分析

  • EBSD
    electron backscatter diffraction

    後方散乱電子回折を利用して、結晶性試料の方位解析をする方法。60~70゜に傾斜した試料に電子プローブを照射すると、側方に置いた蛍光スクリーン上に電子回折パターンが得られる。この電子回折パターンをテレビカメラで取り込み、方位解析を行いながら、電子プローブで試料表面を走査すると、各点の方位情報が得られる。これを利用して方位分布、相分布などの結晶方位解析を行うことができる。解析領域、空間分解能は電子プローブ径にも依存するが、数十nmである。

    EBSD

  • EBSP
    electron backscatter diffraction pattern

    EBSDで得られた電子回折パターン。EBSDと同義語に使われることもある。

  • EDS検出器
    EDS detector

    EDSで用いられる検出器。一般には、Si(Li)検出器やシリコンドリフト検出器などの半導体検出器が用いられている。EDS検出器に入射したX線はそのエネルギーに比例した数の電子-正孔対を作るので、これを電流として取り出し、測定することで入射したX線のエネルギーを知ることができる。なお、入射X線により発生する熱を測定してX線のエネルギーを知るマイクロカロリメトリー検出器が開発されている。

  • K-レシオ
    k-ratio

    同一条件で測定した、標準試料のX線強度に対する未知試料のX線強度の比。相対強度と同義語。

  • KLMマーカー
    KLM marker

    EDSの機能の一つ。ピークを同定するためにスペクトル上に表示される線状のマーカーで、特性X線(K線、L線、M線)のエネルギー値を意味する。

  • P-B比 (P/B)
    P-B ratio,peak-to-background ratio

    スペクトルのバックグラウンド強度(B)に対する、ピーク強度(P)の比。これに対して(P-B)/BをL-B比と言う場合がある。

    P-B比

  • ROI
    region of interest

    元素マッピングを行うには、特定元素のX線ピークに対して、ある程度のエネルギー幅を持った領域を指定し、この領域に入るエネルギーを持つX線の数を信号として、画像化する。この領域をROI(ロイ)と言う。

  • Si(Li)検出器
    Si(Li) detector

    LiをドープしたSi単結晶を検出素子として用いるエネルギー分散形X線分光用の検出器。
    電子線を試料に照射した際に発生するX線が検出素子に入射すると、そのエネルギーに比例した量の電子―正孔対が素子内部に発生する。X線入射面と反対側の面にはアノード(収集電極)があり、入射面と収集電極に電圧を印加することにより、発生した電子を収集電極に集め、集められた電荷量を測定することで、X線のエネルギーを測定する。
    Si(Li)検出器は一般に、0.1~40 keVのX線を検出することができ、B(原子番号5)~U(原子番号92)の特性X線を検出することができる。エネルギー分解能は130~140 eV(Mn Kα線の5.9 keVに対する半値幅)。電圧を印加した際にドープしたLiの拡散を防ぐため、また熱ノイズと暗電流を少なくするために、検出素子を液体窒素で冷却する必要がある。
    現在は、Si(Li)検出器に比べて、単位時間当たりのX線の計数率が高く、ペルチェ素子による冷却で使用できるシリコンドリフト検出器(SDD)が広く使われている。

  • UTW検出器
    UTW detector,ultra-thin window detector

    EDS検出器の一種。検出器前の真空隔壁としてポリマーの薄膜が使われているため、ベリリウム膜を使用したものと違って、低エネルギーのX線の吸収が少なくB以上の元素が検出できる。

  • X線像
    X-ray image

    特性X線を使った元素分析の一方法。特定のエネルギーを持つ特性X線の計数率を信号として電子プローブを走査することで、各点からのX線放出量の違いを画像化したもの。X線像という言葉は使われなくなっており、元素マッピングと呼ばれることが多い。

  • ZAF補正
    ZAF correction

    定量分析を行うときに、1) 原子番号(Z:atomic number) 効果、2) 吸収(A:absorption) 効果、3) 蛍光励起(F:fluorescence) 効果の三つの効果によって、発生する特性X線強度への影響を考慮する補正。1)~3)の効果を合わせてZAFと呼び、それぞれの効果を以下に説明する。

    1. 原子番号効果

    原子番号効果とは、未知試料を構成する元素と標準試料を構成する元素との違い、つまり平均原子番号の違いが特性X線の発生に及ぼす効果のことである。 原子番号効果の補正には、後方散乱因子(backscattering factor)と侵入因子(penetration factor)がある。

    後方散乱因子は、平均原子番号の大小によって、特性X線の発生に寄与しない後方散乱電子の量の違いに対する補正因子のことである。未知試料の平均原子番号が大きいほど、特性X線の発生に寄与しない後方散乱して試料の外に飛び出す電子は増大し、発生に寄与する試料内部に侵入していく電子は減少する。

    侵入因子は、質量阻止能(mass stopping power)の大小によって、侵入電子が発生させる特性X線の量の違いを補正する補正因子のことである。侵入電子は、非弾性散乱によって試料中の原子を励起したり、イオン化し、さらに特性X線を発生させ、そのエネルギーを失う。侵入電子が単位質量深さ[1]を通過した際に失うエネルギーは、エネルギー損失の割合すなわち質量阻止能で表される。未知試料の平均原子番号が大きいほど、質量阻止能は小さくなる。その結果、侵入電子による特性X線の発生効率は大きくなる。

    このように、後方散乱因子と侵入因子は、平均原子番号の大小に対して、発生する特性X線の強度を互いに打ち消すように作用する。 未知試料中の元素Aの濃度を算出するための原子番号補正係数(GZA)は、後方散乱因子と侵入因子を用いて次式で表される。

    GZA = (RStdA / RUnkA) x (SUnkA/SStdA)

    RStdA:標準試料の元素Aに影響を与える後方散乱因子(backscattering factor)

    RUnkA:未知試料の元素Aに影響を与える後方散乱因子(backscattering factor)

    SStdA:標準試料の元素Aに及ぼす阻止能(stopping power factor)

    SUnkA:未知試料の元素Aに及ぼす阻止能(stopping power factor)

    2. 吸収効果

    吸収効果とは、試料中で発生した特性X線が、試料表面から放出されるまでに、試料中の共存元素によって吸収され、X線強度が減ってしまう効果である。特に、原子番号が小さい元素からの低エネルギーの特性X線は、原子番号の大きい元素による吸収の影響が大きい。逆に、原子番号が大きい元素からの高エネルギーの特性X線は、原子番号の小さな元素による吸収がほとんどなく、X線強度の減少はほとんど無視できる。したがって原子番号の小さい元素の定量分析において、吸収補正は重要になる。

    X線の吸収量は、試料の質量吸収係数(μ/ρ)とX線検出器の取り出し角θで定義された変数 χ = (μ/ρ)cosecθの関数f (χ)として表される。X線検出器による取り出し角θが小さいと変数 χは大きくなり、発生した特性X線は試料中をより長い距離進むため大きな吸収を受ける。元素Aに対する吸収補正係数(GAA)は、標準試料に対する未知試料の吸収量の比として、次式で表される。(変数χは、構成元素のX線吸収の度合いと、特性X線が試料中を通過する距離に関係している)

    GAA = fStdA StdA)/fUnkA UnkA)

    fStdA StdA): 標準試料中の元素Aから発生した特性X線の、構成元素のX線吸収の度合いと通過距離に関する変数χについての吸収関数

    fUnkA UnkA): 未知試料中の元素Aから発生した特性X線の、構成元素のX線吸収の度合いと通過距離に関する変数にχについての吸収関数

    3. 蛍光励起効果

    蛍光励起効果とは、試料に共存する他の元素から発生したエネルギーの高い特性X線が、二次的に、測定対象の元素Aの特性X線を発生させることによって、特性X線強度が上乗せされる現象である。標準試料と未知試料での元素Aの特性X線の蛍光励起量の違いを、蛍光励起補正係数を使って補正する。蛍光補正係数(GFA)は、入射電子線によって元素Aからの特性X線の発生量と、共存元素に起因する元素Aからの特性X線(蛍光X線)の発生量の比(蛍光励起比率)γを用いて、次式で表される。

    GFA = (1+γStdA)/( 1+γUnkA)

    γStdA:標準試料の元素Aの蛍光励起比率

    γUnkA:未知試料の元素Aの蛍光励起比率

    ただし、蛍光補正係数は、特別な元素の組み合わせ以外は、効果が小さいので無視することが多い。主成分元素のX線エネルギーが、分析しようとする微量元素の励起エネルギーよりわずかに大きい場合には補正量が大きくなる。たとえば、鉄(Fe)中の微量クロム(Cr)では、蛍光励起によってX線強度の上乗せがある。

    ZAF補正による未知試料中の元素Aの重量濃度CUnkAを求める補正式を以下に示す。

    CUnkA = GZA x GAA x GFA x CStdA x KA

    GZA :原子番号補正係数

    GAA :吸収補正係数

    GFA :蛍光励起補正係数

    CStdA :標準試料中の元素Aの重量濃度

    KA :元素Aの相対強度(Kレシオ)

    試料や測定条件によるが、一般的には吸収補正(A)の効果が最も大きく、次いで原子番号補正(Z)、蛍光補正(F)の順となる。

    ZAF補正は、標準試料として単体あるいは化合物のいずれも使用することができ、全ての元素に適用できるため最も一般的に利用されている。ZAF補正の他にφ(ρz)補正などがある。

    [1]質量深さ(mass depth):密度と距離を掛けたもので単位は[g/cm2]。質量厚さ(mass thickness)、面密度(area density)ともいう。電子線やX線が物質を通過する距離を議論する際に、物質の密度の影響を考慮するために用いられる。

  • ウィンドウレス検出器
    windowless detector

    真空隔壁に用いるポリマーの薄膜が無いEDS検出器。隔壁がないので、それによるX線の吸収が無く、低エネルギーの特性X線の検出感度が良い。そのため、原子番号 3 のLiまでのすべての元素が検出できる。ただし、検出器を冷却しているので、試料室を大気にする時には、隔壁がないために検出器に霜が付くのを防ぐために常温に戻す必要がある。また、低真空モードでは検出器が汚染されるため使用できない。

  • エスケープピーク
    escape peak

    EDSのスペクトルに現れるゴーストピークの一種。EDSの場合、入射したX線により、検出器のSiが励起され、本来の特性X線ピークの計数が減ると同時に、SiのX線エネルギー(1.74keV)に相当する低いエネルギー位置にゴーストピークが現れる現象。

  • エネルギーアナライザー
    energy analyzer

    試料から放出される種々の電子のエネルギーを分光し、スペクトルを取得するための装置。複数の電極と検出器で構成され、電極の電圧を変えることで検出器に入射する電子のエネルギーを変え、スペクトルを作る。

  • エネルギー分解能 (スペクトル分解能)
    energy resolution,spectrum resolution

    X線分光による元素分析において、スペクトルの判別可能な最小エネルギー(eV)。およそ半値幅だけ離れたスペクトルの2つのピークは判別できる。エネルギー分解能は検出器のタイプに依存している。
    エネルギー分散型X線分光器(EDS)のエネルギー分解能は、マンガン(Mn) Kα(5.9 keV)のピークに対して定義され、125~140eV程度、波長分散型X線分光器(WDS)では鉄(Fe) Kα(6.4 keV)のピークに対して定義され、約10eVである。WDSの分解能はEDSのそれよりはるかに良いことが分かる。最近開発された波長分散型の軟X線分光器(SXES)の分解能は、アルミニウム(Al) L線のFermi端(73 eV)で定義され、0.3eVである。

  • エネルギー分散X線分光法
    energy dispersive X-ray spectroscopy (EDS,EDX)

    試料から放出された特性X線を半導体検出器で検出してエネルギー分光し、得られたスペクトルのエネルギー値から試料の元素を特定(定性分析)すること、および定性分析によって分った構成元素の濃度をスペクトルの強度から算出する(定量分析)手法。Be~Uまでの元素の定性分析と定量分析を簡便に短時間で行うことができる。エネルギー分解能は、130~140 eV(MnのKα5.9 keVに対して)である。分析領域は、水平方向、深さ方向ともに数100 nm~数 μm程度である。入射電子のプローブ径に比べて分析領域が大きいのは、入射電子が試料内で拡散するためである。
    波長分散型X線分光(WDS)に比べて、一つの試料を短時間で分析できるだけでなく、小さなプローブ電流(数 nA~数10 nA)で分析ができるため試料ダメージが少ないこと、試料の前処理(表面の平滑化)なしで分析ができること、装置が小型でかつ複雑でないこと、などの利点がある。
    ただし、エネルギー分解能はWDSの約20 eVに比べると1桁劣る。そのため、ある元素のL線ピークと他の元素のK線ピークのエネルギー値が近くて分離できないことが起こる。例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)では、TiKαがBaLαと重なり、TiKβがBaLβに重なり、元素の同定が困難になる。また、EDSでは、制動放射による連続X線が作るバックグラウンドのためにP/B(ピーク/バックグラウンド)比が悪く、元素の検出限界(微量元素の検出能力)はWDSに比べて約2桁低い。そのため、濃度が小数点以下1桁以下の微量元素の検出は難しい。
    定量分析には、元素ごとに濃度の分っている標準試料を用いる方法と、標準試料を全く使わない方法(スタンダードレス法)がある。EDSによる定量分析では、スタンダードレス法が広く利用されている。標準試料が不要な理由は、メーカーが予め標準試料のスペクトルを取得してそのスペクトルをコンピューターに保存しているからである。この方法では未知試料のX線スペクトルを一度取得するだけで、後はコンピューターが自動的に全元素の濃度を算出する。ZAF法による補正(試料による入射電子の散乱、および発生したX線の試料内での吸収や蛍光励起が、標準試料と未知試料で違うことを考慮した補正)計算もコンピューターが自動的に行っている。試料を構成する全元素の濃度を瞬時に知ることができるので、試料中の多数の構成元素の大まかな濃度を知りたい場合に極めて便利である。ただし、スタンダードレス法による定量値の精度は、分析の度ごとに標準試料と未知試料を同一条件で測定する方法に比べて劣る。なお、WDSでは、分析の度ごとに標準試料を用いる方法で定量分析が行われる。
     
    下の表にEDSとWDSの主な特徴を示す。

    EDS WDS
    測定元素 Be~U Be~U
    測定方式 半導体検出器による
    エネルギー分光方式
    分光結晶による
    波長分光方式
    エネルギー分解能 約130 eV 約20 eV
    測定速度 速い 遅い
    多元素同時測定 不可
    検出限界 1500~2000 ppm 10~100 ppm
    単位電流当たりの
    X線検出量
    多い 少ない
    試料損傷 少ない 多い

    表 EDSとWDSの主な特徴
     

  • エネルギー分散形X線分光器
    energy dispersive X-ray spectrometer (EDS,EDX)

    X線をエネルギーで弁別し、スペクトルを得る分光器。一般には、半導体を使ったEDS検出器が用いられており、分析元素範囲はB~Uである。EDS検出器、多重波高分析器、パーソナルコンピュータなどでシステムが構成されているが、WDSに比べて、検出器の取り付けに幾何学的な制限が少ないので多くのSEMに取り付けられている。全元素範囲の同時分析ができる、分析時のプローブ電流が小さくて済むなどの特長もあるが、エネルギー分解能、検出限界などではWDSの方が有利である。

    EDS

  • オージェ電子分光法
    Auger electron spectroscopy (AES)

    電子線により励起されて試料から放出されるオージェ電子のエネルギーを測定することによって、試料表面に局在する元素の分析を行う手法。オージェ電子はエネルギーが小さいため、表面敏感であり、極表面の数nm深さの分析が可能である。従って、試料は超高真空の雰囲気に置かなければならない。

  • 回折格子
    diffraction grating

    平面あるいは凹面のガラス基板に数百nm~数µmピッチの周期的な凹凸を付けたもの、あるいはそれをレプリカにしたもの。回折現象を利用して光の分光を行うもので、カソードルミネッセンス分光器に使われる。

  • 吸収補正
    absorption correction

    ZAF補正における補正項の一つ。試料中で発生した特性X線は、試料による吸収を受けるために強度が減衰する。この吸収の割合は、試料を構成している元素の種類や濃度により異なり、これを、吸収効果(absorption effect)と言うが、これに対する補正を吸収補正と言う。

  • クリフ・ロリマー補正
    Cliff-Lorimer correction

    STEMによる薄膜試料のEDS分析で使われる定量補正法。バルク試料で必要なZAF補正が薄膜試料では無視できるとしている。標準試料を使わない代わりに、加速電圧やX線の検出効率に依存するk因子(k-factor)と呼ばれるパラメータを、予め測定しておく必要がある。薄膜近似が成り立つ場合にのみ使用できる方法であるから、低加速電圧STEMでの適用には、試料が十分薄い領域を選ぶなどの注意が必要である。

  • 蛍光補正
    fluorescence correction

    ZAF補正における補正項の一つ。入射電子により励起されたX線が、他の元素を励起し特性X線を放出する現象を蛍光励起(fluorescence excitation)と言うが、標準試料と未知試料では、組成が異なるために蛍光励起量が異なる。これを、蛍光励起効果(fluorescence excitation effect)と言い、これに対する補正を蛍光補正と言う。

  • 計数率
    counting rate

    1秒間に検出器に入射する、あるいは計数されるX線の数。単位はcps(counts per second)。

  • 検出感度
    detection sensitivity

    検出限界と同義語。また、ある検出器で検出できる元素あるいは化合物の最小量(detector sensitivity)として、検出器の性能を意味する場合がある。

  • 検出限界
    detection limit

    ある測定法で検出できる元素あるいは化合物の最小量。絶対量で表現する場合と濃度で表現する場合がある。測定法の性能を意味する。

  • 検出効率
    detection efficiency

    試料から放出された電子や電磁波の内、検出されて信号となる割合。

  • 検出立体角
    detection solid angle

    試料上の電子線入射点から検出器を見込んだ立体角。数値が大きいほど検出効率が高いことを意味する。なお、二次電子、反射電子の場合は、対物レンズの磁界や検出器の電界の影響を受けるため、単純な幾何学的な立体角とは異なる。

  • 検量線法
    calibration-curve method

    定量分析の基本的な手法。元素濃度とX線強度が一定の関係を持つことを利用してX線強度から元素濃度を直接求めるもので、補正計算を必要としない。比較的似たような成分を持つ複数の試料を標準試料として検量線を作り、原則的には内挿法によって未知試料の濃度を求める。測定条件は同一でなければならない。標準試料としては、未知試料と組成が似ているだけでなく、均一な濃度と同じような表面を持つことが要求されることから、適用可能な試料はある程度限定される。

  • 原子番号補正
    atomic-number correction

    ZAF補正における補正項の一つ。入射電子の侵入深さや反射電子の発生率は、試料の平均原子番号に依存するため、入射電子の特性X線に対する発生寄与率が異なる。これを、原子番号効果(atomic number effect)と言い、これに対する補正を原子番号補正と言う。

  • 元素マッピング (EDS)
    Elemental mapping (EDS)

    特性X線を用いた元素分析の方法のひとつ。指定した領域の指定した元素の特性X線の強度分布または元素の濃度分布を二次元的に表示して、試料の元素の分布を可視化する方法。

    エネルギー分散型X線分光法 (EDS) による元素マッピングでは、分析対象の領域を電子線で二次元的に走査し、発生する特性X線スペクトルをその画素ごとに取得する。それらのスペクトルから分析対象の元素のX線強度または元素濃度を算出して各画素に表示することで、元素マップを得る (図1)。

    図1 元素マッピングの方法

    図1 元素マッピングの方法

    • (a) 元素Aと元素Bが存在する領域を電子線で二次元的に走査し、画素ごとにX線スペクトルを得る。
    • (b) 図 (a) 中の画素 (i) から得られたスペクトル。元素Aの特性X線のエネルギー位置に強いX線ピークが形成されている。
    • (c) 図 (a) 中の画素 (ii) から得られたスペクトル。元素A、Bそれぞれの特性X線エネルギー位置にピークが形成されている。
    • (d) 図 (a) 中の画素 (iii) から得られたスペクトル。元素Bの特性X線エネルギー位置にピークが形成されている。
    • (e) 図 (a) 中の各画素のスペクトルから、元素Aの特性X線の積分強度を抽出、または元素濃度を算出し各画素に表示すると、元素Aの元素マップが得られる。

    EDSの元素マップには3種類あり、そのうちの2つは特性X線の強度マップ、1つは元素の濃度マップである。それぞれのマップの特性を、以下の表1に示す。

    表1 EDSの元素マップの比較表

    表1 EDSの元素マップの比較表

    (I) 特性X線の強度マップ

    マッピング領域の各画素のスペクトルから、分析対象の元素の特性X線強度を抽出して表示したもの。強度マップからは、その元素がマッピング領域のどこに多く存在しているかを定性的に知ることができる。これは、同じ条件で電子線が照射された場合に検出される特性X線の強度は、その元素の存在量におおむね比例するためである。

    特性X線の強度マップには以下の2種類ある。

    (i) ROIの積分強度の分布 (カウントマップ) を表示する方法

    元素ごとにエネルギーの広がりの領域 (ROI: Region Of Interest) を設定し、画素ごとにROIのX線強度の積分値を表示する方法である。JEOL製品では「カウントマップ」と表記している。

    この方法は、ROI中のX線の強度を積算するという単純な処理なので、簡便に、しかも高速に表示できるのが最大の利点である。

    ただし、EDSのエネルギー分解能が約130eV (Mn-Kα 5.9keVに対して) であるため、着目する元素に対するROIに他の元素のROIが重なることがあり、正しくない元素分布を表示することがある。また、連続X線によって形成されるバックグラウンド強度が画素によって大きく異なる場合には、バックグラウンド強度の大きな違いも一緒に示してしまうために、特性X線の強度の違いを正しく示さないマップとなる可能性がある。

    (ii) バックグラウンド除去とピーク分離処理をした積分強度の分布 (ネットマップ) を表示する方法

    (i) の方法での欠点を除き、元素分布の精度を上げる方法。JEOL製品では「ネットマップ」と表記している。

    この方法では、あらかじめ質量濃度が既知の標準試料のスペクトルを取得し、連続X線によるバックグラウンドを除去して、標準スペクトルとして使用する。次に、未知試料を測定し、得られたスペクトルからバックグラウンドを除去する。その後、図2に示すように、二つの元素の標準スペクトルにそれぞれ係数をかけて二つのスペクトルを合成し、未知試料のスペクトルを最も良く再現するように係数の値を決める。こうして、未知試料の重畳しているピークは、二つの元素の特性X線ピークに分離される。元素ごとに算出した係数 (すなわち標準スペクトルに対する未知試料のスペクトルの強度の比) に標準スペクトルの積分強度値を掛けると、未知試料のスペクトルから特性X線の積分強度を算出できる。これらの処理を画素ごとに実行することで、対象元素の特性X線の強度分布が得られる。

    図2 ピーク分離の概念図

    図2 ピーク分離の概念図

    Sunkをもっともよく再現する係数tAtBを次の式から求める

    S^unk  ≈t_A×S_A^std+t_B×S_B^std

    ②未知試料に含まれる元素AとBの積分強度 (I_A^unk, I_B^unk) を次の式から求める


    I_B^unk=t_B×I_B^std

    ただし、 I_A^stdI_B^stdは、元素AまたはBの標準スペクトルから求めた積分強度である

    (II)元素濃度マップ (定量マップ)

    マッピング領域の各画素について元素濃度を算出して表示したもの。一般的に、「定量マップ」と表記される。

    元素濃度マップ (定量マップ) は以下のような方法で求める。まず、各画素 (p) におけるスペクトルのX線強度を、標準スペクトルと同等の測定条件で取得した強度となるように規格化する。次に、ネットマップと同様の方法で係数 (tp) を求める。規格化した状態で求めた係数は、標準試料と未知試料のX線強度比で、Kレシオ(Kp)と呼ばれる。さらに、標準試料と未知試料での共存する元素の違いによるX線強度の違いを表す補正因子 (Gp) をZAF補正やφ (ρz) 法を使って求める。標準試料の濃度をCstdとすると、各画素 (p) における元素濃度  C_p^unk は、次式から求まる。

    C_p^unk=C^std×G_p×K_p

    (詳細は、関連用語「定量補正」「ZAF補正」「ファイローゼット法φ(ρz)法)」を参照)

    実際の分析例 : SnPbBi合金の強度マップおよび濃度マップ

    ROIの積分強度の分布 (カウントマップ) を表示する方法での欠点を、バックグラウンド除去とピーク分離処理 (ネットマップ) によって改善した事例を紹介する。

    図3 (a) はSnPbBi合金の反射電子組成像である。緑、赤、青で示した矩形領域でX線スペクトルを測定した。緑の領域からはSnのスペクトル、赤の領域からはPbのスペクトル、青の領域からはBiのスペクトルが観察された。Snのピークのエネルギー領域はPbやBiのエネルギー領域と重複していないが、PbとBiのピークのエネルギー領域は重複している。そのため、ROIの強度を積分する方法で元素マップを作成すると、PbとBiのROIが重複して図4の左列のようにPbとBiの存在場所が区別できないマップとなる。

    他方、ピーク分離処理によって積分強度を表示する方法を用いると、図4の中央列のようにPbとBiの存在を明瞭に分離して示せる。なお、右列の元素マップは濃度マップである。この場合には、濃度マップはネットマップとほとんど変わらないが、それぞれの領域の濃度を、右のカラースケールを使って、定量的に示すことができる。

    図3 SnPbBi合金の反射電子像とそのX線スペクトル

    • (a) SnPbBi合金の反射電子組成像
    • (b), (c), (d)  図 (a) 中の緑、赤、青の領域から測定したX線スペクトル。「Sn-Lα」などのラベルはSiegbahnにより命名された特性X線の名称であり、電子の遷移過程を示している。例えば「Sn-Lα」は、L殻のp軌道にできた空孔にM殻のd軌道の電子が遷移したことにより発生した特性X線を表している。
    図4 カウントマップ (左列)、ネットマップ (中央列) と定量マップ (右列) の3種類の方法で作成したSn-Lα、Pb-Mα、Bi-Mαの元素マップ。

    図4 カウントマップ (左列)、ネットマップ (中央列) と定量マップ (右列) の3種類の方法で作成した
    Sn-Lα、Pb-Mα、Bi-Mαの元素マップ。

    Snの分布については、3種類のマップで差は見られない。
    Pbのネットマップ・定量マップは、Pbがある領域 (赤) とPbがない領域 (黒) を正しく示している。しかし、カウントマップでは、Biからの特性X線も取り込んでしまうため、本来Pbのない黒い領域の一部にPbが少し存在している (暗い赤) かのように示されている。

    Biのネットマップ・定量マップは、Biが多く存在する領域 (青)、Biが存在する領域 (暗い青) 、Biが存在しない領域 (黒) の3領域を正しく示している。しかし、カウントマップでは、共存しているPbからの特性X線も取り込んでしまうため、青と暗い青との区別がほとんど不明になっている。

    ただし、この試料には、定量マップのカラースケールで表現されるような連続的な変化はない。

    付録 Feを含有する鉱物試料の強度マップと濃度マップの例

    元素濃度とX線強度はおおむね比例関係にあるため、ネットマップと定量マップは、似た分布を示すことが多い。しかし、試料によっては、共存する元素によるX線の吸収などの効果のために、ネットマップと定量マップが異なる分布となることがある。

    以下に、Feの含有量が異なる2種類の鉱物からなる試料を調べた例を示す。図5は鉱物試料の反射電子組成像である。左側の黒い部分 (領域A) と右側の明るい部分 (領域B) のそれぞれの領域でX線スペクトルを測定した。領域AはFe、Mn、Oからなり、領域BはFe、Sから構成されていることが分かった。ZAF補正を施した定量分析の結果から、領域AのFeの濃度は領域Bよりも高いことが分かった。

    これら二つの領域の強度マップとZAF補正を行った濃度マップを図6に示す。二つの強度マップ (左と中央) では、領域Bの方がFeの特性X線強度が高いことを示している。他方、濃度マップ (右) は、領域Aの方がFeの濃度が高いことを示している。この事例から、ZAF補正の重要さが分かる。

    図5 鉱物試料の反射電子組成像

    図5 鉱物試料の反射電子組成像

    領域A (赤い矩形)、領域B (青い矩形) で測定したX線スペクトルにZAF補正による定量分析を行った結果。領域Aの方が領域BよりFeの濃度が高いことがわかる。

    図6 3種類の方法で作成したFeの元素マップ

    図6 3種類の方法で作成したFeの元素マップ

    Fe-KαのX線強度または元素濃度が高い部分を明るい緑色で示し、低い部分を暗い緑色で示している。カウントマップおよびネットマップでは、右側の領域の強度が高くなっているが、定量マップでは右側の領域の濃度が低くなっている。

  • コリメーター
    collimator

    試料上の電子線入射点以外からの散乱X線を遮蔽するように、EDS検出器の直前に置かれた絞り。

  • ゴーストピーク
    ghost peak

    EDS検出器あるいはWDS検出器の検出機構に起因する偽のピーク。

  • サムピーク
    sum peak

    EDSのスペクトルで観察されるゴーストピークの一種。短い間隔で2個のX線が検出器に入射すると、2個のX線として分離計測することができず、1個のX線として計測される。その結果、2個のX線のエネルギーを加算したエネルギーを持つピークとして観察される。これを、サムピークと言う。

  • 散布図
    scatter diagram

    定量マッピングから得られたデータの表示方法。化合物の元素濃度を軸にして、ある濃度比を持つデータの頻度分布を示した図。これを利用して相マップを得ることができる。
    下図は亜鉛鋼板から得られた散布図で、横軸はZnの濃度、縦軸はFeの濃度を示す。赤色で示されたクラスタは鋼板、青色で示されたクラスタは亜鉛めっき層であるが、水色および黄色のクラスタは、間にできた2種類の金属間化合物層に対応する。

    散布図

  • シリコンドリフト検出器
    silicon-drift detector (SDD)

    シリコン単結晶に、円盤状のカソード、環状電極と小さな収集電極 (アノード) を備えたエネルギー分散型X線分光 (EDS, Energy Dispersive X-ray Spectroscopy) 用の検出器(SDD, Silicon-drift detector)。
    電子顕微鏡に搭載し、電子線を試料に照射した際に発生する特性X線を検出することで元素を同定する。従来のSi (Li) 型検出器に比べ、電気信号の高速処理が可能になり、計数率が2桁以上 (>105cps) 向上した。その結果、元素分析のスピードが向上した。
    液体窒素冷却でなくペルチェ冷却で作動するため検出器は小型軽量になり、現在はEDS検出器の主流になっている。エネルギー分解能はSDDが128-135 eV (Mn Kα線 (5.9 keV)) で、Si (Li) 型検出器の130-140 eVより向上している。

    SDDおよびSi (Li) 型検出器ではともに、X線が検出器のシリコン単結晶に入射すると電子-正孔対が発生し、電子 (電荷Q) はアノードへ移動し、正孔はカソードに移動する。その結果、カソードとアノードの間に電圧Vを生じる。その電圧を測定することから、最終的に構成元素を同定している。
    Si (Li) 型検出器では、アノードの面積がX線の受光面と同じ面積で静電容量Cが大きく、ノイズN に対する信号S (∝電圧V、V=Q/C) の割合が十分でなかった。そのため、ノイズの主要因である熱ノイズを減らすためにシリコン単結晶を液体窒素で冷却し、さらに、信号を長時間積算することでノイズNの割合を減少させ、S/N比を向上させる必要があった。
    そのため、受光面が10 mm2より大きなSi (Li) 型検出器ではS/N比をあげるために、長時間の信号積算が必要で実用的ではなかった。
    他方、SDDでは、静電容量を小さくするため、図1のように、受光面 i の反対側の中心に10-4 mm2 (幅10 µm 程度) 以下の小さなアノード ii を配置し、その周りに環状電極 iii が置かれている。環状電極には、発生した電子をアノードに集めるために、外側から内側に行くにしたがって電圧が段階的に高くなるようにしてある。
    このアノードとカソードの間で作られる静電容量Cが小さいため信号Sが大きくなり、液体窒素ではなくペルチェ冷却 (-数10℃程度) および短い積算時間で高いS/N比が得られる。その結果、特性X線の計数率がSi (Li) 型検出器に比べ、2桁以上(>105cps)向上し、短時間での特性X線の測定ができるようになった。
    さらなる計数率向上のため、受光面を大きくしても、高いS/N比を保つことができるので、信号の積算時間は短くてすむ。現在は、受光面が100 mm2を超える検出器も実現している。計数率の向上により、元素分析のスピードが向上したことで、SEMの照射電流を大きくし、SEM像観察と同時に元素分析を行うリアルタイム分析やライブ元素マッピングが可能になっている。
    また、X線の発生量が少ない低加速電圧での分析が広く行われるようになった。

    SDDの動作原理

    特性X線がSDDに入射し、元素が同定されるまでの動作を図1に示す。
    カソードi には負の電位、アノードii には正の電位を印加する。環状電極iii には、電子がアノードii に向かうような負の電位を与える。特性X線のエネルギーを hν (h プランク定数、ν 振動数) とすると、このエネルギーに比例した数の電子-正孔対がシリコン単結晶内に発生する。
    1対の電子-正孔対の生成エネルギーが3.6eVなので、例えば、Mn Kα線(5.9keV)の1光子は、電子-正孔対を約1600対発生させる。発生した電子-正孔対のうち電子は、環状電極iiiおよびアノードii に向かう。環状電極に到達した電子は、環状電極とアノードの間にかけられた電位勾配によって、アノードに集められる。
    正孔はカソードi に移動する。カソードi とアノードii の間には静電容量Cがあり、コンデンサーを形成している。コンデンサーに生じた電圧Vを測定する。その電圧VからV=Q/Cという関係を使って電荷Qがわかり、電子1個の電荷量で割れば、発生した電子の個数がわかる。電子の個数からX線のエネルギーを得ることができる。
    その結果、最終的に、元素が同定される。実際には、電圧VとX線のエネルギーとの関係は、標準試料を用いて校正する。

    電磁場重畳レンズ

    図1. 特性X線が左からシリコン単結晶に入射する。

    ①正孔-電子対が生成される。
    ②カソードi とアノードii および環状電極iiiの間にかけられた電位差により、電子はアノードii と環状電極iii に向かう。環状電極に到達した電子は、環状電極とアノードの間にかけられた電位勾配によって、アノードに集められる。正孔はカソードi に移動する。集積した電荷Qによりカソードi とアノードiiの間に作られたコンデンサーに発生する電圧Vを測定する。
    この電圧Vから集積した電荷QがV=Q/Cの関係から分かり、特性X線1光子あたりに発生した電子数を求め、特性X線のエネルギーを算出することで、最終的に元素が同定される。

  • 状態分析 (化学状態分析)
    chemical state analysis,state analysis

    電子線照射による信号発生領域の化学結合状態を調べる分析法。元素を調べる組成分析に対比して使われる用語。特性X線を利用した場合、WDSでは可能であるが、EDSではエネルギー分解能が低いため状態分析はほとんど不可能である。カソードルミネッセンスを使うと可能となる場合がある。

  • スタンダードレス法 (簡易定量法)
    standard-less correction

    定量分析で使われる補正法の一つ。定量分析は、一定条件で取得した標準試料のスペクトルと未知試料のスペクトルを比較することで結果を出すものであるが、標準試料を使わず、未知試料のスペクトルのピーク強度比に補正計算を行って、合計濃度が100%になるように近似する定量補正法をスタンダードレス法と呼ぶ。この中には、ある条件で予め取り込んだ標準試料のスペクトルを利用する方法もある。定性分析で含有元素を調べるので、未知試料分析の場合、元素の見落としが少ない。また、標準試料を揃えておく必要が無いので分析は簡単で迅速であるが、誤差は大きくなる。

  • スペクトルイメージング (スペクトルマッピング)
    spectrum imaging,spectrum mapping

    EDSにおけるデータの保存・表示方法の一つ。試料表面を2次元的に走査しながら、各画素毎にスペクトルを収集することで、試料上の位置とスペクトルを関係づけた形でデータを保存する。データ収集後、任意の点のスペクトルを表示したり、任意のX線エネルギーの元素マッピングや線分析を行ったり、定量マッピングを行うことができる。

  • 線分析
    line analysis

    元素分析の表示法の一つ。SEM像の上で指定した直線上の元素分布を示すが、注目する特性X線のP-B比が十分でないとき、特性X線のエネルギーが接近しているときは正しい分布を示さないことがあるので注意が必要である。

  • 相対強度
    relative intensity

    同一条件で測定した、標準試料のX線強度に対する未知試料のX線強度の比。K-レシオと同義語。A元素の相対強度KAは標準試料のX線強度をIAstd、未知試料のX線強度をIAunk、標準試料中のA元素の質量濃度をCAstdとすると次式で表される。

    KA式

  • 相分析
    phase analysis

    定量マッピングの結果から、元素の組成比を解析し、化合物の分布を表示する方法。

  • 多重波高分析器
    multi-channel pulse-height analyzer,multi-channel PHA (MCA)

    複数のチャンネルを持った波高分析器。EDSの計測系に使われるが、EDS検出器の出力パルスをX線のエネルギー毎に計数するのに使われる。すなわち、出力パルスの電圧はX線エネルギーによって異なるので、チャンネル毎の閾値が少しずつ違う複数の波高分析器を並べておけば、X線エネルギー毎の計数ができ、スペクトルデータが得られることになる。

  • 縦形分光器
    vertical spectrometer

    WDSの一種で、ローランド円と電子プローブが同一平面内にあるように配置された分光器。試料の高さがずれると分光条件が外れることから、高さ合わせ用の光学顕微鏡が必須である。複数の分光器を、お互いの干渉が無い状態で電子光学系の周囲に配置できるので、主としてEPMAの分光器として使われる。

  • 定性分析
    qualitative analysis

    試料から放出された特性X線のエネルギーまたは波長から、試料を構成する元素を同定する分析。特性X線のエネルギースペクトルを用いる場合をEDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)といい、波長スペクトルを用いる場合をWDS(Wavelength Dispersive X-ray Spectroscopy)という。

    分析モードとして、試料上の一点に電子ビームを止めて特性X線のスペクトルから含まれる元素を求める点分析、目的とする元素が指定した線上にどのように分布しているかを表示する線分析、目的とする元素が指定した面内でどのように分布しているかを表示する面分析(元素マッピング)がある。

    EDSでは、短時間にしかも簡便に定性分析を行うことができる。ただし、エネルギー分解能はマンガン(Mn)のKα(5.9keV)に対して定義され128~140eVである。そのためエネルギー値が分解能に近い複数の元素のピークが互いに重なり合う。例えば、ストロンチウム(Sr)のLα(1.806keV)とケイ素(Si)のKα(1.739keV)のピークは重なり合う。下表に、主要元素からのKα線とそれに近接する他元素からの特性X線を示す。

    このような場合、WDSを用いれば、それらの元素からのピークを分離して検出できる。WDSのエネルギー分解能は、波長をエネルギー換算すると、10~20eVと非常に高いからである。また、EDSでは含有量が10分の数%以下の微量元素はピークとして認識できないため、定性分析で同定することができない(検出限界)。WDSを用いると1000分の数%の微量元素まで検出できる。

    なお、EDS、WDSともに、試料に入射する電子ビーム径が小さくても、X線の発生領域は数100nm~数μm程度になる。

    表 特性X線のピークの重なり

    表 特性X線のピークの重なり

  • 定量分析
    quantitative analysis

    試料から放出された特性X線のエネルギーまたは波長を用いて、試料を構成する元素の濃度を測定する分析。特性X線のエネルギースペクトルを用いる場合をEDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)といい、波長スペクトルを用いる場合をWDS(Wavelength Dispersive X-ray Spectroscopy)という。

    通常、試料中のある元素(元素A)の定量分析を行う場合、元素Aの濃度が分かっている標準試料を用いる。まず、標準試料中の元素AのX線強度と、測定しようとする未知試料中の元素AのX線強度の比(相対強度)を求める。次に、求めた相対強度を標準試料中の元素Aの濃度に掛け合わせる。さらに、標準試料と未知試料でのX線強度の違いを補正する因子(補正係数)を掛け合わせることで、未知試料中の元素Aの濃度を決定する。この補正係数を求める方法は定量補正と呼ばれ、ZAF補正、ファイローゼット法(φ(ρz)法)などがある。

    EDSでは標準試料を使わずに定量分析を行うことができる機能があり、スタンダードレス定量(簡易定量あるいは半定量)分析と呼ばれる。この方法では、あらかじめ多くの標準試料を使って取得したX線強度の標準データをもとに、前述の定量分析と同様のプロセスを自動的に行う。測定ごとに標準試料の測定をする必要はないため、簡便かつ迅速に定量分析結果が得られる。ただし、未知試料の組成が、標準試料の組成に近くないと、定量補正の精度が悪くなる場合がある。より正確な定量結果を求めるには、標準試料を使った定量分析を行う必要がある。

    なお、定量分析では、X線の発生領域で元素の分布が一様であること、試料表面が平坦であること、電子ビームが試料に垂直に入射していること、を前提としている。

  • 定量補正
    quantitative correction

    電子線照射によって発生する特性X線を用いて、未知試料(測定したい試料)中の元素の定量分析を行う際に用いる補正。未知試料と標準試料(構成元素の質量濃度が既知)から発生する特性X線の強度比(Kレシオ=CU/CStd)を用いて算出された未知試料の第一近似濃度に補正を行い、真の濃度を決定する。

    未知試料と標準試料では構成元素とその存在比が異なるために、測定した強度比(Kレシオ)は未知試料と標準試料の濃度比に等しくはならず、補正が必要である。補正因子Gは、次に示す三つの補正からなる。1) 特性X線の発生効率(原子番号補正GZ)、2) 発生した特性X線が試料内を通過する際の吸収(吸収補正GA)、および 3) 他の元素に起因する蛍光X線の効果(蛍光補正GF) (図1)。これらの補正因子を計算する手法として、ZAF補正やφ(ρz)法がある。

    定量補正計算の流れを図2に示す。補正因子Gを算出するには、まず未知試料からの全ての特性X線を測定し、未知試料の構成元素(N = A, B, C,…)を特定する。以下に、上に述べた補正を行って未知試料中の元素の質量濃度の求め方について説明する。

    元素A に対して測定から得られたKレシオKA =CAU/CStdAに、標準試料中の元素Aの質量濃度CStdAを掛けることで、未知試料中の元素Aの質量濃度の第一近似濃度CA0を算出する。未知試料の元素 B, C,… に対しても同様のことを行い、第一近似濃度 CB0, CC0, …を算出する。未知試料を構成する全元素の第一近似濃度CN0を用いて補正因子GN0を計算で求める。第一近似濃度CN0(= CStdN x KN)にGN0を掛けて第二近似質量濃度CN1を求める。次に、補正した全ての質量濃度CN1を用いてGN1の値を求め、 GN1をCN0に掛けることで CN2を得る。この操作を繰り返して、算出した質量濃度 CNi+1 の値がその前の値 CNi に近くなったときに、その値を真値とする。

    KレシオやCN0を求める方法として、①標準試料を用意して特性X線強度を実測するスタンダード定量、②理論計算やEDSメーカーが用意したリファレンスデータを用いるスタンダードレス定量、の2種類がある。

    未知試料と標準試料での構成元素の平均原子番号の差が大きく異なると、特性X線の発生効率や試料内での吸収の違いが大きくなるため、補正量は大きくなる。一般的には吸収補正の効果が最も大きく、次いで原子番号補正、蛍光補正の順となる。特に20kVや30kVといった高い加速電圧では、電子線が試料内のより深い位置まで侵入し特性X線を発生させるので、特性X線が試料内を通過する距離が長くなるため、吸収補正が重要となる。蛍光補正は特定の元素の組み合わせ以外は影響が小さいため無視できることが多い。吸収補正、原子番号補正、蛍光補正の詳しい説明はZAF補正の項目を参照のこと。
     

    定量補正に使用する三つの補正因子

    図1 定量補正に使用する三つの補正因子

    試料に入射した電子の一部は、試料を構成する原子と弾性的・非弾性的に散乱されて(①)、一部は反射電子として試料外に放出される。試料内に侵入した電子は連続X線を発生させつつ、元素Aの特性X線を発生させる(②)。また、試料中の別の元素Bの特性X線を発生させ(③)、そのエネルギーを失う。このような散乱過程における特性X線発生効率の標準試料と未知試料での違いを原子番号補正GZとして補正する。

    発生した特性X線の一部は試料に吸収される。吸収の大きさは構成元素とその存在比により異なるため、標準試料との違いを吸収補正GAとして補正する(④)。

    また、他の元素Bの特性X線(③)や連続X線により、元素Aの特性X線と同じエネルギーのX線(蛍光X線)が発生する場合(⑤)がある。蛍光X線によるX線強度の標準試料との違いを蛍光補正GFとして補正する。

    未知試料の質量濃度への定量補正計算の流れ(スタンダード定量の場合)

    図2 未知試料の質量濃度への定量補正計算の流れ(スタンダード定量の場合)

  • 定量マッピング
    quantitative X-ray mapping,quantitative elemental mapping

    元素分析の一方法で、マッピングを行う際に一点毎に定量分析を行い、元素濃度の2次元的な分布を得る方法。通常行われる元素マッピングでは、微量元素の場合、特性X線のP-B比が十分でなく、得られたマッピングは必ずしも正しい元素の分布を示さないことがある。このような場合、正しい元素分布を得るには、定量マッピングを行う必要がある。

  • 点分析
    point analysis

    試料上の一点に電子プローブを照射して定性分析、定量分析を行う方法。電子プローブの径がどんなに小さくても、試料中での電子の拡がりのために分析領域がある程度の大きさを持つことに注意を要する。

  • デッドタイム
    dead time

    EDS検出器における不感時間。X線のパルスを電気信号に変換する時に若干の時間を要するため、数え落としが生ずる。X線の計数率が高くなるとデッドタイムは大きくなり、波形の劣化が起きたり、ゴーストピークが発生する。

  • 電子プローブマイクロアナリシス
    electron probe microanalysis (EPMA)

    電子プローブマイクロアナライザを使った分析法。

  • 取り出し角
    take-off angle

    試料表面とX線検出器のなす角度。一般のSEMにおいては30~40゜程度であり、この角度が大きくなるとX線の試料中での減衰量が小さくなり、角度が小さくなると減衰量が大きくなる。所定の作動距離以外で分析を行ったり、試料表面が傾いた状態で分析を行うと、取り出し角が初期設定値と異なるため定量分析の精度が悪くなる。

    取り出し角

  • 薄膜分析
    thin-film analysis

    元素分析の空間分解能を上げるための一方法。薄膜試料を使うことで試料中での電子の拡散を小さくすることができるので、空間分解能を膜厚あるいはそれ以上にすることが可能である。
    下図は、鉄のバルク試料(左)と100nm厚の薄膜試料(右)に30keVの電子が入射したときの、X線発生領域を比較したモンテカルロシミュレーションの結果である。X線発生領域は、バルク試料の場合約 2μmであるが、薄膜試料の場合は約 50nmと極めて小さな値となる。X線発生領域が小さくなるので計数率は低くなり、検出器には検出効率を上げるための工夫が必要である。定量分析ではクリフ・ロリマー補正が使われるが、精度は低くなる。

    薄膜分析

  • 波高分析器
    pulse height analyzer (PHA)

    X線検出器の出力パルスの内、設定した電圧範囲に入るものだけを計数する装置。

  • 波長分解能
    wavelength resolution

    WDSを使って分光したときのスペクトル分解能。波長とエネルギーは対応することからエネルギー分解能と同義語である。

  • 波長分散X線分光法
    wavelength-dispersive X-ray spectroscopy (WDS,WDX)

    試料から放出された特性X線を波長分散型X線分光器によって分光し、得られたX線スペクトルの波長から試料の元素を特定(定性分析)すること、および定性分析によって分かった試料構成元素の濃度をスペクトルの強度から算出する(定量分析)手法。Be~Uまでの元素を検出できる。エネルギー分解能は約20 eVで、EDSよりも1桁高い。このため、エネルギー値が近い特性X線を確実に分離してそれぞれの元素を同定することができる。また、検出限界(微量元素の検出能力)は、スペクトルのS/Nが良いため、EDSに比べて約2桁高く、100 ppm以下微量元素(特に微量軽元素(B~F))の検出が可能である。WDSによる定量分析で得られる定量値の精度は高く、湿式化学分析による定量値に近い。分析領域の大きさは、入射電子が試料内で拡散するため、水平方向、深さ方向ともに、EDSと同様に、数100 nm~数 μm程度である。
    エネルギー分解能が高いため、構成元素のエネルギー値が近接している試料や、L線が極めて近いエネルギー領域に集中している希土類を多く含む試料では、EDSでなく、WDSでないと構成元素の分離・同定(定性分析)ができない。
    ただし、波長分散型X線分光では、装置がEDSに比べて大型で複雑である。WDSは分光結晶に入射したX線のうちブラッグの回折条件を満たしたX線のみを分光して検出するため、そのX線検出効率はEDSの1/100程度である。そのため、WDSではS/Nの高いスペクトルを得るために大きなプローブ電流(数100 nA以上)が必要で、熱に弱い試料では電子線によるダメージを受ける場合がある。また、異なる元素の特性X線を検出する場合、分光結晶とX線検出器をローランド円と呼ばれる円周に沿って機械的に移動させて、一つ一つの特性X線を時系列で検出するため、分光は波長ごとに行うので、EDSのように異なる元素を同時に分析することができず測定時間は長くなる。さらに、WDSでは試料表面の分析領域に10 μm近いあるいはそれ以上の凹凸があると、分析点がローランド円から外れて、検出点での特性X線の収束性が悪くなり、X線強度が低下する。そのため、試料の表面は機械研磨やイオン研磨を施して平滑にしなければならない。
    WDSによる定量分析では、試料中の注目する元素、例えば元素A、の濃度を知るために、元素Aの濃度が判っている標準試料を用いる。標準試料と未知試料について、それぞれの元素Aの特性X線強度スペクトルを得る。ここで、標準試料と未知試料のスペクトルは同じ条件(加速電圧、プローブ電流、作動距離)で取得する。得られたX線強度の比(相対強度)に、標準試料中の元素Aの濃度を掛け合わせて、未知試料の元素Aの濃度を得る。さらに、精度の高い濃度を得るために、この数値に、試料による入射電子の散乱、および発生したX線の試料内での吸収や蛍光励起が、標準試料と未知試料で違うことを考慮した補正(ZAF補正やΦρZ補正で得られた補正係数を掛け合わせること)を行う。注目する元素が複数の場合は、それぞれの元素に対して標準試料を準備し、前述の作業を順次行う。
    WDSの定量測定には、標準試料の準備と測定に手間と時間がかかる。多数の試料の全構成元素について大雑把な濃度が分かれば良いという分析には、EDSが適している。EDSによる標準試料を使わない定量分析(スタンダードレス法)では結果がすぐに得られる。WDSとEDSでは、それぞれの長所を生かす使い方をすることが望ましい。下の表にWDSとEDSの主な特徴を示す。

    WDS EDS
    測定元素 Be~U Be~U
    測定方式 分光結晶による
    波長分光方式
    半導体検出器による
    エネルギー分光方式
    エネルギー分解能 約20 eV 約130 eV
    測定速度 遅い 速い
    多元素同時測定 不可
    検出限界 10~100 ppm 1500~2000 ppm
    単位電流当たりの
    X線検出量
    少ない 多い
    試料損傷 多い 少ない
    表 EDSとWDSの主な特徴

  • 波長分散形X線分光器
    wavelength-dispersive X-ray spectrometer (WDS,WDX)

    試料から発生する特性X線を、分光結晶によるブラッグ反射を利用して、波長ごとのスペクトルを得る分光器。試料に含まれる元素の定性分析と定量分析に使われる。
    波長分散型X線分光器は、図1に示すように分光結晶と検出器で構成される。試料上のX線の発生点、分光結晶、X線検出器は、ローランド円と呼ばれる円の円周上にあり、X線の発生点から分光結晶までの距離と、分光結晶からX線検出器までの距離は常に等しくなるように配置される。三者をこのように配置することによって、試料上の一点から出射したX線は検出器上に集光する。出射したX線はブラッグの法則nλ=2dsinθを満足する波長のX線のみが結晶で反射(回折)されてX線検出器に到達する。波長の異なる特性X線を検出するためには、分光結晶を移動して、結晶へのX線の入射角度θを変え、異なるブラッグ反射を用いる。その際、分光結晶とX線検出器はローランド円上を連動して動く。分光結晶の移動に伴ってローランド円自体も移動する。分光結晶は取出し角(図中のΦ)を一定に保ったまま直線上を移動させる。取り出し角を一定に保つのは、試料中の吸収の条件を同じに保つためである。
    結晶で分光するときに、集光の効率をよくするために、図2に示すようにローランド円の曲率近くまで(約2倍の曲率まで)結晶を湾曲させた分光結晶(ヨハン型)や、集光の精度を上げるために結晶の表面をローランド円(の曲率)に合うように研磨した(ヨハンソン型)分光結晶が使われる。
    広い波長範囲にわたるX線スペクトルを得るために、格子面間隔の異なる複数の分光結晶が搭載されており、分析しようとする元素の特性X線の波長範囲に合わせて使い分ける。代表的な分光結晶としては、格子面間隔が、小さいものとしてLiF(lithium fluoride、(200)面間隔:0.4nm)、中間的なものとしてPET(pentaerythritol、(002)面間隔:0.87nm、大きいものとして、TAP(thallium acid phthalate、(100)面間隔:2.6nm)、STE(stearate、面間隔:10nm)がある。なお、STEは超格子X線分光素子と呼ばれ、脂肪酸鉛の積層膜で、脂肪酸に付着した鉛原子の配列が結晶の格子面として働く。
    これらの分光結晶とその分析対象元素を下表に示す。

    分光結晶 元素(K線) 元素(L線) 元素(M線)
    TAP O - P Cr -Nb La - Hg
    STE B - O Ca - Cr
    PET Si - Ti Pb - La Ta - U
    LiF Ca - Rb Sn - U
     

    図1 WDSの原理 ⇒ 図1

    試料(分析点)、分光結晶、X線検出器は、常にローランド円上に位置するように設計されている。波長の異なる特性X線を検出するためには、分光結晶を移動して、結晶へのX線の入射角度θを変え、異なるブラッグ反射を用いる。より広い波長範囲にわたるX線スペクトルを得るためには、格子面間隔の異なる複数の分光結晶を用いる。X線の取り出し角を一定の角Φに保って、直線上を移動する分光器を、結晶直進型と呼び、SEM用いられるWDSに採用されている。

    図2 分光結晶の形状 ⇒ 図2

    分光結晶には、湾曲して曲率をローランド円半径の2倍にしたヨハン型(上)、湾曲+研磨して、曲率をローランド円と同じにしたヨハンソン型(下)がある。

  • 非分散形X線分光器
    non-dispersive X-ray spectrometer (NDS)

    エネルギー分散形X線分光器の古い呼び方。最近は使われなくなった用語である。

  • 標準試料
    reference specimen,standard specimen,reference material

    特性X線を用いた定量分析を行うときに用いる、元素濃度がわかっている試料。安定であることのほか、表面が平坦であること、均一な組成を持つこと、などが要求される。

  • 表面分析
    surface analysis

    固体表面の形態観察、元素分析、あるいは状態分析を行うこと。SEMの場合、電子プローブを使うので、電子プローブ径あるいは試料中での電子の拡散領域で決まる局所分析となる。

  • ファイローゼット法(φ(ρz)法)
    Phi-Rho-Z method (φ(ρz) method)

    特性X線を用いた定量分析(試料を構成している元素の質量濃度を求めること)における、定量補正法の一つ。特性X線の発生量の深さ分布(発生関数φ(ρz)、ρは質量密度、zは深さ、ρzは質量深さという)を用いることで、ZAF補正では別々に扱われていた原子番号効果や吸収効果を同時に考慮することができ、精度の高い補正が可能になる。特に、重元素と共存している軽元素を分析する場合や、加速電圧が高く試料内のより深い部分から特性X線が発生する場合といった、吸収効果が大きい条件においてZAF補正より精度の高い定量分析ができる。

    バルク試料を、厚さΔ(ρz)の薄膜が層状に重なったものとして考える。ある質量深さρzで発生する特性X線の強度ΔI(ρz)は(図 1の左図)、電子線が質量深さρzに到達するまでに散乱を受けるため、厚さΔ(ρz)の1枚の薄膜から発生する特性X線強度ΔI(図 1の右図)に質量深さρzでの発生関数φ(ρz)を掛ける必要がある。

    バルク試料と薄膜試料における照射電子線量の違い

    図 1 バルク試料と薄膜試料における照射電子線量の違い。

    (a)バルク試料、(b)薄膜試料。バルク試料の場合、入射した電子線は質量深さρzに達するまでに散乱を受ける。そのため、薄膜と同じ厚さΔ(ρz)の層から発生する特性X線の強度ΔI(ρz)は、薄膜で発生する特性X線強度ΔIと異なり、発生関数を掛ける必要がある。

    発生関数φ(ρz)のモデル式はいくつか提案されており、一般的には、ρzに対するφの変化は図 2のような形状をしている。ある質量深さ(ρz m)まではφ(ρz)は増加する。その理由は、散乱により電子の方向が変えられるため、各層を通過する際の電子線の距離が長くなることにより特性X線を励起する確率が上がること、および後方散乱により深い層から戻ってきた電子も励起に寄与するためである。ρz mより深い位置では、φ(ρz)は減少する。これは、散乱によりその深さまで侵入する電子の数が少ないことと、電子のエネルギーが減衰し特性X線を励起できなくなることに因る。

    発生関数φ(ρz)

    図 2 発生関数φ(ρz)

    特性X線の発生関数φ(ρz)の質量深さρz依存性。一般的にはある質量深さρz mまでは増加し、それ以降は減少する。

    ある質量深さρzで発生する元素Aの特性X線強度ΔIA(ρz)は、質量濃度CAを考慮すると、

    とあらわされる。ただし、ΔIAは質量厚さΔ(ρz)の一枚の薄膜試料から放出される元素Aの特性X線強度、CAは元素Aの質量濃度[mass%]、φA(ρz)は元素Aに対する発生関数、ρは試料の質量密度、zは試料の深さである。

    さらに、発生した特性X線 ΔIA(ρz)は、試料外に放出されるまでに、試料内を通過する距離に応じた吸収を受ける(図 3)。吸収の大きさは、試料の質量吸収係数や検出器の取り出し角を考慮したX線の通過距離に依存し、減衰する指数関数で表される。その結果、試料外の検出器に向かう特性X線の強度ΔI’A(ρz)は、

    となる。ただし、[μ/ρ]は元素Aの特性X線に対する試料内での質量吸収係数、θは試料表面に対する検出器の取出角度である。

    特性X線が検出されるまでに試料内を通過する距離

    図 3 特性X線が検出されるまでに試料内を通過する距離

    ある質量深さρzで発生した特性X線は、検出器に入射するまでに試料内の t = ρz/sinθ の距離を通過する。

    検出される特性X線強度I’Aは、式(2)を質量深さρzについて積分することにより求めることができ、

    となる。
    よって、標準試料(化学組成が既知の試料)と未知試料の、検出される特性X線強度の比は、以下のように表される。

    ただし、は未知試料から検出される元素Aの特性X線強度、は標準試料から検出される元素Aの特性X線強度、は未知試料中の元素Aの質量濃度、は標準試料中の元素Aの質量濃度、(ρz)は未知試料の元素Aの発生関数、(ρz)は標準試料の元素Aの発生関数、は未知試料における元素Aの特性X線に対する質量吸収係数、は標準試料における元素Aの特性X線に対する質量吸収係数を示す。

     = K(Kレシオ)なので、以下のように変形できる。

    が、φ(ρz)法における、原子番号効果および吸収効果の補正項である。
    さらに、ZAF補正と同様に、蛍光補正()を考慮することによって、φ(ρz)法の定量補正係数(G)は

    となる。

    参考文献:
    Joseph I. Goldstein, Dale E. Newbury, Joseph R. Michael, Nicholas W.M. Ritchie, John Henry J. Scott and David C. Joy (2017) “Scanning Electron Microscopy and X-ray Microanalysis 4th edition” springer.

  • 分光結晶
    analyzing crystal

    結晶でのX線の回折現象を利用して分光を行うための結晶。WDSに使われるが、広い波長範囲をカバーするためには、結晶面間隔が異なる複数の分光結晶を備える必要がある。

  • 分析領域 (解析領域)
    analysis area,analysis volume

    特性X線、オージェ電子、カソードルミネッセンスなどの分析信号発生領域。EBSDなどでは解析領域という用語が使われる。入射した電子が試料内部で拡散するため、分析領域は電子プローブ径に比べて大きくなるのが普通であるが、分析に使う信号の発生機構も大きく影響する。平面的な領域を意味する場合と分析深さを意味する場合がある。特性X線の場合、平面的な領域、分析深さとも数百nm~数µmであるが、オージェ電子の場合、平面的な領域は数十nm、分析深さは数nmとなる。

    分析領域

  • プローブトラッキング
    probe tracking

    高倍率で元素マッピングを行うようなとき、長時間のデータ収集となるため、電子プローブの照射位置がずれてしまうことがある。これを防ぐために、分析中の照射位置のずれを検出して、そのずれを補正しながらデータ収集を行う機能。

  • ベリリウム膜付き検出器
    beryllium-window detector

    EDS検出器の一種。検出器前にある真空隔壁として7~10µm厚のベリリウムの薄膜が使われている。このため、Naより軽い元素のX線は吸収が大きく、ほとんど検出できない。最も古くから使われてきたEDS検出器である。

  • マイクロカロリメトリー検出器
    microcalorimetry detector

    EDS検出器の一種。極低温に保たれた熱吸収体にX線が入射すると微量の熱を発生するが、X線のエネルギーにより温度上昇が異なるため、これを検出することでX線のエネルギーを測定するEDS検出器で、現在開発段階にある。WDS並のエネルギー分解能を持っているが、計数率と受光面積が極めて小さいので、実用分析に利用するためには、検出立体角を大きくするような工夫が必要である。

  • マッピング
    mapping

    電子プローブを試料上で2次元的に走査し、試料からの情報を取得したり、得られた結果を2次元的に表示すること。元素の2次元的な分布、あるいは結晶方位の2次元的な分布を知るために使われる。

  • 面分析
    area analysis

    ある程度広い領域の定性分析、定量分析を行うもので、平均的な値を得るための方法。点分析に対比して使われる用語で、画面内の特定な点を選ぶのではなく、画面内を2次元的に走査しながら分析を行う。なお、元素マッピングを面分析と言う場合がある。

  • 横形分光器
    horizontal spectrometer,inclined spectrometer

    WDSの一種。ローランド円が水平面から30゜程度傾いた状態で配置されているのが特徴である。このため、試料の高さがわずかにずれても分光条件を満たすことから、高さ合わせ用の光学顕微鏡が不要であり手軽に扱えるので、SEMに取り付けられるのはこの形式が多い。

  • ローランド円
    Rowland circle

    WDSで分光する波長を変える場合には、分光結晶を動かして行うが、この時、X線の発生源(分析点)、分光結晶、検出器はいつも一定の半径を持つ円の上に乗ったまま動く必要がある。この円をローランド円と言う。

    波長分散分光器