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GC-MS/MSを用いた食品中残留農薬分析における高感度化に関する検討 (3) [GC-TQMS Application]

MSTips No. 415

概要

食品中残留農薬分析は様々なマトリクス中に存在する微量な対象農薬を分離・検出する必要があるため、使用する分析機器にも高い性能が求められる。このような多成分一斉分析を目的とした分野においてはGC-MS/MS法の適用が有効であり、現在では一般的な分析法として多くの分析機関で採用されている。当然ながら使用する分析機器によって検出感度は異なるが、従来の分析法を高感度化するための様々な手法が存在する。
MSTips No. 413ではGC側の高感度化に関する検討として注入口にMMIを適用し、一般的な試料導入法として使用されることが多いホットスプリットレス導入法に対してコールドスプリットレス導入法を使用した場合の感度向上効果に関する検討を行った。また、MSTips No. 414ではMS側の高感度化に関する検討として高性能イオン源 (EPIS) を用いた測定を行い、標準EIイオン源を用いた場合の測定データとの感度比較を行った。各検討結果に関しては、従来法と比較して共に一定の感度向上効果が得られたが、これらの手法はGC側とMS側で組み合わせて同時に適用することが可能であり、その相乗効果によって更なる検出感度の向上が期待できる。
本報告では、GCの試料導入法としてはMMIを用いたコールドスプリットレス導入法、MSで使用するイオン源には高性能イオン源 (EPIS) をそれぞれ適用し、両手法を組み合わせて分析を行った際の検出感度の向上効果について比較・検討を行った結果を紹介する。

実験

1. 試料条件

使用試薬:富士フイルム和光純薬社製、農薬混合標準液 PL-1, 2, 3, 4, 5, 6, 9, 10, 11, 12, 13 
試料調製:各1 ppm農薬混合標準液を調製 (計292成分を測定対象とした)
試料濃度:0.1, 0.5, 1, 2, 5, 10, 20 ppb の農薬混合標準液を調製し、7点検量線を作成
試料導入量:2 μL (+疑似マトリクス:林純薬工業社製SFA10mixを0.2 μL共注入)

2. GC条件

ガスクロマトグラフ:8890GC (Agilent製)
注入口モード:コールドスプリットレスモード
注入口温度:60°C (0.01 min) -320°C (200°C / min, 10min) -60°C (200°C / min, 0 min)
カラム:VF-5MS (長さ30 m, 内径0.25 mm, 膜厚0.25 μm)
オーブン昇温条件:50°C (1 min) -125°C (25°C/ min, 0 min) -300°C (10°C / min, 10 min)
カラム流量:1.0 mL / min (コンスタント流量)

3. MS条件

質量分析計:JMS-TQ4000GC (JEOL製)
使用イオン源:EPIS
測定モード:SRM
SRMモード:高感度モード
イオン源温度:280°C
インターフェイス温度:300°C
イオン化電圧:70 V

EPIS

JMS-TQ4000GC

結果

測定対象に設定した全292成分中、一般的な手法 (ホットスプリットレスモード + 標準EIイオン源) の使用時において0.1 ppbの検出が可能だった成分数は計283成分であった (検出可能だった全283成分の化合物名および保持時間の一覧に関してはMSTips No. 413を参照のこと)。従来の手法では0.1 ppbの検出が困難であると判断した成分の内訳は、プロシミドン、アセタミプリド、ハルフェンプロックス、イミベンコナゾール、ビフェノックス、フルミクロラックペンチル、アゾキシストロビン、プロパキザホップ、チアクロプリドの計9成分であった。
一方で、コールドスプリットレスモードと高性能イオン源EPISを同時に適用した場合、測定対象に設定した全成分が0.1 ppbにおいて検出可能であり、どちらかの手法のみを単独で適用した場合の検討結果 (MSTips No. 413, 414) と比較しても、相乗効果による大幅な感度向上が確認された。本報告では一例として、イミベンコナゾール、ビフェノックス、アゾキシストロビンの3成分に関して0.1 ppbの各EIC比較を Fig. 1に、本手法を適用して測定したデータから作成した検量線および面積値一覧をFig. 2に示す。
また、本手法の適用による感度向上効果を比較・検討するために、従来法で0.1 ppbの検出が可能であった283成分に関してピーク面積比を算出し、化合物順 (保持時間順) に並べた散布図をFig. 3に示す。同時に、一連の感度向上に関する検討結果のまとめとして、MSTips No. 413, 414 の測定結果を重ねて示す。

 

Fig. 1

Fig. 1 Comparison of EICs at 0.1ppb (Hot / Cold splitless and EI / EPIS)

 

Fig. 2

Fig. 2 Calibration curves by using Cold splitless and EPIS

 

コールドスプリットレスモードもしくはEPISの適用により、一般的な手法ではNDを示す成分に関してもピーク検出が可能であることは既に報告済み (MSTips No. 413, 414) であるが、両手法を組み合わせて使用することで相乗効果が生まれ、どちらかを単独で適用した場合の測定データと比較して更に最大10倍程度の大きな感度向上効果が確認された。
また、本手法を適用することで、GCの注入口内における対象成分の分解・吸着の抑制効果と、MSのイオン源チャンバー内で生成するイオン量の増加効果を同時に得ることが可能となり、結果として検出器に到達するイオン量は従来法と比較して大幅に増加することになるが、機器のダイナミックレンジに関しては十分に確保されており、本測定条件において作成した検量線はFig. 2に示すように良好な直線性および相関係数が得られた。

 

Fig. 3

Fig. 3 Scatter diagram of each compound and area ratio (Cold&EPIS / Hot&EI)

 

コールドスプリットレスモードの適用時は保持時間中盤から後半にかけて面積比が大きく増加する傾向が確認され (MSTips No. 413)、EPISの適用時は測定全域において面積比が増加する傾向が確認されたが (MSTips No. 414)、各手法を同時に適用することでそれぞれの良い傾向を掛け合わせた結果が得られた。
本手法の適用により、測定全域において10倍以上のピーク面積比増加が確認されつつ、保持時間中盤から後半では50倍~100倍を超えてピーク面積比が増加する成分も複数確認された。
イオン量の増加による影響は単純な検出感度の向上だけではなく、検出されるピーク面積の再現性向上にも影響を及ぼすため、今回検討を行ったような極低濃度領域までの多成分一斉分析を行う際には特に威力を発揮する手法であると考えられる。

まとめ

GC-MS/MSを用いた食品中残留農薬分析における高感度化に関する検討の一環として、GCの導入法としては最も一般的であるホットスプリットレス導入法とMMIを用いたコールドスプリットレス導入法の検出感度比較や標準EIイオン源と高性能EIイオン源EPISの検出感度比較、さらには両手法を組み合わせて使用した場合の検出感度比較を行った。
特に両手法を同時に適用した場合には各手法の長所を掛け合わせた相乗効果が得られており、安定した極微量分析を行う際には非常に効果的な手法であると考えられる。
今後は本手法を代替キャリアガスを用いた測定メソッドに適用することで、従来のヘリウムキャリア使用時より低下することが事前に判明している検出感度の影響をどこまで低減可能かについて検討を行う予定である。

 

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