線の動きを補正するため、補助レンズと駆動回路を設けてロッキング領域を数~10µm程度に小さくする方法。

  • 走査
    scanning

    試料上の各点からの情報を時系列信号にするため、電子プローブで試料表面をなでるように動かすこと。1次元の走査線を垂直方向に並べることで、ラスターを作り、2次元の画像を形成する。

  • 相反定理
    reciprocity theorem

    可逆定理とも呼ばれ、光線逆進の原理を説明する定理。これによれば、TEMでの照射系と結像系の関係は、STEMでの検出系と照射系の関係と同じである。すなわち、TEMでの照射電子線の開き角はSTEMでの検出器の開き角に相当し、TEMでの対物レンズの開き角はSTEMでの対物レンズの開き角(電子プローブの開き角)に相当する。

    相反定理

  • 組成コントラスト
    compositional contrast

    原子番号および密度の違いが明るさの違いとなって現れるコントラスト。STEM像やTEM像の散乱吸収コントラストとは逆で、(原子番号×密度)積が大きいほど明るくなる。高分子試料の超ミクロトーム断面のように平坦な非晶質試料の場合、組成コントラストが主となる。

  • 組成像
    compositional image

    組成コントラストで形成された像。一般には反射電子検出器を使うことが多いが、低加速電圧と二次電子に対するエネルギーフィルタを組み合わせても得られる。

  • 帯電現象 (チャージアップ)
    charging phenomenon,charging

    非導電性試料をそのまま観察すると、試料表面の部分部分で、試料に入射する電子よりも試料から放出される電子が多かったり、あるいは少なかったりするために、試料が帯電し観察される像に異常が起こる現象。帯電の状況(軽度か重度)によって、様々な現象が現われる。主に、二次電子像が帯電の影響を受ける。これは、二次電子のエネルギーが低いために試料表面の電位の影響を受け易いからである。以下に代表的な帯電現象を述べる。これらが個別に起こる場合もあれば、重複して起こる場合もある。

    • 十分なコントラストが得られず、凹凸感の欠落した像になる。
    • 試料の局所が異常に明るくなったり、異常に暗くなるという現象が現われる。また、異常に明るい部分や暗い部分が電子プローブの走査方向に尾を引く。
    • 入射電子が偏向されて像が歪んだり、像のドリフトが発生する。
    • 試料の破壊(例えば、粉体粒子がはじき飛ばされてなくなる)が起こる。

    下図にアルミナ系セラミックス試料の二次電子像に発生した異常コントラストと、金属コーティングを施して帯電現象を除去した像の例を示す。
    また、観察中に帯電現象の有無を見極めるには、加速電圧を下げるか電子プローブの走査速度を上げて、二次電子像の変化を調べることが有効である。加速電圧を下げることと、走査速度を早めることで、異常と思われる現象が軽減すれば帯電現象が起こっていると判断できる。

    アルミナ系セラミックス試料の二次電子像に現われた帯電現象(左)と帯電のない状態(右)の比較⇒
    加速電圧10kV。
    左図: 左上に異常に明るい部分が見られる。左右(走査方向)に明るい線および暗い線が見られる。さらに画像全体の凹凸感が欠落している。
    右図: 同一試料に金パラジウムをコートして帯電を除去した場合の像。左図に見られるような異常はなく、試料の凹凸感もよく表れている。

  • 脱出深さ
    escape depth

    入射電子によって励起された二次電子、オージェ電子、X線、および後方散乱電子が試料表面から脱出できる深さ。
    二次電子のエネルギーは最大でも数十eVと小さい。このため、試料の深部で励起された二次電子は数回の散乱でエネルギーを失ってしまうため、試料表面に到達できない。二次電子の最大脱出深さは、ほとんどの金属でおよそ2~5nmである。
    一方、反射電子は入射電子がエネルギーを完全に失う前にたまたま試料表面に到達したものであり、その脱出深さは侵入深さのおよそ半分で、二次電子の脱出深さより2桁程度大きい。またX線は、透過能の大きな電磁波であり、その脱出深さはおよそ1μmある。

  • 弾性散乱
    elastic scattering

    エネルギーを失わずに、進行方向のみを変える電子の散乱。
    入射電子の中には試料表面近くで数回の散乱を経て、エネルギーを失わないまま入射点近傍から試料外に飛び出すものがある。

  • チャンネリング
    channeling

    エネルギーを持った荷電粒子が結晶性試料中に入射したとき、特定の方位に沿ってより深く侵入する現象。

  • チャンネリングコントラスト
    channeling contrast

    結晶性試料を観察したとき、結晶方位の違いによってSEM像やSIM像に生じるコントラスト。電子やイオンのチャンネリングにより、結晶方位の違いで試料への侵入深さが変わり、結果として反射電子や二次電子の放出量が変わるために生じるコントラストである。電子線の場合、エネルギーを変えても、入射方位を変えてもコントラストが変わるが、イオンビームの場合、入射方位依存性は持つもののエネルギー依存性は、ほとんど持たない。

  • チャージバランス
    charge balance

    チャージバランスとは、試料が正の帯電でも負の帯電でもない、すなわち帯電のない状態をいう。
    一般に、非導電性試料をそのまま観察すると、試料表面の部分部分で、試料に入射する電子よりも試料から放出する電子が多かったり、あるいは少なかったりするために、試料が帯電する。放出電子が入射電子よりも多いときは正に帯電(ポジティブチャージ)し、少ないときは、負に帯電(ネガティブチャージ)する。
    理論上は、図に示すように、試料に入射する電子と、試料から放出する電子が同数であれば、電荷のバランスがとれて帯電しない。試料表面への導電性物質をコーティングできない場合は、加速電圧を下げたり、試料傾斜角を大きくすることで二次電子放出効率が大きくなることを利用して、帯電が起こらない条件を探さなくてはならない。例えば、加速電圧を1kV程度に下げ、試料の傾斜角度を60°もしくはそれ以上にすることで、二次電子像の帯電現象をほとんど目立たなくできることがある。ただし、実際には、試料表面では部分的な組成の差や凹凸の違いによって二次電子の放出率が一様ではないために、均一な組成でしかも表面が平坦な試料以外では、試料の全面で完全にチャージバランスをとることは困難である。

    チャージバランス⇒

  • 電位コントラスト (電圧コントラスト)
    voltage contrast

    試料上の電位差(電圧)によって、二次電子の検出効率が変わり生じるコントラスト。電位が高いと二次電子検出器との間の電界が弱くなるため二次電子の検出効率が落ちて暗くなり、電位が低いと二次電子検出器との間の電界が強くなるため明るくなる。これを利用して、LSIなどの回路の動作状態を確認することができる。一方、この電位コントラストは、非導電性試料を観察したときの帯電による異常コントラストの一因ともなる。

  • 電位分布像
    voltage contrast image

    電位コントラストを可視化したSEM像。電位が高い部分が暗く、電位が低い部分が明るくなるので、LSIの回路の動作状態の確認などに使われる。下図はアルミ配線の電位分布像で、灰色のアース電位の部分に対して、マイナス電位の配線が明るくなっている。

    電位分布像

  • 電界放出
    field emission

    金属表面に強電界が掛かると、真空との境界でポテンシャル障壁が傾斜を持つが、電界が108V/cm近くになると障壁が極めて薄くなり、トンネル効果で電子が真空中に放出される。これを電界放出と言う。放出電子のエネルギーのばらつきは小さく、0.3eV程度である。

    電界放出

  • 電子回折
    electron diffraction

    結晶性試料に電子線を照射すると、散乱した電子は一様な分布にならず、ブラッグ条件を満たす特定の方向に強度を持つような分布をする。これを電子回折と呼び、電子の波動性によるものである。散乱方向にスクリーンを置くと、回折パターンが観察できるが、SEMの場合はバルク試料での非弾性散乱の結果、バンドで構成された菊池パターンが観察される。

  • 電子線誘起電流
    electron-beam induced current (EBIC)

    p-n接合に電子プローブを照射すると電子-正孔対が出来るが、空乏層の電界によって電子はn領域へ、正孔はp領域に移動し、p-n接合の両端に電圧が発生する。これを電子線誘起電圧(electron-beam induced voltage)と言い、外部に回路を接続したとき流れる電流を電子線誘起電流と言う。結晶欠陥があると、電子や正孔はトラップされるため電流を生じない。これらの電流を画像にすると、p-n接合や結晶欠陥を像として観察できる。解像力は試料に入射した電子の拡散領域で決まる。EBICはイービックと読む。

    電位分布

  • 電子チャンネリング
    electron channeling

    結晶性試料に電子が入射すると、結晶格子面と入射電子の角度によって侵入深さが変わり、ブラッグ角の前後では大きく変化する。この現象を電子チャンネリングと言う。
    下図は、結晶性試料に入射する電子プローブの角度を変えたときの電子の試料への進入深さを示したもので、ブラッグ角(θB)の前後で深さが大きく変わることがわかる。
     

    電子チャンネリング

  • 電子チャンネリングコントラスト
    electron channeling contrast (ECC)

    電子チャンネリングが起きたことによって、反射電子放出量が変わって得られるコントラスト。電子チャンネリングにより入射電子が深く侵入すると、反射電子放出量は減り、侵入深さが浅いと反射電子放出量が多くなる。この結果、得られる反射電子像にコントラストを生じる。これを利用して結晶粒の方位分布を観察したり、転位を見ることができる。電子チャンネリングコントラストは、凹凸あるいは組成の違いによるコントラストに比べて微弱なため、観察するためには凹凸がほとんど無いこと、組成が一様であることなどが必要である。また、表面から数十nm以下で生じるコントラストであるため、表面に加工層などがあると観察できない。
    下図左は、電子チャンネリングコントラストを生じるメカニズムを示し、右図はその例を示す。

    電子チャンネリングコントラストECC像

  • 電子チャンネリングパターン
    electron channeling pattern (ECP)

    結晶性試料に対してビームロッキングを行ったとき観察される擬菊池パターンまたはその観察法。入射電子線の平行性が十分でなければならないため、電子線の太さは数µmとなる。さらに、入射角を変えるときに対物レンズの球面収差の影響で入射電子線が移動するので、パターンが得られる領域(ロッキング領域と言う)は、数十µmとなる。

  • 透過電子
    transmitted electron

    薄膜試料に電子が入射すると、ほとんどの電子は試料中で吸収されることなく試料を透過して、試料下面から真空中に放出される。これを透過電子と言い、STEMまたはTEMの像信号として利用される。

  • 透過波
    transmitted wave

    試料を透過した電子線の内、散乱あるいは回折を起こさずに透過したもの。特に波としての性質を議論するときに使う用語。

  • 特性X線
    characteristic X-ray

    入射電子によって高いエネルギー準位に励起された原子が、低いエネルギー準位に遷移するときに、この準位差にあたる過剰なエネルギーが電磁波として放出されたもの。元素および結合状態に特有のエネルギー分布と強度を持ち、スペクトル上でピークを形成する。

  • 内部起電力
    electromotive force (EMF)

    p-n接合に電子が入射すると、電子-正孔対が出来るが、空乏層の電界によって電子はn領域へ、正孔はp領域に移動し、p-n接合の両端に電圧が発生する。これを内部起電力と言う。電子線誘起電圧と呼ばれることもある。電子プローブで試料表面を走査したときの内部起電力の変化を可視化したものを内部起電力像(electromotive force image)と言うが、外部に回路を繋いだときの電流を検出しているので、EBIC像と同じ意味である。

  • 二次電子
    secondary electron,SE

    入射電子(一次電子)の試料内での非弾性散乱によって、試料を構成する原子から励起された電子で、そのエネルギーを50eV以下で定義することが多い。 入射電子による二次電子の励起は、試料の深さとは無関係に起こっているが、二次電子のエネルギーは小さく試料内で散乱されるため、試料の表面に到達できるのは、試料の浅い部分で励起されたものだけである。二次電子が試料表面から飛び出せる深さ(脱出深さ)は金属試料で5~10 nmである。したがって、電子線を試料表面に対して垂直ではなく斜めに入射すると飛び出してくる二次電子は多くなる。 下図(a)に、20 keVの一次電子が試料に入射したときに、試料の表面から放出される電子のエネルギースペクトルを示す。左側の大きなピークが二次電子によるものである。それ以上のエネルギーを持って放出される電子のほとんどは反射電子(後方散乱電子)で、幅広いエネルギー分布を持つ。反射電子の分布の中に見られる小さなピークはオージェ電子によるものである。 試料から放出される二次電子の多くは、入射電子によって照射点近くで直接励起されたもので、SE1と呼ばれる。SE1は入射点近傍の試料の形状(入射点の試料の傾き)や物質の違い(仕事関数)の情報を持っており、二次電子像の形成に用いられる。
    ただし、二次電子には、SE1とは異なる発生要因のものもある。入射電子のエネルギーが大きくなる(加速電圧が高くなる)と、入射電子の拡散領域が大きくなり、入射点から離れた部位に反射された電子によっても二次電子が励起される。この二次電子は、SE2と呼ばれる。また、試料から飛び出した反射電子が対物レンズや検出器などの構造物に当たって二次電子を励起することもある。これはSE3と呼ばれる。SE2とSE3は、二次電子像のバックグラウンドを形成し像のコントラストを下げるSE1、SE2、SE3の発生を図(b)に示す。

    図(a) 一次電子の入射によって試料から放出される電子のエネルギースペクトル (一次電子のエネルギーが20 keVの場合) ⇒

    図(b) SE1、SE2、SE3放出の違い ⇒

  • 二次電子像
    secondary electron image, SE image

    入射電子(一次電子)が試料内で非弾性散乱することによって、試料を構成する原子から励起された二次電子を検出することで作られる像。通常SEM像とは二次電子像のことであり、試料表面の微細な構造を知ることができる。二次電子のエネルギーは数10 eV以下であるため、表面から5 - 10 nmの深さから発生したもののみが真空中へ放出される。そのため、空間分解能が高く、試料の最表面構造に敏感である。ただし、エネルギーが低いので、試料表面の帯電の影響による像の乱れが生じやすい。
    入射電子線に対する試料表面の傾斜角が大きいと、試料表面からの二次電子の放出が大きいので、試料の形状に依存したコントラストがつく。さらに、試料表面の小さな突起やシャープな凹凸の部分からは、二次電子の放出が顕著に増大し、像にさらなる明るいコントラストを形成する。これは、エッジ効果と呼ばれる二次電子像に特有なコントラストで、微細な構造が鮮明に観察できる。
    図(a)に三酸化タングステン結晶の二次電子像を示す。結晶の表面の傾きによって放出される二次電子の量が異なり、結晶の形状を知ることができる。エッジの部分が特に明るくなっており、エッジ効果が確認できる。
    分解能は、加速電圧が15 kVで、0.6nm~3nm程度である。分解能を決める主たる因子は、入射電子のプローブ径である。電子銃にはタングステンやLaB6が用いられるが、より小さなプローブ径を得るには、より光源の小さい電界放出型電子銃が使われる。 鮮明な像を得るには加速電圧を低くすることが有効である。低加速電圧では、入射電子の試料内への拡散が小さく、表面付近で励起された二次電子によって像が作られ、試料表面の微細な構造を鮮明に見ることができる。高加速電圧では、入射電子の拡散領域が大きくなり、入射電子から隔たったところから発生する二次電子の寄与があり、微細な構造は見にくくなる。加速電圧を下げると、対物レンズの収差が大きくなり、プローブ径が大きくなる。しかし、対物レンズの改良により、現在のSEMでは加速電圧5kVでも十分小さなプローブ径が得られている。
    図(b)に、金をコートした濾紙を加速電圧5 kVと30 kVとで観察した二次電子像を示す。加速電圧5 kV では、コントラストが高く、表面構造が鮮明に見えている。加速電圧30 kV では、コントラストが低下し、表面構造の詳細が不鮮明である。

    図(a) 三酸化タングステン結晶の二次電子像  (加速電圧:10 kV)⇒

    図(b) 加速電圧の違いによる二次電子像(同一視野)の比較。⇒
    試料:金コートした濾紙、加速電圧: 5 kV(写真左)、30 kV(写真右)。表面構造の観察には低加速電圧の方が適している。

  • 二次電子放出率
    secondary yield,secondary electron emission coefficient

    試料に入射する電子(一次電子)の数と、試料から放出される二次電子の数の比δ。実際には、二次電子放出率δは試料に入射する一次電子電流Ipと試料から放出される二次電子電流Isの比Is/Ipとして定義される。二次電子放出比とも呼ばれる。

    二次電子放出率δの試料傾斜角依存性
    二次電子はエネルギーが最大でも数10 eVと小さいため、試料表面から10 nm程度の浅いところからしか放出されない。このことは、試料の入射電子線に対する傾斜角度が大きくなれば、δが増えることを意味する。下図(a)にその概念を示す。ここで、一次電子と一次電子の入射点における法線とのなす角度をθとする。一次電子が試料表面に垂直に入射した場合(θ=0)、最短脱出距離Zで二次電子が一番多く放出される。試料がθ傾斜すると、最短脱出距離は、Z・cosθとなり、θ=0に比べて二次電子が放出し易くなり、δが大きな値となる。したがって、二次電子像では試料表面の形状(傾き)によるコントラストが得られる。

    二次電子放出率δの加速電圧依存性
    δの加速電圧(一次電子のエネルギー)依存性を下図(b)に示す。δは、一次電子のエネルギーが数100 eV程度までは増加し、300~800 eV(物質によって異なる)で最大値δmaxを取る。その後一次電子のエネルギーが大きくなるにしたがい、δは低下する。

    二次電子放出率δの物質依存性
    前述のδの最大値δmaxは、試料を構成する物質の仕事関数(φ)に比例すると報告されている。δの物質依存性が二次電子像のコントラストとして顕著に現われるのは、δmaxが得られる加速電圧のとき、すなわち一次電子のエネルギーが1 keVよりわずかに低いときである。一次電子のエネルギーが高くなると、物質の違いによるδの差が小さくなり、物質の違いによるコントラストは現われにくくなる。 下図(c)に物質ごと(原子番号Z)のδを示す。ここで、δと原子番号との間には簡単な関係はないことが分かる。これは、別記する反射電子放出率の原子番号依存性と大きく異なる点である。

    図(a) 二次電子放出率の傾斜依存性⇒

    図(b) 二次電子放出率の加速電圧依存性⇒

    図(c) 物質ごとの最大二次電子放出率(δmax)⇒

  • 入射電子
    incident electron

    細く絞られた電子線(電子プローブ)となって試料に入射する電子。一次電子と同義語。

  • 熱電子放出
    thermionic emission

    金属を高温度で加熱したときに、電子がエネルギー障壁を越えて真空中に放出される現象。放出された電子を熱電子(thermoelectron)といい、そのエネルギーは二次電子より低く、数eVである。

    熱電子放出

  • 反射電子
    reflected electron,backscattered electron (RE,BSE,BE)

    入射電子(一次電子)が試料に照射された際に、散乱の過程で後方散乱したもの。このため、後方散乱電子とも呼ばれる。図(a)は、20 keVの入射電子による放出電子のエネルギースペクトルである。反射電子は、約50 eVから最高値の20 keVまでの広い幅を持つ。スペクトルの中央付近に見られる小さなピークはオージェ電子である。
    反射電子が広いエネルギー幅を持つ理由は、入射電子(一次電子)が入射点近傍で弾性散乱してエネルギーを失わないまま試料外に飛び出すばかりでなく、非弾性散乱を繰り返してエネルギーを失いつつ後方散乱されるものがあるからである。
    反射電子は二次電子に比べてエネルギーが高いため、その脱出深さは二次電子の場合に比べて約2桁大きい。具体的には、入射電子のエネルギーが15 keVの場合、アルミニウムと鉄に対する反射電子の脱出深さは、それぞれ約0.7μmと約0.2μmである。試料の深い部位から放出した反射電子は、分解能の低下を招く。
    反射電子放出率の原子番号依存性を図(b)に示す。反射電子放出率は原子番号の増加に伴って単調に増加することがわかる。反射電子像では、この特性を利用して、試料中の組成の違いを明らかにできる。なお、二次電子放出率は原子番号との間に特定の相関がないので、二次電子像では組成の違いを明らかにすることはできない。
    反射電子放出量が、試料表面の入射電子に対する角度の違いによって変化することを図(c)に示す。反射電子の放出量は入射電子が鏡面反射する方向で大きくなる。したがって、検出器をある位置に固定すると、試料の凹凸によるコントラストが得られる。反射電子の強度は試料の凹凸に非常に敏感に変化するので、エッジを持たないなだらかな起伏に対してもコントラストがつく。一方、二次電子像で見られるエッジ効果がないため、微細で急峻なエッジを持つ凹凸に対しては二次電子像のようなシャープさは得られない。
    なお、反射電子は、試料表面近傍で二次電を励起したり、試料から飛び出したあとで対物レンズなどのSEMの構造物に衝突して、二次電子を励起したりすることがあり、それらの二次電子は、二次電子像の像質を低下させる。

    一次電子の入射によって試料から放出される電子のエネルギースペクトル→図(a)
    (一次電子のエネルギーが20 keVの場合)。
    約50 eVから最高値の20 keVまでのエネルギーを持って放出される電子を反射電子という。スペクトルの中央付近に見られる小さなピークはオージェ電子である。
    反射電子放出率の原子番号依存性→図(b)
    反射電子放出率は原子番号の増加に伴って単調に増加する。
    反射電子放出量の試料傾斜角による依存性→図(c)
    反射電子の放出量は入射電子が鏡面反射する方向で大きくなる。検出器をある位置に固定すると、検出器方向に直進したものだけが検出され、それ以外の方向に放出されたものは検出されないため、あたかも検出器から試料表面を照明しているような像が得られる。このことを利用して試料の凹凸によるコントラストが得られる。

  • 反射電子組成像
    compositional image in BE mode,compositional image in BSE mode,BSE compositional image

    試料の平均原子番号の差(組成の違い)を示す反射電子像。
    試料の組成分布や単一組成領域の大きさを知ることができる。
    エネルギー分散型X線分光器(EDS)や波長分散型X線分光器(WDS)による元素分析を行うための事前観察にも使われる。
    反射電子の検出には、対物レンズと試料の間に、入射電子に対して対称に置かれた環状の半導体素子が用いられ、その素子を2分割もしくは4分割した物もある。2分割した検出器を使用した場合、反射電子組成像は、二つの検出器の出力信号の和を取ることによって得られる。
    また、2分割した検出器の出力信号の差を取ると、組成の違いによるコントラストが打ち消され、試料の凹凸による像が得られる。
    図にダイヤモンド砥石の反射電子組成像と反射電子凹凸像を示す。
    左の組成像ではダイヤモンドの粒子が黒く見えている。ダイヤモンドの反射電子放出率が小さいためである。白く見えている部分は反射電子放出率が大きい、すなわち炭素より重い原子が存在する場所である。二つの検出器からの出力信号の和を取っているために、試料の凹凸の効果は打ち消されている。
    右の凹凸像では、二つの検出器からの出力信号の差を取っているために、組成の違いによるコントラストは消え、表面の凹凸のみが見えている。

    反射電子組成像と反射電子凹凸像の比較→
    加速電圧: 10 kV, 試料: ダイヤモンド砥石
    左図の組成像では、反射電子放出率の小さいダイヤモンド粒子が黒く見えている。右図の凹凸像では、組成によるコントラストは消え、試料の凹凸のみが見えている。

  • 反射電子像
    backscattered electron image,BSE image

    入射電子の弾性散乱によって放出された反射電子 (後方散乱電子) によって作られる像。試料の組成の違い (平均原子番号の差) を知ることができる。空間分解能は二次電子像には劣る。二次電子像で見られるエッジコントラストは見られない。また、エネルギーが高いため、試料表面の帯電の影響を受けにくい。
    原子番号が約40以下では、反射電子放出率の変化が大きいので、わずかな原子番号差でもコントラストが付く。例えば、原子番号が30付近では、平均原子番号の差が0.2~0.3あれば十分なコントラストが付き識別できる。具体的には、29 (Cu)  と30 (Zn)  の化合物の真鍮や、31 (Ga) と33 (As) の化合物半導体で、それぞれの原子が識別できる。
    通常、反射電子像の分解能は、二次電子像に比べて数倍~1桁程度悪くなる。その理由は、二次電子は表面から深さ10 nm程度の間から放出するのに対して、反射電子は表面から数 um (入射電圧に依存) の間から放出するため、試料表面に到達するまでに大きく拡散するためである。ただし、近年の高分解能SEMでは、入射電子のエネルギーが1kV以下での反射電子の検出が可能になっており、反射電子の拡散領域がきわめて小さく抑えられ、反射電子像の分解能は、同じ入射電子エネルギーで得られた二次電子像の分解能と差がない。
    また、反射電子像から試料表面の凹凸の様子を知ることができる。凹凸のある試料を観察すると、凹凸の片側に影がつき、立体感のある像が得られ、凹凸の判定に有効である。ただし、反射電子の拡散効果によって、二次電子像のようなエッジを強調した像 (エッジ効果) は作られない。
    図 (a) に、名刺に印刷された文字の部分の二次電子像と反射電子像を示す。文字のインクには重金属が含まれるため、反射電子像では紙の繊維部分に比べて明るいコントラストが現われている (組成コントラスト )。二次電子像では組成コントラストは見られない。ただし、試料には、チャージアップを避けるために表面にカーボンのコーティングが施されている。
    図 (b) に、カードエッジコネクターの電極表面の二次電子像と反射電子像を示す。二次電子像では凹凸の程度が分かりにくいが、反射電子像では強い斜め照明の効果によって凹凸の高低をしっかりと把握することができる。
    組成が均一な結晶性試料では、結晶の方位の違いが反射電子の放出に影響し、電子チャンネリングコントラストと呼ばれるコントラストが現われる。

    backscattered electron image
    二次電子像 (左) と反射電子像 (組成コントラスト) (右) の対比
    加速電圧: 15 kV, 試料: カーボンコートした名刺の文字部分 (中央)
    反射電子像では文字部分が非常に明るくなっている。
    backscattered electron image
    二次電子像と反射電子像 (凹凸コントラスト) の対比
    試料: カードエッジコネクターの電極, 加速電圧: 10 kV
    反射電子像では強い斜め照明の効果によって凹凸の高低が明瞭に見える。

  • 反射電子放出率
    backscattered electron yield,backscattered electron coefficient,backscatter yield,backscatter coefficient

    試料に入射する電子(一次電子)の数と、試料の表面から放出される反射電子の数の比。
    反射電子放出率ηは試料に入射する一次電子電流Ipと試料から放出される反射電子電流Ibの比、すなわちη=Ib/Ipとして定義される。
    反射電子放出率ηは、図(a)に示すように、試料を構成する物質の原子番号に依存する。このため、反射電子像では組成の違いを検出することができる。
    また、反射電子の試料表面からの放出率ηは、入射電子線が試料面に対して鏡面反射する方向に大きくなる。図(b)にその様子を示す。すなわち、傾斜した試料面に角度αで電子が入射すると、反射電子は角度αの方向(太い青線の方向)に強く放出され、エネルギーが高いため(入射電子とほぼ同じエネルギーを持つ)そのまま直進する。したがって、反射電子の進行方向に検出器があれば、反射電子が効率的に検出される。このため、反射電子像では、検出器の置き方によって、試料に対してある方向から光を当てたように、凹凸が立体的に見える照明効果が現れる。

    反射電子放出率ηの原子番号依存性→図(a)
    反射電子放出の試料の傾斜角度依存性→図(b)
    弾性散乱した反射電子は、入射電子線が試料表面に対して鏡面反射する方向に強い強度を持つ。したがって、検出器の位置によって反射電子の検出量が大幅に変わる。反射電子像には強い照明効果が現われる。

  • 被写界深度
    depth of field

    奥行きがある視野において、焦点がずれても像のボケを感じない範囲。SEMの場合は焦点深度と同義語であり、電子プローブの開き角に依存する。

  • 非弾性散乱
    inelastic scattering

    エネルギーの損失を伴う電子の散乱。
    入射電子がエネルギーを失う過程には、散乱の際に起こすX線の励起、二次電子やオージェ電子の発生、発光(カソードルミネッセンス(CL))がある。

  • 飛程 (電子飛程)
    electron range,range

    入射電子が散乱を繰り返しエネルギーを失いながら試料内部へ侵入する最大深さ。侵入深さと同義語。

  • 非点隔差
    astigmatic difference

    非点収差があると、光軸上の一点から出た電子線は、ある距離をおいて互いに直交する2本の線状の像を作るが、その線状の像の間の距離を非点隔差と言う。

    非点隔差

  • 非点収差
    astigmatism

    電子線が電子レンズを通過するとき、光軸と直交する二つの軸上を通過する電子線の焦点位置が異なることによって発生する収差。
    図1に示すように、電子線がレンズのX軸上で光軸からの距離rのところを通るとき、電子線は位置aに焦点 (オーバーフォーカスという) を結ぶ。他方、レンズのY軸上で光軸からの距離rのところを通る電子線は位置bに焦点 (アンダーフォーカスという) を結ぶ。そのため、電子線は、位置aではY軸方向に伸び、位置bではX軸方向に伸びる。位置aと位置bの距離を非点隔差という。非点収差を含んだ状態でも、最小錯乱円 (エグザクトフォーカス) が位置aと位置bの間に存在する。
    非点収差は、レンズの軸対称性の崩れが原因で、レンズの材質の不均一性、機械加工及び組み立ての精度不足に由来する。ここで扱っている非点収差は、電子光学の理論上起こりうる非点収差 (ザイデルの5収差の中の非点収差) とは別のものである。 図2 (a-c) は非点収差があるときのSEM像である。(a) オーバーフォーカスと (c) アンダーフォーカスの位置では、互いに直交方向に焦点が合わない広がりを持った像になっている。(b) エグザクトフォーカスの位置では像の広がりが両方向で等しくなっている。ただし、像の輪郭はぼやけている。これは試料の1点から出射する電子線が、非点収差のために最小錯乱円の大きさより小さくならないからである。
    非点収差は非点収差補正装置によって取り除くことができる。

    図1 非点収差がある場合の光線図
    図1 非点収差がある場合の光線図
    レンズを通った電子線は、位置aではY軸方向に伸び、位置bではX軸方向に伸びる。位置aと位置bの距離を非点隔差という。非点収差を含んだ状態でも、位置aと位置bの間に最小錯乱円が存在する。
    図2 非点収差がある場合に焦点位置を変えたときの像の変化。
    図2 非点収差がある場合に焦点位置を変えたときの像の変化。
    非点収差があると、(a) オーバーフォーカスと (c) アンダーフォーカスで、直交する方向に像の広がり (矢印の方向へ像の広がり (ボケ) )が生じている。(b) エグザクトフォーカスでは、ボケの量は両方向で等しいが、試料の輪郭が明瞭な像を得ることはできない。
    試料:スズのボール/Carbon pellet、加速電圧:5 kV、ワーキングディスタンス:4 mm、照射電流量:176 pA。

  • 表面形状コントラスト
    topographic contrast

    表面の形状に起因するコントラスト。二次電子像の場合、二次電子放出率が試料表面に対する電子線の入射角に依存することから、コントラストが生じる。反射電子像の場合は、入射電子線が鏡面反射方向に強い強度を持つことからコントラストを生じる。

  • 開き角
    aperture angle

    クロスオーバーからレンズを見込んだ角度。対物レンズの場合を例にすると、試料から対物レンズを見込んだ角度を言う。通常は対物レンズ絞りが置かれているので、それを見込んだ角度を意味する。
    下図左の場合、対物レンズ絞りは対物レンズの直下に置かれているが、その半径を r、対物レンズ絞りと試料との距離を zとすると、開き角は α = r/zとなる。右図では、対物レンズ絞りは集束レンズと対物レンズの間に置かれているが、その半径を r、集束レンズによる電子源の像から対物レンズ絞りまでの距離を a、対物レンズまでの距離を b、対物レンズと試料との距離を zとすると、開き角は α = rb/zaとなる。

    開き角

  • ブラッグ反射
    Bragg reflection

    結晶に電子線、X線などが入射したとき、結晶面間隔、波長によって決まる特定の方向に反射を起こす現象。結晶面間隔(d)、波長(λ)、入射角(反射角θ)の間には2dsinθ=nλの関係があり、ブラッグ条件式と呼ばれる。

  • 分解能
    resolving power

    この用語は、二次電子像や反射電子像の形態観察では、空間分解能 (判別可能な2点間の最小距離) を意味し、エネルギー分散型X線分光器 (EDS) や波長分散型X線分光器 (WDS) によるX線分光では、エネルギー分解能 (スペクトルの判別可能な最小エネルギー) を意味してきた。
    しかし、近年、SEMの空間分解能の表示に、像のシャープネスを数値化するという新しい手法が導入されつつある。

  • 平均原子番号
    mean atomic number

    2種類以上の元素からなる化合物の場合の平均的な原子番号。それぞれの元素の質量濃度に応じて原子番号を按分した値となる。平均原子番号Zavはそれぞれの元素の原子番号をZi、質量濃度をCiとすると、Zav=ΣCiZiで表される。

  • ベルシェ効果
    Boersh's effect

    電子線の電流密度が高くなると、電子同士のクーロン力により速度(エネルギー)のばらつきが大きくなる現象。色収差が大きくなるので、大きなプローブ電流で低加速電圧観察をするような場合に影響が出る。

  • 明視野像
    bright field image

    STEM像あるいはTEM像の一つ。試料を透過した電子の内、散乱されずに透過した電子、および小さい角度で散乱した電子を検出して作られた像。非晶質試料の場合は(厚さ×密度)積が大きい部分が暗くなり、結晶性試料の場合は回折条件を満足した部分が暗くなる。

    明視野像

  • モアレパターン
    moiré pattern

    周期性の構造が重なったときに観察される偽の周期性パターン。SEMでは走査線の間隔に近い周期を持つ構造があると、このパターンが観察される。倍率を上げて周期が十分大きくなると見えなくなる。結晶性薄膜のSTEM像やTEM像では、2枚の結晶が重なることで作られたモアレパターンが観察されることがある。
    下図に基本的なモアレパターンの原理を示す。平行モアレは周期の異なる構造が平行に重なったときに起きるものであり、回転モアレは同じ周期を持つ構造がわずかに回転して重なったときに起きるものである。

    モアレパターン

  • モンテカルロシミュレーション
    Monte Carlo simulation

    シミュレーション手法の一つで、乱数を利用して確率的に事象をシミュレーションすることの総称。
    SEMでは、入射電子が試料中でどのように拡散するかをシミュレーションするために、モンテカルロ法が用いられる。モンテカルロ法のもととなる、固体中の電子の散乱モデルは主に、①弾性散乱にはラザフォード(Rutherford)散乱公式、②非弾性散乱にはベーテ(Bethe)の阻止能(ストッピングパワー)の式が用いられる。これらの理論式に従って、散乱のときに必要な複数のパラメータを乱数を用いて確率的に求め、電子の軌道を順次計算することで、入射電子の拡散の様子をシミュレーションする。求めるパラメータは、弾性散乱による方向変化(散乱角と方位角)、弾性散乱から次ぎの弾性散乱までの距離(自由行程)、非弾性散乱によるエネルギー損失の値である。
    このようなシミュレーションを行うソフトウェアは、フリーで公開されたものや商品化されたものがある。これらのソフトウェアでは、試料の元素、試料の層厚(膜厚)、入射電子の数、入射電子のエネルギー、試料への入射角度などが入力されると、各散乱に対して散乱角、自由行程や非弾性散乱によるエネルギー損失の値はソフトウェアによって確率的に与えられ、電子の軌道は自動的に計算され、その条件における入射電子の拡散の様子が表示される。入射電子の拡散のシミュレーションのほかに、X線分光による元素分析のための、特性X線の発生と吸収をシミュレーションするソフトウェアもある。
    図は、ソフトウェアを使ってシミュレーションした一例である。10keVの入射電子100個がアルミニウム試料の表面に垂直入射したときの、それらの電子の拡散の様子を示すシミュレーションである。入射電子が0.7~0.8μmの深さまで拡散していることや、入射点から0.5μm程度離れた部位でも後方散乱された電子が試料の表面から放出されることが分かる。

    モンテカルロシミュレーションの例⇒
    試料Al、入射電子100個、加速電圧10kV。

  • 誘電体分域コントラスト
    ferroelectric domain contrast

    強誘電体試料を二次電子モードで観察したときに得られるもので、結晶内の自発分極によって生じた表面電位がもたらす一種の電位コントラスト。試料が絶縁物であるため、帯電の影響により分域コントラストは不安定で消失しやすく、コントラストの反転などが起きるので、観察条件の選択に注意を要する。

  • 連続X線 (白色X線)
    continuous X-ray,white X-ray

    試料に入射した電子が、試料を構成する原子の原子核の電界によって軌道を曲げられたときに、余剰なエネルギーがX線として放出されたもの。エネルギーは、入射電子のエネルギーを最大値として連続的に分布する。白色X線とも呼ばれる。