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極低温プローブ「UltraCOOLプローブ」「SuperCOOLプローブ」の開発

2013年、JEOL RESONANCEは極低温プローブ「UltraCOOLプローブ」と「SuperCOOLプローブ」を発売した。常温プローブをはるかに凌駕する高感度に加え、冷却したままでマグネットへの取り付け・取り外しができること、温度可変測定が可能であることなど、従来品にない使い勝手を実現した製品は、大きな反響を呼んでいる。その誕生までにはいくつものドラマがあった。

UltraCOOLプローブ

UltraCOOLプローブ

SuperCOOLプローブ

SuperCOOLプローブ

感度向上の歴史

NMRの歴史は、感度向上の歴史だ。
電磁波のなかでもエネルギーの弱いラジオ波を用いるNMRは、他の分光法に比べれば、きわめて感度が悪い。 だが、分子の構造情報を得やすいNMRは、有機化合物の構造解析にはなくてはならない測定法だ。そのため、1950年代の半ばに市販のNMR第1号が発売されて以来、市場はつねに感度の向上を求め続けてきた。

それだけに、感度を一気に2〜5倍にも向上させる極低温プローブの登場は、衝撃的だった。

熱雑音に埋もれていた信号がいくつも頭を出し、観測に要する時間も、4〜25分の1まで短縮する。

大学時代、自身がNMRのユーザでもあった朝倉克夫(現JEOL RESONANCE ソリューションマーケティング部 副主査)が、JEOL RESONANCEの前身である日本電子に入社したのは2001年。極低温プローブがライバル社から発売されたのは、ちょうどその年だった。

信頼に応えるために

それから10年もの歳月を経て、極低温プローブ開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーとなった朝倉に課せられたミッションは2つあった。
限られた期間で2種類の800 MHz用 −250 ℃タイプを完成させる。そして−200 ℃用プローブを開発し、発売するという2つだ。
分けても1つ目のミッションは、困難が予想された。
朝倉が辞令を受け取った時点で、会社はすでに顧客から1本目の極低温プローブの納品を契約していた。
期日までに求められる感度の出せる極低温プローブを納入するという条件で、800 MHzのNMRシステム一式を納入していたのだ。

「ライバル社と競合するなかで、うちを信じて買ってもらったわけですから、約束を反古にするわけにはいきません。やるしかない。そう自分に言い聞かせました」

もちろん、見込みがなかったわけではない。成約した時点で技術陣は600 MHzでの基礎実験に成功していた。顧客もその実験成果を見て、見込みは十分あると判断したのだ。
だが、800 MHz用となれば、コイルも検出器もまったく別の設計が必要となる。

それからはまさに怒濤の日々だった。朝倉は工程表を手に技術陣を叱咤激励し、技術陣もそれに応え、急ピッチで開発を進めた。休日も、夏期休暇も返上した。
契約の期日を目前にしてチームの努力が実った。JEOL RESONANCE初となる極低温プローブ「UltlaCOOLプローブ」が無事顧客のもとに届けられたのだ。
冷凍機が低くうなりを上げるなかで、初めてのサンプルがセットされた。

結果は圧巻だった。得られたデータでは、13C核の感度が3600以上あり、炭素—炭素結合を直接的に観測するINADEQUATE測定が、分子量480程度の生薬の有効成分に対し、わずか10mgの試料量で完全検出可能となった。
しかもこれに要した時間は43時間。常温プローブで同じ測定を行えば、25倍の約45日間の積算が必要だったところだ。

胸を撫で下ろす間もなく、朝倉らは再び開発現場にこもった。
仕事は、まだ残っている。

15 mg AM-2201 benzinidazole along (FUBIMINA,1) in CDCl3 13C 2D-INADEQUATE, 256 scans, 800MHz UltraCOOL Probe The data were kindly provided by Dr. Goda (NIHS).

15 mg AM-2201 benzinidazole along (FUBIMINA,1) in CDCl3 13C 2D-INADEQUATE, 256 scans, 800MHz UltraCOOL Probe
The data were kindly provided by Dr. Goda (NIHS).

800MHz用 UltraCOOLプローブ(CH)

800MHz用 UltraCOOLプローブ(CH)

完全なる敗北

そんなある日、朝倉のもとに「UltlaCOOLプローブ(CH)」の引き合いが寄せられた。
600 MHzの極低温プローブを導入しようとしているので、競合はあるがデモに参加してくれないかというものだ。 朝倉は喜んで承諾した。 800MHz用を開発する過程で、600 Mhz用も製品化できていた。 性能は同等。価格では負けない自信があった。 だが、結果は予想を完全に裏切るものだった。

「完敗でした。性能では遜色ないと思い込んでいたのに、ふたを開けてみたらこちらは常温プローブに比べ約5倍の感度に対し、相手は約10倍の感度だったんです。努力目標にさせてくださいとお願いしましたが、差がありすぎました。」

しかし、この敗戦はチームの闘争心に火をつけることになった。
昼夜を問わず改良を繰り返し、各部の調整を進めた結果、約1カ月で同等以上の性能を出すことに成功したのだ。

「測定時間にすれば、100分の1。もはや違う世界です」

と朝倉は目を輝かす。

違いを出せ

プローブ・リフター

プローブ・リフター

こうした中断がありながらも、ミッションは工程表通りに進み、再び朝倉はユーザのもとを訪れた。
この日の納品には、さらに魅力的なオプションが付いていた。

プローブをユーザの手で上げ下ろしできる「プローブ・リフター」だ。

プローブ自体けっこう重量があるうえに、冷却用のパイプなどが接続されているため、極低温プローブの取り外し・取り付けは容易ではない。 だが、CHとHXを取り替えるなどして別の観測をしたいというニーズは、多くのユーザが抱えている。
プローブ・リフターを使えば、パイプを接続したまま、つまりプローブは極低温のまま、マグネットから外して他のプローブと取り替えることができる。
極低温プローブを有効温度まで下げるためには、まる1日かかるが、冷凍機を2セット用意して同時に冷やしておけば、無駄な時間をかけることなく次の観測に移ることもできる。
他社の製品は、ユーザの手で付け替えることが困難で、メーカーのメカニックを呼ばなければ、取り外すこともままならない。
しかもマグネットにセットしてから冷却しなければならないため、装置に遊ぶ時間ができてしまうことを朝倉たちは知っていた。

「後発ですから、なんとしても差別化したかった。みんなで頭を寄せあって考えたアイデア。お客様にはとても喜んでいただけました」

違いは他にもある。もともとJEOL RESONANCEは温度可変測定を得意としているが、UltraCOOLプローブは、極低温プローブでありながらも-40〜150 ℃までの温度可変測定が可能だ。ポリマーなどの観測には、大いに威力を発揮する。

新たな市場を目指す

2013年、チームはもうひとつのミッションである、−200℃タイプの極低温プローブ「SuperCOOLプローブ」の発売にこぎつけた。
他社製品にもあった液体窒素で冷却するタイプに加え、冷凍機で冷却するタイプもリリースした。

「液体窒素で冷却するタイプは、週に1度、液体窒素をタンクに補充する必要があります。冷凍機タイプならその煩わしさからも解放されます。この工夫も多くのお客様からお褒めの言葉をいただいています」

今後はプローブのバリエーションの拡充を急ぎ、裾野を広げていきたいと朝倉は意気込む。

「観測時間が100分の1で済むとなれば、これまで考えられなかった分野での応用も期待できます。医療現場で健康診断のついでにNMRで尿や血液中の代謝物を網羅検査して、疾病リスクを提示することもできるようになるかもしれません」

朝倉たちの挑戦は、今日も続いている。

朝倉克夫

朝倉克夫

ソリューションマーケティング部 副主査

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