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水素をキャリアガスに使用したHS-GC-MS法によるカビ臭物質の分析 [GC-QMS Application]

MSTips No.411

はじめに

カビ臭原因物質のHS-GC-MS分析では一般的にキャリアガスとしてヘリウムが使用される。近年ヘリウムの供給不足や価格の高騰によりヘリウムガスの確保が問題となっており、その代替キャリアガスとして水素や窒素を用いた検討が進んでいる。今回、水素をキャリアガスに用いてHS-GC-MS法 によるカビ臭原因物質の分析を試みたのでその結果を報告する。

ヘッドスペースオートサンプラ (HS)

JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta
w / MS-62071STRAP

実験

測定はトラップ型ヘッドスペース装置MS-62071STRAPと、ガスクロマトグラフ質量分析計JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zetaを使用した。サンプルは、4.5 gの塩化ナトリウムと精製水10 mLを量り入れたヘッドスペース用バイアルに、2-MIBとジェオスミンを1, 2, 5, 10 ng / Lとなるよう添加し調製した。内部標準物質は、2,4,6-トリクロロアニソール-d3を20 ng / Lの濃度になるよう添加した。サンプルの測定条件をTable1に示す。

Table 1 Measurement Condition

HS : MS-62071STRAP
Sample Block temperature 80°C
Sampling mode Trap
Number of samplings 3
Heating and shaking time 30 min
Pressurized gas Nitrogen
Trap tube (GL Sciences Inc.) AQUATRAP1
GC : Agilent 8890
Column DB-5MS UI (Agilent Technologies, Inc),
60 m x 0.25 mm id, 0.25 μm film thickness
Column oven
temperature
40°C (3 min) → 5°C / min → 200°C (0 min) →
10°C / min → 250°C (0 min)
Total 40 min
Injection mode Direct connect column to the transfer line
Carrier gas Hydrogen, 1.5 mL / min, Constant flow
MS : JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta
Ion source temperature 250°C
Interface temperature 250°C
Ionization EI (70 eV, 50 μA)
Acquisition mode SIM
Monitor ion 2-MIB (m/z 95, 107, 135), Geosmin (m/z 112, 125, 149), 2,4,6-Trichloroanisole (m/z 195, 197, 213, 215)

測定結果

SCANモード (m/z 50-250) で取得した100 ng / L標準液のマススペクトル (上段) とNISTライブラリー (下段) との比較をFigure 1に示す。一部のイオン (2-MIB: m/z 135, 150、ジェオスミン: m/z 149, 164) 強度比に変化が見られたが、メインピークとなるイオン (2-MIB: m/z 95, 107、ジェオスミン: m/z 112, 125) 強度比に大きな変化は見られなかった。

Figure 1  Mass spectra of 2-MIB and Geosmin (100 ng / L) by hydrogen carrier gas (upper),
and NIST Library data (lower)

2-MIB、ジェオスミンの検量線をFigure 2に示す。検量線の相関係数は2-MIB、ジェオスミンともに0.9999以上で良好な直線性が得られた。次に、基準値の1/10の濃度である1 ng / Lのサンプルを試行回数n=5で連続測定した際の定量値における変動係数 (Coefficient of Variation, C.V.と省略) と、その1回目のSIMクロマトグラムをTable 2、Figure 3にそれぞれ示した。 C.V.の値は2-MIB、ジェオスミンともに10%以下であり、水質検査において要求される20%以下を満たす結果が得られた。また、2-MIB、ジェオスミンの各クロマトグラムにおいても十分な強度と分離でピークを検出することができた。

Figure 2 Calibration curve of 2-MIB and Geosmin (1, 2, 5, 10 ng / L)

 

Table 2 Quantitative value and C.V. in 1 ng / L (n=5)

2-MIB Geosmin
#1 #2 #3 #4 #5 #1 #2 #3 #4 #5
Quantitative value (ng / L) 0.98 1.06 1.03 1.09 1.10 0.90 0.96 0.89 1.02 0.92
C.V. (%) 4.6 5.7
 

Figure 3 SIM chromatogram of 2-MIB and Geosmin at 1 ng / L concentration

まとめ

水素キャリアガスを使用してトラップ型ヘッドスペース装置MS-62071STRAPと、ガスクロマトグラフ質量分析計JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zetaでカビ臭測定を試みた。その結果、水質検査基準値の1/10の濃度である1 ng / Lが十分な感度で検出でき、変動係数10%以下を確認することができた。

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