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熱分解GC/MS/MSを用いたマイクロプラスチック分析 [GC-TQMS Application]

MSTips No. 405

はじめに

近年、プラスチック製品から生じるマイクロプラスチック(MPs)が海の生態系に大きく影響を及ぼしていることから国際的に研究が行われている。一般的にMPsとは、5 mm以下の粒子径のプラスチックを指す。特に、MPsの識別は汚染源などを理解する上で重要な情報となる。分析手法としては、電子顕微鏡による表面構造の観察やFT-IRによる分子や官能基の確認といった様々な方法が用いられている。一方GC/MSの測定方法としては、熱分解装置と組み合わせたGC/MSによる測定が適しており、多量に含まれるポリマー成分はSCAN測定により確認し、微量に含まれるポリマー成分はSIM測定により確認を行うことが考えられる。しかし、SIM測定では、多量に含まれるポリマー成分や添加剤成分などからの夾雑成分の影響を受けやすくなるため、SIM測定による微量ポリマー成分の確認は困難となる。これに対し、GC/MS/MSのSRM測定であれば、選択したプリカーサーイオンとプロダクトイオンの組み合わせによる測定となるため、夾雑成分からの影響を抑えることができると共に、SIM測定よりも多くのイオンを用いた測定となるため、微量成分の定性解析能力も向上する。今回は、熱分解GC/MS/MSを用いてMPs分析を実施したので報告する。

測定条件

測定は熱分解装置 (PY-3030D、フロンティア・ラボ製) と、ガスクロマトグラフ三連四重極質量分析計JMS-TQ4000GC UltraQuad™ TQを使用した。モデル試料として、ポリプロピレン(PP)のプラスチック製保存容器を凍結粉砕して粉末化した試料約0.25 mgに、THFで100 ppmに調製したポリスチレン (PS) 溶液1 μL (100 ng) を添加した。Table 1に測定条件を示す。熱分解温度は、ポリマーの熱分解測定で用いる600°Cとし、SRMのトランジションは、PSを熱分解した際に観測されるスチレンモノマー、ダイマー、トリマーについて設定した。

Table 1 Measurement condition

Pyrolysis condition
Pyrolysis Temp. 600°C
GC condition
Column ZB-5MSi (30 m length, 0.25 mm i.d., 0.25 μm film thickness)
Inlet Split/Splitless
Inlet Temp. 300°C
Flow 1 mL/min, Constant flow
Injection Mode Split (200 :1)
Oven Program 50°C (1 min) → 10 °C/min → 300 °C (15min)
MS condition
Ion Source Temp. 280°C
Interface Temp. 300°C
Ionization Mode EI+, 70 eV
Measurement Mode SCAN/SRM
Mass range m/z 35-450
SRM Transition Styrene monomer (104→78 CE:15, 103→77 CE:15, 78→52 CE:20)
Styrene dimer (208→193 CE:10, 104→78 CE:15, 130→115 CE:20)
Styrene Trimer (117→91 CE:25, 207→129 CE:15, 207→91 CE:15)
Collision Gas N2, 10%

結果

多量に含まれるポリマー成分の確認

Fig.1 (a) にTICCとFig.1 (b) にTICCから得られた合算マススペクトルとFig.1 (c) にF-Search (フロンティア・ラボ製) によるデータベース検索結果を示す。主にポリマーの熱分解成分と推測される多数のピークがTICC上に観測された。マススペクトルを確認したところ、PPを熱分解した際に観測される14 u間隔のフラグメントピークが確認できた。さらに、データベース検索結果からもPPを示す結果が得られた。以上のように、多量に含まれるポリマー成分は、SCAN測定とデータベース検索により確認することができる。

 

Fig. 1 TICC (a), mass spectrum (b) and database search result (c)

SCAN測定による微量に含まれるポリマー成分の確認

Fig. 2にモデル試料 (PP+PS) 及びPSから得られたスチレンモノマーとトリマーのTICCピークと観測されたマススペクトルを示す。モデル試料のTICC上において、スチレンモノマーとトリマーのRT付近にピークが観測された。一方で、得られたマススペクトルは、PSを測定した際に得られるスチレンモノマーとトリマーのマススペクトルとは大きく異なっていた。モデル試料のTICC上において、スチレンモノマーとトリマーのRT付近に観測されたピークは主に夾雑成分により構成されていることがわかる。このため、SIM測定を行った際には、夾雑成分の影響を大きく受けてしまうことが予想されるため、夾雑成分の影響を抑えることができるSRM測定が適した測定方法となる。

Fig. 2 (a)
Fig. 2 (b)

Fig. 2 TICC and mass spectra of styrene monomer(a) and styrene trimer (b)

SRM測定による微量に含まれるポリマー成分の確認

Fig. 3にSRM測定によって得られたスチレンモノマー (a)、ダイマー (b) とトリマー (c) のクロマトグラムピークを示す。複数のモニターイオン且つプリカーサーイオンとプロダクトイオンの関係から観測されたピークが目的成分由来である事が確認できる。

Fig. 3 (a)
Fig. 3 (b)
Fig. 3 (c)

Fig. 3 SRM chromatograph peaks of styrene monomer (a), styrene dimer (b) and styrene trimer (c)

スチレンモノマーを用いた半定量結果

観測されたスチレンモノマーのピーク面積値を用いて、1点検量線による定量値を算出した。Fig 4 (a) にPSを測定した際に得られたスチレンモノマーのクロマトグラムピークとFig. 4 (b) に検量線を示し、Table 2に定量値とその定量値から算出した回収率を示す。定量値 (平均値) は126.9 ppmであり、回収率は126.9%であった。また、変動係数の値は4.8%と再現性の高い結果であった。

Fig. 4 (a)
Fig. 4 (b)

Fig. 4 SRM chromatograph peaks of styrene monomer (a) and calibration curve (b)

Table 2 Quantitative value and recovery percentage by styrene monomer

Compound Quantitative value (ppm) Average Recovery percentage (Ave.) STDEV CV (%)
n = 1 n = 2 n = 3
Styrene monomer 126 133.4 121.2 126.9 126.9 6.1 4.8

まとめ

MPsの分析には、熱分解GC/MS/MSのSCAN/SRM測定が有効な測定方法となる。多量に含まれるポリマー成分はSCAN測定とデータベース検索により確認し、微量に含まれるポリマー成分はSRM測定で確認を行うことができる。SRM測定は、夾雑成分からの影響を抑える事ができると共に、SIM測定よりも多くのイオンを用いた測定となるため、微量成分の定性解析能力が向上する。それによって、より正確な測定を行うことができる。

 

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