PROFESSIONALINTERVIEW

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サービス―高磁場NMRの
リモートシェアリングサービス

フィールドソリューション事業部
サービス企画推進本部 企画推進
企画グループ 主事

T. I.

分析機器の"F1マシン"
ハイエンドNMRを誰もが使える
時間貸しサービス開始

NMR(核磁気共鳴装置)は、有機化合物や高分子材料、生体物質などの分析に威力を発揮する装置である。大学などの研究機関や企業の研究所で使われているが、高額な装置のために、簡単には購入できない。そこで、日本電子ではこうしたハイエンドの分析機器を誰もが使えるようにと、時間貸しのサービスを開始した。NMRリモートシェアリングサービスは利用者がweb上で遠隔操作し、自由に活用できる。

初のリモートシェアリングサービス

原子は固有な周期で自転する言わば小さな磁石である。この磁石をさらに強い磁場中に置くと、外部からのラジオ波に共鳴する性質を示すようになる。この性質を利用するのがNMR(核磁気共鳴装置)である。医薬品をはじめ、ビニールやポリエチレンなどの高分子材料、核酸、タンパク質などの生体物質のように、水素、炭素、酸素、窒素、リンといった、原子からなる有機物の分析に力を発揮する。
日本電子では「JNM-ECZ800R」と「JNM-ECZ600R」というハイエンドNMRを2機種そろえている。特に800Rは高い性能を持っており、分析機器の"F1マシン"とも言うべき装置で、誰もが一度は使いたいと思うが、実際には簡単に使えないものだった。
というのも、NMRは液体ヘリウムを冷媒とした超電導マグネットを使うなど、ハイエンド装置は高価になるからだ。また、ヘリウムや窒素を定期的に追加補充しなければならないし、ハイエンドNMRになるほど、設置室の環境を整える必要が出てくるためだ。
そこで、日本電子は2018年から新たなサービスとして、ハイエンドNMRをリモート操作で時間貸しする「リモートシェアリングサービス」を開始した。
この新サービスの構築を行ってきたのが、主事のT. I.である。
「大学の研究室の予算が厳しくなる中で、ハイエンドのNMRを購入するのは難しくなっています。しかし、ローエンドNMRでは充分な精度のデータを取れないので、ハイエンドNMRを使いたいというニーズがありました。当社の栗原社長 (現:CEO) がお客様と話す中で、そのような悩みを聞き、リモートシェアリングサービスを発案しました。サービスの利用回数を重ねることで、装置を知ることができ、大学で操作できる人材が育つ環境を少しでもお手伝いできればと考えています。」

顧客が「クセになる」性能

NMRリモートシェアリングサービスは、利用者がサンプルを日本電子に送り、セッティングが終わると、後はインターネットを通じてweb上で利用者側が自由に装置を操り、測定できる。料金は1日単位なので、じっくりとNMRの"F1マシン"を丸1日乗り回すことができるわけだ。
「一般的には使った分だけ課金するのですが、NMRでは微量なサンプルを何回か測定したいというニーズもあり、1日単位で貸し出すことにしました。本格的な販売はまだ始まったばかりですが、お客様の感触はいいですね。1回使うと『クセになる』というほど、性能の良さを感じられるようです。繰り返し使ってもらえるサービスだと思っています。」
NMRは、日本電子の子会社である、JRI(株式会社JEOL RESONANCE)が開発した装置である。新サービスを立ち上げるに当たり、JRI側の協力を得る必要があった。「JRIと一緒に装置を立ち上げましたが、安定稼働させるまで、検証に時間がかかりました。また、ビジネスを進める上でJRIと日本電子との調整作業もかなりありました。」

慶應義塾大学と1年間の実証試験

2017年度初頭から実証試験を開始、慶應義塾大学理工学部と提携して、試験運用を開始した。始めてみると想定外の問題が起きた。大学側が装置の性能やセキュリティを含めて不安を覚え、貴重なサンプルを外に出すこともためらったのだ。
「装置の性能についてはJRIの技術者中心で大学に行き、説明や検証を重ねて信頼関係を築きました。また、先生方が測定したデータは当社側が関与することなく、データの保存、分析ができる仕組みを構築し、HDDを顧客ごとに変えることにより、秘密を守れることを提案しました。更に、サンプルを安全に間違いなく運べるのか研究者の先生方に信用していただくことが必要でした。そこで、特定の宅配業者を選定すると共に、新たに試験管を運ぶための通い箱を作ったのです。」とT. I.は語る。
通い箱は紙器専門の会社に頼んで、何度も試作しながら1年かけて作り上げた。24本の試験管を入れることができ、箱内の紙をうまく折りたたむことで、衝撃を吸収する構造にした。NMRを使用している顧客に評価していただき、通い箱の評判は上々だった。

装置開発に新しい風を吹き込みたい

こうしたT. I.たちの苦労を評価した慶應義塾大学では、引き続き、2018年度もNMRリモートシェアリングサービスを利用いただいている。
NMRの競合メーカーはあるが、日本電子のようなシェアビジネスは現在、行っていない。T. I.は「メーカーとしては装置が売れなくなるかもしれないので、通常はやりにくいビジネスモデルだ。」と語る。それでも敢えてサービスを実現したところに、日本電子の顧客重視、サービス重視の姿勢が見える。
T. I.は今後の展望についてこう語る。「リモートと言いながら、まだまだサンプルの受け渡しを含めて、人の手がかかりすぎています。今後は、申し込みをwebで受け付けたり、装置の空き日を表示したりするなど、なるべくコストがかからない仕組みを取り入れ、料金を下げられればと思っています。」
装置の使い方が変わることによって、自動化機能を強化して欲しいとT. I.は考えている。
「日本電子は高額な装置が多いが、自動化機能を持っている装置は数少ない。その中でシェアリングビジネスがうまくいけば、社内で自動化の必要性が求められるようになるでしょう。この新しいビジネスモデルを通じて、装置開発に新しい風が吹いて欲しいと思っています。」
これまで受託分析やWEB立会い分析サービスは行ってきたが、利用者側が遠隔操作により測定できるというシェアビジネスは、社内でも業界でも例はない。新たなチャレンジの成果が待たれる。

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