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水素キャリアガスを用いたGC-MS/MS法による食品中残留農薬の分析例 [GC-TQMS Application]

MSTips No. 394

MSTips No. 394

概要

質量分析の分野においてヘリウムは主にガスクロマトグラフのキャリアガスとして利用されてきたが、特に近年は深刻化している世界的な物流網の混乱に加え、供給プラントのトラブルによる減産や政治的・経済的要因によって、長期に渡り供給が不足している状況である。今後も継続して質量分析を実施するためにはヘリウムの代替品として使用可能なキャリアガスの選定が必須と言える状況になりつつある。
代替キャリアとして水素を使用する場合、反応性が高いガス種の取り扱いである点に留意し、水素センサーの設置等、安全面を十分に考慮した運用が求められる。その反応性の高さから、対象化合物によってはイオン源内で還元反応が起こり、検出されるマススペクトルのパターンが変化する可能性がある点にも注意が必要である。ただし、分離効率の良い平均線速度の範囲が広く様々な分析条件に適用可能である点、窒素キャリア使用時ほどは検出感度が低下しない点、水素発生機の使用により安定した供給が可能である点等、ヘリウムの代替キャリアとして優れた一面も持つガス種である。
代替キャリアへの変更には従来使用していた測定条件の見直しが必要となるが、今回残留農薬一斉分析へ適用するにあたり、感度低下の影響が比較的少ないという理由から水素キャリアを選択して測定条件の最適化を実施した。
本報告ではGC-MS/MS法による食品中残留農薬一斉分析に関して水素キャリアを使用した場合の分析例について紹介する

実験

1. 試料条件

使用試薬:関東化学社製、農薬混合標準液 48, 63, 70, 73, 77, 79, Pesticide-Mix 1598
試料調製:各1ppm農薬混合標準液を調製 (計336成分を測定対象とした)
試料濃度:5, 10, 20, 50, 100ppbの農薬混合標準液を調製し、 5点検量線を作成
試料導入量:2μL (+疑似マトリクス:林純薬工業社製SFA10mixを0.3μL共注入)

2. GC条件

ガスクロマトグラフ:8890GC (Agilent製)
カラム:DB-5MS (長さ20m, 内径0.18mm, 膜厚0.36μm)
オーブン昇温条件:50°C(1min)-125°C(25°C/min, 0min)-300°C(10°C/min, 10min)
注入口温度:250°C
注入口モード:パルスドスプリットレスモード (70kPa, 1min)
カラム流量:0.5mL/min (コンスタント流量)
キャリアガス:水素

3. MS条件

質量分析計:JMS-TQ4000GC (JEOL製)
測定モード:SRM
SRMモード:排出周期可変 (検出感度に応じて5msおよび10msに設定)
イオン源温度:280°C
インターフェイス温度:300℃
イオン化電流:50μA
イオン化電圧:70V

JMS-TQ4000GC

結果

測定対象に設定した全336成分のシングルSCAN測定を実施し、水素キャリア使用時のスペクトルパターンの変化について確認を行ったところ、シアナジン、フィプロニル、TCMTB、シハロトリン、フェナリモル、シフルトリン、シペルメトリン、バーバン、ベンフラカルブ、パラチオンメチル、パラチオン、フェニトロチオン、アクリナトリン、フェンバレレートの14成分に関しては比較的大きなスペクトルパターンの変化が確認されたため、プロダクトイオンスキャン測定によるSRMトランジションの自動最適化を実施した。
最適化後のSRMトランジションを用いて全336成分のSRM測定を実施した結果、5ppbの検出が十分に可能であり、検量線の直線性も良好と判断した成分数は計329成分であった。オリザリン、フルチアセットメチル、イソキサチオンオキソン、チアクロプリド、プロパキザホップ、キャプタンの6成分に関しては5ppbの検出は可能であったが、検量線の直線性や面積再現性もしくはクロマトグラム形状等、何らかの項目に対して改善が必要と判断した。なお、本検討において5ppbの検出自体が困難であった成分はカプタホールの1成分であった。
測定可能と判断した329成分の中から一例として、シアナジン、シフルトリン、p,p’-DDD の3成分に関して5ppbのEICおよび検量線を以下(図 1~3)に示す。

 
図1 シアナジン 5ppbのEICおよび検量線
 
図2 シフルトリン 5ppbのEICおよび検量線
 
図3 p,p’-DDD 5ppbのEICおよび検量線
 

測定対象全329成分の5ppb 面積再現性(n=3)および検量線の相関係数を図4に示す。
全329成分中308成分がCV=20%以内と良好な再現性を示した。また、検量線の相関係数 r=0.999以上を示した成分が249成分、最も直線性が悪かったアセタミプリドにおいて r=0.994と、直線性に関しても問題無いことが確認された。

 
図4 STD 5ppbの面積再現性 および 検量線の相関係数
 

まとめ

水素キャリアガスを用いたGC-MS/MS法による食品中残留農薬一斉分析への適用例として、測定条件の最適化を実施した後に農薬混合標準液の測定を行い、5ppb~100ppbの範囲で検量線を作成した。測定対象として設定した農薬全336成分中、計329成分が5ppbまで問題無く検出可能であり、今回検討を行った全成分中98%の農薬が水素キャリアガスを用いても定量可能であるという良好な結果が得られた。

 

※ 印刷用PDFに、「測定対象農薬一覧」を掲載しています。ご参照ください。

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