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福井県立恐竜博物館

走査電子顕微鏡(SEM)で解き明かす恐竜の謎

福井県立恐竜博物館は、福井県の人気スポットです。博物館の展示裏には、さながら"恐竜研究所"と言えるような場所があります。研究員が新種の恐竜や世界レベルの発見といった成果を続々と出しており、その中でもSEMは無くてはならない装置として活躍しています。

華々しい展示の裏には、17人もの研究員

福井県立恐竜博物館は、大規模な増改築工事を経て2023年7月14日にリニューアルオープンしました。常設展示室の全身骨格標本は従来の44体から50体に増えました。増築した新館には特別展示室が設けられ、壁3面を高さ9m×横16mの大型スクリーンにすることで、実物大に近い恐竜の動き回るCG映像が、入館者の周囲に展開されます(特別展の期間外のみ上映)。新館3階の「化石研究体験室」も今回のリニューアルの目玉です。プロ仕様の道具を使って化石を取り出すなどの体験ができます。

リニューアルオープン後約1か月の入館者数は20万人を超え、令和元年度(コロナ禍前)の同期間と比較して16.5%増となりました。北陸新幹線の金沢・敦賀間延伸(2024年3月16日)を考えると、今後も増加が見込まれます。すっかり福井県の人気スポットになった同博物館ですが、それを裏で支える組織に目を向けると、世界的に見てユニークなスタッフ構成になっています。研究員の数が17人と実に多いのです。他の博物館を見ると、例えば世界3大恐竜博物館に数えられるカナダのロイヤル・ティレル古生物学博物館の研究員は5人です。日本の国立科学博物館には50人を超える研究員がいますが、地質や古生物を研究する地学研究部の研究員は12人です(いずれも部長職、センター長など管理職は除きます。2023年12月時点)。「自然史系博物館で特定分野の研究者がこんなにいるのはうちだけではないか」(今井氏)。さながら、"恐竜研究所"と言ってよい陣容です。

続々と成果をもたらす研究員

多くの研究員を抱えている理由、それは研究員が新種の恐竜や世界レベルの発見といった成果を続々と出し、それが博物館の魅力につながっているからです。

例えば福井で見つかった新種の恐竜のほとんどに福井県立恐竜博物館の研究員が関わっています。2023年9月8日には勝山市北谷町で発掘された恐竜化石が新種の恐竜であることが分かったとの発表がありましたが、それを発表したのは同博物館です。学名記載論文の著者には同博物館の現役研究員4人の名前があります。新種恐竜は「ダチョウ型恐竜」と呼ばれるオルニトミモサウルス類の新属新種なのですが、一部の骨がティラノサウルスの仲間と似ていることから、学名は「福井のティラノもどき」を意味する「ティラノミムス・フクイエンシス」としました。福井県で発掘され学名が付いた恐竜としては6例目です。

世界レベルの発見もありました。

研究員の今井拓哉氏は、福井県立大・恐竜学研究所の研究生だった2014年に、福井県勝山市の恐竜化石発掘現場で見つかった卵殻化石が約1億2000万年前(前期白亜紀)の鳥類の卵であることを確認しました。当時、鳥類の卵化石は約8000万年前(後期白亜紀)のものが世界最古とされていたので、これを4000万年以上更新したことになります。

ヒプセロサウルスの卵化石(後期白亜紀)

ヒプセロサウルスの卵化石(後期白亜紀)

今井拓哉氏

今井拓哉氏

また、手取層群北谷層のうち河川や湖沼で溜まった地層を発掘すると、多くの貝類の化石が見つかります。そしてやはり1億2000万年前の地層から見つけた二枚貝の化石に、色彩模様が保存されていることを見つけたのが安里開士氏です。保存状態がよく模様が残っていてもこれまでの方法だと模様を壊さずに貝の化石を取り出すのは難しかったのです。「サンドブラスター(砂を吹き付けて研磨する工具)で少しずつ丁寧に研磨することで、模様を保ったまま貝化石を取り出すことに成功しました」(安里氏)。

美しく、また現代の貝との相違がほとんどないので、共同執筆者の中山健太朗氏は「模様を見ると今の貝との違いが分からないほど」といいます。
現生の淡水二枚貝類は、甲殻類、魚類、鳥類、爬虫類、哺乳類に捕食されており、貝殻の色と模様が生息環境へのカモフラージュに貢献していると考えられています。つまり、北谷淡水二枚貝化石は、何者かに捕食されていた可能性があります。捕食者候補は、先行研究を考慮すると、甲殻類、魚類、鳥類、爬虫類のほかに、一部の恐竜類も含まれていると考えられます。

走査電子顕微鏡JSM-IT500HR/LAで観察する中山健太朗氏

走査電子顕微鏡JSM-IT500HR/LAで観察する中山健太朗氏

発表したのは2022年7月。当時、淡水二枚貝の化石で模様が分かる化石は約1500万年前のものが唯一で最古でした。安里氏らの研究で一気に1億年以上、年代を遡りました。この研究成果は常設展示室の「福井の恐竜」コーナーに展示されています。「来館した際はその美しい模様を是非見ていただきたい」(安里氏)。

淡水貝類化石

淡水貝類化石

淡水貝類化石を説明する安里開士氏

淡水貝類化石を説明する安里開士氏

機能も使い勝手もすべてが良くなった走査電子顕微鏡(SEM)

SEMの焦点深度は光学顕微鏡の焦点深度の約100倍大きいといわれています。SEMを使うことで光学顕微鏡では難しい高倍率での観察を行えることに加えて、卵や貝類といった比較的大きな化石に対して、像面の前後のボケが十分に少ないデータを得ることができます。
また、卵化石の殻の断面を観察することで、結晶構造からは分類の特定を行うことができます。同じく貝類の小さな欠片からも模様などを観察したうえで分類を特定することもできるので、SEMでの観察は重要な手段となります。
化石サンプルが見つかるとSEMを使った観察が始まります。化石研究にはどのようなSEMを使っているのでしょうか。

「まず化石は貴重なので金属蒸着はしたくないため、低真空であることは必須です。私たちは大きな化石の小さな所を見ます。大きなサンプルが入ること、そして全体を見てから見たい場所を指定してズームする。これを繰り返すので、その動作がスムーズなこと。それと組成分析もしたいのでEDS(エネルギー分散型X線分析装置)も要りますね」(今井氏)。

福井県立恐竜博物館では、開館した2000年ごろに導入した日本電子株式会社のSEMを20年近く使い続けてきましたが、2019年に後継となるJSM-IT500HR/LAに入れ替えました。使い心地を聞くと「すべての点で前モデルより数段、良くなっています。視野移動やズームがマウスのみで素早くできる。何よりSEM撮影の前に試料室内の写真をカラーで撮れることはうれしい。化石はほぼモノトーンだとはいえ、電子顕微鏡の白黒画像になると観察したかった場所がどこなのか、目印を見失ってしまうのですが、カラーになったことで解消された」(今井氏)。

走査電子顕微鏡JSM-IT500HR/LA

JSM-IT500HR/LAを利用するのは同博物館の研究員にとどまりません。試料に電子線を照射した際に生じる発光状態を分析できるカソードルミネッセンス(CL)検出システムを搭載しており、岩石や鉱物などの地質学上重要な情報を得るのに利用することができます。そのため富山大学が「利用したい」と来るケースがあるといいます。また、同博物館の研究員の何人かは福井県立大学の教員を兼務しているので、同大学の研究に利用するというケースもあるでしょう。なお、2025年には同大学に「恐竜学部」が誕生する予定です。そうなると同学部から利用依頼がくる可能性もあります。JSM-IT500HR/LAは北陸の研究拠点からの需要に広く応える装置として活躍していきそうです。

プロフィール

プロフィール(写真左より)

中山 健太朗 氏

高知大学大学院総合人間自然科学研究科博士課程修了。博士(理学)[高知大学]
2018年4月~:福井県立恐竜博物館

安里 開士 氏

筑波大学大学院生命環境科学研究科博士後期課程修了。博士(理学)[筑波大学]
2020年4月~:福井県立恐竜博物館

今井 拓哉 氏

金沢大学大学院自然科学研究科博士後期課程修了。博士(理学)[金沢大学]
2015年4月~:福井県立恐竜博物館(兼務)
2019年4月~:福井県立大学恐竜学研究所
2020年4月~:地球科学可視化技術研究所株式会社 恐竜技術研究ラボ(兼務)
2021年12月~:株式会社恐竜総研(兼務)

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