クローズアップJEOL
solution01
極微の世界のはじまり
電子顕微鏡「DA-1」
電子顕微鏡で新しい科学文明を作り上げる
日本電子の前身である日本電子光学研究所 創業者の風戸健二は、敗戦日本を復興するには基礎科学を振興しなければならないと考えていたとき、たまたま黒岩大助氏の電子顕微鏡の一般向け解説書『電子顕微鏡』を読んでいて、日本の復興を電子顕微鏡で新しい科学文明を作り上げようという夢のような思いが浮かんできた。
生きて行くために日本は、原料を輪入して付加価値の高い製品を輪出して行かなければならない。原料から材科へ、この重要な行程に於いて、光学顕微鏡の100倍、1000倍の能力を持つ電子顕微鏡は、今まで見えなかった「極微の世界」を見せてくれる。
戦争に敗れた原因の一つに材料の悪さがあったと痛感していたので、電子顕微鏡によって良質の材料の開発にも役立てられる。細菌類も、光学顕微鏡で1000倍に拡大して、5ミリ程度で見ていた時代から、電子顕微鏡でさらに100倍以上に拡大して見るならば、細菌学も進歩し、ウィルス学も大いに発展するであろう。
極微の文明の花が開く
今まで見えなかった世界が拡大されて、次から次に現れてくれば、子どもたちにも「科学する心」が生まれてくる。
「百間は一見に如かず」というが、一度電子顕微鏡で見せられた「極微の世界」は、人智によって徹底的に解明され、利用されて行く。基礎科学の振典にもつながるであろう。そして遠からず日本に、極微の文明の花が開く。
世界の科学の進歩と社会の発展へ
発明家になりたいとの少年時代からの憧れが、敗戦による第二の人生のスタートに、このような姿で発芽しようとは、彼自身も考えてもみなかったことであった。
風戸は、電子顕微鏡のことは技術的に深くはわからなかったが、ロケット研究に比べればはるかにやさしい。動く部分が少なく、機械的強度を必要としない装置であるので製作は可能であろうと考えた。
材料には、旧飛行場付近の廃品鉄材のうちトロッコの車軸が一番性質がよかったのでこれを利用した。電源も電界型とは全く違って電圧の安定をよくしなければならなかったが、電界型と同じX線装置用電源を用い、大容量のコンデンサーを使用する回路設計で切り抜けた。
このようにありあわせの材料を最大限に利用し、ほとんど手作りで昭和22年(1947年)9月末に1号機が完成した。
この電子顕微鏡「DA-1」が、世界の科学の進歩と社会の発展への貢献のはじまりとなった。
solution02
美術品に込められた真実を
分析装置で読み解く
走査電子顕微鏡 (SEM)
美術館で科学分析
日本電子の分析装置は意外な場所でも利用されている。東京・上野にある国立西洋美術館では、走査電子顕微鏡(以下、SEM) をはじめとした分析装置を使い、作品の材料、技法、保存状態を知るため、材質、構造を調査している。
作品の真贋を見抜く
学芸課・保存科学室の高嶋美穂氏は「美術品は長い歴史の中でオリジナルのまま手を加えられずに今まで伝わってきたものはほとんどない」と言う。
後の時代に手を加えられたものが多いため、オリジナルと手が加えられた部分を見分けたり、場合によっては作品の真贋を検討したり、誰がどの時代に描いたものかを調べたりする調査を行う。
具体的にはSEMで絵具層の重なりや粒子の形状観察を行い、さらにSEMに付属するEDS(エネルギー分散形X線分析装置) で分析すると粒に含まれている元素が明らかになる。「どのような顔料が使われているのか同定することができ、個々の画家が使った材料や層の重ね方といった技法が分かる」と言う。
隠された物語を読み解く
「顔料は時代や地方によって少しずつ使われているものが違う。この作品が描かれた時代にはまだ合成されていない、出てきていない顔料が含まれているとなると、制作年代の再検討が必要だということになる。また、誰が描いたものか、いつの時代かも分からないという絵であっても、ある時代のある地方でしか使われていない顔料が使用されていることもある。
たとえば、ルネサンス期のイタリアではよく使われたがそれ以外ではほとんど使われていない顔料が見つかれば、絵画がどの時代のどの地域のものか分かる。また、珍しい顔料を好んで使っている画家と同じ顔料が出てくると、この画家の絵かもしれないと推測できる」と高嶋氏は言う。
日本電子の分析装置は、美術館や博物館などにおいて、美術品をはじめ恐竜の化石、惑星の微粒子などの隠された物語を読み解くことに役立っている。
solution03
その一滴からより多くの情報を
生化学分析装置
BioMajesty™シリーズ
健康管理や病気の治療に必要な情報を得る生化学分析装置
病院などで主に血液を採取して検査する生化学分析は、私たちの健康を管理したり、病気の治療に必要な情報を得るために行なわれる。生化学検査には、血清中の脂質の濃度を測定するコレステロールやお酒の飲み過ぎで肝臓が悪くなると数値が高くなるγ-GTPなどの測定項目があり、生化学分析装置はそれらの測定項目を全自動で分析する装置である。
日本電子は1972年に全自動アミノ酸分析装置の技術を応用した世界初のサンプル吸引や試薬分注、反応管等などを閉回路化したクローズドディスクリート方式の生化学分析装置 1号機 JCA-1KM「クリナライザ」を発売した。
従来技術からの脱却
1990年、時代の流れに対応すべく、従来からの技術ではなく、本当に市場の要求に応える装置は何かという基本に立ち返り、装置のあるべき姿を見つめ直す機運が生まれ、社内に開発チームを編成。従来のクローズドディスクリート方式から市場での主流になっていたオープンディスクリート方式への大転換となった。
1996年、オープンディスクリート方式のBioMajesty™が誕生した。BioMajesty™は、Biochemistry(生化学)とMajesty(最も権威のある)を組み合わせた造語。生化学分析で最も優れた至高の装置でありたいとの思いから名付けた。
BioMajesty™シリーズ 1号機のJCA-BM8/12は、検体前希釈による必要検体量の削減、薄型セルの採用による試薬量の大幅削減など、不可能を可能にした画期的な検体前希釈方式を実現した。
患者さんの負担軽減、ランニングコストの低減
BioMajesty™は、採取した検体を希釈するという独自の手法(検体前希釈方式)で、検体量の微量化・試薬の少量化を実現。これにより患者の負担軽減、ランニングコストの低減に貢献している。この独自の手法により、現在も多くの検査センター(患者検体分析専門の民間の会社)や病院でBioMajesty™は利用されている。検査センターや大学病院などの大規模病院に納入している大型の生化学分析装置は、国内で60%近くのシェアを占めている。(2021年現在)