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HS/GC/MSを用いた硬化シリコン系接着剤中の揮発成分分析 [GC-QMS Application]

MSTips No.218 奥田 晃史、草井 明彦
日本電子株式会社

電子イオン化(EI)法は、ガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)において最も使用頻度の高いイオン化法である。EI法は、高感度、高再現性、およびライブラリー検索による化合物推定が行えるなどの特長を持つ。しかし、EI法では通常70eVのエネルギーを持つ電子を用いて測定するため、有機分子のイオン化エネルギーに対して過剰なエネルギーを与える。このため、生成したイオンが壊れやすく、熱分解などを伴うことから分子イオンが観測されない場合が多い。分子イオンの観測は化合物の確認を行う上で重要なため、ソフトイオン化法の併用が必須となる。
 日本電子㈱では、ソフトイオン化法の1つである光イオン化(PI:Photoionization)法を可能とするイオン源を実用化している。PI法は一般的な有機分子のイオン化エネルギー付近のエネルギーをもった光子をサンプルへ照射しイオン化するため、イオン化過程における分子の開裂が起こり難く、分子イオンが生じやすいイオン化法である。
 本報告では、硬化したシリコン系接着剤から発生する揮発性化合物をヘッドスペース/GC/MS(HS/GC/MS)法で測定したので、その結果を報告する。

測定条件

 シリコン系接着剤を室温、1時間で硬化し、これを測定に供した。測定条件はTable1に示す。

【Table1 Measurement conditions】
Measurement conditions

測定結果と考察

 測定で得られたTICクロマトグラムをFig.1に示した。ここで、各ピークのEIマススペクトルをライブラリ検索し、検索結果の類似度が最大で、かつ妥当と考えられる化合物の構造式を図中に示した。
 Fig.1で示した、EI法でのTICクロマトグラム上に検出された各ピークに対するEI法およびPI法での質量情報をTable2にまとめた。ピーク番号、保持時間(R.T.)と、ライブラリ検索結果から類似度が最も高い化合物名とその化合物情報、およびPI法で検出されたイオンのm/z値とその帰属を示している。なお、類似度の最も高い化合物のノミナル質量とPI法で検出されたイオンのm/z値が一致した化合物は、表中に太字で示した。

TIC chromatograms with EI (top) and PI (bottom)
【Fig.1 TIC chromatograms with EI (top) and PI (bottom)】

【Table2 Analytical results of epoxy adhesive】
Analytical results of epoxy adhesive

 シリコン系接着剤の発生ガスには鎖状炭化水素、芳香族化合物やアルコール(ピーク番号①~⑪, ⑬, ⑮)が含まれることが分かった。鎖状炭化水素、芳香族化合物は、EI法でのライブラリ検索結果得られた最大類似化合物のノミナル質量とPI法で検出されたイオンが一致した(例:ピーク番号⑦,Fig.3)。しかしながら、アルコール類、および環状シロキサンに対するPI法の結果、分子イオンは検出されず、それぞれ脱水イオン[M-H2O]+・(例:ピーク番号⑤,Fig.2)、脱メチルイオン[M-CH3]+(ピーク番号⑭)と帰属できるピークが検出された。
 

【Fig.2 Mass spectra of 2-ethyl-1-hexanol (C8H18O)】   【Fig.3 Mass spectra of undecane (C11H24)】

まとめ

今回測定した接着剤硬化物について、PI法により検出されたイオンはEI法によるライブラリ検索から推定された化合物のノミナル質量とよく一致しており、PI法は分子イオンの確認に有用なイオン化法であることが分かった。
 分子イオンが不検出な化合物、脱水イオンや脱メチルイオンが検出される化合物もあったが、PI法の測定結果はライブラリの照合結果を精査する上で有用な情報を与えた。PI法により検出される分子イオンがEI法でのライブラリ結果を補完できるため、EI法とPI法の両方を用いた定性分析を行うことで、より確度の高い化合物の推定が行えることがわかった。

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