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表面観察から元素分析、レポート作成までを一括して行える汎用走査電子顕微鏡の開発

2017年8月、日本電子は最新鋭走査電子顕微鏡「JSM-IT500HR」を発売しました。JSM-IT500HRは10万倍の有効倍率を実現したことに加え、エネルギー分散型X線分光器とシステムを統合。表面観察から元素分析、レポート作成までシームレスな操作を可能にした次世代の走査電子顕微鏡です。開発にかけた思いとその誕生の裏側を追います。

JSM-IT500HR開発者

石田 裕介
日本電子テクニクス 開発部開発G開発2T

三島 了太
日本電子テクニクス 開発部開発G開発1T

桑原 博文
日本電子テクニクス システム開発部システム2G

材木 寿志
日本電子テクニクス システム開発部システム2G

表面観察から元素分析、レポート作成までを一括して行える汎用走査電子顕微鏡の開発

JSM-IT500HR

SEMの理想形を追求する日本電子テクニクス

日本電子テクニクスは走査電子顕微鏡(SEM)の開発・製造を行っている。SEMは試料表面の観察に適した電子顕微鏡の一種。一点に集束させた電子線を探針として、試料の表面をなぞるように照射していく。すると、二次電子や反射電子という信号が試料から発生。表面の凹凸や組成に応じて強度が異なるこの信号を正確に検出することで試料表面の素性がわかるという仕組みだ。

日本電子テクニクスのSEMは、生物試料はもちろんのこと有機物・無機物に関わらず幅広い分野の試料を観察できる。 用途も研究目的に限らず、家電や自動車、食品などの製造業での品質管理や安全性の検査に役立てられている。その分ユーザーも多様で、説明書を手に取ることがなくても使えるようなユーザビリティが求められていた。

開発期間短縮という難題

ユーザーがSEMを使いこなせるようになるまでには2つの壁を乗り越える必要がある。一つはどんな倍率でも意図した場所の鮮明な観察像が得られるようになること。もう一つは元素分析ができるようになることだ。
特に元素分析はニーズが高い。SEMを購入する人の8割は表面観察と共に、微小領域や異物の元素分析を目的に装置を導入するほどだ。元素分析の要となるエネルギー分散型X線分光器(EDS)はSEMの重要なアタッチメント。EDSの専門メーカーが製造したEDSをSEMに外付けして使うのが一般的だ。SEMもEDSも両方開発しているメーカーは世界中で日本電子のみ。日本電子であれば、観察と分析を高いレベルで統合させる新しいコンセプトを実現できる。こうしたユーザーニーズや市場動向を鑑み、日本電子テクニクスでは2014年9月に最新鋭SEMの開発プロジェクトが持ち上がり、プロジェクトチームを招集。そこで考えられた仕様はこうだった。一つは高い倍率でも容易に観察をできるようにすること。もう一つがEDSの搭載を前提に装置を開発し、操作を容易にすること。主眼となる2点だけを決め、あとは現場の判断に任された。
日本電子テクニクスの社員も、そのほとんどは入社当初からSEMのエキスパートというわけではない。入社後にSEMの扱いや特性を学び、試行錯誤しながらユーザーに学び、ユーザーに近い感性を養う。そこで感じたことを装置にフィードバックすることで、よりユーザビリティの高いSEMを生み出し、普及に一役買ってきた。

だが、そんな彼らにとっても、今回の開発は覚悟を要した。なによりもプレッシャーとなったのが、開発期間。「多様化するニーズや変化の早い市場に対応すべし」という社長の号令を受け、開発期間は2年に設定された。

「ムリだよ」
チームメンバーの多くが、口にしないまでも、そう感じていた。だがメンバーの一人、開発担当者の石田裕介は「できるかな」と不安に思う一方で、これはチャンスだとも受け取っていた。石田は以前、装置のメンテナンス・サービスを担当していた。顧客から使いやすくしてほしいという要望を直接受けることもしばしばだったが、自身では対応することができなかった。開発担当に伝えても、それが形になってくるのは何年も後。開発期間短縮の必要性を誰よりも感じていた。
その石田を中心に、チームは具体的な仕様や開発手法を検討しはじめた。
「やっぱり倍率は十分高くないと」
「まずはユーザーインターフェイスから手を入れたいな」
使いやすさを追求するという思いは同じとはいえ、担当が異なれば気がつくポイントも異なる。やるからにはいい装置にしたいと、思い思いのアイデアを持ち寄った議論は大いに白熱した。その中で、石田は各々の言い分を汲みつつも、あくまでユーザー目線の使いやすさを重視して、仕様のバランスを取っていった。

石田 裕介

石田 裕介

日本電子テクニクス 開発部開発G開発2T
趣味・特技: 食べ歩き、レッドソックスの応援

海外でのサービス員としての経歴を持ち、国内外問わず数多くのお客様と接してきた。
今回の装置開発では、開発担当として皆を牽引しながら、積極的にユーザー目線を意識した装置開発を行った。

オートマのスーパーカー

試料: 金粒子

試料: 金粒子
加速電圧: 15kV 撮影倍率: ×100,000
高真空モード 二次電子像

まずとりかかったのが、観察像が鮮明に見える倍率の限界、有効倍率の向上だった。EDSを使うにしても、SEMで捉えた像がはっきりしなければ、分析したい場所を見つけることも難しい。加えて、これまでの多目的SEMの有効倍率は2万倍程度で、精密機器メーカーなど0.1μm程度の微小異物や欠陥などを観察する現場では、要求性能を満たさなくなっていた。必要な有効倍率は10万倍以上。低価格でかつ試料を選ばない、10万倍の有効倍率を持つ多目的SEMはまさに市場で求められているものだった。
そこで検討されたのが、有効倍率に直結する高性能の高輝度電子銃の搭載だ。電子銃の性能が向上すれば、従来のタングステン(W)やランタンホウ化物(LaB6)の電子銃よりも電子ビームを細くできるため、飛躍的に有効倍率が上がる。しかし、そのためには電子銃室を超高真空というガス分子が非常に少ない究極の真空状態にする必要がある。必然的に高価格となるため、ハイエンドSEMにしか搭載されてこなかった。
多目的SEMに求められている低価格化を実現するためには、ハイエンドSEMで培われている電子銃の技術をできるだけコンパクト化する必要があった。ハイエンドSEMは研究者用に最高性能を目指して開発されているため、搭載されている電子銃の扱いもデリケートな手順を必要とする。その簡便化も図る必要もあった。
電子光学系の設計担当の三島了太は本社の技術を勉強するだけでなく、電子光学に関する文献も読み漁り、ひとつのことに気づいた。

「ユーザーも、開発者も、SEMは難しいものという常識にとらわれ過ぎているのではないか」

ユーザーがほしいのは画像や解析データという結果だ。SEMを使いこなすことが求められているのではない。ならば最高性能ではなくとも、必要最小限の操作でそこにたどり着く方法を考えることはできないか。どんなに取扱いの難しいデリケートな光学系であっても、それを上回る制御技術と仕組みさえあれば簡単でコンパクトになるはずだ、とアイデアが沸々と湧いてきた。
「自動調整ボタンさえあればすべてすむこと。オートマのスーパーカーを作れるのに、マニュアルのスーパーカーしか作ってこなかったんです」(三島)。

開発は順調に進むかに見えたが、思わぬところで問題が持ち上がった。SEMに必須の高圧(電源)タンクを諸般の事情により変更せざるを得なくなったのだ。その当時、代替の高圧タンクは2種類の候補があり、開発グループ内部でもどちらの高圧タンクを採用するかで意見は二分されていた。タンクのコントロール方法はそれぞれの種類で全く異なっており、いずれを採用するにしても制御する電気回路やハードウェアは作り直しに等しい作業になる。装置の発売まで約半年、代替高圧タンクがどちらに決まるかを待ってから制御回路を作っていたのでは、とても時間がない。チームの誰もが頭を抱えていたところ、普段は寡黙なファームウェア開発担当者の桑原博文がおもむろに口を開いた。
「じゃあ、何が来てもいいようにすればいいよね」。
自らの言葉に突き動かされるかのように、桑原は開発に没頭。わずか半月後には、どちらの仕様にも適合できるファームウェアを完成させていた。必ず装置のリリースに間に合わせるという強い意志がなしえた桑原渾身の作だった。こうして装置のハードウェアは完成に近づきつつあった。この時プロジェクト開始からすでに2年が経とうとしていた。

三島 了太

三島 了太

日本電子テクニクス 開発部開発G開発1T
趣味・特技: 筋トレ(歴1ヵ月半)

装置の性能を左右する電子光学系の設計・開発を行う。
今回の開発では、多目的SEMの鏡筒全体を効率的に改良することで、従来よりも低コストで高輝度電子銃を搭載することに成功した。

桑原 博文

桑原 博文

日本電子テクニクス システム開発部システム2G
趣味・特技: ジョギング、 家庭菜園

ファームウェアの開発担当者。
今回の開発では、突然の高圧タンクの変更による電気回路の全面見直しにも関わらず、強い責任と信念の下、期間内に間に合わせてファームウェアを完成させた。

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