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GC-MS/MSを用いた食品中残留農薬分析における高感度化に関する検討 (1) [GC-TQMS Application]

MSTips No. 413

概要

食品中残留農薬分析は様々なマトリクス中に存在する微量な対象農薬を分離・検出する必要があるため、使用する分析機器にも高い性能が求められる。このような多成分一斉分析を目的とした分野においてはGC-MS/MS法の適用が有効であり、現在では一般的な分析法として多くの分析機関で採用されている。当然ながら使用する分析機器によって検出感度は異なるが、従来の分析法を高感度化するための様々な手法が存在する。
検出感度の改善を目的とした場合、一般的にGCで使用されるホットスプリットレス導入法とは異なる試料導入法の適用が効果的であり、その中でも大容量注入 (LVI) 技術を適用した分析例は比較的多く確認可能である。今回使用したAgilent社製 マルチモード注入口 (MMI) は一般的なホットスプリットレス以外にコールドスプリットレス、溶媒ベント等、測定の目的に応じた様々なモードを選択することが可能であり、溶媒ベントモードを使用することで上記LVIの適用も可能であるが、食品中残留農薬分析においてコールドスプリットレス導入法を適用した分析例は比較的少ない。
本報告では、MMIを用いたコールドスプリットレス導入法を適用し、GC注入口内での対象農薬の吸着・熱分解の抑制による検出感度の向上効果について比較・検討を行った結果を紹介する。

実験

1. 試料条件

使用試薬:富士フイルム和光純薬社製、農薬混合標準液 PL-1, 2, 3, 4, 5, 6, 9, 10, 11, 12, 13 
試料調製:各1 ppm農薬混合標準液を調製 (計292成分を測定対象とした)
試料濃度:0.1, 0.5, 1, 2, 5, 10, 20 ppb の農薬混合標準液を調製し、7点検量線を作成
試料導入量:2 μL (+疑似マトリクス:林純薬工業社製SFA10mixを0.2 μL共注入)

2. GC条件

ガスクロマトグラフ:8890GC (Agilent製)
注入口モード:ホット/コールドスプリットレスモード
注入口温度 (ホットスプリットレス):250°C
注入口温度 (コールドスプリットレス):60°C (0.01 min) -320°C (200℃ / min, 10 min) -60°C (200°C / min, 0 min)
カラム:VF-5MS (長さ30 m, 内径0.25 mm, 膜厚0.25 μm)
オーブン昇温条件:50°C (1 min) -125°C (25℃ / min, 0 min) -300°C(10°C / min, 10 min)
カラム流量:1.0 mL / min (コンスタント流量)

3. MS条件

質量分析計:JMS-TQ4000GC (JEOL製)
測定モード:SRM
SRMモード:高感度モード
イオン源温度:280°C
インターフェイス温度:300°C
イオン化電流:50 μA
イオン化電圧:70 V

JMS-TQ4000GC

結果

測定対象に設定した全292成分中、ホットスプリットレスモードにおいて0.1 ppbの検出が可能だった成分数は計283成分であった。次頁に検出可能であった283成分の化合物名および保持時間の一覧を示す。従来の手法では0.1 ppbの検出が困難であると判断した成分の内訳は、プロシミドン、アセタミプリド、ハルフェンプロックス、イミベンコナゾール、ビフェノックス、フルミクロラックペンチル、アゾキシストロビン、プロパキザホップ、チアクロプリドの計9成分であった。
一方で、MMIを用いたコールドスプリットレスモードでは測定対象に設定した全成分が0.1 ppbにおいて検出可能であった。
ホットスプリットレスモードでは検出が困難であった9成分の中から一例として、イミベンコナゾール、ビフェノックス、アゾキシストロビンの3成分に関して0.1 ppbのEIC比較を Fig. 1 に示す。
また、コールドスプリットレスモードの適用による感度向上効果を確認するために、両モードで0.1 ppbの検出が可能であった283成分に関してピーク面積比 (コールド / ホットスプリットレス) を算出し、化合物順 (保持時間順) に並べた散布図を Fig. 2に示す。

測定対象農薬一覧 (No.1~150)

測定対象農薬一覧 (No.151~283)

 

Fig.1

Fig. 1 Comparison of EICs at 0.1 ppb (Hot / Cold splitless)

 

Fig.2

Fig. 2 Scatter diagram of each compound and area ratio (Cold / Hot)

コールドスプリットレスモードの適用により、保持時間前半の成分に関しては1.5~2倍程度のピーク面積比増加が確認された。保持時間中盤付近では5~10倍程度面積比の増加する成分も確認されており、これらはGC注入口での分解抑制効果が大きい成分であると推定される。同様に保持時間後半の高沸点成分ほど、最大17倍程度まで面積比が大きく増加する傾向が確認されており、これはコールドスプリットレスモードの適用による注入口内部での分解・吸着抑制効果が大きく作用した結果であると推定される。
なお、コールドスプリットレスモードの適用により、従来法と比較して感度が低下する成分 (面積比 < 1)は、本検討においては1成分も存在しなかった。

まとめ

GC-MS/MSを用いた食品中残留農薬分析における高感度化に関する検討として、GCの導入法としては最も一般的であるホットスプリットレス導入法とMMIを用いたコールドスプリットレス導入法の感度比較を行ったところ、全般的に感度が向上する結果が得られた。また、保持時間中盤から後半にかけて、注入口内部での分解・吸着抑制の効果が大きく作用する成分も複数確認された。
検出感度向上を目的とした様々な手法が存在する中で、本手法の適用は効果的であると考えられる。

 

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