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GC/MS/MSによるTSCA・RoHS同時分析 [GC-TQMS Application]

MSTips No.410

はじめに

TSCAはToxic Substances Control Act (有害物質規制法) の略称であり、2021年2月に米国EPA (Environmental Protection Agency) により、Table 1に示す5物質が規制され、その一部の使用が禁止された。DecaBDE、PIP (3:1) とHCBDの3成分については、規制値が設けられておらず、不検出 (N.D.) であることとされている。さらに、閾値の設定がないためより低濃度まで検出する必要がある。分析手法としては、RoHS分析と同様にGC-QMSによるSIM測定が考えられるが、部材によっては大量の夾雑成分を含む可能性があり、SIM測定データを用いた定量分析が困難となる事が懸念される。これに対し、GC/MS/MSのSRM測定であれば、選択したプリカーサーイオンとプロダクトイオンの組み合わせによる測定となるため、夾雑成分からの影響を抑えることができる。さらに、SIM測定では、分子イオンもしくはフラグメントイオンの1種類のイオンを用いた測定であるのに対し、SRM測定では、プリカーサーイオンとそのプリカーサーイオンから生成されるプロダクトイオンの2種類のイオンを用いた測定となるため、結果として、SRM測定ではSIM測定よりも多くの情報を得ることができる。それにより、微量成分の定性解析能力も向上する。 今回は、GC/MS/MSを用いてTSCA・RoHS同時分析を行ったので報告する。

 

Table 1 Regulated substances by TSCA

Regulated substances Regulation value
Decabromodiphenyl ether: DecaBDE N.D.
Tris(isopropylphenyl) phosphate: PIP(3:1) N.D.
2,4,6-tris(tert-butyl)phenol: 2,4,6-TTBP 1.0 %
Pentachlorothiophenol: PCTP 0.3 %
Hexachlorobutadiene: HCBD N.D.

Fig. 1 JMS-TQ4000GC UltraQuad™ TQ

測定条件

測定は、ガスクロマトグラフ三連四重極質量分析計JMS-TQ4000GC UltraQuad™ TQ (Fgi. 1) を使用した。実試料として、電源部品から削り取った破片10 mgを1 mLのTHFで60分間超音波抽出した抽出液を用いた。Table 2に測定条件を示し、Table 3に測定対象成分のSRMトランジションを示す。本測定では、TSCA成分として、注目度の高いPIP (3:1) と規制値が明確となっている2,4,6-TTBP、PCTPにフタル酸エステル類のRoHS4成分を加えてTSCA・RoHSの同時分析を実施した。検量線は、PIP (3:1) が0.001 - 0.05 ppm、 2,4,6-TTBPが2.5 - 125 ppm、PCTPが10 - 500 ppm、フタル酸エステル類が0.5 -25 ppmの濃度範囲で作成した。

 

Table 2 Measurement condition

GC condition
Column VF-5MS (15 m length, 0.25 mm i.d., 0.1 μm film thickness)
Inlet Split / Splitless
Inlet Temp. 300 °C
Flow 1 mL / min, Constant flow
Injection Mode Split (10 :1)
Oven Program 100 °C (1 min) → 25 °C / min → 320 °C (5.2 min)
MS condition
Ion Source Temp. 280 °C
Interface Temp. 300 °C
Ionization Mode EI+, 70 eV
Measurement Mode SCAN / SRM
Collision Gas N2, 10%
 

Table 3 SRM transition

Compound R.T.(min) Quantitative ion Reference ion 1 Reference ion 2
2,4,6-TTBP 3.18 262.2->247.2 CE:15 247.2->231.2 CE:15 262.2->231.2 CE:30
PCTP 4.17 279.8->244.9 CE:15 244.9->209.9 CE:20 279.8->209.9 CE:20
DIBP 4.23 149->121 CE:15 149->93 CE:20 223.1->149 CE:15
DBP 4.6 149->121 CE:15 149->93 CE:20 223.1->149 CE:10
BBP 5.92 206.1->149 CE:5 149->121 CE:15 206.1->121 CE:30
DEHP 6.63 149->121 CE:15 149->93 CE:20 279.2->149 CE:15
PIP (3:1)
Tris (2-isopropylphenyl) phosphate
7.25 335.1->251.1 CE:15 452.2->118.1 CE:10 452.2->251.1 CE:30

結果

検量線とクロマトグラムピーク

Fig. 2に検量線を示し、Fig. 3にTSCA成分のSRMのクロマトグラムピークを示す。検量線は、TSCA成分とRoHS成分の全成分において相関係数 (R) が0.999以上の直線性を示した。SRMクロマトグラムでは、PCTPのみSH基を有しているために、テーリングしたピーク形状となっている。誘導体化により感度やクロマトグラムのピーク形状が良好になると予想されるが、 今回の濃度範囲であれば誘導体化なしでも検出することが可能であった。その他の成分については、良好なクロマトグラムピークが得られた。

Fig. 2 Calibration curve

 

Fig. 3 SRM chromatogram peaks of TSCA

実試料の測定結果

Fig. 4に実試料から得られたTSCA成分のSRMのクロマトグラムピークを示し、Table 4に各成分の定量値を示す。測定対象成分である7成分が実試料から検出された。特に、PIP (3:1) は多くの異性体が存在するため、標準物質がないとRTの確認が困難となる。しかし、SRM測定により、複数のモニターイオン且つプリカーサーイオンとプロダクトイオンの関係から、少なくとも4つの異性体が観測されていることが確認できる。

Fig. 4 SRM chromatogram peaks of TSCA in the real sample

 

Table 4 Quantitative value of each compound

Compound Quantitative value (ppm)
2,4,6-TTBP 0.51
PCTP 11.87
PIP (3:1) 0.031 (Total)
DIBP 0.27
DBP 0.43
BBP 0.37
DEHP 0.64

まとめ

TSCA・RoHSの分析にはGC/MS/MSのSRM測定が有効な測定方法となる。特に、規制値がN.D.のTSCA成分については、より低濃度まで検出することが望まれるため、高感度分析が可能なGC/MS/MSのSRM測定が適している。さらに、SRM測定は夾雑成分からの影響を抑える事ができると共に、SIM測定よりも多くのイオンを用いた測定となるため、微量成分の定性解析能力が向上する。それによって、より正確な測定を行うことができる。

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