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msFineAnalysis Ver3における差異分析機能の紹介① [GC-TOFMS Application]

MSTips No.327: ヘッドスペースおよび熱分解-GC-TOFMSによるエポキシ系接着剤の分析

はじめに

近年の質量分析装置の高性能化に後押しされ、微量成分をターゲットとした差異分析の需要が高まっている。これを受けGC-TOFMSの解析ソフトウェアとして定評のあるmsFineAnalysisに、新機能として差異分析機能を搭載したのでMSTips327~329にわたり紹介する。本報ではヘッドスペース(HS)-GC-TOFMSおよび熱分解(Py)-GC-TOFMSによるエポキシ系接着剤分析の例を用いて、msFineAnalysisを用いた差異分析の流れと得られる結果について解説する。

差異分析の流れ

msFineAnalysisを用いた差異分析のフローをFigure1上部に示す。サンプル測定において単純比較であれば各サンプルでGC/EI、GC/SI測定を1回ずつ行う(2サンプルであれば計4回GC測定を行う)。統計解析を行う場合は各サンプルでGC/EI測定を複数回行い、GC/SI測定は1回ずつ行う(2サンプル、n=5であれば計12回GC測定を行う)。こうして得られた測定データをmsFineAnalysisに登録し、画面の指示に従い操作することで統合解析結果が得られ、最後に解析結果を確認し終了となる。
msFineAnalysisの解析フローをFigure1下部に示す。最初にユーザーが登録した測定データに対しクロマトグラムピークを検出を行う。この際デコンボリューションを介することでTICC上では埋もれてしまう微小ピークについても検出が可能である。次に検出したピークを溶出時間(R.T.)とマススペクトル類似度に基づきアライメント(同一性判定)し、サンプル間強度差や再現性などの条件に従い差異判定を行う。その後は従来のmsFineAnalysisと同様、EI/SI統合解析に進む。統合解析ではGC/EI測定データに対しライブラリーデータベース検索を、GC/SI測定データに対し分子イオン探索を、また双方に対して精密質量解析を行う。得られる結果については次ページ以降に分析例を用いて詳しく解説する。なおEI/SI統合解析については既報MSTips275等でも詳しく解説しているので参照のこと。

Figure 1.  Analysis flow using msFineAnalysis

Figure 1. Analysis flow using msFineAnalysis

測定

サンプルは市販のエポキシ系接着剤2種(A、B)を用い、それぞれ硬化した状態のものを採取した。測定にはHS-GC-MSおよびPy-GC-MSを用いた。HS-GC-MSではサンプルを50°Cに加熱し、熱脱離する揮発性成分を分析した。Py-GC-MSではサンプルを600°Cに加熱し、熱分解生成物を分析した。イオン化法はEI法およびSIとしてFI(Field Ionization)法を用いた。統計解析を行うためGC/EI測定はn=5で実施し、差異判定の条件はp値(小さいほど統計的再現性高となる指標)≦5%、ホールドチェンジ(サンプル間強度比)≧2としてmsFineAnalysisによる差異分析を行った。各測定における測定条件の詳細を表1に示す。

Table 1. Measurement and analysis conditions

HS-GC-MS
Headspace sampler MS62070STRAP (JEOL)
 Sample amount 500mg
 Mode Trap
 Sample heating 50°C, 30min
Gas Chromatograph 7890A GC
(Agilent Technologies, Inc.)
 Mode Split20:1
 Column InertCap-WAX
60m x 0.32mm, 0.5μm
(GL Sciences Inc)
 Oven 40°C(3min)→10°C/min
→200°C(5min)
 Carrier gas He, 1.5mL/min
TOFMS JMS-T200GC
 Ionization EI+:70eV, 300μA
FI+:-10kV, 40mA
 Monitor ion range m/z 35-800
msFineAnalysis (JEOL)
 Mode Variance component analysis
 Number of data n=5
 p-value ≦5%
 Fold change ≧2
Py-GC-MS
Pyrolyzer EGA/PY-3030D
(Frontier Laboratories Ltd)
 Sample amount 0.2mg
 Mode Single shot
 Furnace 600°C
Gas Chromatograph 7890A GC
(Agilent Technologies, Inc.)
 Mode Split100:1
 Column ZB-5MSi
30m x 0.25mm, 0.25μm
(Phenomenex Inc)
 Oven 40°C(2min)→10°C/min
→320°C(15min)
 Carrier gas He, 1mL/min
TOFMS JMS-T200GC
 Ionization EI+:70eV, 300μA
FI+:-10kV, 40mA
 Monitor ion range m/z 35-800
msFineAnalysis (JEOL)
 Mode Variance component analysis
 Number of data n=5
 p-value ≦5%
 Fold change ≧2

HS-GC-MS測定結果

msFineAnalysisの解析結果のスクリーンショットをFigure2に示す。画面左上にはクロマトグラムが配置され、TICCとデコンボリューションで得られるコンパウンドピークが描画されている。コンパウンドピークの色は差異判定結果を反映しており、青色であればサンプルAで強いというように視覚的に理解することが可能である。画面右上に配置されたボルケーノプロットは、X軸がサンプル間強度差、Y軸が統計的再現性を表しており、検出されたピークを俯瞰的に確認することが可能である。画面中央右には判定結果が配置され、検出されたピーク総数、差異ピークの内訳などを具体的に確認することが可能である。画面下部のピークリストでは検出されたピークの統合解析結果を確認することが可能である。ピークリストは差異ピークのみを抽出して表示することも可能であり、分析目的に沿った確認を容易に行うことが可能となっている。
具体的な結果としては全体で15ピークが検出され、差異ピークの内訳としてはサンプルAに特徴的なものが2ピーク(ピークID[009]ブタノールほか)、サンプルBに特徴的なものが11ピーク([001]・[002]低分子環状シロキサンほか)、サンプルABで強度差がないものが2ピーク([004]トルエンほか)であった。このうち低分子環状シロキサンは揮発性が高く、絶縁体の酸化皮膜を作ることから、電子製品に使用した場合接点障害等のトラブルの原因となることが知られている。

Figure 2.  Screenshot of msFineAnalysis (HS-GC-MS)

Figure 2. Screenshot of msFineAnalysis (HS-GC-MS)

Py-GC-MS測定結果

msFineAnalysisの解析結果のスクリーンショットをFigure3に示す。全体で120ピークが検出され、差異ピークの内訳としてはサンプルAに特徴的なものが28ピーク(ピークID[044]ジブチルフタレートほか)、サンプルBに特徴的なものが23ピーク([030]p-イソプロペニルフェノール、[048]ビスフェノールAほか)、サンプルA、Bで強度差がないものが20ピーク([018]フェノールほか)、統計的再現性がないと判断されたものが49ピークであった。ジブチルフタレート(DBP)はフタル酸エステル類の一種でありRoHS指令の規制対象物質である。ビスフェノールAはエポキシ系接着剤の主剤でありサンプルAでも検出されているが、サンプルBの方が2倍強く検出されており差異ピークとして判定されている。

Figure 3.  Screenshot of msFineAnalysis (Py-GC-MS)

Figure 3. Screenshot of msFineAnalysis (Py-GC-MS)

まとめ

msFineAnalysisの差異分析機能により、エポキシ系接着剤2サンプル間の差異情報を容易に得ることができた。msFineAnalysisでは自動化により分析の労力を軽減できるだけでなく、デコンボリューション、統計解析、EI/SI統合解析により高度かつ信頼性の高い定性分析結果を得ることが可能である。

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