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オージェマイクロプローブ

オージェマイクロプローブとは

微小・極表面の探求者

微小・極表面の探求者

オージェマイクロプローブは、物質の表面に関与する種々の現象を解明するための有力な装置のひとつです。この分野には未知の領域が多く、得られる情報はそれ自身大変興味深いことのほかに、種々の材料開発には欠くことのできないものです。これからもますます広い分野にわたる利用が期待されています。

物質の表面に細く絞った電子線を照射すると、試料の極表面層からオージェ電子と呼ばれる電子が飛び出てきます。これは元素の種類に固有なエネルギーを持った電子で、このオージェ電子のエネルギーを測ると、固体の極表面の極微小領域に、どんな元素が、どのような化学状態で存在するのかが分かり、その強度を調べることでその元素がどのくらいの量存在するかがわかります。マイクロは「極端に小さい」と言うことを表し、プローブはもともと探り針と言う意味です。

原子から飛び出すオージェ電子

それでは、物質表面の構造解析の鍵を握るこのオージェ電子とはどういうものなのか説明していきましょう。

図1 オージェ電子発生原理図
図1 オージェ電子発生原理図

図1 オージェ電子発生原理図

図1に示すように、原子は原子核の周囲に電子を持っています。これらの電子はK準位、L準位、などと名前の付いている場所に決まった数だけ入っています。また電子のエネルギーは、K、L、M、と外側の準位になるほど大きくなります。

また、K、L、M、などにある電子のエネルギーは元素によって決まった値となっています。

さて、このような原子に外から高速の電子が飛び込んでくると、K準位にある電子と衝突してその電子を原子の外へ跳ね飛ばしてしまうことがあります(図1(a))。すると、K準位の電子が一つ足りなくなり、そこへ例えばL準位にある電子の一つが落ちてきます。これは、原子はいつもエネルギーが一番低い状態になって安定になろうとする性質があるからです。エネルギーの高いL準位の電子が、エネルギーの低いK準位に落ちてくると、エネルギーが余ってしまいます。この余分なエネルギーは原子の外に出て行くのですが、その出方には次の二通りがあります。

(1)X線の形になってエネルギーを出す(図1(b))。

(2)L準位などにある電子がエネルギーをもらって外に飛び出す(図1(c))。

この(2)の場合をKLLオージェ遷移といい、飛び出す電子がオージェ電子と呼ばれるものです。最初にこれを発見したP. Auger(P.オージェ)にちなんでこの名前があります。

このオージェ電子の持っているエネルギーは、L準位の電子のエネルギーとK準位の電子のエネルギー差から、更に原子の外まで飛び出すのに必要なエネルギーを差し引いたものとなります。この値は原子の種類に固有なものとなり、だいたい数10eV ~3000eV 程度です。この程度のエネルギーの電子が固体中でエネルギーを失わずに動ける距離はせいぜい数nm(ナノメータ:百万分の1mm)までであるため、もし固体表面から深い場所でオージェ電子が発生しても、途中でエネルギーを失ってしまって、表面から飛び出すことができません。従って、極めて表面付近にある原子から発生したオージェ電子だけが固体の表面から飛び出てきて検出されることになります。このことがオージェマイクロプローブが表面分析装置であることの所以です。

どんな装置でどんなデータが得られるか

では装置の仕組みを図2で説明しましょう。
電子銃で作られた電子線は、レンズを通って細く絞られ試料面に照射されます。この細く絞られた電子線を、偏向コイルを使って試料面上を走査し、分析点を選んだり、オージェ像を観察したりすることができるようになっています。

図2 JAMP-9500F 断面および原理図
図2 JAMP-9500F 断面および原理図
図2 JAMP-9500F 断面および原理図

図2 JAMP-9500F 断面および原理図

オージェスペクトル

試料表面から飛び出してきた電子は、HSA(静電半球型アナライザー)と呼ばれている、エネルギーを分析する装置にかけられます。HSAにかける電圧を決めると、その電圧に対応したエネルギーを持つ電子だけがHSAを通りぬけてきて検出されます。

そこでHSAにかける電圧を走査しながら検出される電子の量を調べると、二次電子や反射電子の中に混じっているオージェ電子を検出することができ、そのピークエネルギーを調べることで試料表面にどんな元素が存在しているかが分かります。二次電子や反射電子のバックグラウンドが大きく、オージェピークは小さいため、オージェピークが見やすいように、検出された電子のスペクトルを微分して表示します。横軸はオージェ電子のエネルギー、縦軸はオージェ電子の量に相当します。図3にオージェスペクトルを示します。

図3 オージェスペクトル(鉛フリーハンダ) Sn・Ag・Cu・Bi系

図3 オージェスペクトル(鉛フリーハンダ) Sn・Ag・Cu・Bi系

走査電子顕微鏡の機能も装備

物質に電子線があたったとき、二次電子と呼ばれる電子も出てきます。この電子を検出することで、普通の走査電子顕微鏡と同じように試料の形態観察を行なうことができます。

この他にも試料の重要な情報をもたらす反射電子、特性X線なども出てくるため、これらの検出器も全て取り付けられるようになっています。

オージェ像

試料面上に電子線を走査させて、試料上の各点でのオージェ電子の量を測定し、その量を色に対応させて表示すると、図4のようなオージェ像が得られます。図3と図4の例は鉛フリーハンダ(錫-銀-銅-ビスマス系)の試料のデータです。

図4の左上は試料の二次電子による像(試料の形態を示す),左下は銀のオージェ像,右下は銅のオージェ像です。右上はこれら二つのオージェ像を色分けして(銀を緑,銅を赤),二次電子像と重ねて表示したものです。銀や銅が試料表面でどのように分布しているかが一目でわかります。

図4 銀、銅のオージェ像(鉛フリーハンダ) Sn・Ag・Cu・Bi系

図4 銀、銅のオージェ像(鉛フリーハンダ) Sn・Ag・Cu・Bi系

深さ方向の元素分布を知る

表面の分析をする時、表面が汚れていてはいけませんので、試料を分析する部屋は超高真空状態に保たれています。それでも試料表面に最初から付着していた汚れはなかなか取り除けないので、イオン銃を用いてイオンを試料表面にぶつけ、汚れを弾き飛ばして綺麗にします。このイオン銃を利用すれば試料表面を綺麗にするだけではなく、さらに試料をどんどん削っていくことができますから、オージェスペクトルを測定しては削るといった作業を繰り返すことで、深さ方向に元素がどんな分布をしているのかが分かります。

図5の例はハンダボール試料のデータです。先程述べたとおり、深さ方向に元素がどんな分布をしているかを示したデータです。横軸は深さ方向、縦軸は各元素のオージェ電子の量に相当します。

この結果からこの試料表面は酸素とスズが検出され、酸化スズで覆われていることが分かります。この酸化層の厚みは、ハンダボールの接着性や電気伝導度などの特性に影響するため、製造条件や保管環境などの違いが酸化層の厚みにどのように影響するか調べられています。

図5 元素別の深さ方向分布(ハンダボール)

図5 元素別の深さ方向分布(ハンダボール)

化学状態を知る

前述のハンダボールの特性は酸化層がSnO2かSnOのどちらかによっても影響を受けるため、スズの化学状態を測定することが重要です。HSAを搭載したJAMP-9500Fでは様々な元素の化学状態分析を行うことができます。図6にSnO2、SnOと金属Snの標準スペクトルを示します。 ある原子に他の原子が結合していると、ピークの位置にずれが生じたり、スペクトルの形が変わったりします。つまり、化学状態でスペクトル形状が異なることが分かります。

図 6 金属Sn,SnO,SnO2の標準スペクトル

図 6 金属Sn,SnO,SnO2の標準スペクトル

図5の測定で得られたスペクトルをこれらの標準スペクトルを用いて数学的に分離することで、化学状態別の深さ方向分布を得ることができます。この化学状態分析の結果を図7に示します。

この結果から表面はSnO2(4価)でできており、金属スズとの界面に2価のスズSnOが存在することが分かります。

図7 化学状態別の深さ方向分布(ハンダボール)

図7 化学状態別の深さ方向分布(ハンダボール)

極微小領域に挑むオージェマイクロプローブ

オージェマイクロプローブは高性能な電子光学系を持ち、電子ビームを極めて細く絞ることができるため、非常に小さな領域の分析を行なうことができるという特長を持っており、10nm(十万分の1mm)の大きさのものも分析することができます。

半導体、セラミックス、金属等は、各物質の極表面や極微小領域の構成元素とその化学状態が材料全体の物性を決めてしまうことが多いため、表面分析や、微小領域分析に活躍するオージェマイクロプローブは、今後ますますその重要性を増していくでしょう。

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