PROFESSIONALINTERVIEW

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日本電子山形株式会社
A. S.

問題が起きたら素直に受け止め
自分が信用できない製品は外に出さない

日本電子山形は日本電子グループの生産専門会社として2002年に設立された。現在、日本電子製品の約60%(製品本体ベース)の生産を担う主力工場である。日本電子山形に勤務するA. S.は入社11年目で、生化学自動分析装置を担当している。血液や尿などから成分を測定する医用機器で、検査には不可欠な装置だ。この健康を維持するための装置製造にプライドとやり甲斐を感じるというA. S.に聞いた。

人とは違うものづくりがしたかった

日本電子山形の地元、天童高校から11年前に入社したA. S.は「人とは違うものづくりがしたかった」と、その動機を語る。
「ただの流れ作業は嫌でしたし、どこでも売っているようなものには興味がありませんでした。日本電子は電子顕微鏡や、私がいま担当している生化学自動分析装置など高度な技術が詰まったものづくりを行っており、責任は重いですが、やり甲斐を感じています」
A. S.は入社後10年間、生化学自動分析装置の調整業務に携わった。調整とは、総合組立後、電気試験を行い完成した装置が検査基準を満たしているかどうかを試験し、更にお客様と同じ検査試薬を使用して性能がきちんと出ることを確認するなど検査を行う仕事である。
「ずっと調整をやってきたのですが、今年から製造に移りました。実は装置が新機種に替わって、従来と設計や機能が違う点もあるので、いまは手探り状態です。最終的にお客様の手に渡ったときに、どのような使われ方をするのか頭に入れ、そこから逆算するようにいまやるべきことを考えて業務に当たっています。正直、ちょっと大変ですが、もともと何でもできるようになりたいと思っていたので、難しい仕事だからと言って逃げることはやめようと決めていました」

装置も人もお客様から信頼されている

A. S.によれば、新機種は従来機種より使い勝手を改良し、工具がなくても部品の着脱が可能でメンテナンスしやすくなった。また、反応系ラインを洗浄する洗浄液は洗剤原液を自動で希釈して洗浄液を作る仕組みにしたため、装置を止めずに原液を補充できるようになった。これまでは、洗浄液がなくなると補充する間は装置を止める必要があり、効率・使い勝手が悪かった。
「血液を専門に分析する検査センターでは、医療機関に迅速にデータを返却するために、大量の検体に対し、夕刻から次の日の朝まで一晩中装置を動かし続けていることもあるので、わずかでも装置を止めたくないというお客様の要望がありました。装置の納入時にサービスマンの方と一緒にお客様を訪ねることもあり、どのような使われ方をしているのか、あるいはどのような環境で、どのような人たちが使っているのか確認するようにしています。サービスマンがお客様から相談を受けている姿を見ると、装置への信頼はもちろん、人も信頼されているのだなと思いますね」と言う。
A. S.家では親子3代にわたってお世話になっている病院があり、そこでも日本電子製の分析装置が使われているのを見つけ、祖母から「愛は、すごい会社に勤めているね」とA. S.はほめられたという。
「自分の家族や知人も使っているのを知ると、製品がもっと身近に感じられ、ますます手を抜けないという気持ちになりました。弊社の製品がテレビドラマの中で登場したこともあって、その番組を親が録画していて、すごく喜んでくれたのもうれしかったですね」

海外の規制をかみ砕いて理解

新機種の生産移管をきっかけに、A. S.の部署では作業要領書の見直しを進めている。
「組立から調整まで手順の見直しを進め、工数を短縮しようと努力しています。私のように新たに製造に移った人も少なくないので、新鮮な目で見た方が気づくこともあります。部署のメンバーは6人と部長で、私以外は全員男性です。新人が2人配属されたので、彼らに基本を教えるのも私の役割です」
これまでの仕事の中で、最も苦労したことは海外の規制関係の知識を身につけることだったとA. S.は言う。
「製品を輸出する際に、MD-QMS(Medical Device-Quality Management System=医療機器の品質マネジメントシステム)を核として、アメリカではFDA(アメリカ食品医薬品局)など各国の規制や要求事項に適合させ、医療機器としての認可を得なければなりませんし、ただ作っていればいいというわけではありません。製品の検査だけでなく製造工程を監視、評価、記録するなど知識が必要ですし、規制そのものもどんどん変わっていくので学び続ける必要があります。自分で資料を読み込んで、かみ砕き、自分が話す言葉にまで落とし込むのが私のやり方です。そうしないと新人にも教えることができません」

仕事を続けるのに好奇心は必須

A. S.は仕事をする上での信念として、問題などが起きたら「その現象や言われたことを素直に受け止めるようにしている」と語る。
「ずる賢くなってはいけないと思っています。問題を正面からきちんと受け止めて、『ここはもっとこうした方がいい』というアドバイス・フィードバックは素直に聞くことです。要するに何があっても製品の質を上げていこうというスタンスからぶれないようにしています。素直でないと自分自身が製品のことを信用できなくなるかもしれないし、信用できない製品を外に出すことはプライドが許しません。自分が信用できないのに、他人を信用させることはできません」
A. S.のいる部署のメンバーは6人だが、外部の協力会社の人もいるので、その倍以上の人数がさらにチームに加わる。
「ゆくゆくはもっと責任が重い立場になるので、全体を見通して動ける人間になりたいと思います。上から指示するだけでなく、自分がそうしてもらったように、協力会社の人を含めてみんなの話をよく聞いて、風通しのよい職場にしたいと思っています」
今後も本社から生産がさらに移管される見通しで、「山形に任せておけば大丈夫だというレベルに上げていかないといけません。先ほど工数短縮の話をしましたが、コストダウンが実現すれば、お客様にとっても価格が下がるメリットがあります。まだまだ、改善の余地は多いと思います」とA. S.。
入社時は図面も読めなかったA. S.だが、たった11年間で全社的な視野で仕事を見ることができるようになった。日本電子の製造の仕事をするには「工業系でなく普通科の出身でもやれますが、好奇心は必須です」と言う。
「お客様の立場で考えるとなると、装置だけでなく、その周りのことも知らなければなりません。好奇心を持っていろいろなことを吸収していかないと、この仕事を続けるのは難しいかもしれません」
入社から11年経つA. S.の好奇心は、まだまだ衰えていないようだ。

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