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電子スピン共鳴装置

電子スピン共鳴装置とは

電子の振舞から生命現象を捕らえる

JES-X3 Series ESR装置

電子スピン共鳴装置は一般的には、ESR または、EPR と呼ばれています。装置は、約40種類におよぶ付属品を 付加することにより、特殊な測定や実験を可能としています。

理学系・医薬学系、農工学系の基礎研究の分野で活躍してきましたが、半導体、塗料工場の生産ラインや、 癌診断を初めとする臨床医学分野での活躍も、今後一層期待されています。

ルルル……ルルル……。「こちらJEOL電話相談室です」。『普段、子供のホッペは赤いのに、カゼを引いたりすると青くなるのはどうしてですか?』、『古いインスタントラーメンを嗅ぐと臭いし、食べるとおなかをこわすのは何故ですか?』、『生物の老化とは、どういうことですか?』『値段の高いお茶は、どうして美味しいのでしょうか?』……。このように私達の生活が多様化するのに伴い、様々な疑間が湧いてきます。これから紹介する電子スピン共鳴装置(ESR)は、これらの電話相談室に寄せられた素朴な疑問に、明解に答えることができ、基礎科学から身近な問題まで幅広い分野で活躍・貢献しているのです。

電子の動きは環境の鏡 静磁場とマイクロ波で電子のワルツを分析

全ての物質が分子から構成され、そしてそれが原子に分けられ、更に原子核と電子に分けられることは、最近では小学生でも知っています。しかし、その最も質量(原子等が持つ固有の重さ)の小さい"電子"が、現代杜会において、最も大きな役割を果たしていることを、私達はあまり理解していません。例えば、電灯や電話、コンピュータはもちろん、脱臭剤や太陽電池から電子顕微鏡にいたるまで、電子の働く役割は、多岐にわたっていて、一日、いや一時間たりとて、私達の日常生活から切り放すことはできないのです。これらの働きは、電子の粒子性、波動性を最大限に利用したものですが、これからお話するESR は、電子そのものの"振舞"(動作)を観察して、電子の置かれている環境を同定することで、様々な現象を解明する方法なのです。

静磁場とマイクロ波で電子のワルツを分析

図1

図1

今、私達は踊り子(電子)のスケーターワルツを観に行ったとしましょう。観客席で見ていると、まことに奇妙な現象が見られます。全てのグループのどの電子を見ても、全く同じ速度でスピン(回転)運動をしていて、音楽がどんなリズムになっても、一定のスピンは変化しません。 ところが良く見ると、およそ半数の電子はスピン速度が同じで、反対方向に回っているのが見られます。そして、必ずこの二つの電子は、互いにペアになって左右両方向にスピンしているのがわかります。しかしその中で、不幸にしてペアになれなかった最後の電子は、一人淋しく踊っています。

図2

図2

ここで私達は、このいくつかのグループからペアになれなかった電子(不対電子と呼ぶ)に注目してみましょう。そこで、観客席から声をかけたとします。すると、リンクのほとんどを占めるペアの電子達は見向きもしないのに、いくつかのグループからはみ出した不対電子達が、ぞろぞる移動を始めるではありませんか!そして、観客席とリンクの中間に作られた小さなリンク(メインリンクよりやや低めと、やや高めの二つの小リンク)に、およそ半々に別れ(これをゼーマン分裂という)、そこで各々が例のスピン運動を行うのです。

さて、ここで横の方から軽快なリズム音楽を流すと、ある特定のリズムになったとき、何と、低い方の小さなリンクに居た不対電子達が、派手に空中に飛び上り、多回転ジャンプをして高い方の小リンクに移って行くのです。しかし、この音楽を止めると、また元に戻ります。この様子は、観客席からは手に取るように判ります。(図2参照)

ペアになれなかった電子(不対電子)が、どのようなリズム(マイクロ波の周波数)で移動(共鳴)するかは、各々所属しているグループ(分子)の影響や、メインリンク、小リンクの形状(不対電子軌道)、観客席の声援(静磁場の強さ)に依存します。従って、逆に共鳴したときの周波数を測ることにより、電子の周りの環境を推察することができるのです。

ESR は以上のように、測定しようとする物質中の不対電子の動作を、静磁場やマイクロ波を使って観察し、その周囲物質の状態を調べる装置なのです。これがESR の簡単な原理です。

実際の構造は、図3 のようになっています。

試料はキャビティーと呼ばれる(電子レンジを小さくしたような物)試料受けに納め、電磁石の間に入れます。電磁石は静磁場を作って、試料内の電子をゼーマン分裂させるもので、その磁場の強さは、0.3T(テスラ)。不対電子を共鳴させる発振器は、マイクロ波発振器で、9.5GHz(ギガヘルツ:1GHz=10億Hz)という超高周波を使用します。そして、不対電子が共鳴したときに起こる吸収エネルギーをクリスタルダイオード検出器で受けとめ、その微小信号を増幅してPCに取り込みます。測定したスペクトル上で、ピークの出る位置が定性を示し、ピークの高さが定量を表わします(図5参照)。

図3 ESRの基本的な構成

図3 ESRの基本的な構成

顔色が青くなるのは? 夢の薬 SOD の評価に ESR

さて、最初の疑問に戻りましょう。体調がおかしくなったとき、私達の血液はどんな変化を起こすのか?について調べてみましょう。人間の血液は、図4のような多くの物質から構成され、それぞれが大切な役目を分担しています。これらをさらに、分子レベルまで分けてみますと、多種類の分子から構成されています。ここで鉄、銅、マンガン等の有機金属があるのが目につきます。これらの金属は、血液が正常な働きをするのに、非常に重要な役割を分担していることが知られています。今、健康な人とインフルエンザ患者の血液中の鉄と銅をESRで測定してみました。図5の信号から判るように、インフルエンザ患者のデータでは、はっきりと銅が増え、鉄が減っているのが判ります。それで、風邪をひいた子供のホッペの赤みが減り青く見えるのです。

図4 血液の成分

図4 血液の成分

図5 健康人とインフルエンザ患者の信号

図5 健康人とインフルエンザ患者の信号

夢の薬 SOD の評価に ESR

生体内で発生する嚇(過酸化ラジカル)は、白血球などの殺菌作用に利用されている他、酸素反応、脂質の酸化、放射線障害、炎症、免疫、発癌、制癌、白内障、動脈硬化などに関係のあることがわかってきました。最近開発されたESRの利用法の一つに、O2 ・- の定量とこのO2 ・- を特異的に消費する酵素SOD(Superoxide dismutase)活性の定量があります。SODは、リュウマチの治療薬として知られている他、虚血再還流障害を防ぐ薬として、最近開発が進められています。ESR の利用は、上記生体関連の他、最近は新素材の評価に大変有効利用されています。材料物性を支配する不対電子の情報が必要となってきた現在、ESR は不可欠な分析装置となりつつあります。

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